kaeru2_sこんばんは、管理人のゴゴです
ここしばらく近年の作品ばかりだったので、今回は貸本の時代からお送りします。
36回は徳南晴一郎先生のカルトホラー『怪談人間時計』です 
怪談人間時計 (QJマンガ選書)
徳南 晴一郎
太田出版
1996-11
 
038
satiko_001カルトってよく聞きますけどなんですか? 宗教?


kaeru2_s違う違う、日本では新興宗教団体によく使われる言葉ですが、本来は崇拝とか儀礼のことで、そこから転じて小規模で熱狂的な信者の集まりをいいます。カルト作品とかカルト映画というと「一部の熱狂的なファンがいる」作品・映画のこと

satiko_sinken_001へぇー、じゃあカルトホラーは一部の熱狂的なファンがいるホラー作品ってことですね。でも、「一部の」ってことは、逆を言えば一般的にはそんなに人気ではないということになりません?

kaeru2_sその通り、 この『怪談人間時計』も世の中に広く受け入れられる作品ではありませんでした。そもそもの始まりは1962年8月に曙出版より発刊された貸本版ですが、世に出た当時は話題作でもなんでもなかった
貴重な1962年の貸本版の表紙(怪奇・ホラー漫画&児童書botさんより転載)

satiko_nayami_00150年以上前の本なんですね。 マリリン・モンローがお亡くなりになった年と思うとものすごい遠く感じます。

kaeru2_s後世、作品が見直されてその狂った世界観に『読むドラッグ』、『消えた天才漫画家』と話題になりました。1979年に駒絵工房から部数限定で再版、さらに1996年に太田出版から再販されたのが今回の本です。

satiko_001 さっきから気になってたんですけど、貸本ってなんですか? レンタル本?


kaeru2_sか~! これだから現代っ子は困るね。そんなところから説明しなきゃならんかね。聞いてばっかりで自分から学ぼうという姿勢に欠けるんじゃないかね。

satiko_ikari_001・・・・・・じゃあ、いいです。帰ります。


kaeru2_sあ、いや嘘です、ごめん。説明させてください。どんなクエスチョンにも親切丁寧に気持ちよく答えたい気分です。

satiko_ikari2_001ほんとめんどくさい性格ですね。ただ単純な質問しているようで、私がいなかったら偏屈なカエルが1人でとくとくと喋ってるだけなんですからね。それでは手身近にどーぞ。

kaeru2_sははー、ありがとうございます。貸本ってのは端的に言うとレンタル本屋でね。1日10円とか5円とか、安価に本を貸し出すお店です。

satiko_memo_001ふーん、TSUTAYAとかGEOなんかで同じこと今やってますよね。レンタルコミックって名前ですけど。

kaeru2_sビジネスモデルを一周回った感じだよね。貸本が盛り上がったのは戦後間もない1950年前後のことなんだけど、この頃は本なんて高くて子供が買えるものじゃなかった。サンデーやジャンプといった週刊漫画雑誌もまだない時代です。

satiko_point_001安く借りてみんなで回し読みすればいいわけですか。子供の頃なら助かります。どういう作家さんがいたんですか?

kaeru2_sまあ、メジャーどころだと水木しげるだよね。エコエコアザラクの古賀新一先生もそうです。一般的なところだと横山光輝先生とか池上遼一先生とかもいます。継続してやっておられる方はみんな大物だよね。

satiko_nayamu_001お名前は聞いたことありますけど、漫画をあまり読まないのでイマイチメジャーな感じがピンときません。

kaeru2_sまあ、その辺りまで話すと長くなるから割愛するよ。詳しくはググるかウィキるかしてください。で、この貸本という媒体とホラージャンルとは非常に相性が良かったんですね。

satiko_awaremi2_001あ、何と無くわかる気はしますよ。怖いもの見たさな気持ちはありますけど、ホラー漫画ってあんまり家には置いておきたくないですよね。表紙とか気持ち悪いし、悪霊とか呼び寄せそうな気がします。

kaeru2_sそれもあるね。実際ホラー漫画に埋め尽くされた本棚って、持ち主の年齢にもよるけどお母さんは心配しますよ(実体験) ただ、そういう面だけじゃなくて掲載誌の影響を受けないという部分も大きかった。

satiko_ee-_001あー、少年誌には努力友情勝利で少女誌には王子様お姫様と恋バナでって、雑誌のカラーって確かに大きい縛りですね。

kaeru2_sそうなのよ、貸本専用の書き下ろし単行本はそういう縛りや規制が他の本よりも緩かったわけね。わりかし好きなものがかけたという話です。

satiko_memo_001なるほどー、貸本に関してはよくわかりましたよ。


kaeru2_sそれじゃあ、そろそろ本題の話に入ろうか。1996年に太田出版から出された『怪談人間時計』は、1962年に曙出版から出された貸本の再販本です。曙出版の貸本版はゴゴも実物をみたことはありません。今では10何万円ものプレミア本です

satiko_matta_001ん? でも30年後も新しく本が出るなんて、結構な人気じゃないですか。全然カルトじゃないですよ。

kaeru2_sいやいや、カルトだからこそ売れなかったのに何度も再販されるんだよ。この再販本は90年代の局所的な貸本ブームの際に、一部の好事家が紹介したことで話題を呼び、形になりました。徳南先生自体は1963年頃には漫画家の道は諦めています。

satiko_tere4_001はぁ、読むドラッグというとそれほど異様で病み付きになってしまうってことですか。


kaeru2_s読めば読むほど不思議な世界観に中毒を起こしてしまうんだよね。ゴゴも立派な徳南ジャンキーです。説明するよりみてもらった方が早い。はい、中表紙どん!
不安をあおる独特の色合い
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satiko_eeltu_001うっ! なんともいいがたい強烈な絵柄ですね。なんだかじっと見てるだけで気持ち悪さがあります。行っていいのかわからないんですけど、これって絵としてはへたっぴなほうじゃあ…

kaeru2_sそー見えるでしょ。上手い下手じゃなくて、わざとそれまでのものとは違う独特のタッチで描いているんです。これより前の作品とは明らかに絵柄が違う。

satiko_haa_001わざと気持ち悪く描くって屈折した手法ですね。気持ち悪いならホラー漫画としてはありなのかなぁ…。

kaeru2_sありあり大有り! 最高でしょ! この本棚には置いときにくい感じ。遊びに来た友達に見つけられた時の気まずさを想像するだけで切ない気持ちでお腹いっぱい!

satiko_ikari_001わかりません。そんな屈折した喜びはわかりたくありません。


kaeru2_sふひひ! 今回取り上げたい恐怖テーマは、そんなゴゴとさっちゃんに実にお似合いです。私たちは色々なものに恐怖感を感じますが、そのうちの一つの要素にディスコミュニケーションがあります。『怪談人間時計』を通して今回はそれを見て行こう。

satiko_nayami_001(キモい笑い方・・・)ディスコミュニケーションというと、コミュニケーションをディスってるということで、コミュニケーションが成り立たないという意味ですね。

kaeru2_sそう。幽霊って人の形なのになんで怖いかって言ったら得体が知れないからでしょ。部屋の隅でうずくまってたり、暗がりから覗いていたり、何がしたいんだかわからなくて怖いって話でしょ。怪物なんかも同じだけれど。

satiko_memo_001コミュニケーションが成り立たない=意図がわからなくて漠然と不安を感じる=恐怖感に繋がる、ということですか。毎度毎度わかったようなわからないような。

kaeru2_s本書の素晴らしい点はね、登場人物や物語と読者が乖離していて細かいディスコミュニケーションがいっぱいあるところです。それが総じて、読者と著者の間に乖離がひどい。平たく言うと、徳南先生がなにをいいたいのかわからなくて怖い

satiko_akire3_001そ、それって作品として破綻してません?


kaeru2_sごめん、言い過ぎた。なにか意図があって描かれているものが、読み手は受け取りきれないので狂っているという評価が出てくるんです。人の狂気に直に触れるようで怖い。いい加減に話に入ろうか。物語はラ・メトリーの一節からはじまります

satiko_nayami_001なになに・・・「肉体はすなわち時計であり 新しい乳母は時計士である 人間は機械にすぎないのさ!」 雰囲気ある言葉ですけど、わかるようでなに言ってるんだか深いところはわからないですね。

kaeru2_s人間機械論を唱えた哲学者でね、物語のテーマにも深く関わっています。哲学系の話はあまりしたくないんだけど、要は人間は身体機能も含めて極めて精巧な機械だ、というようなことだと思っておけばよろしい。

satiko_sinken_001その言い振りだとゴゴさんもよくわかってなさそうですね。テキトーな感じがプンプンしますよ。

kaeru2_sはい、よくわかってません、許せ。物語は時計屋の一人息子である声タダシ君が、自転車に轢かれるところからはじまります。
昔の漫画にはよくある冒頭の自己紹介 目線の向きがおかしい
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satiko_001自転車事故ってある意味現代的です。というか、ゴゴさんちょっといいですか?


kaeru2_sん、なに?


satiko_awaremi_001このタダシくん、首の向きがおかしくありません。なんか怖いんですけど。


kaeru2_sそだね。


satiko_ee-_001そうだねって、これ肩より後ろに顔が向いてて、どう考えても首の骨折れてる角度ですよ。

kaeru2_sさっちゃん、言っとくけどいちいちそんなこと言ってたらこの先きりがないぜ。この明らかに崩れたデッサンこそ、徳南先生の持ち味にして作品の魅力だ。世界が狂っていればデッサンも狂っている。
謎の物体を持つやたらでかい少女と首がおかしいタダシくん。1話目サブタイトルページからとばしている。
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satiko_nayamu_001なんだろう、おかしいと思う私がおかしいのかしら。胸がもやもやします。


kaeru2_s続けよっか、タダシ君は大きな怪我こそありませんでしたが、事故が原因で人間不信に陥ります。はねられた際に周りを取り囲んだ野次馬たちが、彼にはとても邪悪に思えた。
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satiko_tere4_001ちょ、ちょちょちょ、ちょっと!


kaeru2_sなんだよー、進まないなぁ。


satiko_ikari_001野次馬って、これ、ケンタウロスみたいなこれなんですか。


kaeru2_s何ってどう見ても野次馬でしょ。タダシ君にはこう見えたってことだよ。こういう心象風景がなんの説明もなく出てきたりするからね。これもこれで狂っている。

satiko_haa_001はー、確かにいちいち止めてたら切りがなさそうですね。


kaeru2_sちなみにタダシ君のお母さんは個人的に本書随一の不気味デザインです。ピカソかダリの世界から抜け出たような不気味さ。なんとなく美人に描かれてる感じはする。

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satiko_ho2_001あ・・・・・・でもちょっとこの奇妙な世界観も見慣れてきたかもしれません。


kaeru2_s続けるよ。タダシ君は学校も行かなくなってしまい、毎日趣味の時計コレクションに囲まれて暮らしていました。しかし事故にあってからというもの、不思議なことに彼の時計は全て正確な時刻より3時間進むようになっていました。

satiko_nayami_001それはなんだかメタファーっぽいですね。人間不信で社会に溶け込めなくなってフェードアウトして、自分だけが周りの人達と時間がズレてしまうような感じでしょうか。

kaeru2_sかもしれないけど、結局最後までこれに関して明確な答えはありませんでした。謎です。

satiko_egao_001 考えるしかないということですか。


kaeru2_s特にこの辺は徳南先生の個人的な境遇も大きく影響していると思います。


satiko_kohon_001どういうことですか?


kaeru2_sまー、自伝かウィキを見てもらえば早いんですが、徳南先生はいわゆる小人症の方なんです。それが原因で幼少期から辛い思いをされています。本名は徳南(トクナン)ですが、ペンネームは正しくトクナミとお呼びください。


satiko_001時代的にも、そうした方への理解は今よりずっとなかったでしょうしね。阻害された過去が作品に深く影響しているということですか。

kaeru2_s徳南先生は公言はしなかったから、読み手が勝手にそう思ってる部分も多いけどね。で、ついには時間がずれるだけでなく、タダシ君所有の時計は次々と壊れ出してしまう。女中のオデ子もその事態に戦慄して、職を辞してしまう。
女中のオデ子。斜めって登場・眉無しとつっこみどころ満載。
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satiko_awaremi_001このオデ子さんってキャラクター………ひょっとして、おでこが出ているというだけでオデ子さんですか。

kaeru2_sそうそう、こういう不意に来る小ボケも突っ込んでたら切りが無いぜ。オデ子のおでこが出てたっていいじゃないか。で、時計が壊れることについてタダシ君が持論を展開します。急にここでSF的な話が出る。

satiko_nayami_001クリフォード・D・シマッタ博士の論文ですか。機械が人間を支配して行くようになるという要旨の論文、って作中で言われてますけど、この博士って実在する方ですか?

kaeru2_sシマッタ博士はいないけど、クリフォード・D・シマックというSF作家はいてね。間違いなくこの方がモデルです。 顔も似せて描かれている。

徳南フィルターを通せば現実世界は奇妙に歪む(左、SF作家のシマック 右、空想科学者シマッタ)
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satiko_egao3_001流石に実名で勝手に出すのははばかられたということですね。


kaeru2_sで、お母さんの計らいで家庭教師がやってきます。無階という大学生で、ことあるごとにタダシ君をひねるのですぐにクビになります。また新しい家庭教師がやってきますが、これが曲者でね、こんな見た目です。
時計先生。時計の針を模したネクタイがオシャレ。
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satiko_haa_001とけい…時計人間…アンパンマンに出てきそうなビジュアルです。これも何かの比喩か精神世界の投影ですか。

kaeru2_s
 いや、そのもの時計人間なんだよ。柱時計だったんだけど人間になったんだ。

satiko_ee-_001時計人間ってなんですか?


kaeru2_sよくわからん。狂っている。


satiko_akire3_001わからんって…わからんものをどうして人に紹介できるんですか!


kaeru2_sいや、読み返すたびに色々考えるんだけど、はっきり答えが出ないんだよ。話が進むほど未解決なことが増えていくんだもん。なんとなく、時計人間というのは機械=時間に束縛された人間のことを描いているような気はする。
暑さに窓を空けた時の1コマ。いちいち意味を考えていると頭がどうにかなりそうになる。
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satiko_nayamu_001テキトーだな〜…続きをみて見ましょうか。時計人間は結局家庭教師になるんですね。

kaeru2_sそう、そして唐突にお母さんの頭から時計の長針と短針が生えてきてしまいます。狂っている。

satiko_haa_001えーっとー、ほんっと次から次へと・・・えーと、なんですって?


kaeru2_s時計の長針と短針がお母さんの頭から生えてきてしまいます。

 
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satiko_nayamu_001う~ん、なにゆえにです?


kaeru2_sさあ? 生えたものは生えた。お父さんが切り落とすけど、切っても後から生えてくる。


satiko_kohon_001………続けてください。


kaeru2_s 一方、タダシ君は時計先生から正確な時刻を刻む時計をプレゼントされます。その時計を身につけた瞬間、お母さんのように頭から時計の針を生やした時計人間たちの暮らす時計人間の国にワープしてしまいました。

satiko_akire時計人間って、強烈なようで頭から針が出てるだけって地味ですね。


kaeru2_s奇妙な異世界にタダシ君は恐怖して、なんとかその世界を脱出します。その時は無事に現実世界へ帰れましたが、タダシ君は両親の目を盗んではたびたび時計人間の国を訪れるようになりました。
時計人間の国へ行くとタダシ君は変な服になってしまう

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satiko_001怖がって逃げ出したのになんでまた戻るんですか? 怖いもの見たさですか? なんで何度と行く必要があるんですか?

kaeru2_sさっちゃん、理論的に説明できないことなんてこの世にはいっぱいあるんだよ。ましてや一介のカエルに異世界のことなんてわかるはずもない。

satiko_awaremi_001………逃げた。


kaeru2_sさて、いよいよ奇妙な物語もフィナーレです。二年後、高校も無事入学したタダシ君は両親とともに人里離れた田舎で隠居生活を始めました。家庭教師の時計先生も一緒です。

satiko_sinken_001お母さんも針が生えたままじゃまともな生活なんてできないでしょうしね。


kaeru2_sで、時計先生がネズミの大群に襲われます。ネズミたちはそれだけでは飽き足らず、そばにいたタダシ君にも襲いかかりました。ネズミたちが去った後には、バラバラになった二つの機械時計だけが残され、二人の姿はどこにもありません。

satiko_ee-_001 えっ? えっ!?

 
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kaeru2_sタダシ君は時計人間の国を訪れるたびに、いつの間にか内臓まで機械じかけの時計になっていたのです、そういう話。狂っている。

satiko_ikari2_001 もー、どういうことですか?! 置いてけぼりにもほどがありますよ。あと、最後までツッコまないで来ましたけど、要所要所で狂っている狂っているうるさいですよ! 褒めてるつもりですか、それ!

kaeru2_sもちろん褒め言葉よ。さて、初めて結末まで言ってしまいました。それはこの物語の魅力はストーリーそのものよりも狂った世界観にあるからです。

satiko_akire3_001ちょ、なんで終わらそうとまとめに入ってるんですか。どういうことなんですかってば?!

kaeru2_s50年以上前に、一人の不遇な境遇の作家がしたためた作品は私たちの想像もつかない世界を表現しました。理解できない、それこそが狂気の世界を描いた徳南ホラーの真髄です。私たちは作者との不協和音にただただ不安を感じます。

satiko_haa_001投げっぱなしで終わったら私も不安ですって!


kaeru2_s惜しくも徳南先生は2009年に鬼籍に入られました。そのため、この数奇な物語の意図するところはとうとう私たちの手の届かないものになり、皮肉にもそのことが作品の魅力を永遠のものとしています

satiko_ikari_001聞く耳持たずですねぇ。ゴゴさんと私もディスコミュニケーションですよ。


kaeru2_s最後に、古本でもやや手に入れにくい本書ですが電子書籍化もなされています。もっともこちらもなぜか近年販売停止が増えているので、いつまで読めるかはわかりません。

satiko_ikari2_001最後まで無視ですか。えーと、試し読みはソクヨミのこちらをどうぞ。


kaeru2_s謹んで徳南先生のご冥福をお祈りいたします。


怪談人間時計 (QJマンガ選書)
徳南 晴一郎
太田出版
1996-11