2005年09月07日

【121】「向田邦子の恋文」ほか 向田和子さん著

恋文
「向田邦子さんという人に、どうして惹かれてしまうのか?」という問いは,とても恥ずかしい。
 ・・・・・
それは、「どうしてあの子が好きなの?」と聞かれた時の、うぶな男子中学生が感じるような、あの恥ずかしさに似ています。
あは。(^^*
ワタシにとっての向田邦子さんという作家は、たんに好みの『作家』というばかりではありません・・・。向田さんは、好きな作家であると同時に、ワタシにとっては、一人のとても魅力的な『女性』でもあるからなのです。
「作品に惹かれてその作家さんを好きになる」ということはあったにしても、「異性」としてその作家さんに憬れるということは、そうはないでしょうね。(いや、あるかな?・・)
そういうわけですから、今回、「向田邦子の遺言」「向田邦子の青春」、そして「向田邦子の恋文」の3冊を読んでみることにしたのですが、読み進めていくうちに、ある種の恥ずかしさがずんずん募っていったのでした・・・。
好きな女の子の日記を、グウゼンに見てしまった時のような恥ずかしさ、見てはいけないものを見てしまったという甘酸っぱい後ろめたさのようなものだったのかもしれませんね・・・。


【向田邦子の恋文】【向田邦子の青春】【向田邦子の遺言】

先週、NHKでまたまた再放送がありましたね。
またまた、見てしまったのでした。(^^)
何度見ても太田くんの解説は、熱があってグイグイ引き込まれてしまうのですよ。
 ・・・・・

向田さんのキーワードに、『粋(いき)』ということが言えるのではないかと思っています。

「向田さん、粋ですねぇ。」(^^*
着るもの、食べるもの、絵から骨董・・・etc。
身の回りのものに自分なりの「こだわり」があるのですね。
ワタシにとっては、何がなんだかよくわからないものまであるわけなんですが・・・。(~~)

たとえば、「宋胡録(スンコロク)」
これって、知ってますか?
安土桃山時代にタイから日本に入ってきた紋様の美しい「陶器」らしいのですが、向田さんのコレクションに、この陶器がたくさんあるそうなんですね。
当時の日本では、お茶の葉入れの「茶器」としてとても珍重された陶器らしいのです。
おいしいものが大好きだった向田さん・・・。好きな食べ物には、決まった皿や椀を使っていたとのこと。なかなかここまでは、「こだわり」きれません。
向田さんのエッセイには、こういった「こだわり」に関するエッセイがとても面白く、時にはシニカルに語られていますよね。
いろんな知り合いの方から、使い心地の良さそうな『万年筆』を見つけては「ぶんどってきてしまう」というエッセイがありました。この話、好きです。
はは。なかなか、凡人にはこういった芸当はできませぬ。
『粋な人』だからこそ、さりげなくできてしまう、周りが許してしまうということなのではないかな、そんなふうにも思えてきます。
 ・・・・・

さて、この3冊なんですが、やはり印象に残るのは、「向田邦子の恋文」です。

向田さんと13才年上のN氏との恋の話が妹の和子さんによって語られているのです。
相互に出された手紙が「原文」のまま掲載されています。あわせて、N氏の日記も掲載されているのです。
若き日の向田さんという女性が、ありのままに浮かび上がってくるようです。

太田君の番組では、N氏が自殺をされてしまったこと。そして、深夜に箪笥の引き出しに手を突っ込んだまま、茫然自失となった姉を垣間見てしまった和子さん、そのお話を聞くことができたのでした。
この著書の中では、和子さんが初めて姉の「秘められた恋」を知ることになった時のことを(邦子さんが亡くなった十数年後)、こんなふうに書いています。

『涙がこみあげ、どうしようもなく泣けて仕方がなかった。
「お姉ちゃん、そんなに好きだったんだ。どんなに障害があっても、何年かかっても、駆け落ちしたって、よかったのに。お姉ちゃん、情熱家だったんじゃない。どうして、踏み切れなかったの。なぜ、家を出なかったの・・・・。」』

「恋文」の書かれた昭和38年頃、向田さん33、34才のころです。
20代から恋愛関係にあったであろうN氏との幸せな頃の「恋文」でした。
わずか数ヶ月後に、恋人が「自死」を選んでしまったことは、向田さんの人生にとって、大きな衝撃であったことでしょう。
想像することもできません。

和子さんは、こう書き記しています・・・。

『秘密のない人って、いるのだろうか。
誰もがひとには言えない、言いたくない秘密を抱えて暮らしている。そっとして、こわしたくない秘密を持ちつづける。日々の暮らしを明るくしたり、生きる励みにしたりする。そんな秘密もある。秘密までも生きる力に変えてしまう人。向田邦子はそういう人だった、といまにして思う。』

『姉は、本当になにも言わなかった。おくびにもださなかった。みごととしか言いようのない”秘め事”にして、封じ込めてしまった。
邦子は一途だった。ほかに心を動かすことはなかった。それが、向田邦子という人だ。』

和子さんの、『姉は家族の中で、父よりも父らしい人であったかもしれない』という言葉が印象に残ります。

 ・・・・・
青春遺言

8月22日は邦子さんの飛行機事故のあった日、すなわち命日でした。
昭和56年の暑い夏のことでした。
乳癌にも負けず、作家として絶頂期にありながら、突然の航空機事故でした。謹んでご冥福をお祈りしたい気持ちです。



「向田邦子の青春」文春文庫
「向田邦子の遺言」文春文庫
「向田邦子の恋文」新潮文庫/2005年8月1日・初版
 向田和子 著

--【号外】やまねこ新聞社--

yamaneko0516 at 12:08│Comments(16)TrackBack(3)向田邦子さん 

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この記事へのコメント

1. Posted by きら   2005年09月07日 14:03
こんにちは。
お久しぶりです。

邦子サン…。
コメントせずにはいられません(笑)

「恋文」も読んでいただけましたか…。
言葉にできない気持ちが
心に残ります。
この3冊も読むたびに
ため息(善くも悪くも)の連続…。

趣味の骨董・服装・カメラ・猫 etc …。
邦子サンがの目に映る
全ての物がステキでした。

ここだけの話(ネットに載せておいて…笑)
邦子サンの洋服・靴。
ワタシにもぴったりサイズでした(笑)

邦子サンの写真も
彼が邦子サンを撮った写真は
一段ときれいな感じがします。
邦子サンの
瞳に映る人物。
お互いずっと、
一緒にいたかっただろうに…。

ちょっと…涙です。

相変わらず、
直ぐに飛びついちゃって…
ごめんなさい。

2. Posted by 絵本おじさん   2005年09月07日 15:05
昨日、江戸風俗研究家の杉浦日向子さんの本読んでいたんです。江戸の文化のキーワードは「粋」なんですって。とても素敵な日本オリジナルの文化ですよね。もういちど「金」じゃなくて「粋」の時代が見直されてもいんじゃないでしょうか。
それにしても粋な女性はどうしてこうも早く旅立ってしまうのでしょう。生きてほしかった。
3. Posted by 山猫編集長   2005年09月08日 09:34
「きらさんへ」
妹、和子さんのこの3冊の著書で、向田さんのプライベートの部分、特にN氏との複雑な恋愛のことを知ってしまったわけなんですが、さらに向田さんを好きになってしまったようです。作品からうかがい知れる向田さんという人には、以前から、人間的な深い何かを感じることがありました。だから、好きだったのかもしれませんが・・。
太田くんも指摘していたように、彼の自殺以後の作品は、さらに向田作品に深みが増したことは、おそらくそうでしょう。
向田さんのこの恋愛は、一人の女性として客観的に見れば不遇の恋愛だったと見えるのかもしれませんが、向田さん自身は、それらのすべてを知り、見通していたような気さえしてきます。それでいて尚、それらのすべてを求めた情熱的な(あるいは、熱情的な)生き方を選択されたのだという気がしています。
--(や)--
4. Posted by 山猫編集長   2005年09月08日 09:46
「絵本おじさんへ」
『粋』って、むずかしいです。
向田作品の中には、逆に『野暮』な話もたくさんでてくるのですよ。はは。
(^^*
『粋と野暮』の表裏、裏表をとっかえひっかえしながら、まるで煎餅を焼くような妙味が、向田作品の大きな魅力でもあるのです。
向田作品の『無名仮名人名簿』には、たくさんの『粋と野暮』に生きる人々の話が滑稽に、時には哀切に描かれているのです。
--(や)--
5. Posted by ミケ子   2005年09月08日 11:42
こんにちは。
向田作品は『寺内貫太郎一家』と『父の詫び状』しか読んだ事がないのですが、この2作はとても好きです。特に『寺内貫太郎一家』は大好きな一冊。TVドラマよりも小説の方が断然好き。
あと、妹さんですか、向田和子さんとの共著『向田邦子暮らしの愉しみ』という本も持っています。たしかに「粋」という言葉が似合いますね、彼女には。

>『粋と野暮』の表裏、裏表をとっかえひっかえしながら、まるで煎餅を焼くような妙味が、向田作品の大きな魅力でもあるのです。

「粋」があるから「野暮」が味わい深く、「野暮」があるから「粋」が引き立つのでしょうかね。
6. Posted by 山猫編集長   2005年09月08日 13:50
「ミケ子さんへ」
そうですね。不思議です!
なぜなら作品の中では、向田さんはとても『野暮』を愛していたとしか思えないのです。(^^*
『野暮』の持つ「実直さ、きまじめさ・・あるいは滑稽さ」、それらを嫌っているどころか、むしろ愛情あふれた見つめ方をされているように感じるのですね。「野暮なんだけど、かっこいい」・・・そのへんの『味』までを、味わうことのできた方だと思うんです。
それは、なにげない生活の中にも、なにげない人生にも、そういうものがかくれているのだ、と教えてくれているようです。
ワタシが向田さんの作品を読んでいて「じ〜ん」ときてしまう部分なんですね。
PS.『向田邦子暮らしの愉しみ』もぜひ見てみたいです。
--(や)--

7. Posted by ちとせ   2005年09月10日 09:13
向田邦子さんの『夜中の薔薇』に入っている手袋をさがす話が好きです。
(『手袋を買いに』ではない(笑))

寒くても、気に入った手袋が見つかるまで妥協はしない。
頑固で野暮ですね。
でも、凛として粋。
それは恋愛の姿勢にも繋がっていたと思います。
…すてきな人だな。(^-^)
8. Posted by 山猫編集長   2005年09月12日 08:38
「ちとせさんへ」
ちとせさんもそう思いますか。(^^)
野暮であって、粋である。
そういうことってありますよね。
だから、人間って面白い。その機微を感じとれる懐の広さ、深さ・・人間臭さの美学でしょうか。
「真・善」のみでは括りきれないのが人間の姿ですし、そういう目が、向田ドラマの根源的な魅力を支えていると思います。
--(や)--
9. Posted by まざあぐうす   2005年09月13日 17:31
 向田邦子さんの恋や生き様を思うと、胸の奥がきゅんと締め付けられるようです。全てを生き抜いた方ですね。愛し抜き、許し抜き・・・なかなかできないことだと思います。

 それにしても、ビジュアル的にも綺麗な方だと思います。自らが女優になってもいいくらいなのに、作家業に専念して、その美しさをN氏のみに捧げた生き方が好きです。

 (最近は、テレビに出たり、マスコミに登場する出たがり屋さんが多いような・・・。)
10. Posted by 山猫編集長   2005年09月13日 18:34
「まざあぐうすさんへ」
それだけ、ビジュアル作家さんも増えた?・・はは。
それだけ才能があるっていうことなんでしょうか?(^^*
女性の(あるいは男性の・・)美しさが、なんなのかはとてもムズカシイ命題デス。
今回の3冊には、たくさん向田さんの写真もありました。はい、かなり魅力的なお写真もありましたね。(*^^*)
--(や)--



11. Posted by まざあぐうす   2006年04月30日 15:01
 編集長さん、ゴールデンウイークですが、いかがお過ごしでしょうか?
 
 ただ今、銀座松坂屋で、没後25年「向田邦子展」〜凛として生きて〜が開催中です。ぜひ、お見逃し無く!私も何とか時間を見つけて行って来ます。記事をトラックバックさせていただきました。
12. Posted by 山猫編集長   2006年05月03日 16:44
「まざあぐうすさんへ」
行きたいなぁ。けどムリっぽい・・。連休無いんですよ。休みがなかなかとれなくてツライです。
情報ありがとうございました。
いつもうれしいお心遣いありがとう。(^^)
--(や)--
13. Posted by まざあぐうす   2006年05月08日 16:45
 編集長さん、最終日にようやく行けました。
 連休中もお仕事だったのですね。
 チラシを一枚余分にもらってきましたので、その内にお届けします。

 向田さんのセンスの良さを感じる展示でした。ますます憧れてしまいました。
14. Posted by 山猫編集長   2006年05月09日 13:54
「まざあぐうすさんへ」
まざあぐうすさんのコラムを拝見させていただきました。行けなかったのがザンネンです。はぃ。
向田さんの『ライフスタイル』のいい意味でのこだわりには、ほんとうに驚きますね。
そういう品々に、愛情を持っていらした方でした。・・・そういう向田さんの、生活を豊かにするための自然な姿勢に気品を感じますし、また向田さんの芯の強い心の豊かさも想像できます。
『凛として生きて』は、向田さんにとてもふさわしい言葉だと思っています。
(^^)
--(や)--
15. Posted by まざあぐうす   2009年06月10日 19:35
 古い記事へのコメントですから躊躇いつつ。。。

 最近、「向田邦子と昭和の東京」という本を読みました。
http://plaza.rakuten.co.jp/honobonobunko/diary/200906080000/
 に感想をアップしています。

 向田邦子さんのこと、お亡くなりになられてからもいつまでも追想してしまいます。本当にすてきな女性でしたね。つくづくと…。
16. Posted by 山猫編集長   2009年06月11日 11:49
「まざあぐうすさんへ」
向田さんが生きていらしたら・・・。ついつい、そう思ってしまいますね。本当に残念です。
平成の向田邦子、を夢想してしまいます。
-(や)-

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