2005年09月25日

【128】「きつねの窓」安房直子さん作・織茂恭子さん絵

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ずぅーっと、気になっていました。やっとです♪
「あれ、このタイトル?・・・」
なぜか頭の奥のほうに焼きついていたタイトルです。
 ・・・・・
『あなたの「やさしくなれる時」って、どんな時ですか?』
「きつねの窓」は、あなたをやさしくしてくれる「魔法の窓」・・・なのかもしれませんよ。
 ・・・・・
ある日、森の中、一面のききょうの咲いた野原で、狩をしていた青年と子ぎつねとが出会います。一匹の白いきつねです。その子ぎつねの後を追いかけて行った青年が見たものとは・・・。
青年の不思議な体験を通して、ワタシたちに「ほんとうのやさしい気持ちとは・・?」と問いかけてくる物語・・・です。

【きつねの窓】

「きつねの窓」・・・とても親しまれている童話のようですね。
教科書にも掲載されているようですよ。
ワタシは、初めてこの童話を読みます。(^^)
「きつねの窓」って、いったいどんな窓なのでしょうか?・・ワクワクします。
 ・・・・・
青年が子ぎつねを追いかけていくと、森の中一面「ききょうの花畑」、その先に「そめもの ききょう屋」というお店が一軒・・。
お店の前に、前掛けをした子どもが一人立っていました。
青年は、『ははあ、さっきの子ぎつねが化けたのだな』と思いましたが、『ここは、だまされたふりをしていよう』と、考えます。

『そめもの屋だなんて、いったい、何をそめるんだい?』
『はい、なんでも おそめいたします。こんな ぼうしも、すてきな 青に そまります。』

青年は、帽子も服も染められてしまっては困るものばかりです。しかたなく、『ハンカチでも染めさせようか』と思いますが、その時、子ぎつねの子どもは突拍子も無いかん高い声で、奇妙な提案を青年に持ちかけたのです。

『そうそう、おゆびを おそめいたしましょう。』
『ねぇ、お客さま、ゆびを そめるのは、とても、すてきなことなんですよ。』
 ・・・・・☆

子ぎつねの子どもは、指を広げて青年に見せます。
青く染まった両手の親指と人差し指を広げ、指先をくっつけたのです。そこには、ひし形の窓ができました。
すすめられるままに、青年がその窓をのぞくと、そこには一匹の白いきつねが見えました。
きつねの少年は・・・
『これ、ぼくの かあさんです。』
と、青年に向かってぽつりと言いました。
鉄砲で殺されてしまったと言うのです。ですから、子ぎつねはひとりぼっちだったのです。
青年は、指を染めてもらうことにしました。
その指をひし形にかざして、おそるおそる中をのぞくと・・・。
 ・・・・・

さて、見えたものはいったい何だったのでしょう?・・・。
ここから先は書けません。ぜひ、作品をお読みください。・・・(^^*

この青年は、山の中に暮らす人。ある時は、狩猟が仕事の猟師でもあるようです。
子ぎつねの後をつけていったのは、親ぎつねの居場所をつきとめるためだったのです。それが、彼の宿命ですね。
彼は、そんな暮らしの中で、たったひとつ、大切な何かを失ってしまっていました。
大切な何か・・・。
不思議な青い指の「きつねの窓」から見えたもの、それは彼に『大切なこと』を思い出させてくれるものでした。

青年は、ある二つの場面をその窓から眺めます。
それと引き換えに、彼はとても『大事な物』を代金のかわりに子ぎつねに渡してしまうのです。
『大切なこと』と『大事な物』と・・・が交換されてしまうのです。
この物語の、ある意味、象徴的な場面です。それは、何だったと思われますか?・・
さて、ワタシだったら。あるいは、あなただったら?・・と思ってしまいます。

「あなたは一人で生きていますか?・・・それとも・・。」
はは。ちょっと大げさですね。あなたには、家族があるでしょう。
ですが、また「人間は一人で生きて、一人で死んでいくものだ」とも言えますね。
この物語の中で、青年は、指を染めてもらおうか、どうしようかと迷っていました。ですが、「きつねの窓」を見た後に、青年は心の中で何かを吐き出すように、こうつぶやいていました。

『・・・じつは、ぼくも ひとりぼっちだったのです。』

心の中のつぶやき・・・たった一行のこの言葉の意味は、深いです。子ぎつねもひとりぼっち。ぼくもひとりぼっちだったのです。
(これを漢字二文字で表してしまうことは、少しはばかられます。全体のファンタジックな雰囲気を壊してしまいそうだからです)
ですが、あえて「大人読み」をしてしまうと、この物語では、「心のつぶやき」が全ての出来事の呼び水となっているような気がしてくるのです。
物語の読後に感じるのは・・・、
あの青年が心の中でひとり言をつぶやいた時、その時の気持ち。
そして、自分で「きつねの窓」をつくり、「自分のきつねの窓」を見た時、その時の気持ち。
そして、その後に彼におとずれたその気持ち。
その三つの気持ちのことです。
すべては、彼の「つぶやき」を核にして誘引され、発露しているように見えることです。

彼が、もう一度、あの子ぎつねに会いたいと望む場面が描かれていますが、その願いはかなうことはありませんでした。
つまり、もう二度と、彼は「きつねの窓」を見ることはできません。
しかし、それは「あのきつねの窓」が、すでに彼には必要ではなくなったということを意味しているのかもしれません。
いえ、むしろ・・・彼はいつでも「きつねの窓」を見ることができるのかもしれないのです。
彼が望めば、いつでも彼の心の中に「もうひとつの別な・きつねの窓」が現れるに違いないと思うからです。

いずれ、彼は気づくことでしょう。
彼自身が、今はまだ、そのことに少しも気づいてはいなくとも・・・。

「あなたの心の中に、ワタシにの心の中に、『きつねの窓』はありますか?」
・ ・・・・☆

全篇に、桔梗の花の青紫色を背景に、「織茂恭子さん」の挿絵が落ち着いた静かな雰囲気を作り出しています。青年と子ぎつねのたった二人の物語に酔わされてしまいます。
安房さん、織茂さんの二人の「瑞々しさ・すがすがしさ」が感じられる作品でもあります。
まぎれもなく、現代の絵本童話の傑作のひとつなのでしょう。

「きつねの窓」(おはなし名作絵本)
安房直子 作・織茂恭子 絵
ポプラ社/1977年初版・2005年29刷

−−【号外】やまねこ新聞社−−

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1. 風と木の歌  [ ちとせ館 ]   2005年09月26日 22:52
足もとの群落の桔梗たけ低く  紫の花生き生きと潤ふ (東条美土里) 『風と木の歌 少年少女小説傑作選』 安房直子(著) 実業之日本社  竹宮恵子さんではない。 (そっちは“詩”ね) 安房直子さんの短編集。 精霊の叶わぬ恋をせつなく描いた『さんし....

この記事へのコメント

1. Posted by ちとせ   2005年09月27日 07:43
このお話、一度読むと心に焼きつきますよね。
桔梗を見ると、毎年思い出します。
山猫編集長さんの文を読んで、また読み返してみたくなりました。
ほんとに、何度読んでも泣けてくるんです。。。
一年前に書いた古い記事ですが、トラックバックさせていただきました。

『さんしょっ子』のせつなさも好きです。
2. Posted by 山猫編集長   2005年09月27日 08:46
「ちとせさんへ」
コメントをありがとうデス。
この絵本は、ちとせさんのBLOGを読んでとても記憶に残ってしまった絵本だったのです。
ちとせさんの簡潔な文章の中から立ち上がってくる、この絵本のすてきなイメージ♪・・・あの紹介文は、名文ですねぇ。
アレ以来、ワタシの心の中にこのタイトルが刻まれてしまっていたのです。
偶然に立ち寄った本屋で見つけました。
すばらしい絵本に出会うことができました。(^^*
心のそこからありがとう♪
--(や)--
3. Posted by 本棚の魔女   2005年10月02日 11:43
(や)の君さま、こんにちは!
(や)の御方こと、やまとなでしこの魔女さんです。(^^ゞ)

・・・桔梗の季節、このおはなしを思い出させてくれてありがとうございます。
安房直子さん、ブックバトンの「思い入れのある作家」5人のうちの一人にあげたくらい、
大好きな作家なんです。
子どもの頃に読んで、ずっと忘れられないおはなし。
その多くが、安房直子さんのものだったと知ってから、魔女さんにとって
とても大切な方になりました。

魔女さんは、童話集『風と木の詩』で読んだので、
この絵本は知らないけど・・・あのききょう色、見てみたいな!
4. Posted by 山猫編集長   2005年10月02日 23:39
「本棚の魔女さんへ」
おぉ。魔女さんのお気に入りの作家さんなんですね!
安房さんのこのお話は、「童話らしさ」を踏襲しながら、それでいて「童話くさくない」という印象です。
作品に透明感がありますよね。
みずみずしさも感じました。
安房さんの作品で、ほかにもいい作品を知っていたら教えてくださいね。
絵本も探してみようかなぁ♪(^^)
−−(や)−−
5. Posted by ごんごん   2005年10月03日 15:51
お久しぶりにお邪魔します。

この作品はすごそうですね。
賢治ワールドにも通ずる、オトナ童話のような。。。
近日中にチェックしたいと思います。

山猫さまの「良本発掘魂」には
ホント、敬服いたしますです。

          ごんごん拝
6. Posted by 山猫編集長   2005年10月03日 17:49
「ごんごんさんへ」
時にはダレだって、生きることが「さびしいこと」「むなしいこと」のように思えてしまうことがあるかもしれません。
「ひとりぼっち」だと思うこともあるでしょうね。
そんな時・・・「何かを思い出してごらん」と、この物語は語りかけてくるようです。
読む人によって、いろんな感想がありそうな物語なのです。
ごんごんさんには、ごんごんさんの。
・・・おすすめします。(^^*
--(や)--


7. Posted by f.takahashi   2007年04月18日 21:55
安房直子さんの作品は、絵本でなく、大人向けの文庫で読んでも十分な深さとか味わいがある。
私の中では、かなりの大人の童話という感じがします。
主人公が必ずといっていいほど、孤独やさびしさ、貧しさなどを抱えていて、夢のような出来事にであったり、異世界へと旅立っていくのだけれど、その結末が時々、ハッピーエンドなのか悲しいのか判らなくなってしまう。
でもそこがまた魅力です。

「きつねの窓」は教科書で出会いました。
これも安房さんの作品だったんですね。
8. Posted by 山猫編集長   2007年07月04日 09:05
「takahashiさんへ」
コメントありがとうございます。
安房さんの作品の結末の“ハッピーエンドなのか悲しいのか”という部分。なるほどですね。
(^^)
その両面から、光をあてることのできる作家さんなのですねぇ。安房さんの作品の中には、ファンタジーもありますけれど、ワタシも物悲しさの残る作品に惹かれますねぇ。
-(や)-

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