2009年10月

目まぐるしい毎日だった。

rose一昨日は横浜高島屋まで出掛けて来た。妻が生前、同店のローズ会員であり、同店発行の買い物カードを2枚所有していたので、その返還と、脱会手続きを行うためだった。手続きを終えると、急に寂しさに襲われた。ああ、あんなに買い物好きだった妻が、もうこの店に来ることはないのだ…。この資生堂パーラーは妻がよく利用していたなあ…。ああ、この売り場には妻に連れて来てもらったなあ…。あっ、そうだ、この売り場では二人であんな買い物をしたな…。楽しかったなあ…。そんな感傷に浸りながら、店内をあちこちゆっくりと歩いて、横浜駅まで戻り、妻が横浜に出ると必ず買って帰ってくれた崎陽軒のしゅうまい弁当を私も買って帰った。もちろん、妻の分も忘れずに…。

 昨日、大学の私のメールボックスを覗くと、新しい私立学校教職員共済加入者証が出来たので、庶務課でこれまでのものと交換するようにとの通知が入っていた。子供たちが独立して、私の加入者証の被扶養者氏名欄には妻の名だけが記載されていたが、それが死亡手続きにより抹消され、新しい加入者証になったので、今後はそちらを利用するようにということなのだ。それにも妻の名はもうない。

 また、今朝、大学に来ると、今度は経理課からの通知がメールボックスに入っており、私立学校振興・共済事業団から家族埋葬料が出たので、指定の銀行口座に振り込みを行ったとあった。

 妻が他界してからというもの、目まぐるしい毎日だった。病院・葬儀社等への支払い、各社への医療費・生命保険料請求手続き、役所への除籍手続き、運転免許証を初め各種の資格証明書の返還等、忙しさの理由のほとんどは、妻の「生きた証し」を抹消していくことに伴う事務手続きだった。人間が社会的動物であることを痛感させられる日々でもあった。

 

 妻が身に着けていたものや、生活に使用したものなどのほとんどは、まだそのままにしてあるし、いつになったら整理し始められるのか、見当もつかない。たぶん、しばらくの間は何もできないでいるだろう。それにしても、妻は早く逝きすぎた…。予定では私が先に逝き、妻が残って、諸事の後始末をしてくれるはずだった…。人生とは本当に儘(まま)ならないものだ…。

 10月29日朝 大学研究室にて

「朧月夜〜祈り」の英訳のこと

妻が亡くなってから遺品の整理をしていたら、1枚の紙片が出てきた。それには、例の「千の風になって」のが書き留めてあった。いつそれを書いたのだろう。おそらく死期を悟った今年の6月以降か、京都・山科の某病院に入院した8月以降だろう。多くの人に愛され、多くの人の心を癒し続けるこの詞は、抵抗なく受け入れられる死後観を有していて、私も好きだ。今その紙片は妻の遺影の前に飾ってある。

 妻の死後、ちょうど3週間が経過した日、一通のメールを受け取った。歌手の綾乃ひびきさんからのものだった。「千の風になって」の歌手と言えば、秋川雅史さんがよく知られているが、その後知り得たところでは、女性歌手としては、綾乃ひびきさんのものが最も広く愛されているようだった(こちらで綾乃さんの「千の風になって」が試聴できます;他の曲の試聴はこちら)。

 そのメールによれば、綾乃さんは現在12月16日発売予定の新しいアルバムに、「朧月夜〜祈り」という楽曲のカヴァー収録を予定しておられた。「朧月夜」と言えば、「菜の花畠に 入日薄れ 見渡す山の端(は) 霞(かすみ)深し」で始まる、高野辰之作詞、岡野貞一作曲のあの歌であり、「祈り」は、歌手の中島美嘉さんがその伝統歌に付加した新しいものだ。

 綾乃さんは「朧月夜〜祈り」の楽曲権利者(葉加瀬太郎)、歌詞権利者(中島美嘉)、それぞれの許諾を得て、それを新アルバムに収録なさりたいということで、「朧月夜」の英訳者である私に英訳掲載の許諾を求めて来られ、同時に、「祈り」の部分(「聞いて  聞いて 瞳閉じれば 風の 星の 歌が聞こえる/遥か 遥か 遠い未来に 強く 強く 輝き放て/全て 全て 母なる大地 生きて 生きて この胸の中」)の英訳を依頼して来られたのだった。

 当時の私の心理状態では、他人のために何かをするという気持ちにはなれなかった。だが、妻が「千の風になって」の詞を書き残していたこと、綾乃さんがそれを歌っておられること、しかもそのCD(「永遠の風」)をわざわざ贈ってくださり、それを聴いて、あまりの美声に感動したことなどが理由となり、最終的にはそれをお引き受けした。英訳は数日後に終了した。新しいアルバムは「Wish〜あなたに届けたいこの想い〜」と題して、12月16日には全国発売になるようだ。

 いろいろな女性歌手の声を聴いて来たが、綾乃ひびきさんのものは格別に美しい。それは何人もの人たちの感想によっても裏付けられている。綾乃さんからいただいたCDは、今や私の宝物の1つだ。綾乃さんとの不思議なご縁を思う今日この頃である。

「きれいな」と「美しい」

過日、ありし日の妻の写真をゼミ生諸君に見せた。ゼミ専用掲示板や私へのメールで、その印象を書いてくれた諸君の全てが、「きれいな奥様」と表現した。褒めてもらって嬉しくなかろうはずはない。嬉しいには嬉しいのだが、正直に言うと、「きれいな」という形容詞に少々の引っ掛かりを感じる。
 「きれいな」という形容詞は、私の語感では、「汚れなどが付着していないので」「顔を洗ったあとなので」といったようなニュアンスが感じられるものだ。したがって、上のように言われると、ちょっとした違和感を覚える。(最近は見掛けなくなったが)顔を泥だらけにした我が子に、母親が、「まあ、きれいな(お)顔ね!」などと言うが、そんな情景さえ連想できる。
 それではどう言えばよいか。私なら「(美しい奥様」と「(美しい」を使う。もちろん、「きれいな女性」と言うよりも「美しい女性」と言うほうが、私は好きだ。(ただし最近では、「美しい女性」ではなく、「きれいな女性」と形容したい女性たちが増えたような気がする……。) 

妻が他界してから49日が過ぎた。

lily妻が他界してから49日が過ぎた。慌ただしい毎日だった。それまでの40年ちかく、私がどれほど大きく妻に依存していたかを思い知らされる日々でもあった。

 朝起きれば、妻が準備した心づくしの朝食がそこにあった。妻の和洋食の腕並みは、プロと呼べるものだった。子供たちも、「お母さんが作ってくれるものには文句のつけようがなかった」と回顧する。

 昼どき、大学の研究室で弁当箱の蓋を取れば、そこには同じく妻の心づくしがぎっしりと詰まっていた。夕方以降の授業がある時には、弁当は当然二食分になった。それを当たり前のように食べていた。今、昼食は大学の購買部やコンビニで出来合いのものを買う。「愛妻弁当」とは比ぶべくもない。研究室での食事時間は、「当たり前」に思っていたことが、どれほど「当たり前」でなかったかを思い知る時間帯だ。

 帰宅後は、デジカメで撮ってあった妻の静止画や動画を毎日のように見ている。昨年5月初旬に最初の癌告知を受けた日以来、私が折に触れて撮っていた痩身の妻の姿がそこにある。永遠の別れをしたことが信じられない。今も私のそばにいてくれるようだ。私の胸は詰まり、不覚の涙に眼前が曇り始めることもある。

 独り身で過ごし始めた(“ジコちゅう”だった)私に、微笑んだ妻の遺影が語り掛ける。「私がいなくなって、結婚以来の私の苦労が少しは分かった?」 「少し」などというものではない…。だが、今となっては「後悔先に立たず」だ。

『スーパー・アンカー英和辞典』第4版年内発刊予定!!

SAいよいよ、『スーパー・アンカー英和辞典』(以下『SA英和』)の第4を世に送ることになった。今の予定では遅くとも年内には発刊できそうだ(定価は2,900円+税の予定)。これまで多くの方々に支持していただいた第3版66,300項目だったのに対して、第4版72,000項目になる。したがって、5,700項目の増加だ。
 今回の改訂で、これまでのものと異なる点は、同書の「まえがき」にも書いたことだが、先に刊行した『アンカーコズミカ英和辞典』(以下『コズミカ英和』)を土台にしたことだ。同辞典は『SA英和』(第3版)の理念を受け継ぎながら、収録語数、収録用例数、英語文化を深く理解するために必要な高度な内容の記事等を大幅に増やして成ったものだから、その妹[弟]版である『SA英和』(第3版)を改訂するにあたって、より良くなった『コズミカ英和』の記述を基盤にすることは当然だろう。

 本改訂版に新たに加えた特色は以下の点だ。

1.用語に「標識語」を採用した(従来の「冠詞」、その他 all, each, some などの語を指すもので、詳細については同辞典の巻末の「a  と the を見直す― 標識語について」を参照)。

2.「直訳の落とし穴」欄を新設して、日本人がよく犯すミスを採り上げ、正用法を解説した。

3.従来の《参考》、《解説》の充実を図ると共に、新たに《注意》、《info》のラベルを設けて英語理解のための有益な情報を盛った。

 そのほか、学習者の英語理解に役立つ図版をいっそう多く掲載し、発音記号の表記も『コズミカ英和』にならって刷新した。

 何はともあれ、実物にあたっていただければ、その“素晴らしさ”“使いやすさ”を実感していただけるはずだ。今回もいろいろな方のお世話になった。
   家庭に重病人を抱えてのつらい改訂作業だっただけに、発刊を前にして、感慨もひとしおである。
 (近日中に、私のホームページ「山岸勝榮英語辞書・教育研究室」で改めて紹介する予定だ。)
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ジョン・ミルトン作「亡き妻の面影」のこと

『失楽園』(Paradise Lost)で知られる、17世紀の英国の詩人ジョン・ミルトン(John Milton; 1608-74)が、「亡き妻の面影」(Methought I saw my late espoused saint)と題した十四行詩を書いている。その後半に次のような詩行が出てくる。

 

Her face was veiled, yet to my fancied sight

Love, sweetness, goodness, in her person shined

So clear as in no face with more delight.

 

But O as to embrace me she inclined,

I walked, she fled, and day brought back my night.

 

顔はヴェールで蔽われていた、― だが、そこには、

どんな女の顔にも見られないような、愛情と温かさと善良さが

にこやかに漂っているのが、私にも想像できた。

 

しかし、私を今にも抱こうとして身を屈めたとき、

私の夢は醒め、彼女の姿は消え、昼間は私の夜へと一変した。

                       (平井正穂訳)

 

 350年以上も前に書かれたものだが、今の私には、時代を超えて、心に響く詩行に感じられる。

「突然死」は幸せなことか?

過日、ある医師が、ご自分のブログ記事で、前の晩、普通にベッドに入り、翌朝は死亡していたという、家人の知り合いの男性(40代半ば)のことを紹介していた。死因は心臓にあったらしい。その男性の死に言及して、同医師は、「ご本人としては、気持ち良く寝ていたところを、やかましい目覚ましの音で、無理やり起こされて、眠い目をこすりながら起きてくる必要が無くなったわけであり、こんな幸せなことはないと思います」と表現しておられた。また、「ご本人としては、目が覚めたら急にあちらの世界に降り立っていて、少々戸惑ったかも知れませんが、現世の煩わしさから、何の苦痛も無く、開放されて、とてもラッキーだったように感じます」とも書いておられた。
 さらに、そのご遺族に関しては、「お気の毒なのは残された人間たちです。いきなり、予告無しに逝かれては堪りません。頼りにされていた人が、何の前触れも無く急に、逝ってしまっては、その後の生活にも支障を来たします」とあった。

 天の邪鬼の私がこの記述を見て思ったのは、突然死したご本人にとって、本当に、「こんな幸せなこと」はなかったのだろうか、「現世の煩わしさから、何の苦痛も無く、開放されて、とてもラッキー」だったのだろうかということだった。この医師の断定は、あくまでも同氏の個人的な考えに基づくものだが、どんなものだろう…。突然死が「幸せ」なことか、「ラッキー」なことかということに関しては、亡くなった本人に訊いてみなければ分からないのではないか。それができない以上、他人が一方的に断ずることはできないし、すべきことではないのではないか、と私などは思ってしまった。

 極端なことを言えば、遺族にもいろいろあるだろう。夫に急死されて、困り果てる人たちや、路頭に迷う人たちは多いだろう。しかし、(不謹慎な見方だが)中には、いろいろな事情で、その死を“厄介払い”よろしく、“喜ぶ”人たちもいるかも知れない。あるいは、ホッと胸を“撫で下ろす”人たちもいるかも知れない…。したがって、これも当該遺族に確認できないのであれば、「お気の毒なのは残された人間たちです」と断じることはできないようにも思う…。

 要するに、人はいつかは死ぬからといって、どうせ死ぬのなら、苦痛のない、「眠っているうちに死亡」するようなのが本人にとってはいちばん「幸せ」だ、「ラッキー」だとは誰にも断言できないのではないかということだ。ちなみに、もし私が眠っている内に死んだなら、私は自分はきわめて「不幸せで、アンラッキーだった」と思うかも知れない…。(2005年3月31日に書いた「病まずにコロッと」に私が理想とする「死に方」の例がある…。)

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