先日、Facebook経由で「フィーリングカップル5vs5」(zakiiさんという方が作成しているサイトの一部です)という面白い記事が紹介されていました。「男女5人づつが相手を選んで、相手も自分を選んでいたらカップル誕生」という80年代のテレビ番組に沿った状況を数学的に分析する内容です。

より正確には、次の仮定のもとでカップルが$m$組できる確率を導出しています。
・男女が$n$人ずついる
・各男性はランダムに女性を一人選ぶ
・各女性はランダムに男性を一人選ぶ
・お互いに選び合った男女でカップルが成立

「ランダムに相手を選ぶ」というのはもちろん現実の極端な単純化ではありますが(そもそも「フィーリング」要素がなくなってしまう)、こう仮定することで確率を計算することができ、また$n$や$m$に関して比較することができるのは大きな利点でしょう。
そして、一見すると非常に驚くべき結果として

「フィーリングカップル$n$対$n$でできるカップルの数の期待値は、$n$に関係なく1組」

という大変興味深い性質が導出されています。今回は、マッチング理論やマーケットデザインの研究者としても見逃せない(?)この興味深い性質や、少し拡張した問題におけるカップル数の期待値について少し掘り下げて考えてみたいと思います。
記事の中ではカップルが$m$組できる確率(これを$P(m)$とおきましょう)をまず求めて、期待値を定義に基づいて計算しています。

 カップル数の期待値 $= P(1) × 1 + P(2) × 2 + \cdots + P(m) × m + \cdots $

これがまさに正攻法なわけですが、実はこの問題では、わざわざ$P(m)$を求めなくても次のような方法で期待値を簡単に求めることができます。

まず、「カップル数の期待値」は「カップルになれる男性の数(あるいは女性の数)の期待値」と同じことに注目します。この期待値は、「ある特定の男性が女性とカップルになれる確率」(これを$p$とおきましょう)にその時に実現する数1をかけて、それを$n$倍したものに等しくなります。つまり、$p \times n$が求めるカップル数の期待値となるわけです。$n$倍するのは、すべての男性が同じ確率でカップルになれるからです。ちなみに、こういった導出が可能なのは相手の選び方がランダムだと仮定されている、という点に注意してください。

肝心の確率$p$は、「自分が選んだ女性がたまたま($n$人の男性の中から)自分を選んでくれる確率」に等しくなるので$1/n$です。よって、期待値は

 $p \times n = 1/n × n = 1$

と簡単に求まります。カップル数$m$が実現する確率$P(m)$ 、という全員の結果に関する「マクロの情報」がなくても、ランダムの仮定から導かれる対称性をうまく使うことによって、各自がカップルになれる確率という「ミクロの情報」のみから期待値を導出することができる、というのがポイントです。

さて、この考え方を使うと、問題の設定を少し変えてもカップル数の期待値をすぐに求めることができます。ここでは、次の二つの場合について考えてみましょう。

1. 男性と女性の人数が異なる場合
2. 誰も選ばない(ゴメンナサイ)を選択肢に含める場合



1. 男性が$d$人、女性が$j$人いるとします。このとき、「ある特定の男性が女性とカップルになれる確率」は「自分が選んだ女性がたまたま($d$人の男性の中から)自分を選んでくれる確率」に等しいことを思い出すと、$1/d$となることがすぐに求まります。女性の数$j$には依存しない、という点に注意して下さい。これに男性の数である$d$をかけると、やはり期待値は1になります。これは、「カップル数の期待値が1になる」という綺麗な性質は、男女間の人数の対称性には依存していないことを意味します。言い方を変えると、以下が示されたことになります。

「フィーリングカップル$d$対$j$でできるカップルの数の期待値は、$(d, j)$に関係なく1組」

ところで、この問題の結果を文字通り解釈すると、グループの大きさに依らず成立するカップル数は変わらない(一組になる)ので、大きなグループを分割して小さなグループをたくさん作れば作るほど成立するカップルの数は増えていきます。これは、友達/知り合いの数自体が少なかった昔は(吟味する相手の数も少ないので)相手を見つけやすい一方で、ネットのSNSなどを通じてバーチャルな世界までグループが拡大している現代では(吟味する相手の数が多過ぎて)相手を見つけるのが難しい、という(いかにもありそうな)現象と整合的です。もちろん、実際にこの現象が成立しているのかどうかは検証する必要があるでしょうが、今回分析したような非常に単純なモデルから、この手の意味がありそうな結果がきちんと出てくる、というのは面白いのではないでしょうか。


2. 男性と女性が$n$人ずつの対称的なケースに戻って、問題の設定を少し変えてみましょう。各参加者が「相手の誰かまたはゴメンナサイ(誰も選ばない)」という$n+1$通りの選択肢からランダムに選ぶという状況を考えます。ここで、「ある特定の男性が女性とカップルになれる確率」は「自分が誰か女性を選ぶ確率(ゴメンナサイを選ばない確率)」と「自分が選んだ女性がたまたま($n$人の男性とゴメンナサイの中から)自分を選んでくれる確率」の積に等しくなります。前者は$1- \frac{1}{n+1}= \frac{n}{n+1}$に、後者は$\frac{1}{n+1}$なので、これらの積は$\frac{n}{(n+1)^2}$となります。最後に、男性の人数$n$をかけてあげると、カップル数の期待値が$\frac{n^2}{(n+1)^2}$と求まります。

「相手を誰も選ばない」という可能性をこのような形で取り入れると、カップル数の期待値はもはや1ではなくなります。逆に言うと、「参加者の数によらずカップル数の期待値が常に1になる」という性質は、ゴメンナサイが無い(NOと言えない)という仮定に強く依存している、ということが分かるわけです。さらに、$n$が大きくなるにつれカップル数の期待値は大きくなり、1に収束することも分かります。参加者が増えるほどカップル数が増える、というのはある意味で直観にも合致する結果かもしれません。


以上では、1と2の二つの拡張を考えてましたが、他にも例えば「一人ではなく複数の相手を選ぶことができる場合」などを考えてみても面白いと思います。参加者の数と告白できる相手をともに2倍にしたときに、成立するカップルの数がどうなるか(これは2倍未満になることが簡単に示せると思います)、といった問題を突き詰めて考えていくと、ちょっとした論文になるかもしれません。学生のみなさんは、卒論や修論で取り組んでみてはいかがでしょうか?