■あぁ、何かひさびさに心の底から「いい本読んだなぁ」という感慨を抱きました。
■村上春樹が好きなミュージシャンを10人挙げて、その10人について長い文章を書いている本です。
■シューベルトやブライアン=ウィルソン、さらにはスガシカオまで。その守備範囲は広いです。
■とにかく「このひとは音楽が好きなんだなぁ」と思える記述が本当に多かったです。

■たとえば、彼が傾倒したビーチボーイズ。そのサウンド(=サーフィンUSA)をはじめて聴いたときの感触を彼はこう書いている。
■「僕がずっと聴きたいと思っていたけれど、それがどんなかたちをしたものなのか、どんな感触を持ったものなのか、具体的に思い描くことができなかったとくべつなサウンドを、その曲はこともなげにそこに出現させていたからだ」。
■と書いており、こう続ける。
■「ちょっと大げさに言えば、まるで頭の後ろを柔らかい鈍器で殴られたような衝撃があった。『どうしてこの連中には、僕の求めているものがこんなにはっきりとわかるのだろう?』」。
■この記述を読んでいて、ぼくは「そうそう。そういうことってあるよねー」といたく共感しちまいました。

■ほかにも、ブルース=スプリングスティ−ンとレイ=カーヴァーをオーバーラップさせる回想の部分も特筆モノ。
■「彼らはレーガニズムがアメリカ社会にもたらした保守性と、カーヴァー文学の表面的な保守性を重ね合わせ、カーヴァーの作品を『反動的』であると批判した。しかし、彼らが本当に言いたかったのは、カーヴァーの作風が彼らの生息している知的風土には受け入れがたいという、まさにその点にあった」。
■うーん。「だからアメリカが本質的には好きなれない」というyadbの視座と重なった箇所でした。
■差別はなく、チャンスは平等にあるフリー・カントリーだなんて誰が言った? と問いつめたくなります。
■だからこそ、今の俳優と音楽は地下から這い上がってくるのであり「音楽と映画はメジャーよりインディーズのほうが『ほんまもん』」になっているのかなぁ、と。

■いずれにせよ、この本は音楽ということのみに着目し、その周辺事態を絡めとりながらも、音楽のみの視点に回帰する卓越した文章力で編まれた本でした。すごいなぁ、という感想しか出てきません。正直。