マニアックなタイトルですいません。
公共財供給におけるクラーク=グローブス・メカニズム、およびオークションにおけるヴィックリー・メカニズム(=セカンド・プライス・オークション。以上をまとめてVCGメカニズムと呼ぶ場合も多い)は、各人の私的情報(タイプ)が直接他人の利得に影響を及ぼさないという私的価値(Private Value)の状況において(さらに準線形の効用関数の下で)、以下の望ましい性質を持つことが知られています。

支配戦略による遂行:各人が相手の取る行動によらず正直に自分のタイプを申告するのが得になる
パレート効率性:社会的に望ましい結果(パレート効率的な結果)が達成される

残念ながらこれらの望ましい性質は、各人のタイプが他人の利得に直接影響を及ぼす共通価値(Common Value)の場合においては一般に両立しないことが知られています。つまり、各人の持つ私的情報に外部性がある場合(これを「informational externality」と呼びます)には「社会的に最適な結果を支配戦略によって達成することはできない」わけです。

しかし、マスキンによるサーベイ
Maskin (2001) "Roy Radner and incentive theory" Review of Economic Design, 6, 311-324
を読んでいると、なんと
Radner and Williams (1988) showed that f(s)=(x(s),y_1(s),...,y_n(s)) can be implemented in dominant strategies even when there are common values...
なる文章が書かれているではないですか!
驚いてマスキンの文章および原典である
Radner and Williams (1988) "Informational externalities and the scope of efficient dominant strategy mechanisms" mimeo
をすかさずチェック!そこで明らかにされていた大きな結果は

十分性:ある条件を満たす場合に(若干修正を加えた)VCGメカニズムが社会的に最適な結果を支配戦略によって達成する
必要性:その条件が満たされない場合には(それに加えてある別の緩い条件の下で)、いかなるメカニズムをもってしても社会的に最適な結果を支配戦略によって達成することはできない

の二つでした。で、当然問題になるのは「ある条件」が何か?ということですが、これが実はかなり強い制約を課しており、(公共財供給の文脈において)言葉で簡単に説明すると

『公共財供給から得られる各人の利得が「公共財の水準および各人のタイプに依存する部分」と「全ての参加者のタイプ(のみ)に依存する部分」の和として表すことができる』

という条件になっています。ここでポイントとなる点は

1.前者のみで後者が存在しない場合は私的価値モデルに一致する
2.後者は公共財の水準や申告されたタイプには一切依存しない

でしょう。2は、共通価値を生み出している後者の部分が実質的に無視できることを意味します(どのようなメカニズムを考えても後者の大きさを変えることはできないので)。1と合わせると、ここでの条件が満たされている限り問題が私的価値の場合と実質的に変わらないので、前者を申告させるようなVCGメカニズムがうまく機能することが分かります。よって、当初の驚きとは裏腹に上の結果の十分性はほぼ自明と言えるでしょう。
つまり「共通価値の場合にもVCGメカニズムがうまく機能する」というのは状況が極めて私的価値に近い特殊ケースにおいて成り立つ話でしかなかったわけです。

逆に必要性の結果は面白いことを言っており
「私的価値に状況が近い特殊ケースを除いては、いかなるメカニズムをもってしても社会的に最適な結果を支配戦略によって達成することはできない」
ことを意味します。やはり、共通価値の下では「支配戦略による最適な結果の達成」はほぼ不可能だったのですね。