ECONO斬り!!

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離散凸解析とゲーム理論

ご紹介がすっかり遅くなってしまいましたが、出張中に以下の力作を慶應大学の田村先生から頂きました。本当にありがとうございます^^
ご本人がまえがきで触れられているように、かなり経済学徒を意識した構成になっていますので、「離散凸解析って何?」と思っている経済学系の研究者/院生の方は、これを機にぜひ一度勉強されてみてはいかがでしょうか?



以下「まえがき」より抜粋。
1962年Gale-Shapleyにより安定結婚モデルが発表され、1972年にはShapley-Shubikにより割引モデルが提案されました。以降、これらが代表するマッチング市場モデルの研究は約50年間にわたり研究され続け、今なお新たな進展を遂げています。近年では、マトロイド理論や離散凸解析という組み合わせ最適化の枠組みの導入がなされました。

マッチング市場モデルへの離散凸解析の応用を紹介することが本書の目的です。第2章では後続の章で必要となる離散凸解析の基礎的事柄、特にM?凹関数(M?はエムナチュラルと読みます)の性質を紹介します。第4章では安定結婚モデル、M?凹関数を利用したその拡張、およびHatfield-Milgromの安定結婚モデルの拡張について議論をします。第5章が本題ですが、この章では割当モデルと安定結婚モデルを統一したモデルをM?凹関数と手付の上下制約という2つの道具を使って提案し、そのモデルでの安定解の存在を証明します。「離散凸解析とゲーム理論」と大層なタイトルを付け、ゲーム理論の専門家の方々からはお叱りを受けるかもしれませんが、離散凸解析がゲーム理論あるいは経済学の分野で広く利用されることに一役買えればと願ってのことですのでお許しいただきたい。

本書を執筆するにあたり、対象をどのような分野の方にするか迷いました。最適化の研究者/学生向けにアルゴリズムや計算量を議論した部分もあります。しかし経済学分野の研究者や院生と話してみて、最終的には経済学分野の方々が読みやすい本にしようと思いました。とはいえ、折角書いた計算量やアルゴリズムを用いた構成的な照明の部分をざっくり削ることもできず、付録に線形計画問題やマトロイドを追加したり、証明の細部を補足するということで対処しました。
太字はyyasudaによる)

Krishna教授のオークション講義

一橋大学に滞在中のVijay Krishnaペンシルヴァニア州立大学教授によるオークション理論に関する特別講義を聴きに国立キャンパスまで行って参りました。
初回にあたる昨日の講義では
・公開入札と封印入札の関係性
・古典的な仮定の下で1位価格(First Price)オークションと2位価格(Second Price)オークションの均衡計算および特徴付け
・転売(Resale)が可能な場合のインセンティブのチェック
・分布が非対称な場合の初歩的な分析
をカバーしました。
この分野のバイブル的存在である彼の名テキスト「Auction Theory」同様、非常に簡潔で分かり易い解説でした。個人的にも、転売についてはほとんど勉強したことがなかったので、非常に面白かったです。
あと、1位価格オークションと2位価格オークションの期待収益の同値性を確立しこの分野を切り開いたVickreyの業績にふれ、この美しい結果は「(自分を含む)多くのオークション研究者にとって未だに不思議に映っている」と感想を述べていたのが印象的でした。(彼ほどの専門家でも「収入同値定理」には何か深淵なものを感じているとは!)
以下に、配布されたシラバスの内容を掲載させて頂きます。講義がこの順番通りに進むとは限りませんが、オークション理論や講義にご関心のある方はご参考下さい。




Lecture 1: Introduction to Symmetric and Asymmetric Private Value Auctions
1. Maskin and Riley (2000): Asymmetric Auctions, RES, 67: 413-438.
2. Athey (2001): Single Crossing Properties and the Existence of Pure Strategy Equilibria in Games of Incomplete Information, Econometrica, 69: 861-889.

Lecture 2: Resale in Auctions
1. Hafalir and Krishna (2008): Asymmetric Auctions with Resale, AER, 98: 87-112.
2. Hafalir and Krishna (2009): Revenue and Efficiency Effects of Resale in First-Price Auctions, JMathE, 45: 589-602.
3. Cheng and Tan (2009): Asymmetric Common Value Auctions and Applications to Auctions with Resale, forthcoming, ET.

Lecture 3: Collusion in Auctions
1. Laffont and Martimort (1997): Collusion under Asymmetric Information, Econometrica, 65: 875-911.
2. Che and Kim (2006): Robustly Collusion-Proof Implementation, Econometrica, 74: 1063-1107.

Lecture 4: Auctions with Interdependent Values
1. Maskin (1992): Auctions and Privatization, in H. Siebert (ed.) Privatization, 115-136.
2. Krishna (2002): Asymmetric English Auctions, JET, 112: 261-288.
3. Dubra, Echenique, and Manelli (2009): English Auctions and the Stolper Samuelson Theorem, JET, 144: 825-849.

鍵を握る意思決定の非対称性

先日から書店に並んでいる『現代用語の基礎知識2010』の巻頭特集「2010年代の新・常識」に、経済に関する短文(『意思決定の非対称性』)を寄稿致しました(22ページ下段)。

出版社から許可を頂くことができましたので、以下に転載させて頂きます。


『意思決定の非対称性』
(政策研究大学院大学/安田洋祐)

人間の経済活動にはいろいろな非対称性が隠されている。有名な例は、2001年のノーベル経済学賞によって一般にもその有用性が広まった「情報の非対称性」だろう。他者の知ることができない情報を一部の参加者が握っているような、情報の非対称性の存在する状況では、情報が対称的な場合には説明のつかない様々な興味深い現象を説明することができる。「売りと買いの非対称性」も、市場の機能を理解する際に欠かすことのできない非対称性だろう。先物市場が存在しない、あるいは十分に機能していない資産市場では、売りを行うことのできる参加者は買いを行うことのできる参加者よりも遥かに少ない。こうした市場では、売りと買いが適切にバランスされず、買い圧力に引きずられてバブルが発生しやすい可能性が指摘されている。このように、経済現象に潜む非対称性は、我々の経済活動を理解する上で重要な鍵を握っているのである。

それでは、経済活動の原動力である、個々の参加者間の「意思決定の非対称性」についてはどうだろうか?同じ経済問題に直面していても、参加者によって答えの探り方や予測の仕方は異なるかもしれない。戦略的な思考が苦手な投資家が合理的な投資家の餌食になる、といった状況は、むしろ現実にはありふれているだろう。ところが経済学では、伝統的にこうした意思決定に関する非対称性はほとんど分析されてこなかった。意思決定を行う個人が合理的であっても、非合理であっても、暗黙のうちにすべての参加者が同じような意思決定ルールに従うことが仮定されてきたのである。

近年になって、経済実験や脳科学の知見を取り入れつつ、こうした意思決定の対称性を打ち破る興味深い結果がじょじょに明らかにされてきた。たとえば、どこまで相手の行動を先読みできるかに関する推論能力が個人間で異なる状況を扱う「レベルk理論」などが代表的である。レベル1は一段階の推論、レベル2は二段階の推論、といった形で、kの大きさによって先読み能力の非対称性を表現しようとするアイデアだ。財政政策や金融政策の効果を予測する際にも、どの程度の家計が将来の政府の増税や中央銀行の政策変更を織り込んで消費行動を決定するかが、結果に大きな影響を与えることが知られている。

参加者同士の非対称性だけではなく、個人の中においても意思決定の非対称性は存在する。たとえば、短期的な問題と長期的な問題を考える際には、結果に対する評価の仕方がしばしば食い違うことが知られている。長期的には望ましくないような選択肢を、その時点がやってくると誘惑に負けてついつい選んでしまうような状況をうまくとらえた「双曲割引」の考え方は、すでに様々な分野で応用されている。

個々人の意思決定をきちんと理解することは、それらの集合体である経済現象を正しく理解する上でも不可欠である。2010年代は、意思決定の非対称性に関するアプローチや考え方がますます注目されていくだろう。


『現代用語の基礎知識』というと辞書/百科事典のようなイメージが強かったのですが、今回の2010年度版では様々な特集やテーマごとの解説記事が付いており、読み物としても楽しめる内容に仕上がっているように思います。(ただ、さすがに分厚いため快適さ=読み心地の良さには少し欠けるかもしれません。苦笑))
また1700ページ超えで3000円を切る価格設定も良心的です。ご関心のある方はぜひ書店で手にとって眺めてみて下さい!

特別講義のご紹介

追記アリ(11月24日03時)

前回の『初パブリケーション!』では、非常に多くの方々から温かいコメント頂きました。皆様のお言葉を励みに、今後とも一歩ずつ研究を進めて参りたいと思います。あらためて、どうもありがとうございました!

さて話題は変わって、お勧め特別講義のお知らせです。慶應大学にて、テキサス大オースティン校のEugenio Miravete准教授による実証産業組織論の連続講義が行われているようなので、ご紹介させて頂きます。

産業組織論連続講義

全て慶應義塾大学三田キャンパスで開催します。
11月18日(水)9:00〜10:30、10:45〜12:15 場所:西校舎524番教室
12月1日(火)14:45〜16:15、16:30〜18:00 場所:南館4階会議室
12月4日(金)14:45〜16:15、16:30〜18:00 場所:大学院校舎2階324番教室
場所の確認は以下のページを参照ください。
http://www.keio.ac.jp/ja/access/mita.html
コース内容は以下を参照ください。
http://www.eugeniomiravete.com/Courses/2009_Keio/2009_Keio.htm

Miravete氏セミナー (経済学会報告会)
12月3日(木曜日)17:00〜18:30 場所:南館4階会議室
論題 "Free and Able to Choose: Evidence from Medicare Part D"
論文およびスライドは以下からダウンロードできます
http://www.eugeniomiravete.com/paper25.htm

朝からオフィスさんによると
「初回の18日は、2時間半ほどで、Rust(1987)を丁寧にカヴァー致しました。次回は、Hotz and Miller (1993)から始まるようです。私は、この2月の一橋大学でのマーク・ライスマン先生のミニレクチャーにも部分的に参加致しましたが、ミラヴェッテ先生のご説明は、より詳細な点にまで踏み込まれている印象を持ちました。近郊の大学院生の方々にはオススメの内容かと思われます。」
とのことです。皆さん奮ってご参加下さい。


他にも、一橋大学で実証オークション(Harry Paarsch教授・メルボルン大学)、オークション理論(Vijay Krishna教授・ペンシルヴァニア州立大)、国際貿易(Kara Krishna教授・ペンシルヴァニア州立大)の特別講義が開催されるようです。詳しくはこちらをご覧下さい。オークション理論/実証の看板教授の講義を日本で直接聞けるというのは本当に有難いですね。ちなみに私はVijayのオークション理論講義(11月25日〜12月16日の毎週水曜日)に参加予定です^^


オークション実証研究を始めるにはまずはこのテキストから


オークション理論の最もスタンダードな上級書:改訂第二版 続きを読む

初パブリケーション!

ついに、ついに、ついに、論文が英文ジャーナルにアクセプトされました!

Resolving Conflicting Preferences in School Choice: The "Boston" Mechanism Reconsidered (with Atila Abdulkadiroglu and Yeon-Koo Che), forthcoming, American Economic Review
(ワーキングペーパーはこちら

長いことパブリケーションが出ずに、このままノーパブで20代を終えることになるのか、と暗澹たる気持ちでいた時期もあったのですが、おかげさまでなんとか1本載せることができました。アクセプトの知らせがこんなに嬉しいものとは(感涙)

共著者であるAtilaとYeon-Kooとの共同研究は、私が2005年-2006年の1年間コロンビア大学にvisitしていた時にスタートしたもので、最初のアイデアを思いついたのはなんと4年近くも前です。いや〜、本当にここまで長かった。。。

この1本で終わりにならないよう(笑)、引き続き研究に邁進して行きたいと思います!
Daily Comments
9月にVCASIで行われた、神取道宏教授(東京大学)によるセミナー講演「経済理論よどこへ行く−2009年の定点観測」のまとめサイトが更新されています(こちら)。10月の日経学会での特別講演の土台となった名講演です。動画も見ることができますので、ご関心のある方は是非チェックしてみて下さい!
(2009/11/26)
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