品名異聞11−色分け花図鑑の部⑻

[八橋]…「伊勢物語の八橋の「水ゆく河の蜘蛛手なれば」を思い起こした命名」というのだが、その風景と花容とを結びつけるのは、私には無理としか思えない。同じように伊勢物語から名をとった「井筒」は古典の麗しい世界を内包した言葉を採用しただけのはなしである。「八橋」も同様であろう。

[柳の雪]…「確かな緑斑入りの株を持った人は少ない」とされる。しかし緑斑はウィルスの仕業なので、栽培条件や気候によって変化し、その多少は咲いてみないとわからない。
言葉自体は「柳に雪折れなし」から採られたか。

[笑布袋]…「花容と「笑布袋」の名称は一致しないのが疑問である」というのだが、「笑布袋」の名称は花菖蒲の古花にあり、そこから取られたものであろう。そもそも花容と名前が一致するものはそんなに多くない。命名にはいろんな方法があり、何をして疑問におもわれたのであろうか。

[駅路の鈴]…「古代の駅鈴を連想したもので〜」と言われる。しかし古代の駅鈴から直接採られたものではない。江戸時代に入って宿駅の制度が整備され、各宿に馬が常置されて人や荷物の運搬に供せられた。それにともない古代の制度名が復古的に使われるようになったのである。また歌舞伎の宿場の景では「駅路の鈴」と言う楽器で雰囲気をだした。

 [玉の冠]…初出の「桜草名寄控」では「玉冠」として出てくる。ここでもかってに「〜の〜」をつけている。
 そしてこれは「冕冠」「礼冠」といった一般人が知らない特殊な冠ではなく、桜草栽培の好事家も親しんだ煎茶の銘柄なのである。別項参照。    

[木枯]…「絞りの花の様子から名づけられたもの」というのだが、絞り花と木枯がどう関係するのか私には理解し難い。
 木枯という寂しい言葉がなぜ花の名に選ばれたのか、何か華やかな面がなければ納まらない。そこで出てくるのが『源氏物語』の第二段「帚木」、「雨夜の品定め」で左馬頭の二番目の恋人に「木枯の女」がある。これが出典らしい。そして続きがある。

[花大将]…「木枯が紅無地になったもの〜、花のなかの大将という意味」とされるのだが、「花大将」も「花の上」とおなじく銘花というほどの花ではない。それがなぜ「大将」なのか。「木枯」が源氏物語所縁の名前となると、この「花大将」も同じ係わりを持つと考えられる。つまり「大将」とは光源氏その人のことなのである。「花」は「麗しく華やかな」の意味であろう。