体罰についての議論が続いている。しかし何か私の思いと違うのでもう一度この問題を整理しておきたい。
 メディアでの討論などでは、なお体罰容認論が巾を利かせているようである。さらに驚かされるのはアンケート調査でも、子どもたちの中にも四割にも上る容認者がいるという。
 体罰を受けた子どもの中には、気合いを入れてもらったと肯定するものもいるであろうが、なぜ暴力を受けねばならなかったのか理解出来ずに心に深い傷を負ったものもいるはずである。一人でも後者のような子がいるのであれば、体罰を止める必要があるとするのが議論の筋ではないだろうか。体罰がなくともいくらでも指導出来る方法があるのだから。
 さらにわれわれは他の人の心の痛みをどれほど感じとることができるだろうか。仲間が体罰を受けていても自分に及ばなければ良しとする自己保身が横行しているのではないだろうか。
 信頼関係があったとしても、心の奥底を測ることは難しい。上下の力関係のなかでの面従背反が多いと考えられる。
 また元巨人の桑田氏が大阪市で体罰反対の講演をし、元日本女子バレーの監督の柳本氏が大阪市教育委員会の顧問に就任して桜宮高校の改革に取り組む等の報道がなされている。 
 しかし体罰の実体はどうなのかはわからない。例えば、全日本女子柔道のコーチの場合、彼がどういう状況のもとでどんなことをしたのか、はっきりしたことは聞こえてこない。彼は上部から事情を聞かれたであろうが、彼のそのときの心的状況まで事細かに追及されることはなかったと思われる。彼はコーチを辞任して終わりである。さらに体罰を受けた女子選手の体罰のあり様とその時彼女が受けた心のダメージがどんなものであったかもわかっていない。
 つまり体罰に関する科学的な研究がなされていないのではないか(私が知らないだけかもしれないが)。体罰をする側、される側の心理状況が、十分に事例研究されているのであろうか。体罰問題が起きるたびにいつも同じ表面的な議論に終始してるように思えるのだが。
 日本には各都道府県に国立の教育大学がある。そこで体罰を研究する人がいないのだろうか。『体罰の病理』と言ったような本を誰か書いているのだろうか(私が知らないだけか)。