品名異聞5ー色分け花図鑑の部⑵

[一天四海]…「四文字の名称は支那趣味が流行した幕末の一時期に出来た品種と考えられる」とある。ところがこの「一天四海」という語は日本の『平家物語』に由来し(直接的には謡の「盛久」からか)、中国にはないものである。支那趣味というのなら、「江天鳴鶴」をその範籌で解してもらいたかった。
 蓮にも「一天四海」と言う銘花がある。

[入野の都]…「入野」は山城国の歌枕なので「入野の都」は平安京を指し、京都の別名を名前として採用したものである。
 ところが鳥居氏は「入野」の言葉の入った歌を見付け出されて引用される。
  〈原文〉  道とほみ入野の原のつほすみれ春のかたみに摘みて帰らん
  〈現代の標準的解釈〉 遠い道を分け入った入野の原には壷スミレが咲いている、
               これを春の形見として摘んで籠(筐)にいれ手みやげに持ち帰ろう
 そして彼は、この花の「紅色を夕日の入る野とかけたもの」として、夕暮れの情景をこれに付与された。つまり「人が分け入る入野」ではなく「夕日がはいる入野」と彼は解したのである。
 彼が、赤い花だからと夕日と関係付けるのはこれだけではない。「江天鳴鶴」でも夕暮れ時の情景なので「紅天」とされたのに同じである。「江天暮雪」には「暮れる」の字が入っていて「紅天」とすれば重複してしまうのにである。
 どうも鳥居氏は赤色(紅色)を夕暮れと関連させるのがお好みのよう。
 ちなみに先の歌を「古歌」として紹介されているが、これを「古歌」とすれば、近現代の歌を除いて歌の大半が「古歌」になってしまう。ここは「千載和歌集所載の源顕国の歌」とすべきであろう。
 
[岩戸神楽]…「神楽を舞うときの幣帛を連想した命名か」とされるが、品名は「神楽」そのものであってその一部の幣帛を問題にしているわけではない。天照大神をして天岩戸を開けしめたほどの天宇受売命の踊りや音楽の派手やかな神楽の様子を、賑やかな花容と結びつけたものと思われる。
 ただしこの名は他の草花の品種にもあり、それより流用したものかもしないい。