細かな研究分野は異なるものの、英語学という私と同じ学域の研究者で龍谷大学特任教授神戸外国語大学・京都府立大学名誉教授の菅山謙正氏(61)を、「論文や発表資料で盗用があった」として同大学が懲戒解雇した出典:こちらこちら。前任の神戸外大と京都府立大の論文と合わせ、盗用が確認されたのは少なくとも23本にも上るという中には、盗用が8割を占めるという“信じがたい”ケースもあったそうだ引用のつもりだったが、盗用と受け取られても仕方がないと“苦しい”弁明をしているそうだ。両大学とも菅山氏の名誉教授号を取り消した。氏とは個人的接点は何もないが、その“研究成果”(論文・著書・共著書)を通じて、お名前だけは存じ上げていたただし、私が学んだロンドン大学の同じ Collegeに留学した経験をお持ちだ

       各大学が調査し、2013年4月〜今年10月に在職の龍谷大で2本、06年4月〜13年3月の
    府立大で16本、それ以前の神戸市外大で5本の盗用をそれぞれ確認した。論文は英語の文
    法の構造などについて書かれ、全体の約8割が盗用の論文もあったという。 (京都新聞
 
 
上記の記事を目にした時には正直なところ「まさか!」と声が出た。同期生・同窓生の中には刎頚(ふんけい)の交わりをしていた親友もいただろう。氏が役員をしていた学会たとえば英語語法文法学会JACETにも切磋琢磨する研究仲間も大勢いただろう。なぜそういう身近なところにいる人々がそのことを、長年にわたり、指摘したり忠告したりなどしなかったのだろう。 神戸外大での指導教授は『ジーニアス英和辞典』の編集主幹として著名であった小西友七氏(故人)だという。盗用は氏の母校・神戸外大の時代から始まっていたというから、小西氏もご存命中には菅山氏の論文に目を通されることもあったはずだ神戸外大在籍時 83〜06年には5件もの盗用があったことが判明している。どうして師としてそのことを指摘なさらなかったのだろう。古言に「訓導して厳ならざるは師の惰(おこた)りなり」とあるではないか。簡単に言えば、「研究・学会仲間に甘すぎた」としか言いようがない。私に言わせれば、菅山氏が関係した“学会の甘さ”、もっとあからさまに言うなら“馴れ合い”が影響しているはずだ。利害関係のない者へは《厳しく接し》、内輪の人間には《甘く接する》ということが露呈したと言って差し支えない。

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 「有終の美」という言葉がある。「物事をやりとおし、最後を立派に仕上げること」「結果が立派である」ということだが、普通、「有終の美を飾る」の形で使う。「終わり好ければ、全て好し」という言葉もある。もちろん、言うは易し、行うは難しだが…。菅山氏は菅山氏なりの研究者生活を送って来られたのだろうが、学者・研究者としてはその“道筋”も“最後”もあまりにも醜悪なものだ。こうなれば、何十年も掛けて培って来たはずの自らの“業績”や“成果”が一瞬にして消滅し、不名誉・汚名だけが残るちなみに、こんなブログ記事さえ書かれてしまう;関係した英和辞典名まで公になる→こちら。そこらあたりをなぜ若い時分から考えておかれなかったのだろう。「学を言わば すなわち 道を以って 志(こころざし)となせ」」と北宋時代の儒学者・程伊川(ていいせん)も教えているではないか。ご家族のことは一切存じ上げないが、さぞやおつらいだろう。

 同じ学域を半世紀近く歩いて来た者として、氏の“愚行”と“浅慮”とをまことに残念に思う。“栄光”までの道のりは長く、遠く、しかも辛いものだが、“破滅”への道はまことに近く、安易に辿り着ける。
 私の長かった大学教員生活、研究者生活も余すところ5か月となった。「天に恥じず、自らに恥じず」、そういう生活をして来たかと問われれば、内心忸怩たる思いもあるが、大学教員として、英語辞書編纂家として、家庭人として、精一杯の誠実な努力はして来たつもりだ。

A hundred years cannot repair a moment's loss of honour.―English Proverb
    名誉は一瞬にして失はれ100年尚ほ之を回復し能はず―英語の諺

【付記】本件に関する龍谷大学の見解(こちら);京都府立大学の見解こちら); 神戸市外国語大学の見解(こちら

【後刻記1】こちらの記事に、『盗用』が査読制度のある学会誌にも及んでいる可能性があり、査読制度の有効性が問われかねないことといった特徴があるといえるだろうか。」とあるが、的を射た発言だ。菅山氏の論文の多くは査読付きのものだと思うが、その制度が全く機能していなかったことが強く推測されるが、それが私が上で“馴れ合い”と露骨な言い方をした所以だ。ちなみに、京都府立大学の調査によれば、2011年に『英語語法文法研究』誌に掲載された論文(The Articles and Determiners in English: An Introduction) でも不正行為があったと認められている。菅山氏は2014年3月まで同誌の編集委員長で、英語語法文法学会の運営委員でもあったようだ。

【後日記2】
こういうことが起きると、氏の著書・訳書への書評さえ最悪のものになってしまう。例:『R.ハドソン入門言葉の科学』(英宝社刊、1993)に対するAmazon評(こちら)、『変容する英語』(世界思想社刊、2005)に対するAmazon評(こちら)。