――もう、うたちゃんと麻雀したくない!――


…わっかんねーなー


――うたちゃんと麻雀したって勝てないもん!――


…いや、知らんし


――アンタ強すぎて勝負にならねえよ――悪いけどもう来ないでくれや――


…つまんねーな……どいつもこいつも…



――いつからだったろうねぃ…。

大好きだった麻雀が、ぜんっぜん面白くなくなったのは。

麻雀なんて…すればするほど、私の前から人は去っていく。

別にいいんだけどさ。

去っていく人の考えることなんて知らんし。

どうせ実家を継いだら、ろくに打てる時間もなくなるだろうし…友達と遊ぶ暇だってない…。

それまでの、ただの余興さ。

だから、麻雀部なんてねー高校でも気にしてなかったし、何かする気もなかった。

雀荘行っても、手加減しろとか言われたり追い出されたりで… めっきり打つ回数も減っていた。



べっつにいいっつーの。打てなくなったって知らんし。

そろそろ、飽きてた頃なんだって。

…なのに、でも。

なんでこんなにイライラするんだか。

そんな思考が年々積み重なって、毎日がどうでもよくやさぐれていた――高2の春。

私は、あいつらに出会ったんだ――



神奈川県 妙香寺高校

咏「書道部を辞める!?」

朝比奈「…うん…ごめんね、咏さん」


――同じクラスの朝比奈ユウコ。

大人しくて引っ込み思案で泣き虫で、書道部にも私が引き入れた…私の友達。

一人じゃ何もできないと思ってたこの娘が、自分から何かを決めて動くなんて初めてのことだったから、

それはそれは驚いた。


咏「ま、いいさ!ユウコが今よりもっとやりたいことが見つかって、」

咏「自分でそっちがいいって決めたことなら、私は応援するっさね」

咏「辞めて何するか知らねーけど、がんばりな!」

朝比奈「うん…! ありがとう!」


――表向きは明るい世話焼きを演じてた私だから、笑顔で見送ったけど…さ。


咏「ちっ…」

咏「どうせトモダチなんて…」



数日後

咏「ユウコ!何読んでるんだい?」

朝比奈「あ…咏さん…」

咏「見せてごらんよ…って、これ、「やさしい麻雀の点数計算」…!?」

朝比奈「うん…ちょっと必要になって…」

咏「まさか書道部辞めて入ったのって、麻雀部なのかい!? うちに麻雀部なんて無かっただろ!?」

朝比奈「えと…こないだ新しくできたの… 部?なのかはよくわかんないけど…」

咏「……ふーん?」

咏「…まあ、ユウコが楽しくやってんならいいさ!」

咏「よーし、そんならちょろんと問題出してやろうかぃ~?」アハハ

朝比奈「ま、まだ覚え始めたばっかりだから…そんなにわからないよ…」


――大好きな友達が大好きな麻雀を始めたというのは、嬉しかったと同時に。

そこに一緒にいられない自分が、寂しくもあった。

やっぱり、表に出しゃーしねーけどさ。



――そして6月の初め、事件は起きた――

朝比奈ファンクラブ会員A「うっひょー!朝比奈さんのバニー写真!」

朝比奈ファンクラブ会員B「麻雀部がビラ配ってた時のやつか!よく撮ったな!」

咏「ビラ配ってた時?ってなんだい?」

朝比奈ファンクラブ会員C「あ、三尋木さんも見ますか?今ファンクラブで出回ってるお宝写真っす!」

咏「ふーん…って…!ちょっと!」パシッ

朝比奈ファンクラブ会員C「あっ」

咏「……なんだいこれは……」



咏「ユウコ!」

朝比奈「咏さん…どうしたんですか?怖い顔して…」

咏「どういうことだい?この写真は?」バッ

朝比奈「あっ……えっと…それは…」

咏「これ、ちゃんとユウコの意志でやったことなのかい?無理矢理やらされてるんじゃないのかい?」

朝比奈「う…どうしてそんな…」

咏「この写真、泣いてるように見えるんだけど?」

朝比奈「!」

咏「ユウコ…アンタ、何か私に隠してること、無い…?」

朝比奈「隠してるなんて、そんな…」

咏「嫌なのにやらされてるんだったら…許さないよ…」



その日の放課後 部室棟

バタン!

咏「ここの部長は誰だい?」

朝比奈「う、咏さん!」

涼宮「はあ?」

古泉「おや」

朝倉「…お客様?」

長門「……」

キョン「えっと…どちらさまでしょうか…」



谷口「うっひょー!2年Aランクの三尋木先輩じゃねーか!」

谷口「どうしたんですかー?そんな怖い顔してー?そんなムズカシイ顔してなけりゃA+以上なのに!」

国木田「た、谷口… 彼女、怒ってるんじゃないかな…」

キョン「ちょっと黙ってろ谷口」

咏「……フン」

キョン「…それで、ご用件は…?」

咏「いつだか、ユウコにバニーガールの格好させてビラ配らせたって聞いたんだけど…、本当かい?」

キョン「はあ…まあそんなことも…」

咏「最近の麻雀ってのは、そんなことをさせるルールでもできたんかい?」

咏「うちのユウコに無理矢理嫌がることをさせてるんなら…」

咏「ここを辞めさせて、書道部に返してもらうよ」

キョン「!」



涼宮「ちょっと!勝手なこと言わないで!」

涼宮「ユウコちゃんはウチの大事な萌えキャラメイドなんだから!辞めさせなんてしないわよ!」

咏「…アンタがやらせた張本人かねぃ…?」

涼宮「そうよ!ユウコちゃんのことなら私を通して頂戴!」

咏「なら話は早いっさ!ユウコに変なことを無理矢理やらせるのはやめてもらおうかねぃ!」



涼宮「無理矢理になんかやらせてないわよ!ね、ユウコちゃん!」

朝比奈「えっ、あっ、ひゃいっ」

咏「…怯えてるようにしか見えねーんだけど?」

朝比奈「あの…私は大丈夫ですから…」

涼宮「ほら!本人がそう言ってるじゃない!」

咏「言わされてるようにしか見えねーんだけど?」

涼宮「ユウコちゃん…自分の事の受け答えくらいしっかりしなさいよ…」ギロッ

朝比奈「ぴぃぃぃぃっ!」

咏「…泣かしてるようにしか見えねーんだけど…」



朝比奈「あの…私本当に大丈夫でしゅ!心配ありましぇんから!」キリッ

咏「ふむ…」


――ユウコの言葉に嘘がないのは、大体分かってた。

…でも、そのときの私は頑として引き下がろうとしなかった。

引っ込みがつかなかったからかもしれねーし、単にイライラをぶっつけたかっただけかもしれねー…。

…あるいはもしかしたら、麻雀を打ってるこいつらが羨ましかったのかもしれないねぃ。知らんけど。

そして、咄嗟にこんなことを言ってたんだ。


咏「だったら、勝負しようじゃねーの」



キョン「勝負?」

咏「麻雀部なんだろ? なら、麻雀勝負で決着つけたらいいさ」

咏「キミたちが麻雀で私に勝ったら、もう何も文句は言わねー」

咏「でも私が勝ったら、ユウコは返してもらうよ」

涼宮「おもしろいじゃない!私たちにケンカ売るとはいい度胸ね!」

涼宮「それなら、私たちが勝ったら貴女はうちに入部してもらうわよ!」



キョン「ちょっと待て!何考えてんだいきなり!」

涼宮「ちょうどこれで女子5人よ!団体戦に出られるわ!」

キョン「お前は点数計算覚えるのが先だろうが!」

涼宮「うっさいわね!団長の点数計算はアンタの仕事でしょ!?」

キョン「俺はそんな仕事了承しとらん!」

涼宮「関係ないわ!いいからアンタはずっと私のそばに居ればいいの!」

キョン「試合会場にまでついていってなどやれん!点数計算覚えなきゃ大会出るなんて許さんからな!」

涼宮「大会までには覚えるわよ!それで問題ないでしょ!」



キョン「点数計算だけじゃねえぞ!役もまだ全部覚えとらんくせに!」

涼宮「わかってるわよ!いちいちうるさいわね!」

涼宮「大体、アンタが横からごちゃごちゃ言うからいけないのよ!」

涼宮「せっかく覚えたタンヤオってのやったら『それはスーアンコウだ』とか意味わかんないこと言うし!」

キョン「お前の和了りはいっつも特殊なんだよ!」

キョン「特殊なタンヤオだの特殊な發ホンイツだのリーチツモトイトイだのトイトイ純チャンだのばっかりじゃねえか!」

涼宮「ほら!また意味わかんないこと言う!だからやる気無くすのよ!」

古泉「ま…まあまあ… とりあえず言い争いは後にしましょう…」



涼宮「で?8対1でどう勝負しようって言うの?」

咏「そうさね…25000点持ちで、そっち3人と私で打って…」

咏「誰かがトビ終了するまでが1回戦、それまで点棒は持ち越しで半荘繰り返して、そっちはトンだら次の人に交代、」

咏「んで、全員トバしたら私の勝ち、その前に私がトンだらキミたちの勝ち…、ってことでどうだい?」

涼宮「わかったわ!いいわよ!」

キョン「ず、随分こちらに有利のような気がするんですが…」

咏「まあ、これっくらいがちょうどいいハンディさね」

涼宮「たいした自信じゃない!後で後悔しても遅いわよ!」



咏「っと、じゃあ…始める前に自己紹介くらいしとくかねぃ」

咏「私は三尋木咏… そっちの朝比奈ユウコのクラスメイト兼保護者っさ」

谷口「谷口ッス!」

国木田「谷口と同じクラスの国木田です」

古泉「古泉ダイスケと申します、以後お見知りおきを」

朝倉「1年5組の委員長してます、朝倉ナツコです」

長門「……長門ミノリ」

キョン「俺は杉t「こいつはキョンよ」うぉい!」

涼宮「そして私が、団長の涼宮アヤよ!」

咏「団長?」

涼宮「そう!ついでに言っておくけど、ここは麻雀部じゃないわ…」

涼宮「世界を大いに盛り上げるためのアヤちゃんの麻雀団!略してSOA団よ!」

キョン「妙香寺高校麻雀部です!」



一回戦 咏,谷口,国木田,キョン

東一局 親:咏

咏(さって…それじゃーいきますかねぃ…)

咏「リーチ!」

国木田(親リー…まだ五巡目なのに…!?)タンッ

キョン(こんな分の悪い勝負ふっかけて、本当に勝つ気でいるのか…?)タンッ

谷口(?)タンッ

咏「ロン!24000!」

谷口「ええええええ!?」

キョン「いきなり親倍直撃…」

国木田「今のはいくらなんでも警戒しなさすぎだよ、谷口…」

キョン「親リーの一巡目に生牌のドラなんて切るんじゃねえよ…」

咏(…ドッッシロートじゃねーかぃ…)



東一局一本場

咏(…後がつっかえてるし、ちゃっちゃと終わらすかぃ…まず一人!)

タンッ

咏「ツモ!1100オール!」

国木田「早い…安いけど超速攻だ」

キョン「まあ1000点で谷口トビだったしなあ」

谷口「えっ?オレもう終わり?」

涼宮「役に立たないわねー」

古泉「では、次は僕が入りましょう」



二回戦 咏,国木田,キョン,古泉  out→谷口

東一局

咏「ツモ!3000・6000!」

古泉「んっふ…」

東三局

咏「ロン!12000だよ!」

国木田「はい…」

キョン(くっ…強え…)

キョン(谷口に親倍当てた時点で気付くべきだった…くそっ)

キョン(大体あいつが一発ドラ放銃なんてやりやがるから…そっちに注意が行っちまった…)



東三局三本場

咏「ツモ!4300オールっさ!」

古泉「国木田君がトビですね…」

キョン「い、一回も和了れてねえ…」

咏「はい二人目~」

国木田「参った…彼女、凄く強いよ」

涼宮「いいじゃない!凄いじゃない!絶対部員になってもらうわ!」

キョン「勝ったらの話だろうが。正直、あの人かなりヤバいぞ」

涼宮「泣き言はいらないわ!次!ユウコちゃん!絶対勝つのよ!」



三回戦 咏,キョン,古泉,朝比奈  out→谷口,国木田

咏「ユウコ…悪いけど、手加減しないよ」

朝比奈「はうぅ…」

東一局

咏「ロン!7700だよユウコ!」

朝比奈「は、はいっ…」

東二局

咏「もいっちょロン!6400!」

朝比奈「ひぃぃ…」

キョン(くっ…狙い撃ち…このままじゃ朝比奈さんが…)

古泉(ふむ…このペースはまずいですね……では)



南一局

朝比奈「あ、それです!ロン!」

古泉「はい、朝比奈さん」

咏「!」

キョン(よっしゃ!よくやった古泉!)

咏(差し込みかい…ユウコのトビを避けるために…)

咏(ま、このルールなら当然だけど…)



咏(ふ~む…)

咏(最初の男三人とユウコは大したことねーけど…)

咏(こっちのイケメン君は結構やるねぃ)チラッ

古泉「?」

咏(…ユウコに差し込むセンスもさることながら…)

咏(彼に代わってから…なんっか筒子の引きが悪くなった感じがするねぃ)

咏(特に、赤五筒は来たためしがねー)

オーラス

古泉「ツモ 2000・4000です」

キョン「よし!初めて半荘続いたぞ!」

咏(んで、彼の和了りには毎っ回…、必ず赤五筒が入ってる)



咏(牌の偏り…)

咏(特定の牌に好かれるなんてコトがあるとでもいうんかねい…知らんけど)

咏(何にせよ、彼の赤五筒の引きがいいのは事実だね)

咏(さしずめ彼は…)

咏("紅のスーパーボール"ってとこかねぃ)

古泉「………」フンモッフ

咏(あまり後まで残したくないタイプだけど… すぐに落とすのも難しそうだねぃ…)

咏(他の子を力で落としてった方が早いか…)



三回戦2周目 東一局

キョン(2周目には入ったが…依然朝比奈さんが最下位か…)

涼宮「ユウコちゃん!気合入れて逆転しなさい!この一局は絶対和了るのよ!」

涼宮「この局で和了れなかったら、全裸で校庭走ってもらうわよ!緑色の火星人が追いかけてくる~って叫びながら!」

朝比奈「!!」

咏(まったそんなことを…言えば私が手加減するとでも思ってんのかい?)

咏(させないよ…和了りもその変な罰ゲームも…)



部室前の廊下

朝比奈(大)「どうも~、ずっと覗き見してたかわいいお姉さんです~」

朝比奈(大)「涼宮さんが無理難題を言ってきたわね…ここでその話が出るのは規定事項だけど…」

朝比奈(大)「この罰だけは避けないといけないわ…主に私のために…」

朝比奈(大)「咏さん相手にこんなことするなんて…でも…ごめんなさい!」

朝比奈(大)「TPDD通信!」

キュピーン

朝比奈(はっ…未来からの指令…!これは…!)

朝比奈(この先のツモが…展開が見える…!)



朝比奈(えっと…ここでこれを…)

朝比奈「ポン!」

咏(…変な鳴きだね…)

朝比奈(テンパイだけど…ここはこっち…)コトッ

朝比奈(それで、9巡目過ぎたらこっちも大丈夫…)コトッ

咏(こちらの当たりをことごとく外してる…どしたんだい、急に)

咏(だったら…こっちかい…?)タンッ

朝比奈「ロン!えっと、5200です!」

咏「!」

涼宮「よっしゃ!やればできるじゃない!」



咏(偶然…だろうけど)

咏(狙ってやったなら、なっかなかになっかなかだね…ピンポイントで必要な牌だけそろえて…)

咏(先の展開を知られてるかのように…うまーく、規定通りに誘導された感じっさ…)

咏(って、そっか、1巡目に切ったアレも引っ掛けに活きてるんだ…)

咏(最初にそこまで狙ってたとしたら…、一体、何巡先まで見通して…?)

咏(未来を見通す……そんなことが本当にできるっていうんかい…? ましてやあのユウコに…)

キョン「あ、朝比奈さん…今のは…」ヒソヒソ

朝比奈「禁則事項です」キラリン

キョン「……やりましたね、アレ」ボソッ

朝比奈「あ゛?」ギロッ

キョン「…なんでもないですゴメンナサイ」ガクガクブルブル



2周目南一局

キョン(…………)ガクガクブルブル

咏(逆にこっちの彼には生気が無いねぃ…そんなんなら狙わせてもらうよっ!)

咏「ロン!12000!」

キョン「はい…トビですね」

涼宮「もう!なにやってんのよバカキョン!」

キョン「……スマン」

古泉(ちょっと最後は注意力が散漫でしたか…?彼らしくもない…)

咏(なんかユウコが和了ってから、急に萎縮した感じになってたねぃ…)



四回戦 咏,古泉,朝比奈,朝倉  out→谷口,国木田,キョン

キョン「朝倉…頼むぞ!」

朝倉「ワハハ……大丈夫よ、任せて」

キョン「ワハ?」

朝倉「撃ち落とせばいいんだろー?あの人を」

キョン「お、おう…」

キョン(……あいつ、あんな感じの奴だっけ……?)



キョン「おい、朝倉大丈夫かな?さっきからずっと口開いたままなんだが…」ヒソヒソ

長門「心配いらない…彼女はとても優秀」

東二局

タンッ

朝倉「ツモ 1000・2000です」

キョン「おお」

咏(ふむ…やっとちゃんとした打ち手が出てきたって感じかい…?)

東四局

朝倉「ロン!5800です!」

咏「ほほう…」

キョン「いいぞ朝倉!いけるいける!」

長門「ただし…彼女にはひとつ弱点が存在する」



南一局

タンッ

朝倉(! …イッツーができそうな感じ…!)

長門「……まずい」

キョン「? どうした?」

朝倉(一気通貫… 一気通貫…)

ざわっ…

咏(ん…?ちょっと空気が変わったかぃ…?)

朝倉(一気通貫一気通貫キョン君のおなかを一気に通貫)ブツブツハァハァ



長門「…あれが彼女の弱点」

長門「一気通貫を和了れる可能性が存在すると、それに固執しひとつひとつの手が甘くなる」

キョン(なんだろう…すごくおなかが痛い感じがするんだが…)

咏「ロン 6400だね」

長門「…そして振込みを許す」

朝倉「くっ…」

長門「彼女ほどの打ち手が相手では、その甘さが命取り」

咏(単に調子崩しただけかい…?)

キョン「ちなみに…なぜなんですかね…?」

長門「固執する原因は不明 何度言っても直らないので私も手を焼いている」

キョン「……そっすか」



四回戦2周目 東二局

咏(ユウコも結局あの一回っきりだねぃ…やっぱただの偶然かねぃ~)

朝比奈(大)(…そうそう何回も助けられないです…怪しまれちゃうし…)

咏(…じゃあこれでっ!)

咏「ロン! ユウコ…トビだね」

朝比奈「はうぅぅぅ…」

朝倉「逆転されちゃったわ…」

キョン「次が正念場だ…長門!」

長門「…大丈夫」

長門「私はブレない」



五回戦 咏,古泉,朝倉,長門  out→谷口,国木田,キョン,朝比奈

東一局

長門「ツモ 4000オール」

咏「ほっほう…やるねぃ」

東四局

長門「ツモ 3000・6000」

咏「ふむ…」

キョン「いいぞ!初めて三尋木さんを追い詰めてる!」

咏(この娘もいい筋してるね…早いし綺麗な和了りだ)

咏(的確にいっちばん高確率の選択肢を見抜いてるって感じだねぃ…それもコンピュータのような正確さだ)

咏(そういう相手ならば…こっちもやり方があるっさ!)



南二局

咏(あの娘なら…多分いっちばん無さそうなとこから先に切ってくる…!逆にそこを突いて待つ!)

咏(…この辺から狙ってみるかねぃ…)

咏(ちょっち安くなるけど…、一索地獄単騎!)

タンッ

国木田(え…そっちを切るの…?)

キョン(何なんですかそれは…わざと和了りにくく…?)

……

数巡後

チャッ

長門(一索ツモ… 河には二枚存在)

長門(その他の捨て牌を考慮し、他家が所持する確率微小…和了牌となる確率も安牌を除き最低…)タンッ

咏「ロン!3900!」パタタッ

長門「!」



長門「…………」

キョン「お、おい…長門?」

長門「…不可解」

咏「ん?」

長門「その手牌ならば、二五八索の三面張を目指す方が和了する確率は高いはず」

長門「そうしないことでタンヤオと平和の役も失っている…なぜ自ら悪い形を選択するのか理解不能」

長門「…説明を求める」

咏「まだ勝負の途中だぜぃ~?まあ別にいっけど…」

咏「……キミが、そう考えると思ったからかな」

長門「?」



咏「キミは本当にブレないねー。理想的なデジタル打ちだ」

咏「でも…ちょいとブレなさすぎかもねぃ」

長門「……意味不明」

咏「相手が常に最高の動きをする前提なら、逆にどう動いてくるか予測もつく…」

咏「裏を突いて待ち構えることもしやすいってもんさ」

長門「……しかしそれは不確実」

咏「……実際、そっちの待ちで当たったじゃねーかい?」ニヤッ

長門「…………」

咏「…ブレない強さは確かにすげー…誰にでもできるもんじゃないよ」

咏「でも、たまにブレてみるのもいいんじゃねっかな?意外と目立って人気者になれっかもよっ!?知らんけど」

長門「…………ユニーク」



五回戦2周目 オーラス一本場

咏「ツモ! 6100オール!」

朝倉「…ここまでね、ごめんなさい」

キョン「朝倉まで押し切られるとは…」

涼宮「もう!みんなだらしないわね!」

涼宮「いいわ!私がお手本を見せてあげるわよ!」

咏「いよいよラスボスのご登場、ってとこだねぃ」

キョン(くっ…コイツにまでまわしたくなかったんだが…)



六回戦 咏,古泉,長門,涼宮  out→谷口,国木田,キョン,朝比奈,朝倉

キョン「いいか?普通に打てよ?」

涼宮「大丈夫よ!絶対勝つわ!」

キョン「いや、だから…」

東一局 親:涼宮

涼宮(見てなさい…絶対勝ってやるんだから!)

涼宮(むぅぅぅ~…)

涼宮(なんかすごいやつなんかすごいやつとにかくなんかすごいやつ…)むい~~ん

涼宮「えいっ!」



涼宮「…あれ?」

朝比奈「えっ…?」

朝倉「これは…」

涼宮「ちょっと!なによこれ!不良品じゃない!」パタッ

咏「!!!」ガタッ

古泉「配牌14牌…全部白…?」

長門「…………」

咏「ご…轟盲牌無しで天地創世(ビギニングオブザコスモス)…?」

キョン「…やりやがった」



国木田「え、なにこれ?全部白?」

谷口「はあ!?どうなってんだこりゃ!?」

キョン「やべえ、谷口たちが動揺してる… 長門!朝倉!」

朝倉「わかったわ」

長門「了解」



朝倉「どうしたの涼宮さん?」

涼宮「アンタも見なさいよ!わけわかんないわこれ!」

朝倉「どれどれ…はっ!」ドスッ

涼宮「ぐふっ」バタッ

谷口「お、おい、朝倉?」

朝倉「何もないわよ?やっ!とうっ!」ドスドスッ

谷口「ぐはっ」バタッ

国木田「げふっ」バタッ

キョン「よし!一般人を眠らせ(物理)ている間に長門!牌を元に!」



朝倉(あなたも…ちょっとゴメンナサイね)

朝倉「たぁっ!」

パシッ

朝倉「!」

咏「おおっと…」

咏「知らん振りして当て身とは穏やかじゃないねぃ…」ギリギリ

朝倉(私の手刀を受け止めた…?)

朝倉(なにこの人…古武術でもやってるかのような鋭い動き…)

朝倉(力が強い…!引き離せない!)グググググ



咏(なんっか変な感じは…最初っからずっとしてたけど…)

咏(そして周囲のこの動揺っぷり…やっぱ、普通じゃないねぃ…)

咏(イカサマにしちゃ…この娘も周りもリアクションがおかしすぎる……私に物理攻撃なんてもっとありえねー…)

咏「…………」ジロッ

長門「…………」

キョン「長門?」

長門「彼女はまだ眠らせ(物理)られていない…この状況で情報操作を行うことは命令の条件外、許可を」

キョン「いや…無理だ…すっげー見られてる…」

古泉(まずいですね…迂闊に動けば不信が増すだけ…)

朝比奈(はぅぅぅぅ…)

咏「…………」

キョン「あ、いや、これはその…ですね…」



咏「……ねえ」

キョン「な、なんでしょう……」

咏「この局は…牌見せちゃったからもう終わりだろ…?」

咏「ちょろっと、山の中見せてもらっていいかい…?」

キョン「う…はい…」

パタッ

咏(嶺上牌四つとも白… 四カンしてれば間違いなく天地創世の完成…つーかしなくても天和…)

パタタッ

咏(ドラ表示牌……カン裏まで十個全部中……!?)

咏(…中が十個あるとかありえねーけど……リーチかけて成立してりゃ…天地創世以上のドラ180…!)

咏(……青天ルールでこそねーけど……完璧……)

咏(………………)



咏(何だっていうのさ…この娘…そしてこいつら……)


咏(わかんねー…全てがわっかんねー……)


咏(………でも………)



咏「フフッ…フッフッフッ」

キョン「?」

咏「はっはっはっは!あーっはっはっは!!」

朝比奈「う、咏さん…?」

キョン「あ…あの…」

咏「……いいよ、私の負けで」

キョン「!?」

咏「SOA団っての、入ってあげるよ!なかなか面白そうじゃないかっ!」


――そう。別になんだっていい。聞いたところで知らんし。

ただ単純に、この子たちとならすっげーおもしれー麻雀が打てそうな気がして――

ひっさしぶりに私は、心の底から大笑いしたんだ――



キョン「その後のことを少し話そう――


5人揃った妙香寺高校麻雀部女子は、インターハイ団体戦に出場し…なんと全国優勝なんてしちまった。

ま、ほとんど先鋒の三尋木さんが大量リードしたのを守りきっただけだったがな。

おまけに次の年まで、やめときゃいいのに二連覇達成だ。

大騒ぎに騒がれて団長様は大満足だったが、当然その後の悪影響は長門と朝倉がもみ消した。

SOA団なんてそんなオカルトありえませんし、賞賛されるのは純正一般人の三尋木さんだけで十分だ。

男子?もちろん県予選敗退だよコンチクショウ。

助っ人のはずのコンピ研部長氏なんか全然戦力にならなかったっての。


俺たちは、"俺たちの問題"を解決し― アヤのトンデモ能力に振り回される日々は幕を閉じた。

今の俺は大学を卒業し、何の能力も無い最愛の嫁と二人、つつましくも幸せな毎日を送っている。



朝比奈さんは高校卒業後、未来へ帰った。

「また会いましょうね」と残した言葉を信じ、俺は今でもあの麗しい萌えヴォイスがまた聞ける日を楽しみにしているが…、

たぶん、もう会うことはないだろう。

再会するのは、"過去の俺"の仕事のはずだ。


長門と朝倉も、卒業と同時に姿を消した。

アヤの力が消失した後、情報統合思念体は自律進化の可能性ってやつを麻雀に見出したらしい。

「今度あなたに会うときは、私は私の姿ではないだろう」

長門は最後にそう言った。麻雀を解析するのに適したTFEIとやらに体を乗り換えるそうだ。

寂しいもんだが、会えばきっと分かるわよ、とは朝倉の言葉だ。

そう言うからには、そんなに大きく変わってはいないはずだ。…いないよな?

信じたいもんだね……いつか訪れる、そのきっと分かる出会いってやつを。



古泉は……数年前、長門と朝倉の消息が掴めましたという電話をもらって以降、連絡が取れてない。

最後に送ってきた手紙には、偽名を使って大金持ちの執事をやっているとか書いてあったが、その後は知らん。

しかし団長様のお守りからやっと開放されたのに、また執事なんて仕事を選ぶとは酔狂なヤツだ。

今度こそ、まともな主に仕えていてほしいもんだね、なんて言ったら嫁に怒られるかね。

案外、長門か朝倉だったりしてな、そのご主人様。


谷口のヤツは大学に行ってすっかり真面目になっちまって、チャラ男キャラはどこへやら。

卒業後は地方テレビ局のアナウンサーになったらしい。

今度、県の高校麻雀大会で実況をやるそうだ。聞いてやるからビデオ撮って送ってこいよ。


そして…、もう一人。」


「おーい、もう始まるよー」

キョン「ああ、今行く」



―テレビ―

実況「さあやってまいりました、麻雀ワールドカップ女子団体戦の開幕戦!」

実況「元世界ランク2位の小鍛治健夜を大将に据え、史上最強と謳われる日本代表がいよいよ世界へ挑みます!」

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国木田「すごいよね、三尋木さん。日本代表なんてさ」

キョン「ああ…大したお方だ」

国木田「こんなひとと一緒に部活で打ってたなんて、いまだに信じられないよ」

キョン「ま、俺たちも鼻が高いってもんだ。久しぶりのテレビ中継だし、今日は家でゆっくり応援といこうや」

国木田「そうだね」



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咏「うちって結構な昔っからの名家でさー、跡継ぎとかなんだとか、ずっといろいろ厳しかったんさ。」

キョン「はぁ…そうなんですか」

咏「私の人生も、卒業したらそこを継ぐだけのもんだと思ってたんだよねぃ」

咏「部活動なんて…ましてや麻雀なんて、こんなにやるつもりもなかったのさ」

キョン「すみませんでしたね…こんなに巻き込んでしまって」

咏「ううん!謝ることなんてないさ!」

咏「キミたちと打ってた麻雀は、本当に楽しかった!」

咏「おかげで私も、私のやりたかったこと、思い出したんだ!」

キョン「やりたかったこと?」

咏「ちっちゃい頃の私の夢さ…プロ雀士!」

キョン「!」

咏「だから――うちを継ぐ前に、ちょろんっと親父にワガママこいてみるっさ!」

咏「背中を押してくれたのはキミたちだよっ!ありがとねっ!」

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快活な先輩の声が頭に蘇る。

その日から、生でよりテレビを通してお見かけするほうが増えたあのお姿は…

今日も、初めて会ったあの日とは比べ物にならないくらい……輝いていた。


実況「さあ出てきました!日本代表の先鋒はもちろんこの人!」

実況「迫りくる怒涛の大火力!横浜ロードスターズ所属、"Cat Chamber"三尋木咏!」

ワァァァァーーーーー


カン




アヤ「コラーーーー!!国木田!!!」

キョン「お、帰ってきたか」

国木田「おじゃましてます」

アヤ「なんでアンタがキョンの嫁みたいな感じになってんのよ!私よ私!」

キョン「お前がどうしてもハーゲンダッツ喰いたいって買いに出ちまったからだろうが」

国木田「はは…すみませんでした、団長さん。 …奥様って呼んだほうがいいかな?」

キョン「ほ、ほら、いいから座れ。三尋木さんの試合始まるぞ」

アヤ「フン!! …今日のところは三尋木さんに免じて許すけど…、次は許さないからね!」

国木田「はいはい… あっ、ちょうどスタートだよ」


実況「先鋒戦、スタートです!」

国木田「頑張ってほしいよね」

キョン「…あの人なら大丈夫さ」

アヤ「当然よ!我が栄光のSOA団名誉団員なんですからね!」


もいっこカン




※登場人物はフィクションです
2013/05/12 初出