高校1年生の7月から「週1冊は本を読む」と決めてから、今年で25年目。平成が終わるタイミングなので「平成に発売された本限定でmy平成ベスト5」を決めてみました。
…写真はわざわざ自宅の本棚の前で撮影したっす。

第5位/風化する女/木村紅美/文藝春秋/平成19年/2007年
5_風化する女

小説は書き出しが大事だと思います。平成で一番「この先に何が書かれているのか」と思わされたのは、木村紅美のこの作品でした。ちょっと引用してみます。

 れい子さんは、一人ぼっちで死んでいった。
 会社を三日も無断欠勤していたのを不審に思った上司が、管理人さんに頼んでアパートの鍵をあけてもらったところ、ふとんの中で、すでに硬くなっていたそうである。
 れい子さんは四十三才で結婚はしていなかった。
 会社では九時から五時まで口をへの字形にむすび、ふちのない眼鏡をかけ、長い髪は黒いゴムでひとつに束ねて、もくもくと働いていた。入社して二十年経っても、一般事務職のままで、昇給はなく、高校や短大を出たばかりのちゃらちゃらした女の子たちと、ほぼ、同じ額の給料をもらっていた。それで不満はないというか、あきらめているようでもあった。


 のちに明らかになっていく、れい子さんの素性。他にも「伊藤園の自販機の描写」など、読み終えて10年以上経っても心に残るシーンたち。今でも惹かれる書名も見事です。5位とします。

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第4位/アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎/東京創元社/平成15年/2003年
4_アヒルと鴨のコインロッカー

 記憶が合っていればですが、NHK『週刊ブックレビュー』にて筒井康隆が「野球で例えるなら1番バッター。打ってよし、走ってよし、守ってよしの小説」と推薦していたのが本作。刊行されて即、購入したのが思い出深いです。

 刊行直後は作品にまつわる仙台市内の場所を、当時は最先端だったメガピクセル携帯を握りしめて撮影してまわったのが懐かしき思い出。『重力ピエロ』『オーデュボンの祈り』『ラッシュライフ』『陽気なギャングが地球を回す』を立て続けに買って読んだのも、よく覚えております。好きすぎて当時流行っていた『世界の中心で、愛をさけぶ』になぞらえて「世界の中心で愛をさけばれるより、陽気なギャングに地球を回して欲しい」って、よく言ってました。

 ミステリー小説で珍しいくらいの圧倒的な正義感を忍ばせて、最後は気持ちいいくらいにスウィング/スイングする、初期の伊坂幸太郎作品。映画化されたり、マニアが急増するなど、世の中が盛り上がっていくにつれて私は気持ちが離れていったアレは何だったんだろう。『ゴールデンスランバー』を読み終えた時に「あー、面白かった!もう読まなくていいや」と思って以来、伊坂幸太郎は卒業してしまいました。

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第3位/希望の国のエクソダス/村上龍/文藝春秋/平成12年/2000年
3_希望の国のエクソダス

 この小説は面白かったなぁ。
 キクとハシの『コインロッカー・ベイビーズ』が東京を舞台にしたSF小説でありポストモダンと呼ばれるならば、この作品もまたポストモダンと言われてもおかしくはない。事実、作中では新しいモダニズムの提示がなされようとされ、それは従来の言説ではポストモダンと称されるものだったとも思う。
 けれど、本作は徹底したリアリズムの作品であり、現実に潜在し得る虚構を示すことで存在価値を獲得するフィクションそのものだと思います。

 残念なのは本作以降の村上龍は『半島を出よ』『心はあなたのもとに』『オールド・テロリスト』などの長編小説を著しますが、『希望の国のエクソダス』を超えることはなかったと私は思っております。これは私の見解でしかないのですが、作家・村上龍の立ち位置を顕著に示すのがエッセイにあると思います。講談社文庫から3冊出ている『村上龍全エッセイ』シリーズをはじめとして、『すべての男は消耗品である。』シリーズ、そして一連の中田英寿本。
 彼は先行者、先駆者として仕入れた情報を世の中にスピーカーとして提示する役割を果たしていたと思っています。この世あらざるものを言語化する卓越した知力(サイアンス)とバイタリティ。しかし、これがインターネットの勃興により、玉石混交になっていく。2000年以降、彼よりもキューバ音楽に詳しい日本人がブログを書くようになり、彼よりセリエAに詳しい人間がブログを書くようになる世の中になってしまった。
 昨年刊行された『すべての男は消耗品である。』の最終巻には、何とも言えない哀愁を感じ取ってしまい、胸がいっぱいになりました。先日は芥川賞の選考委員も辞任。

 もうひとつ、何か新しい動きはないかな。密かな期待をしております。

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第2位/沈まぬ太陽/山崎豊子/新潮社/平成12年/1999年
2_沈まぬ太陽

 いわゆる直木賞系の作品で、平成で最も優れた小説は本作だと思っております。
 スケールの大きいストーリー、長期に渡る時間軸、社会を反映させた事件事故と精緻な心理描写。圧巻の風景を4x5のカメラで捉え、その大判の絵を隅から隅まで組み上げた大作とでも言いましょうか。文庫本にして5冊に渡る巨編ですが、面白くてあっという間に読み終わる小説です。
 WOWOWドラマは良かったものの、それ以上に渡辺謙主演の映画も見応えありましたね。とくに部屋じゅうの剥製を撃ち抜くシーンは印象的でした。
 企業の巨悪が発生する背景と露呈する過程。普遍的な要素が多く、今後も長らく有効性のある虚構を描いた作品であるように思います。

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第1位/ねじまき鳥クロニクル/村上春樹/新潮社/平成7-8年/1994-95年
1_ねじまき鳥クロニクル

 作家では坂口安吾と三島由紀夫と村上春樹が好きで、生きているのは村上春樹だけ。平成で刊行された作品で私が最も好きなのは本作です。かつてデタッチメントとコミットメントについて書きましたが、デタッチメント時代の最後の作品が私は一番好き、ということになりました。

 荒唐無稽なストーリー展開ながら「そもそもそんな人いなくないですか?」という違和感を抱きながらも、物語に読み手としての自己が懐柔されていく感覚。村上春樹らしい作品のなかにあって、本作は「皮剥ぎ」「妻の失踪」「不思議な姉妹との交流」など、空いた穴が微妙に塞がらない感覚が物語的な好ましさを内包してます。

 1995年に地下鉄サリン事件と阪神大震災という、彼の作風に大きな変化を与える事件が発生。それ以降の彼の作品はより社会にコミュニケーションした主人公が出てくるようになります。具体的には定職につき、家族を持ち、仕事で悩むような人々です。定職につかず社会を卑下して、独身で、やれやれと言いながらビールを飲む主人公は出てこなくなったのです。
 1995年あたりの心境については、村上春樹が朝日新聞・海外版で受けた直近のインタビュー(2019年3月)で答えており、その作家として切迫した心境であることが吐露されております。ちょっとその一端を紹介します。

One could argue that 1995 was a turning point for me. The earthquake in Kobe also ruined the house I grew up in. I decided to cut short my stay in the United States and return to Japan as I thought I ought to say something about the earthquake and the sarin attack.I personally believe that all that matters for novelists is their works, and that their works won’t do any good if they only say the right things. But it is also true that writers are citizens, and they need to do the right things as citizens while they maintain their identities and standards as novelists. But it is important to maintain balance without ruining your imagination by making fair arguments all the time.

 プリンストン大学から帰国した理由(=decided to cut short)を断定的に述べたのは今回が初めてであるように思います(たぶん)。やがて村上春樹の小説は、従来よりも社会にコミットメントした人物が描かれるようになり、平易な言葉で語られる物語は世界でも評価されるようになります。そして、ノーベル文学賞はいつか? という議論に発展していったのだと私は考えております。

 令和の時代は、彼のノーベル文学賞受賞に湧く瞬間が来るのでしょうか。私は訪れてほしいとは思いますが、世界に対する強烈なアンチテーゼのような、より先鋭化された暴力について書いていない点が気になります。昨年、フローラン・ダバディが「村上春樹は拉致問題についての小説を書くべき。彼が得意とする失踪が軸となっており、この暴力については世界的には話題になっていない」と指摘しています。たとえばこういった事象を書ききったとき、私もまた村上春樹がノーベル文学賞を受賞するだろうと考えております。

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 以上、「この5冊」---【小説部門】でした。