近江八幡のアートミュージアムNO-MAでは知的障害者の芸術を、こういう言い方はおかしいかもしれないが、知的障害者という括弧を外して普通の作品として展示鑑賞する場である。人間誰しも自分の気持ちを表現するすることが出来る。その手段を手に入れられるかどうか、そしてその表現を深められるか否かだけのはなしなのである。
 私はときどきこのNO-MAを訪れてその作品を楽しませてもらっている。ただ一つだけ残念なのは、まずは表現手段を持つことが大事なので、手近な材料が用いられ、その作品の永続性が危懼されることである(陶芸などは別であるが)。

    『緞里絵 縷々累々、紙の上の私の風景』

 緞里絵さんの絵には以前にも出会っていて、その迫力には並の画家では太刀打ち出来ないだろうとの感想をもっていた。それが今回は彼女の作品ばかりの展示ーつまり初めての個展なのである、彼女のエネルギーが会場全体に充満している。
 彼女の絵には、女性の裸体、性器、幼児、鋏が現れるものが多い。しっかりしたデッサン力がある上に、それらが自在の形に展開し、空間を微細な模様で埋め尽くす。しかも普通の画家では主題を見出せば同じ絵を何枚も描くのだが、彼女の絵は一枚一枚異なり、次々と展開しているのである。
 主題名もユニーク:「膜を破って突き立てる」「除け物(のけもん)」
          「幻滅とか限界とか」「馬鹿女ざまあかんかん」
          「絶対正義」「ニンゲイセイナイニンゲン」
          「嫌な解放」「多弁の口を止める薬」などなど
 ただスケッチブックに描かれ、マジックで色付けされているのが少し残念である。
 彼女のVTR影像が流されていた。家でのインタヴュー、制作中の姿、パリの街頭などである。
 とにかく凄い絵である。広く知ってもらいたいところ、これが全国に巡回するのでなくNO-MAに全国から来てもらいたいものである。

 彼女の観覧者への手紙 『私の絵を見るあなたへ』

   絵の前に立って見ている「あなた」がいるかもと考えると、自分の描いた絵 

  が飾られることは、少し不思議な感じがします。

   見ているあなたは、何か感想を持つのかな、とか、または感想ではなく、拒

  否されてしまうこともあるかもと、あなたの心の中で起こったことについて少 

  しだけ想像します。

   でも、人の思ったことや反応などを考え始めると、わたしにとって、不安と 

  具合の悪さを呼んで来そうな気配がするので、私自身の調子の安定のために余 

  り考えないほうがいいのかなと思います。

   そのために、絵を見て下さったあなたの感じたことや思いを正面から受け止 

  めることが出来ずに申し訳なく思っています。

   ここにあなたが来られたのは、偶然NO-MA前を通りかかって、または、展示

  を見るために遠くから足を運んで、など様々な理由で、絵の前に立っているこ 

  とと思います。

   あなたの大切な時間の中から、絵を見るための時間を使って下さったこと、 

  とても嬉しく思います。

   沢山の出会いのご縁に感謝です。

                          緞里絵