ある夢想家の手帖から

2010年04月02日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百六章奴隷の喜び』」4/4

 Wから軽装の服を貰って着替えて、もう一度この部屋に入ったときは、通訳はもう居なかった。(引用)
 室の中央に立つ夫人に人差指で示されて床の絨毯の上に正座した。もう一方の手に鞭が......と気付いた瞬間、頬にビシリと一発当てられた。
今でもこのときのことを思うと身体中が煮えくり返るほど昂奮して来るのである。(引用)

 これが沼先生にとっての初めての鞭の味なのでしょう、沼先生はその鞭の味を熱く語ります。

 白人から鞭うたれたのからなのか、女性から鞭打たれたからか、本物の乗馬鞭で鞭打たれたからか、捕虜として征服者に鞭打たれたからか、.....初めての条件が輻輳するので、そのどれであるかは分らない。おそらくそのいずれでもあったろうし、また彼女自身に特殊の魔力があったのかもしれぬ。(引用)

 このとき私は、やけつくような顔の痛みと同時に、かって味わったことのない一種の陶酔感に囚われた。
全く抵抗する力なしにこの女の鞭を受けねばならない。
何の為に与えられる鞭かも知れぬ。
唯この自分の体は今後この女の自由にされる.....(引用)
 涅槃というのがこんな気持ちかも知れない。
自分の主体性がゼロになってしまった、と言う恍惚感、エーリッヒ・フロムのいわゆる「マゾヒズムの主旋律としての無力感」これを感じたのだった。これが私のマゾヒストとしての誕生である。(引用)


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2010年03月29日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百六章奴隷の喜び』」3

しかし死にたくなかった。復員したかった。
その気持ちを察するように、部隊長の説明したところでは、Kの殺された理由は命令不服従ということだが、実際には司令官夫人に怪しからん行動にでも出たらしく、それが理由で夫人に射殺された。
と召使が通訳に話したそうだ。
こちらが慎んでおれば心配はいらん、多少無理を言われても逆らわず、部隊のためにもお前のためにも服従第一で行くんじゃ、こういう説示があった。(引用)
 まず司令官に行って、老司令官に申告した。通訳を通じて「すぐ自宅に行け(中略)」と言われた。
 通訳が本宅まで送って来て、夫人に新しい当番兵として私を紹介してくれた。(引用)
「お前は私の用をすることになっている。
この前のKのあとを継ぐのだ。
この命じたことだけすればいいから、余計なことをするな。
無駄口をきくな。分らぬことを尋ねるときはWに訊け。服を替えて来い」(引用)


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2010年03月23日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百六章奴隷の喜び』」2

 沼先生はそういう献身的奉仕を要求しうる人間関係はノーマルな情況では現在に存在し得ないのであるとし(引用)、ここで改めて英国捕虜として暮した一時期、最初にして最大のドミナと巡り合い奴隷の喜びを体験したこと(引用)に言及することになるのです。
常夏の国のある中都市。英国に降伏して武装解除され、駐屯地自活で復員の日を待っていたある部隊。
その部隊本部で庶務の仕事をしていた私は、部隊長から直々に英国司令官宅伝令勤務を命ぜられて色を失った。
というのは、三日前に私達は、以前の部隊長宿舎として勝手知ったその家に戦友の死骸を引き取りに行ったばかりだったからだ。(引用)
 半月ほど前、司令官婦人が本国から来て、司令官宅に落ち着くとすぐ「英語の分る兵隊を一名出せ」と向こうら要求してきた。
学歴が大学というのは兵隊中で兵長の私と上等兵のKだけなので、Kが出たわけであった。(引用)
そのKが射殺された。誰が何で殺したのか、何もしらせられない。(引用)
 死体は胸に一発受けていた。(引用)
その代りに私に出ろという命令なのである。(引用)


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2010年03月15日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百六章奴隷の喜び』」1

奴隷































どうも、ご無沙汰のM破門中です。。。。。

久し振りに再開しますね。。。。。。

この章では、改めて「奴隷の喜び」について言及しています。
それは「無責任の気楽」といった消極的なものではなく、もっと積極的な歓喜、それは主人への没我的献身ないし自己犠牲において感ぜられるもの、封建時代の主従道徳のようなもので今日の個人では殆ど味わう可能性のないものである(引用)。
そしてそれは封建時代のイデオロギーだけをみるのではなく、昇華された性愛としての主君への献身の被虐的歓喜の契機がまぎれもなく存在する(引用)。

昇華された性愛としての被虐的歓喜!まさしくその文字どおりの歓喜に僕は共鳴しているのでした。
主従という関係にやはり昇華された性愛と言う側面があってこそ、マゾヒズムは成立していると想うのです。
その性愛は例え、男女間だけでなく女性同士あるいは男性同士であったとしてもです。昇華された性の欲動が機軸にあるのだと。

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2010年02月23日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百五章わがドミナの便り』」9/9

「追伸、私は、白人女性として慎しみ深くなければならないにも拘らず、お前ともう一度牽き綱で結ばれていることを望んでいることを告白する。
私のみがお前に宿命づけられた女神であると信じている。だが、お前は決して私の情人ではないのだよ。
 私は、夢で、お前がネクタール飲酒癖のために鞭打たれて悲鳴をあげる声が、私の犬小屋から聞こえるのを経験した。
 最後に、私は次の言葉をお前に贈る。
 
『私は、東洋の犬に惚れ込んでしまった。幸よ来れ、花の季節なる春よ来れ』
 アリヴェ・デルラ。私の犬よ。さようなら。(引用)」


 沼先生の注釈が続きます。

 「この手紙は以前の手紙に比べ、長くなり、また、書き振りも嘲笑的でなく親しげである。
つまり、彼女からの愛情の告白がなされている。とはいっても、それはどこまでも、こちらを「犬」扱いし、そういう家畜として愛するといっているので、だからこそ、「憎しみ」を破って、「愛する」という表現を用いえたのであり、こちらが人間であればそうはできない。彼女はそれに念を押して、お前を情人として認めるのではない、お前からの愛情を要求しない、と断っている。(引用)

 彼女の要求するのは、「盲目的な信頼と忠誠との義務」であり、その証しとしての首輪着用であるが、それは以上のような愛情と併存しうるものである。むしろ、それを根底におくものである。(引用)」


 それから、実際にネクタールの小瓶が届いたのでした、実際には内容はほとんど乾いてしまってはいましたが、沼先生の手許には今(当時)もあるそうです。

 最後に沼先生が「家畜人ヤプー」を中絶した背景には、「家畜人ヤプー」の根基をなすインスピレーションの源泉である彼女を失ったこともひとつの大きな原因である(引用)と打ち明けてこの章は終わるのでした。


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2010年02月16日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百五章わがドミナの便り』」8

そうして女主人からの最後の手紙が届きます。

 これがまた、マゾヒストをして泣かせる実に愛情タップリの文面なのです。
 

「私の愛人であるヌマよ。長らく文通をしていなかったね。近いうちに私が渡欧することを多分お前は知っていると思う。
だからこの手紙がお前への最後の便りになるかも知れない。(引用)

私は純白の(皮膚を持つ)女と褐色の男との愛情関係は成立し得ないと信じている。
しかし、今、純白の女(である私)が、不思議な衝動から、お前に偏向的な愛を送る。
お前からの愛は求めない。
愛情は人間の側から与えるのみであり、ヌマの側には盲目的な信頼と忠誠が義務とされているだけなのだよ。
この原則を考えるとき、私は身慄いするほど昂奮する。(引用)

もし、私とお前とが、あのベル・エパクに生を享けていたのだったら、私達は共通の欲情をもっと直接的に実現されることができたろうに。(引用)

充分暇がないので抽象的な書き振りになってしまったが、本来なら私の側近に奉仕すべき運命を持ち私の心とする男であるお前は、私の現在の心境を純真な感情で理解してくれると思う。(引用)


私はお前がネクタールと呼んでいるものをお前に送ろうと思ったが、実際には運送上の支障が起こるおそれがあるので、この恥ずべき行為をあきらめねばならなかった。
しかし、もし、お前が、間に合ううちによい方法を申し出るのなら、この口に出すものなら、この口に出すのも恥ずかしい汚い物質、私の身体から分泌し、ひとが捨てさるところのものを、私は、お前に対して番人としての誇りを以って送ってあげよう。これはお前自身も普通捨てるものに違いないもの、それを、私から特権的に送ってもらったものとして、お前は誇りを以て口にせねばならないのだよ」(引用)

                           -D・Q


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2010年02月13日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百五章わがドミナの便り』」7

 私は早速また長い手紙を書いた。
今度は犬の言語と彼女の罵った国語で。
 返事は未だに来ない。
私のほうが彼女からの来信を極度に重大視し、それに対して返信しないことなど到底考えられない程度の精神状態になるのに対して、彼女は「飼犬からの頼り」として好奇的に眺めるだけのこと、返事するしないは全く彼女の気まぐれ次第だ。
このところしばらく彼女は人間界の仕事が忙しいのに違いない。
あと、何かの機会に彼女が私を思い出した時、また、手紙を書いてやろうという気に彼女がなることを私は心から望んでいるのである。(引用)


 ああ、この沼先生が、手紙を待ちわびる状況は、なんて、この僕がご主人様からのお電話を、メールを、待ち続ける気持ちと同じなんでしょう。
この前もご主人様から「メール貰っても面白くなければ、返事しないわよ」と言われたところ。
事実メールの返信が送信したすぐにある場合や何日待っても返信がない場合があるのです。
 家畜人の切ない想いに乾杯っ!!


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2010年02月12日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百五章わがドミナの便り』」6

 「人並なくちをきこうなんておしでない。犬は犬らしく、犬の言葉を喋っておればたくさん」
この侮辱が私にはたまらない快感をよぶのだ。
私のイタリー語に対する侮辱ばかりでない、私の母国語である日本語一般に対する侮辱でもあるわけだが、そのゆえにますます楽しいのである。
(私が『家畜人ヤプー』の中で日本語を家畜人の言語として、人間の言語より易しく、白人には用意に理解しうる下等な言語であることにしたのも、彼女のこの手紙が機縁となったのである)。(引用)

 彼女が私を扱うときには、彼女はイタリー語しか使わない。
私は彼女の命令が分からない。
そこで私は馬が犬がそうであると同じく、飢と鞭で仕込まれるのだ。
イタリー語の社会においては私は馬や犬と同じ言葉の分からぬ獣で、人間の言葉の数パーセントしか知らないのである。
イタリー語と日本人との関係が、人間の言語と畜生との関係に転化しているのだ。(引用)

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2010年02月10日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百五章わがドミナの便り』」5

そうして、彼女からの手紙が続きます。

 お前の手紙は、妾の好奇心に訴えたばかりでなく、妾の心内の残酷さをも刺激した。
お前がイタリー語なんか理解らないくせに妾の肉筆の手紙をひどく欲しがるが、妾にはとても可笑しい。
家畜は言葉の分からぬもの、妾達は、不通、人間の語彙の数パーセントにあたる単語しか家畜には教えない(お前のイタリー語がちょうどそれなのだよ)。(中略)
(結局のところ)家畜は心に納得して行動するものじゃない。
そうでなく、飢と鞭とで行動に追い立てられるもの、それが家畜なのさ。(引用)

 お前をどんなふうに罰してやるか、その処理の種類や方法を説明してやったら、お前はさぞ昂奮することだろうね。
だけど、妾はお前の直接(の肉体)現象を見るのなんか胸糞が悪い。
そんなお前のpeneは鞭の先にからみつかれることになるだろうよ。(引用)
 今日はあまり時間もないから、妾の家畜との面白い対話も、このくらいで切り上げよう。
お前は、返事はいっさい、お前の母国語で、何故って、それこそ犬の言語なんだから、お書き。

 妾との手紙の往復がお前に春を与えることを期待している。
                    
                  お前の女主人なるD・Q
                     (引用)


 それから、沼先生のこの手紙への注釈が続きます。


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2010年02月07日

沼 正三「ある夢想家の手帖から」第四巻「奴隷の歓喜『第百五章わがドミナの便り』」4

(3)最後にこの手紙を書いた女友達の部屋での会話の妄想です、これはすごい。

    全文紹介します。

    「こんな手紙よこした日本人がいるのよ」
    「どれどれ......フーン、変わってるね、貴女の犬になりたいってのね」
    「それから踏台になりたいってさ」
    「ずいぶん汚ならしいことも書いてるじゃないの」
    「厭らしい。肌の黄色い奴ってこんなこと考えてるのかしらね。本当に厭ね」
    「返事出した?」
    「ウウン、相手にする気がしないもの」
    「出しておやりなさいよ。功徳よ。そりゃ普通に相手にするのは馬鹿らしいけど、望みどおり犬にしてやったらいいじゃないの。犬に話しかけるようにして書いてやりゃいいのよ」
    「そうね。きっと喜ぶわね、きっと」(引用)

  どうです?この想像力、堪りません。沼先生の妄想爆走って感じですね。



  そうして、やがて、彼女からの二通目の手紙が届くのでした。


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