近年の出版界の偉業と言えば、奥本大三郎訳の『完訳ファーブル昆虫記』(集英社)であろう。『昆虫記』の翻訳で定番といえば岩波文庫版であり、私も手元にあるが、これはなかなかに手強く読み辛い。それが今回の奥本版は誠に読み易く日本語として筋が通っている。なかでも私が最も感心したのは〈標準和名への理解が深まると思われるものには漢名を付した〉と凡例にあることである。
  サメハダオサムシ=鮫肌歩行虫  ウシエンマコガネ=牛焔魔黄金(虫)
のように、漢字によってその言葉の意味が想像出来るのである。標準和名の元が漢字であるので、その意味を尋ねるとすれば漢名に行き着くのは必然なのだ。
 さらに奥本版では常用漢字以外にも多くの漢字が使われている。日本文化を継承するためには必要な漢字知識と考えられたのであろう。

 さて近日、雑誌の宣伝記事に目にはいった。「植物名には漢字併記を!」という特集記事である。かねて私も欧米カブレのカタカナ表記を苦々しく思っていたのであった。『望星』という雑誌は東海大学が出している総合誌である。ただあまり名が売れていないので、近くの本屋さんにはなく、梅田の大手の書店でやっと手に入った。
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[阿辻哲次]
 動植物名表記の決まり事
  戦後の漢字制限へ…当用漢字使用で公用文に振仮名禁止、植物名の漢字が使えずー仮名表記
  難しい漢字も読める工夫を
[青木宏一郎]
  植物名は漢字で味わおう…特性や謂れを知るのは漢字がいい
[長野伸江]
  植物名の多様な名付け方による混乱…漢字の誤用と当て字、日本と中国での名実の違い
[川井正雄]
  漢字併記への壁は厚い…カナ表記の長所と短所、柔軟性を持たせては

 我が(和名)サクラソウに対して、「江天鳴鶴」や「標野行」のように品種目は漢字名が使われるのが一般的である。漢字の持つ深い文化的な内実が利用されるのである。これが「コウテンメイカク」や「シメノコウ」では単なる音表記号になってしまう。
 勿論音表化した「サクラソウ」の必要性もわからなくないが、生物学的な取扱いと文化的な取扱いは対立するものではなく、補完し合ものであるべきだろう。
 その点「植物名には漢字併記を!」の記事は、声なき声を代弁したものとして大歓迎である。

 ただ漢字名も大きな問題を抱えていることも事実である。命名の仕方がさまざまで統一性がないことである。
  エビネ=海老根…素直に漢字名を読んだまま  オモト=万年青…なぜオモトなのかわからず

    とにかく「漢字併記」は私も大賛成である!