美遊・エーデルフェルトは気が付くとどこか見知らぬ施設へと幽閉されていた。
 腕は上に伸ばすように固定されまったく動かせないように厳重にロックされており、足裏が前を向くように足が前方へ伸ばされていた。しかも足首が拘束具により完全に締め上げられておりとても抜け出せそうにない。

「そうだ……確か私はイリヤと一緒に…………。っ、イリヤは!?」

 周りを見渡すも辺りには得体のしれない機械やモニターだらけで、意識を失う直前まで一緒に戦っていたイリヤの姿は見えなかった。
 なんとか拘束から逃れイリヤを捜索したかったが、手足は完全に封じられほとんど動くことができない。

 そうしているとピピピピピピ! と機械的なアラーム音が鳴った。

「対象者ノ意識レベル復帰。対象者ノ意識レベル復帰」

 抑揚を感じさせない機械音声が部屋に響く。
 音声にあった"対象者"というのが自分であるということを美遊はすぐさま察した。

「コレヨリ対象者ヘ"擽感実験"ヲ行イマス。コレハ効率的ナ"エナジードレイン"ヲ目的トシタ実験デアリ――」

「("りゃっかん"実験……? りゃっかん……ってなんだろう……?)」

みゆ1


 しばらく機械音声のアナウンスが続く。その音声によれば、どうやら今から行われる実験によって美遊の体内にある魔力含めあらゆる生命エネルギーを吸い取ってしまうということらしい。

 音声が言う"擽感"の意味が分からず訝し気な表情になる美遊。しかしそれが命に関わる実験であるならば、何があろうと耐えてみせる――美遊はそう決意した。

「ソレデハ、実験開始――」

 ごくり、と美遊は息をのんだ。一体何がやってくる? 物理的攻撃による痛みか? あるいは電気によるショックか? はたまた火や水か、精神攻撃か――。
 美遊の表情には緊張が見えた。果たしてどんな責め苦が――? しかしあらゆる可能性を思案していた美遊を襲ったのはまったく予想外の刺激だった。

 こしょ……こしょ……

「ひっ……!?」

 突然足裏をなにかで触られる。左右両方の足へふわふわとざらざらの感触。
 普段足裏なんて触られることのない部位が何かに撫でられる。するとぞわぞわとした感触に美遊はくすぐったくなってしまう。

「くっ……くくっ……ま、まさか、"りゃっかん"って…………」

 足裏をふわふわとざらざら――美遊の位置からは見えないが羽とブラシ――で触られるとくすぐったくって頬が緩み声が漏れてしまう。
 美遊は嫌な予感がしていた。一度は理解できなかった言葉の意味に何となく察しがついてしまった。
 そう、擽感実験とは"くすぐり実験"だということを……。

「対象ノ反応ヲ確認。擽感刺激ノレベルヲ上昇……」

 こしょこしょ……こしょこしょ……

「く…………くくっ……ふひゃあ!? ふひっ、ふくくくくふぅうううう…………!?」

みゆ2


 アナウンスの後、羽とブラシの動きが変わる。美遊がよりくすぐったく感じるようにこしょこしょと、撫でるような動きから本格的なくすぐり行為へと移行していく。

 こちょこちょこしょこしょこちょこちょこちょ~~~!!!

「ふひっ、くぅうううううふふふふふふ!!?? まっ、あはははははは!? な、なんのっ、い、意味っ……がっ、あぁっはっはっはっはっはっはっはっは!?!?」

 羽のふわふわした感覚へ意識を移すとブラシのごしごしでくすぐったい神経を直接擦られるようなくすぐったさを与えてきて、ブラシへ意識を移すと羽は足裏の繊細な擽感神経をなぞりあげ、効果的なくすぐったさを与えてくる。
 美遊は二つの道具に翻弄され、普段はあげないような大きな笑い声をあげてしまう。

 くすぐりなどというお遊びのような行為で声をあげさせられているということも、自分がイリヤにも見せない笑い顔になってしまっていることも、この状況の何もかもが美遊にとって屈辱的だった。笑いながら何度も何度も抵抗しようとするが、こちょこちょマシーンは止まらない。

「擽感刺激レベル、更ニ上昇……」

「ひっ……!?」

 また流れるアナウンス。それと同時に足裏への刺激が一瞬止む。そしてそのすぐあと、足裏に奇妙な感覚。

 にゅる……にゅりっ……にゅりゅりゅ……

「(な、なに……これっ? くすぐったっ……! な、なにか……塗られている…………!?)」

 何かぬるぬるとした液体が美遊の足裏へと塗りたくられていた。
 そしてほんの少し時間が経つと、どうにも足裏を意識せざるを得ない奇妙な感覚に陥る。意識を逸らそうとしても足裏が気になってしまうというか、何故か空気の流れすらも分かってしまいそうなほど足裏の神経が研ぎ澄まされていた。

「(こ、これってまさか…………!?)」

 美遊はまたしても嫌な予感がしていた。
 美遊には知る由もないが、足裏に塗りたくられたローションにはその部位の神経を過敏にする効果があった。
 この実験室はくすぐり実験に特化されているためか、痛覚などの感覚は変えずにくすぐったさだけを上昇させるという効果に開発者の趣味の悪さが現れている。

「擽感刺激、再始動――」

「や、待っ……今触られたら――…………ッッ!?!?」

 先ほどの羽やブラシに加え、耳かきや筆といった道具が美遊の足裏へ迫る。
 ローションによってくすぐったがりにされた足裏……触れられることを想像するだけでも相当くすぐったいはず。
 恐怖を伴う美遊の静止も機械たちには通じず、くすぐりアイテムたちは一斉に美遊の足裏へ襲い掛かる――!

 こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~~~~~~~~~~~!!!!

「ふひゃぁあああっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!?!? ひっ、ひぃいいいいいいいいっひっひっひひひひひひひひひひ!!?!?!」

 襲い掛かる悍ましいほどのくすぐったさ。羽が、ブラシが、耳かきが、筆が――足裏のあらゆる部分を的確にくすぐっていく。
 足指の間に羽を潜り込まされこしゅこしゅ♪ とくすぐられれば美遊の足指はびくびくと震えお腹の底から声を出して笑ってしまい、ブラシで母指球やかかとをぞりゅぞりゅとくすぐられると表情が笑顔で歪み、大声で笑い喚く。そして耳かきで土踏まずをかりかりとくすぐられると絶叫しながら笑い、全身の力を振り絞って暴れ始める。

 こしょこしょこしょこしょこちょこちょこちょこちょ~~~~~~~~~~~!!!!!

「いやっ、やぁああああああっひゃっひゃっひゃっっひゃっひゃああああはあははは!?!? くっ、くすぐったああぃいいいっひひひひひひひぃいいいひひひひひひひひぃひひひひひひひ!?!?!?」

 ただでさえくすぐったい足裏が擽感弱体ローションによって更にくすぐったがりにされてしまっている美遊は壮絶な足裏へのくすぐリンチに笑い悶えてしまう。
 どれだけ苦しかろうが、あまりにもくすぐったすぎて笑いを抑えることができないのだ。

 こちょこちょこちょこちょこちょかりかりこしょこしょこしょ~~~~~~~~!!!!!

「ひぎぃいいいいいいいっひっひっひひひひひぃいいいいいいあはあっははあっははははははははは!?!? や、やぁああああぎゃひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!??!!??」

 あらゆるアイテムによる足裏拷問――常人では一瞬で意識を失いかねないほどの擽感が対象を襲う。
 一方美遊は魔法少女たる力、魔力、精神力など全てを総動員して何とかぎりぎり耐えてはいるものの、もう限界は近かった。

 こちょこちょこちょこちょこしょこしょかりかりこちょこちょこちょこちょ~~~~~~~~~!!!!!

「はぎゃあぁああっひゃっひゃひゃひゃはああぁああはっはははははは!?!? たすげでっ、だ、だぁああっははははひゃひゃひゃ!!? だれかっ、イリヤぁああああひゃはははははぁぁあぁああっははははははは!?!?!?」

 まったく息が吸わせてもらえない、苦しい――このままだと死ぬ――!!
 くすぐりで本格的に死を予見した美遊。酸欠でどんどん意識が薄くなっていき、やがて消えてなくなりかけた時……悪夢のようなくすぐりがぴたりと止まった。

「……ぁっ…………ぐっ……ぜぇ、ぜぇっ……!! ……と、止まっ…………った…………?」

 すんでのところで美遊は呼吸を取り戻し、意識が回復する。

「い、いまのうちに……だ、脱出……をっ…………!!」

 全身疲労困憊でもチャンスは今しかない。
 そう思い脱出を図った美遊だったが――。

「対象ノ意識レベル、低下セズ。コレヨリ実験シーケンスヲ最終段階ヘ移行シマス」

みゆ3


「えっ、えっ……ちょっとっ…………~~~!?」

 一度は大人しくなったはずのくすぐりマシン。それがアナウンスを皮切りに再起動を始めたのだ。
 しかも今度は足裏だけでなく脇腹にもくすぐりの魔の手が迫る。

「や、やめて……こないでっ……いや、いやぁああああああああああ!!!!」

 美遊の静止もまったく聞き入れられず、マジックハンドたちが一斉に襲い掛かる――!

 こちょこちょこちょこちょこちょこちょ~~~~~~~~~~~!!!!

「ふぎゃああああああああああああぎゃははははひゃひゃひゃひゃひゃああああああああっははははは!?!? やだっ、やぁあああああひゃひゃひゃははははああっはっはっはっはっはっはっはっはっは!??!?」

 自由自在に動くマジックハンドたちは美遊の脇腹、足裏を遠慮なくくすぐりまわす。
 擽感上昇ローションをまんべんなく塗られた足裏は特に酷い有様だった。
 マジックハンドの指は美遊をくすぐったがらせるように計算された動きで足裏をくすぐりまわし、美遊は指が動くたびに笑い悶える。

 こちょこちょかりかりすりすりこしょこしょこちょこちょこちょ~~~~~~~~!!!!

「ぐずぐっだいぐずぐっだいぃいいいいいぎっひひひひひぃいいいっひ~~~っひひひっひひひひひひひ!!?!? たずげでっ、だずげぇえええぎぇへへへへへへへぇえええっへっへっへっへっへっへっへっへ!!?!?」

みゆ4


 そしてただでさえ足裏をくすぐられるだけでも普段絶対見せない歪んだ笑顔を引き出させられるのに、むき出しになった脇腹をこちょこちょされてしまうと美遊は更に酷い顔と声で笑ってしまう。

 笑っているのにもはや可愛いという形容ができるようなものではなく――それはもう惨たらしい笑顔、だった。

 こちょこちょこしょこしょこちょこちょこちょこちょかりかりこしょこしょ~~~~~~!!!!

「ふぎゅぅうううっへへへへへぇえええぎぇへへへへへへひゃはひゃひゃひゃひゃひゃぁあああっははははは!?!? ひぃいいいいっひぃぃいいいぎひひひひひひゃはああっはああぎゃはあはっはぁあぁあああ!?!?」

 どれだけ喚こうが叫ぼうが泣こうが暴れようが。
 機械は美遊がくすぐったがる部分を常に把握し、瞬時に責めを巧みに切り替えていく。

「ぎゃあああっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃ!!?? や゛め゛でっ!!! やぁああがっひゃっひゃひゃひゃああぁっははははははは!?!? しっ、しぬぅうううぎゅひゅひゅぎひひひひぃいいいあぁがははははははは!?!?」

 顔を真っ赤にし、涙を散らしながら大爆笑する美遊。そこにいつもの面影はなく、ただただ可哀そうなほど苦しそうな笑顔しかなかった。

「い゛ぎができな゛っ――ぃいいいぎっひっひっひっひっひっひっひっひ!!?? げっほげほ!!! ぉううひゅひゅひゅひゅひひひひひひゃぁあああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!?!? ひーー!!! ひぃいいいいっひひひひひひひぃぃいいいいい!?!?」

 普通、しばらくくすぐられれば感覚が慣れていくもの――だが、特殊なローションは美遊をくすぐったがりにするばかりでどれだけくすぐられても永遠に慣れることができない。それどころか際限なくくすぐったがりにされ苦しさがどんどん酷くなっていく。

こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~~~~~~~~!!!!!!!!!!

「ぎゅぐひゅひゅひゅひゅひゅぅううううううぎひひひひぃいいいっひっひっひっひゃはぁああぎゃはあはははははははははははぁああ!?!? げっほげほ!! ――ぁっ、が、けほっ!! げっほげっほぎゃはぁあああああっはっへっへっへっへっへっへっへっへぇええええ!?!? ひぎっ、ひんっ、ひっ、ひっぃいいいっひっひっひっひっひひいぃいいいいいぎぃいいいひひひひひひひ!?!?」

 止まらない笑い、叫び声、くすぐったさ。
 もう通常の数倍にもされたくすぐったさの上昇は留まることを知らず、美遊を追い詰め破顔させる。

「ごべん゛な゛ざいぃい!!! だずげでぐだざいぃっ!!! うぅううううぇええっへっへっへへへへへへええぇぇえ!!??? げっほ!! ぉえっぇえっへっひぇっひぇっひぇひぇひぇひぇへぇええええ!!?? だずげっ――……だずげぇえええびぇへへへへへへへへへへへへへっへっへっへっへっへっへ!!!??」

 美遊はとうとう泣きながら許しを懇願してしまう。
 あのクールな美遊がたかがこちょこちょで泣いてしまっている。
 傍からみれば命すら危ないのではないかというほど顔は真っ赤で涙でグズグズ、それなのに頬は吊り上がり歪な笑顔で固定されているのだ。

「イ゛リ゛ヤ゛ぁあああぎゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃ!?!? だずげでっ!!! おにぃいいちゃあぁああああぎゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!??」

 どれだけ暴れても、叫んでも、助けが来ることはない。

「ぎゃああっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃ!!?? ひぃいいっひひひひひひぃぃぃっひひひひひひ!?!? だずげっ、げぇえっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇっひぇへへへへへ!!! げほっ!! ぉえっぇへへへへへえぇえひゃひゃひゃひゃあかあああががががががっっっ――……!?!?」

「い゛ぎがっ、で、でぇええぎぇひぇへへへへへへへへへへぇぇええっへっへっへっへっへっへっへっへ!!?? でひぇへへへへへへぇえっへっへっへっへへひぇひゃひゃひゃひゃひゃぁああっはっはっはっはっはっはっはっは!?!?」

「ひっ、ひっ、ひぎぃっひっひっひっひっひっひっひっひぃいいいいいいい!?!? あ゛っ、ぎゃっははははははははっははぁああああっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁあああああああ!?!?!?」

 美遊は永遠に、どこともしれない施設の中でくすぐられ続け、笑いながら一生を過ごすのだ――。



Illustrator:ヤンスくん(Twitter)