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昔の苦い思い出ブログトーナメント
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街角では人目をひくように、カラ―用紙にプリントしたチラシが配られる。ひときわ目をひくのがピンク色のチラシ。どこにでもある紙きれだが、それを見るたび私の心はチクリと痛む。

学生時代。まず入学して始めに取るのは基礎単位。これを落とすと次に進めない。計画的にとらないと大学を四年で卒業することができなくなる。落とすことも想定に入れて単位編成に悩むことから大学生活は始まる。
出席を重視する教授は毎回講義ごとに出席用紙を配る。アナログな時代。病院の診察券ほどの小さな用紙で出欠を確認する。講義の始めに出席用紙を配り講義後に集める。なにしろ学生数が多いし代返も防げるので効率がいい。さまざまな色の出席用紙が配られた。
学生は小賢く出席用紙が配られるごとに少々失敬する。遅刻してきた時の保険や、講義をフケる際に友人に「出席」を依頼するのだ。教授も頭を捻るものでさまざまな色のマーカーを出席用紙に引いて偽装を封じた。学生も様々な色の出席用紙を溜め込んで対抗する。教授と学生のささやかな攻防戦が続いていた。
地方から来た学生は住居が近所にあるにも関わらず遅刻者が多い。不思議だ。親元から離れると気が緩むのだろうか。特に一講目は遅刻が多い。出席も厳しくなりがちだった。
ある日、退屈な講義を受けつつ小説を読んで時間を潰しているとクラスメイトがこっそり後ろから教室に入ってきて隣に座った。
「出席用紙配った?」「配った」
「何色?」「ピンク」
彼は緑の用紙を出して名前を書き始める。
私は思わず声をかける。
「それ緑だってば。色盲じゃないの?」
彼は一瞬きょとんとし、笑う。
「うん。俺、色弱。赤緑色盲なんだわ。ピンクどれ?」
虚をつかれ言葉を失う。ピンクを指差すと彼はその用紙に名前を書き込み
「じゃ、おねがい」
と用紙を私にあずけて調子よくフケてしまった。彼は工業系の大学を中退してここに入学したと聞いた。工業系で色がわからなければ辛いだろう。学校で健康診断を受けていれば色弱はわかるはず。色弱と知ってあえて工業を選んで限界を感じたのかな?いくら無神経な私でもそれは聞くことはできない。
なぜあの時すぐに「ごめん」とひとこと心ない言葉を詫びなかったのか。
謝っても傷つけたことは変わらないのに…それを謝ってスッキリしようとする私は偽善者?彼がスル―したことを今更ひっぱりだしてきて、また傷つけるのは私の自己満足じゃない?大学生らしく自己葛藤が続き、なかなか答えがでない。それからしばらく彼に会うたび胸が疼き謝ろうかと迷った。が、今更、と腰がひけているうちに、やがて私たちは卒業した。
数年に一度程彼に会う機会がある。いい大人なのに私はいまだに彼に謝れていない。多分もう場違いな話題で切り出せない。彼はとっくに忘れて「そんなことあったっけ?」と言うに違いない。でも私は覚えている。謝るタイミングがなかったというのも言い訳だ。今思い返すと「あの時」「あのタイミング」。――いっぱいあった。彼が気にしなくても私が気にしている。彼が忘れても私が覚えている。――教訓として心に止めておけ――とのメーセージとなって。

学生時代の苦い思い出はあの時のまま、ずっと止まっている。まるで「付箋」がついたように一瞬であの時に戻ってしまう。何度も何度も後味の悪さを味わうのだ。
街角でピンクの紙片を見かけるたびに胸がちくりと痛む。この年になっても。きっと、ずっと。いつまでも。


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