8月 はやりんライブ開演前楽屋

はやり「今年のインターハイも終わっちゃったか……」

はやり「…………」

はやり「夏は毎年、思い出すよね……。自分が出ていた頃の事……」

はやり「……私のチームメイト。大切な高校の友達……」

はやり「みんな、元気にしてるかな……」

ガチャッ

良子「その言葉を待っていました」

はやり「あっ、良子ちゃん」

良子「ハローです、マイカキタレ」

はやり「えっ!?」



はやり「どうしたの良子ちゃん? その怪人みたいな服……コスプレ?」

良子「私の名前はドクロ仮面。今後ともお前は私のカキタレになるのだー」(棒読み)

はやり「?」

良子「ふぅはははー」ギュッ

はやり「ひゃっ、あっ、ちょっとやめて……」

良子「……誰か助けてーと言ってください」ボソッ

はやり「えっ?」

良子「いいから、お願いします」ヒソヒソ

はやり「だ、誰か助けてー」


「待てーい!!」


はやり「!?」



ガラッ

いちご「アイドル麻雀部員!」シャキーン

塞「おだんご!」シャキーン

智紀「……オタク」シャキーン

透華「アホの子!」シャキーン

爽「フリカムイ!」シャキーン


五人「五人揃って!」


五人「朝酌女子麻雀部!」ジャーン



はやり「…………はい?」

いちご「さあ! 今のうちに逃げるんじゃ! 早よう逃げるんじゃー!」

はやり「ありがとー!」

はやり「……って、ちょっと待って」

いちご「?」

はやり「違う」

いちご「えっ」

はやり「キミたちおかしい」



はやり「何? みんなで朝酌の制服着て、何のつもり?」

いちご「朝酌女子」

はやり「……朝酌女子じゃないでしょ、あなたは。誰のつもりなの?」

いちご「はやりんじゃー!」キラッ

はやり「」(♯^ω^) イラッ

透華「五人揃って!」

五人「朝酌女子!」ジャーン

はやり「待って待って、おかしいってば」



はやり「……あなたは何?」

いちご「牌のおねえさんじゃ!」キラリンッ

はやり「…………」(♯^ω^) ビキビキッ

塞「朝酌の部長さんです!」

智紀「カリスマ同人作家ゆえっち」

透華「稲村閑無(旧姓石飛)ですわっ!」

爽「鳥さん大好き!」

いちご「五人揃って!」

五人「朝酌女子!」ジャーン

はやり「……いやいや、違う違う。旧姓ってのも違う」



はやり「おかしいよね? あなたたちは朝酌の子じゃないよね?」

透華「?」

はやり「……その何言ってんだこいつっていう目はやめて」

いちご「五人揃って!」

五人「朝酌女子!」ジャーン

はやり「……話を聞いてよ」



はやり「そもそも、私自身がいるっておかしいよね? それはものまねだよね?」

いちご「…………」

はやり「…………」

いちご「あのー、じゃけんうちらそのー、ものまねとかそういうんとは違うんじゃ」

はやり「いやいや」

いちご「ちゃちゃのんの個性見てもらいたいから」

はやり(……一人一人のじゃないんだ)



はやり「だからね、私がいる朝酌女子を私に見せに来る時点で、もう成立してないよね?」

いちご「でもそれは、努力で何とかなっていくと思うし」

はやり「意味がわからないよ」

いちご「彼女なんかも、こう見えて物凄い従姉妹思いなとこあるんで」

透華「あら、照れますわね」ウフフフフ

はやり「……いや、関係ないでしょ」

いちご「五人揃って!」

五人「朝酌女子!」ジャーン

はやり「いや、だから…………」(♯^ω^)



はやり(何してるのこの子たち……)

はやり(良子ちゃんまで一緒になって……どういうつもりだろう……)

はやり(五人揃って朝酌女子って……。完全にあれ、私たちだよね……)

はやり(えーっと……誰が誰って……)

はやり(うっすら分かる程度には似てるのがまたイラッっとするけど……)

はやり(……落ち着いて、順番に処理していこうか)



はやり(杏果ちゃん……、は、まあわかる。ちょっと前髪ぱっつんだけど)

塞「…………」

はやり(閑無ちゃん……、も、あの変なアホ毛アンテナを除けばまだわかる)

透華(ウフフフフ……)ドキドキ

はやり(でも、悠彗ちゃんは……メガネとツインテールにしてるのはいいけど……)

智紀「…………」ボイーン

はやり(……論外。おもちが)



はやり(まあ、その三人はいいや。問題は……)

いちご「…………」ドキドキ

はやり(あれが、私……)(♯^ω^)

いちご「…………」ドキドキ

はやり「えっとね。悪いけど、それではやりの真似っていうのはちょっとどうかと思うよ」

透華「何をおっしゃいますの!」

爽「どこがいけないって言うのさ!」

はやり「どこがって……。そのぱっつんぱっつんに膨れたおもち」

いちご「!」ドキッ



はやり「えいっ」ぐにゅっ

いちご「!」

ズルズルッ

塞「あ、佐々野さんのおもちが……」

爽「胸から外れた……」

いちご「なっ、何するんじゃ!」ガサゴソッ

はやり「PAD山盛りだよね、やっぱり」

透華「くっ……、痛いところを突いてきますわね……」

智紀「…………わかってた」



はやり(…………でも、百歩譲ってそれもいいや)

はやり(それより何より、最後の一人……)チラッ

爽「?」

はやり(彼女の肩、明らかに実物の鳥が乗っている……。何なのあれ?)

はやり(せめてちゃんとした剥製とかならまだしも……、ゆるキャラみたいな顔した完全におもちゃなんだけど……)

はやり(それで慕のつもりっていうのは……さすがにいただけないな……)

はやり(慕と鳥さんのことを軽々しくおふざけにするのは……許されざる所業だよ)

爽「??」



はやり(……ハァーッ、やれやれだなあ……)

はやり(こんなことするのって……)

はやり(どうせドッキリなんだろうなぁ…… カメラどこかなあ……)

はやり(ライブ前の突撃レポートとかかな…… 特典映像にでもするんだろうな……)

はやり(愛想よく応対しないといけないところなんだろうけど……)

はやり(芸能人の宿命とはいえ……。許容できることとできないことがあるよ)



はやり「あのね、今ライブ前で集中したいの。ドッキリにしたって、ちょっとタイミング考えてほしいなあ」

いちご「…………」

塞「…………」

智紀「…………」

透華「…………」

爽「…………」

透華「集合!」

ザザッ



透華「どういうことですの!? 全然ウケてませんわよ!」

いちご「想定外じゃ……」

爽「はやりんって意外とノリ悪くねー?」

塞「いや、そういう話じゃないと思うけど……」

透華「こんなはずではなかったですわ!」

智紀「……原因は大体わかる」

透華「ともき!?」

智紀「配役に問題があると思う」

透華「なんですって!?」



智紀「私はオタクではない、正確には引きこもり」

透華「似たようなものじゃありませんの!」

智紀「ただこの同人誌に作者のサインが欲しかっただけ」

透華「立派なオタクですわっ!」

智紀「『コーちゃんシュンちゃん』シリーズは私のバイブル。作者に会わせてくれると聞いたから協力した」

透華「だったらもっとおがんばりなさい! はやりんに紹介してもらわないと会えませんのよ!」



透華「大体それなら、わたくしだってアホの子などではありませんわ!」

智紀「何を言うか片腹大激痛。性格、髪型、残念おもち、どれをとっても適役」

透華「ともきこそ、オタクの他にメガネ属性がピッタリじゃありませんの!」

爽「どっちもどっちだって」

透華「あなたはそのびよんびよんにハネた髪をどうにかなさいまし! 一番似てませんわよそれ!」

爽「なにィ!?」

透華「カツラの下から飛び出てますのよ! かぶった意味ナッシングですわ!」

塞「あーもうちょっと揉めないでよー」

いちご「ほうじゃ! 仲間割れしとる場合と違うじゃろ!」



透華「あなた方、何のために集まったと思ってますの!?」

塞「いや、私はうちの顧問にどうしてもって頼まれただけで……」

智紀「ゆえっちのサイン」

爽「うちのユキの芸能界進出のためだろー?」

透華いちご「ちっがーう!!」

いちご「ちゃちゃのんの就活のためじゃ!! 誰じゃユキって!?」

透華「そうですわっ! ちゃんと説明したじゃありませんの!!」



透華「わたくしイチオシのこの佐々野さんを! アイドルデビューさせるための売り込みでしてよ!」

智紀「なぜイチオシになったのか。何度聞いても理解不能」

透華「ここではやりんに気に入ってもらうために! みんなで魅力をアッピィルするのですわっ!」

智紀「その方法がなぜゴレンジャイ」

透華「御託はいいですわ! やると言ったら成功させますわよ!」

いちご「もうこれしかちゃちゃのんの就活手段が無いんじゃ!! 頼むから!!」

塞「やれやれね……」

智紀「…………透華が言うなら仕方ない」

爽「ま、面白そうだからいいけど」

透華「ではもう一度! いきますわよ!」



透華「お待たせしましたわっ!」

はやり「?」

いちご「五人揃って!」

五人「朝酌女子!!」ジャーン

はやり「…………何も変わってないよ」

五人「…………」



透華「ふむ……、流石はやりん。一筋縄ではいきませんわね」

塞「そういう問題かな?」

透華「少し目線を変えてみましょう」

爽「どうするのさ?」

透華「こんなこともあろうかと! 第二陣を用意してましてよ!」

いちご「おおっ! さすがじゃ!」

透華「一旦退却ですわっ!」

ガチャッ バタン

はやり「みんな出て行った……」



透華「では、お願いしますわっ!」

ガチャッ

良子「ハローカキタレ」

はやり「良子ちゃん……もういいよ……」

良子「私も雇われの身でして。スポンサーに逆らうのはバッドですから」

はやり「そう言われてもさ……」

良子「少しの間ご協力お願いします。ほら、助けてー、って」

はやり「……誰かー 助けてー」(棒読み)


「待てーい!」


ガチャッ



いちご「アイドル麻雀部員!」シャキーン

由子「のよーりん!」シャキーン

春「……ハルちゃん」シャキーン

健夜「すこやん!!」シャキーン

いちご「四人揃って!」


四人「伝説の準決勝!!」ジャーン


はやり「…………何やってるの永世七冠」



バタン

恒子「ここにいた、すこやん!」

健夜「あっ、こーこちゃん」

恒子「ごめんなさいねー皆さん、すぐ回収しますのでーホホホ」グイッ

健夜「えっ、ちょっと」

ズルズル

恒子「制服すこやんウヒヒヒヒ……じゃなくて! いい年こいて何してんのそんな恰好!!」

健夜「放して! ちゃんとやらないと焼肉連れて行ってもらえないの!」ジタバタ

恒子「お騒がせしましたー」

バタン

はやり「……なんなの一体」

透華「放っておいていいですわ」



はやり「……それで、結局どういうことなの?」

透華「むう、これでも動じないとは……。なかなかに難攻不落ですわね」

はやり「…………反応に困ってるだけだよ」

透華「よろしい、では単刀直入に申し上げますわっ!」

はやり「…………うん」

透華「我々はこの佐々野いちごさんを! 新しい牌のおねえさんにさせたいのですわっ!!」

はやり「えっ」

智紀(……そこまで言い切らなくても)

塞(単刀直入すぎだよ……)

爽(直球投げたなー)

はやり「いきなりそう言われても……。意味がわかんないよ」



塞「ねえ、それはさすがに唐突すぎない?」

爽「はやりん、わけわかんないって顔してるぞ?」

透華「ええ、わかっておりますわ。その座は実力で掴み取るもの!」

はやり「どういうことなの」

透華「タダでと言うつもりは無いですわ! ならば麻雀で勝負ですわよっ!!」

はやり「えっ?」

透華「彼女が牌のおねえさんに相応しいのかどうか! 麻雀で見極めたらよろしくてよ!!」

はやり「はい?」

透華「そしてもし彼女が勝ちましたら! 芸能界の就職先をお世話してやってくださいましっ!」

はやり(……何言ってんだこいつ)



塞「いや、でも麻雀って言っても……」

爽「この部屋、卓も牌も無いけど?」

透華「ハギヨシ、雀卓!」パチン

ハギヨシ「かしこまりました」

サッ ゴトゴトッ ザザッ

ハギヨシ「用意できましてございます」

透華「ご苦労!」

塞「い、一瞬で……」

爽「卓と椅子を用意した……」

春(……どこから現れた)



はやり「えーと…… それって私の受ける理由が何も……」

透華「さあ!」

はやり「……しかも、ライブ前なんだけどな……」

透華「さあさあ!」

はやり「…………」

透華「勝負ですわっ!」

はやり「…………」チラッ

良子(お願いします、私に免じて)

はやり「…………しょうがないな」



はやり(やれやれだけど……。仕方ないな)

はやり(押し問答を続けるより、やるだけやっちゃった方がすんなり引き下がってくれるかも)

はやり(……それに、ちょっとアレだけは……放置できないよ)チラッ

爽「?」

はやり(慕の事だけは……。冗談で済ませることは許せない)

爽(なんかこっち見て……、怒ってる?)

はやり(……人には、どうしても触れてほしくない事だってあるんだよ)

はやり(佐々野いちごちゃん……。アイドル的に騒がれてたのは知ってるし、だからどうだという気持ちもないけれど)

はやり(時間も無いしライブ前だし……。悪いけど、容赦はしないよ!)ゴォッ



いちご(ふう……。なんとも急な話になったのう)

いちご(……でも……)

いちご(ここまでお膳立てしてくれて、正直言いにくい事を全部言うてくれた龍門渕さんには感謝じゃ……)

いちご(ここはなんとしても、勝たんといかん……)

いちご(ちゃちゃのんがアイドルになるには……もうこれしかないんじゃ……!)



いちご(インハイ前に話をもらった芸能事務所からは……契約を断られてしもうた)

いちご(その契約してもらえる条件……。インターハイじゅんけつ以上進出)

いちご(ただのアイドルじゃない、アイドル麻雀プロとして売っていくために……)

いちご(そして、事務所のコネでプロ麻雀チームに入れてもらうためにも……。それだけの実績が必要じゃった)

いちご(それがまさかの一回戦敗退、目立つことも全然できんかったおかげで……)

いちご(契約は白紙、他の事務所からもプロチームからも声がかかる保障は無し。もう後がないんじゃ!)

いちご(ここで勝って……ちゃちゃのんはアイドルに……)

いちご(三代目牌のおねえさんに! ちゃちゃのんはなるんじゃ!!)どんっ



塞「それじゃ、はやりんと佐々野さんが対面で……。あと二人は誰が打つ?」

透華「誰でもいいですわよ」

爽「はーい! じゃー私!」

良子「あなたは自重したほうがいい」

爽「えーっ!? なんでですか?」

良子「今回は佐々野さんに花を持たせるのが目的です。あなたのカムイはあなた自身のためにしか動こうとしないでしょう」

爽「……まあそうかもですけど」

良子「それに……、あなたのそのフリカムイ」

爽「?」



良子「今のはやりさんにそれを見せたら本気で怒られますよ。ちょっと私でもフォローしかねます」

爽「そうなの!?」

良子「というかもう今ですらキレかけてるのは、大体あなたのせいですので」

爽「えぇー!?」

良子「アレに関してだけは一切おふざけを許さない何かがありますね」キリッ

春(ドクロ仮面の衣装で言われても……)

由子(あなたが一番おふざけてるのよー……)

塞「…………じゃあ私が」



対局開始 起家:いちご 南家:塞 西家:はやり 北家:透華

「「「「よろしくおねがいします」」」」

はやり(…………さて)

はやり(何はともあれ、麻雀となったら勝負は勝負)

はやり(ただ目の前の卓に集中して……、全力で勝ちにいく!)

はやり「リーチ!」タンッ

……

はやり「ツモ 2000・3900」パタッ

いちご「くっ……」

塞「早い……」



東二局

はやり「ロン! 3200!」

いちご「……はい」

爽(うわ、佐々野さんから直撃……)


南二局一本場

はやり「ツモ! 1000・2000の一本場は1100・2100!」

いちご「うう……」

春(……強い)

由子(やっぱりプロなのよー……)

良子(気持ちの入りが違う…………。さすがです、はやりさん)

ハギヨシ(まさに疾風のごとき速攻……。"Whirlwind"の名は伊達ではありませんね)



ハギヨシ(対して、透華お嬢様たちは……)チラッ

透華「…………」イライラ

透華(……不自由ですわね……)

透華(わたくしを差し置いて他人を目立たせる打ち方など……。慣れない話ですわ)

塞「…………」

塞(うーん……。はやりんって、塞いでどうにかなるってタイプじゃないよね……)

塞(こっちの二人とも味方とはいえ、ほぼ初対面で意思疎通ってのも難しいし……)

塞(ちょっときついなあ、これ)

ハギヨシ(……あまり、いい状態とは言えませんね)

智紀(……所詮は急造チーム)



オーラス二本場

はやり「ツモ、700・1300の二本場は900・1500」

いちご「…………はい」


1位:はやり 43300
2位:透華  21300
3位:塞   19600
4位:いちご 15800




はやり「終了だね」

いちご「……はい……」

爽「ほとんどはやりんの和了りか流局だったね……」

智紀「四人中二人は勝つつもりが無いのだから必然の展開」

いちご「一回しか和了れんかった……」

塞「……何もできなかった」

透華「…………ぐぬぬ」



はやり「じゃ、もういいかな?」

いちご「え……あ……」

透華「お待ちなさいましっ!」ダンッ

はやり「…………」

透華「三回勝負! 三回勝負ですわっ!」



透華「まだ半荘一回ぽっち! せめて三戦はしていただきませんと!」

はやり「後からそう言うのって無いんじゃないかな……」

透華「たかだか半荘で人の実力など測れませんわ!」

爽「そうだそうだ!」

はやり「……私これからライブなんだけど」



透華「ほら、あなた達も!」

塞「あの、お忙しいとは思うんですが……。できればもう少しチャンスいただけないかと……」

春「……お願いします」

由子「半荘一回きりじゃ、どうしようもない時だってあるのよー」

爽「そうだよ! ド素人相手だって、国士とか直撃されちゃったらお終いじゃないか!」

はやり「……それはさすがに迂闊なんじゃないかな」

透華「ごふっ」フラッ

塞「血を吐いた!?」

ハギヨシ「お嬢様! お気を確かに!」

爽「ん?」

智紀「…………」ニヤリ



いちご「お願い……します……!」

はやり「…………」

いちご「…………」

はやり「…………」チラッ

良子(…………お願いします)

はやり「…………わかったよ」



二回戦 起家:はやり 南家:爽 西家:いちご 北家:智紀

透華「頼みましたわよっ!」

爽「おうっ!」

智紀「…………」コクッ

「「「「よろしくおねがいします」」」」

爽(……さて、そうは言うものの……)

爽(正直、戒能プロに言われた通りなんだよね……)

爽(自分の勝ちより他人のサポート。そんなの考えて打ったことなんてないし……)

爽(カムイを使って周りを生かす打ち方ができるほど、私も麻雀百戦錬磨ってわけじゃない……)

爽(そもそも、そんなに連れてきてないよ。打つとは思わなかったしさ)

爽(…………)

爽(普通に打つしかないよな……)



東一局

はやり「ツモ 1000オール」タンッ

春「いきなり連荘……」

由子「今回も絶好調なのよー……」

いちご(このまま……やられっぱなしじゃおれん……!)


東一局一本場

いちご(食らいつくんじゃ……!)

タンッ

いちご「ツモ! 500・1000は600・1100!」

塞「よしっ!」

透華「いけますわよ!」



東二局

爽(うーん……これかな)タンッ

はやり「ロン 1300」ギロッ

爽「げっ……」

塞(これは……)

透華(……狙い撃ちですわ)

爽(やっぱ私に怒ってる!? なんでー!?)


東三局

いちご(親番……! ここでなんとか……!)

タンッ

いちご「ツモ! 500オールじゃ!」

塞「いいよいいよ! 連荘だ!」



由子(序盤は五分……。このまま攻めたいところだったけど……)


東三局一本場

…………

……

はやり「ノーテン」

智紀「ノーテン」

いちご「ノーテン」

爽「ノーテン」

透華(せっかくの連荘が……)



東四局二本場

はやり「ツモ。 500・1000の二本場は700・1200」

いちご「……はい」

塞(またひとつ先行された……)


南一局

はやり「ノーテン」

智紀「ノーテン」

いちご「ノーテン」

爽「テンパイ!」パタッ

塞(…………)

透華(…………)

爽「?」

智紀(……空気読め)



春(そう順調にはいかせてくれない……。じりじりと追い詰められてきた)


南二局一本場

いちご(早よう……早ようもう一本返さんと……)

はやり(その焦りが……、隙あり!)

いちご「…………」タンッ

はやり「ロン! 12000の一本場は12300!」

いちご「あ…………」

塞「うわ痛い!」

春「ここで跳満の直撃……」

由子「ちょっと今のは甘かったのよー……」

いちご(しまった……)



南三局

いちご(まずい……まずい……)

智紀(……傍からでも焦りがわかる)

塞(落ち着いて佐々野さん……!)

いちご「…………」タンッ

はやり(跳満直撃で気落ちしちゃったかな……?)

いちご「…………」

はやり(…………でもその弱気、命取りだよ!)

タンッ

はやり「ツモ! 2000・4000!」

いちご「うっ……」

春「続いて満貫親かぶり……」

透華「厳しいですわね……」



オーラス

はやり「ツモ。500・1000」パタッ

爽「……はい」

いちご「うう……」

智紀(…………無念)

塞「跳満から三連続……」

いちご「逆転どころか……テンパイも作れんかった……」

良子(あの跳満直撃で気持ちを崩してしまいましたね……)


1位:はやり 51600
2位:爽   21400
3位:智紀  17700
4位:いちご  9300




はやり「……三回勝負で二勝したけど」

透華「ぐぅぬぅぬぅ~~~~」

いちご「…………」

はやり「もういいよね?」

透華「何をおっしゃいますの! 三回と言ったら三回やっていただきますわよっ!」

はやり「…………次に私が負けても二勝一敗だよ?」

透華「点・数・勝・負・! 勝負は三回の合計点数ですわっ!」

いちご「龍門渕さん……」

はやり(……7万点近く点差あるんだけどなあ……)

透華「いいですわよね!」



はやり「…………どうなのかな?」

いちご「?」

はやり「彼女はそう言ってるけど。あなた自身はどうなのかな?」

いちご「え……」

はやり「……自分にその気持ちが無いのなら。無理にやってもしょうがないよ」

良子「はやりさん……」



はやり「……アイドルになりたい、私みたいな麻雀プロになりたい。そう言ってきてくれる子はたくさんいる」

はやり「私にそう言ってくれるのは、嬉しいことだけど」

はやり「…………現実はそんなに甘くはない」

いちご「…………」

はやり「……憧れだけじゃ、やっていけない世界。力がなければ潰されちゃうだけだよ」

いちご「…………」

はやり「……だから」

いちご「?」

はやり「今ここで、私に手も足も出ないくらいなら……。やめた方がいい」

いちご「!」



はやり「片方だけでも難しいのに……。アイドルも麻雀プロもっていうなら尚更だよ」

はやり「どっちもただでさえ不安定。人気商売と勝負の世界の二足の草鞋」

はやり「普通のアイドルとも普通の麻雀プロとも違う立場で……。常に普通と違う注目を受けるんだ」

はやり「……それは、いい注目ばかりとは限らない」

いちご「…………」

はやり「どんなに自分が頑張っていても、心ない言葉をぶつけられる事だってあるんだよ」

いちご「…………」



はやり「……私だって偉そうに言えるほど、戦えているのかなんてわからない」

いちご「…………」

はやり「…………未だに勝てない相手だっている」

いちご「…………」

はやり「…………自分の力不足に、悔しくて何日も眠れなかった日だってある」

いちご「…………」

良子(はやりさん……)



はやり「それでも耐えて、撥ね返していく力がないと……。やっていけないよ」

いちご「…………」

はやり「……精神的にも、実力的にも」

いちご「…………」

はやり「……そんな世界だよ」

いちご「…………」

はやり「無理してやろうとしなくても……。誰も、文句は言わないよ」

いちご「…………」



はやり「…………」

いちご「…………」

はやり「…………」

いちご「…………それでも」

はやり「?」

いちご「…………それでも、やらせてください! お願いします!!」

塞「佐々野さん……」

はやり「…………そう」



はやり「そろそろ本当に時間も無いの。これで最後ね」

いちご「…………はい」

はやり「これが最後の三戦目で、三回トータルの点数勝負。それでいいんだよね?」

透華「ですわ」

いちご「……もうひとつだけ、お願いします」

はやり「…………何?」

いちご「今回は……ハコ下ありにしてもろうてええですか……?」

塞「佐々野さん……?」

はやり「…………」



爽「……ハコ下ありって……」

智紀「……持ち点がマイナスになっても続行するルール」

透華「トビ終了にしないということですわ」

はやり「…………」

いちご「…………」

はやり「…………」

いちご「…………お願いします」

はやり「……いいよ、あなたの気が済むのなら」

いちご「……ありがとうございます」



三回戦 起家:由子 南家:はやり 西家:春 北家:いちご

はやり(ハコ下あり……か)

はやり(……まあ、当然ではあるけど。差は7万点近く、25000でトビ終了じゃトータルで足りない可能性がある)

はやり(……本気で、7万点差を返すつもりなのかな)

はやり(…………)

はやり(……それなら、その気持ちに応えるだけ)

はやり(こっちも、全力を尽くして相手する!)



東一局 親:由子

……

はやり「ツモ 500・1000」タンッ

いちご「くっ……」

透華「先制ツモ……」

爽「全然勢いが変わらない……」

塞「気持ちだけはあっても……状況は好転せず……」

智紀「……さすがにプロ」



東二局 親:はやり

はやり「リーチ!」タンッ

爽「続いて親リー……」

透華「……まずいですわね」

塞「完全にはやりんのペース……」

由子「…………」

春「…………」

由子(ここは私たちが……)

春(……なんとかしなければ)



由子(佐々野さんは……まだまだテンパイに遠そうなのよー)

春(……彼女が和了れなければどうしようもない)

由子(だったらせめて……これ以上差を広げられないように……)

春(……はやりんの親リーを流す!)

由子「…………」チラッ

春「…………」タンッ

由子「ロン! 1000点なのよー」

はやり「!」

春「……はい」

塞(うまい! 親を流した!)

透華(この局は仕方ないですわね……)



東三局 親:春

チャッ

いちご(きた……。やっとテンパイ……)

塞「でも……、役が無い……」

透華「こんな安めじゃどうしようも……」

いちご「まだじゃ……まだある……!」

パタッ

いちご「リーチ!」

はやり「!」

塞「牌を見せた……これは……」

透華「オープンリーチ!」



爽「えっとごめん、オープンリーチって……?」

透華「ご存知ありませんの? 不勉強な!」

爽「名前くらい知ってるけどさ! ローカルルールだろ!?」

透華「ハギヨシ、説明!」

ハギヨシ「はい。ローカルルールの中では割と有名な部類ですね」

爽「そうなんですか?」

ハギヨシ「和了り牌を公開してかけるリーチです。出和了りがほぼ見込めなくなりますが、一飜アップになります」

爽「へー」



透華「これで一飜アップ……。でも」

塞「……うん、あんな手牌でオープンかけても……」

智紀「……焼け石に水」

良子「…………」

はやり「…………」

いちご「ちゃちゃのんは……絶対諦めん……!」

はやり「…………」

いちご「なにがなんでも……アイドルになったるんじゃ……!」

はやり「…………」



いちご「…………」チラッ チラッ

春「!」

由子「!」

春(我々の方をチラチラ見ている……?)

由子(これは……)

春(何かの合図……)

由子(…………!)ハッ



由子(わかったのよー……。佐々野さんの思惑!)

チャッ

由子(佐々野さんの当たり牌を……。差し込み!)

タンッ

いちご「ロン! 32000じゃ!!」

はやり「!」



爽「32000!?」

塞「そうか、オープンリーチへの振込みは……」

智紀「……役満払い」

爽「そうなの!?」

良子「……なるほど」

ハギヨシ「その手がありましたか……」

春(…………了解した)



塞「これが佐々野さんの狙い……」

智紀「オープンリーチから二人に振り込ませて32000を取る作戦」

爽「そうだよ、勝負はあくまで佐々野さんとはやりんの合計点数!」

透華「他二人がどれだけ負けようと関係ないですわ!」

塞「しかも! オープンなら和了り牌がわかってるんだから、確実に差し込める!」

智紀「……突然ハコ下ありにしたのもこのため」

爽「うんうん! いけるよこれ!」



透華「しかしこんなことなら……。一回戦から気付いていれば……」

いちご(……それはしゃーない、龍門渕さん)

いちご(……ちゃちゃのんもさっき思いついたんじゃ)

いちご(それに……これはいわば裏技……)

いちご(できれば、はやりんから直接取って勝つのが……。どう考えても普通で理想で正攻法なんじゃろうけど)

いちご(もうそがなこたぁ言うちょれん! なりふり構ってられんのじゃ!)

いちご(ちゃちゃのんは……絶対諦めん!!)



はやり(ふーん、なるほど……)

はやり(ただ闇雲に向かってきているだけだと思ってたけど……。意外と冷静に考えてる)

はやり(…………ちょっと、見直したかも)

はやり(…………でも)

はやり(何をしてきたって、勝負は譲らないよ!)



東四局 親:いちご

いちご(親番……。ここでなんとかもう一回……)

はやり(テンパイさせなければ……どうということはない!)

はやり「ポン!」

カァン

はやり「チー!」

カァン

爽「早い……」



はやり「……ツモ、白のみ300・500」

パタッ

塞「こちらのテンパイ前に安手速攻……」

いちご「うぅ……親番が……」

良子(はやりさんには前二戦の貯金がある……。無理に高目を狙う必要は全くナッシングです)

ハギヨシ(おまけに、速攻早和了りは彼女の十八番……。活路が見えたとはいえ、そう簡単ではないですね)



南一局 親:由子

爽「南場になっちゃった……」

智紀「残り半分……」

透華「……厳しいですわね」

いちご(それでも……、ちゃちゃのんにはこれしかないんじゃ!)

タンッ

いちご「オープンリーチじゃ!」

塞(また……)

良子(あくまで狙いはそれ一本ですか……)

いちご(形さえできれば……確実に和了れるはずなんじゃ……!)

はやり(……それならそれで、防ぐ方法だってある)



由子(来たのよー……、当たり牌!)

タンッ

いちご「(よし!)ロ……」

はやり「ロン」

由子「!」

春「!」

いちご「えっ!?」

はやり「私の和了りだね、頭ハネ。1000点」パタパタッ

由子「え……」

いちご「そんな……」



透華「なんてこと……」

智紀「佐々野さんと同じ待ちにあわせて頭ハネとは……」

塞「きついなあ……」

爽「そこまでしなくても……」

ハギヨシ(いえ、リーチされてから阻止するにはこれしかないのでしょうが……)

良子(……はやりさんも本気ですね)

はやり「…………」

良子(厳しい顔を見せていますね……。私もあまりお目にかかったことがない)



南二局 親:はやり

春(はやりんの親番……)

由子(うーん……どう動くべきか悩むのよー……)

春(東場では親を流したけれど……。もう残り局数も少ない……)

由子(それより今は、佐々野さんに和了ってもらわないと……)

春(……点差は子の役満差し込み二回分。間に合わなくなる可能性がある)

いちご(うう…… 揃わん……)

透華(まずいですわ……。ここで連荘されたら更に差が……)



はやり(……しないよ、連荘は)

はやり(この親番はむしろ流れてくれた方が、私にとっては好都合……)

はやり(そうは言っても、役満払いは大きい……。しかもオープンからの差し込みなら、成功される危険はかなり高い)

はやり(だから、ここは安く連荘して残り局数を増やすより……。局数を減らして相手の機会を潰す)

はやり(……相手を甘く見るつもりはないよ)

はやり(それに……差し込みが私の下家さん(春)からだったら、頭ハネは向こうの和了り)

はやり(前局はうまくいったけど、そう何度も使える手じゃない。だから……)



はやり(何かある風を装いつつ……この局は流す!)

はやり「ポン!」

春「? ……はい」

いちご(今それを……?)

由子(……不可解なのよー)

はやり「チー!」

由子「……はい」



春(……はやりんの手が読めない)

由子(何を狙っているのよー……)

いちご(……前局みたいに……、また何か予想外の手が……?)

はやり「…………」

塞(はやりん、あれじゃ和了れないのに……)

智紀(……三人とも惑わされている)

透華(何を怖がってるんですの!?)

良子(……前局のサプライズが三人へのプレッシャーになっていますね)

ハギヨシ(ここまで考えての前局だったとしたら……、恐ろしいことです)



…………

……

透華「流局ですわね……」

はやり「ノーテン」

いちご「……ノーテン」

由子「ノーテン」

春「ノーテン」

いちご「うう……」

智紀「あと二局……」



南三局一本場 親:春

由子(後がなくなってきたのよー……)

透華(はやりんはこのまま逃げ切っても勝ち……。攻めるしかないですわ……)

春(……もう差し込みだけを考えるしかない)

…………

……

チャッ

いちご(イーシャンテン……。あと一歩じゃ!)

爽(よしっ!)

春(佐々野さんの……当たりそうな牌を抱える……!)

由子(もう一度……、差し込みを成功させるのよー……!)

塞(がんばれ……がんばれっ!)

はやり「…………」



はやり(……だからと言って、逃げ切り狙いなんかじゃない……)

いちご(あと少し……! もう少しじゃ……!)

はやり(この半荘の順位でも……譲る気など無しっ……!)

……

タンッ

はやり「ツモ! 2000・3900の一本場は2100・4000!!」

由子「!」

春「!」

いちご「あ……」


1位:いちご 52900(Total: 78000)
2位:はやり 37300(Total:132200)
3位:春   19200
4位:由子  -9400




良子(……これは決め手に近い一撃)

塞「ああ……」

爽「これで……15600点差? 次に跳満ツモの親かぶりか満貫直撃でも順位逆転……」

智紀「……問題はそこではない」

爽「えっ?」

智紀「トータルの点差が再び48000を超えた」

爽「あっ……」

塞「オーラス、佐々野さんの親番でも……差し込み一回じゃ足りなくなった……」



オーラス 親:いちご

爽「とうとうオーラス……」

透華「絶望的ですわ……」

いちご「まだじゃ……親なら連荘すれば……」

塞「……うん、連荘すれば……。連荘すれば望みはあるけど……」

智紀「……させてくれるだろうか」

はやり「…………」



…………

……

カチャッ

いちご手牌:五萬:麻雀王国六萬:麻雀王国七萬:麻雀王国一索:麻雀王国一索:麻雀王国一索:麻雀王国三筒:麻雀王国三筒:麻雀王国七筒:麻雀王国八筒:麻雀王国八筒:麻雀王国九筒:麻雀王国中:麻雀王国 中:麻雀王国

爽(佐々野さんテンパイ……)

智紀(…………どうする)

いちご「オープン……、リーチじゃ!!」

タンッ 八筒横:麻雀王国

透華「佐々野さん……」

ハギヨシ(……最後まで貫きますか)

良子(その意気やよし)

塞(でも……。あの待ち牌は、はやりんの……)

はやり「…………」

はやり手牌:一萬:麻雀王国九萬:麻雀王国一索:麻雀王国九索:麻雀王国一筒:麻雀王国九筒:麻雀王国東:麻雀王国南:麻雀王国西:麻雀王国北:麻雀王国白:麻雀王国發:麻雀王国中:麻雀王国



いちご「ちゃちゃのんは……ちゃちゃのんは絶対諦めん……!」

はやり「…………」

いちご「…………」グスン

塞「佐々野さん……」

爽「どうしてそこまで……」

透華「何があなたをそうさせますの……」

いちご「…………」



いちご「……約束、したんじゃ」

塞「……約束?」

いちご「絶対アイドルに……、牌のおねえさんになったるって……」

いちご「……約束したんじゃ、あいつと」

爽「……あいつって……」

いちご「……ちゃちゃのんの……幼馴染じゃ」



いちご「小学校の頃から、ずっとそばにいて……」

いちご「……麻雀仲間で、一緒にアイドルに憧れて」

いちご「……二人でいつか、牌のおねえさんになろう言うちょった」

はやり「…………」

いちご「…………そいつと、約束したんじゃ」

いちご「ちゃちゃのんが、絶対アイドルやってみせるから……。お前も諦めたりすんなって……」

塞「……諦める……?」



いちご「……三年前」

いちご「下校途中の歩道で、あいつは車にはねられた……。悪質な酔っぱらいのひき逃げじゃった」

いちご「命に別状は無かったけんど、足に怪我の後遺症が残って……」

いちご「……今でも、他人の補助が無いと歩けん」

いちご「当然、激しい運動はできん……。アイドルのダンスなんてとても無理じゃ」

いちご「それからあいつは……笑わなくなってしもうた」



いちご「ちゃちゃのんよりずっと、歌もダンスも上手くて……。麻雀じゃって強かったのに」

いちご「……なんもかんもやめてしもうて……。一人で部屋に閉じこもりきりじゃ」

透華「そんな……」

いちご「……リハビリさえ……すればいいんじゃ」

いちご「リハビリさえちゃんとすれば……。ダンスは無理でも、歩けるようにはなるんじゃ」

いちご「ほいだら、アイドルじゃってやれるんじゃ。歌と麻雀だけなら足に負担はそうかからん」

いちご「……なのに……。頑なにやろうとせんかった」

爽「……どうして……」



いちご「アイドルになるため……。あいつが一番自信あって打ち込んでたんが……ダンスじゃったから」

いちご「……余計ショックが大きかったんじゃと思う」

いちご「『踊れないなら、リハビリなんてやる意味ない。もう理想のアイドルになんかなれん』って」

いちご「そう言って自棄になっとった」

いちご「周りの人間もそのうち……、本人がそう言うならもうしゃーないて空気になった」

智紀「…………」

いちご「……でも……、ほいでもちゃちゃのんは…………」

いちご「……あいつにどうしてもリハビリやってほしいて……言い続けた」



いちご「歩くことも、アイドルのことも勿論じゃけど……何よりも」

いちご「あいつが塞ぎこんだまま、泣いた顔して毎日過ごしてるのが……耐えられんかった」

いちご「ちゃちゃのんは……。あいつにずっと、笑っていてほしかったんじゃ」

はやり「!」ピクッ

いちご「……何日も、何か月も二人で話して……」

いちご「言い争いにもなって、何度も喧嘩になったりもしたけんど……」

いちご「……やっと、ひとつ約束させたんじゃ」

いちご「ちゃちゃのんがアイドルになれたら……、あいつもリハビリ始めてがんばるって」

透華「!!」



いちご「歌もダンスも麻雀も……ちゃちゃのんのほうがヘタクソじゃけど……」

いちご「……自慢じゃないが、体育3以上取ったことないちゃちゃのんじゃけど」

いちご「そんなちゃちゃのんでもなれたなら……。お前じゃってできるはずじゃから、って」

いちご「…………踊らないアイドルじゃって……。理想の姿と違うたって……。ええじゃろうが…………」グスン

塞「佐々野さん……」

いちご「……じゃけん、ちゃんと足を治して……。それからでも遅うないから……」

いちご「……そしたら、一緒にアイドルやろうって」

いちご「…………昔と同じように、二人で一緒に笑っていたいから、って……」

はやり「…………」



いちご「…………あいつとした大事な約束なんじゃ」

はやり「…………」

いちご「ちゃちゃのんは……絶対アイドルになって……」

はやり「…………」

いちご「あいつを……笑顔にさせたるんじゃ……!」

はやり「…………」



いちご「……はやりんに言われた通り……、甘いこと言うちょるんかもしれん」

はやり「…………」

いちご「厳しい世界じゃ……通用せん話かもしれんけど……」

はやり「…………」

いちご「ちゃちゃのんには……宇宙一大事なことなんじゃ……!」

塞「佐々野さん……」

いちご「…………」グスン

はやり「…………」





――そっか。


私もあの頃、あんな顔してたんだ――










――大事な友達との、約束のために。









----



――「……結局、それでいくんだな」



――「うん」



――「研究者の道もあったんだろ? それを蹴ってまで……そっちを選ぶんだな」



――「…………約束、したんだ」



――「約束?」



――「うん、慕との約束」



――「…………慕との?」



――「……慕がどこにいても。たとえ二度と会えなくなっても」



――「…………」



――「私はここにいる。一番目立つ場所で、輝き続けてみせる」



――「…………」



――「私を見つけて、慕が笑ってくれるように」



――「…………」



――「……そう約束したから」



――「…………」



――「…………」



――「……そうか」



――「……うん」



――「…………お前らしいよ」



――「…………ありがとう」



----




はやり「まったく……。ズルイや、みんなして……」ボソッ

良子「?」


――あの日のあの姿、あの仲間。卓を囲んだあの相手。


はやり「……思い出しちゃったよ。昔のこと……」

透華「?」

良子「どうかしましたか?」

はやり「……ううん、なんでも」



はやり「……進めて」

由子「?」

はやり「……あなたのツモ番だよ」

由子「あ、はい……」スッ

チャッ

由子(……三筒か中……。持ってないのよー……)

コトッ

はやり「…………」



はやり「…………」スッ

チャッ

一萬:麻雀王国九萬:麻雀王国一索:麻雀王国九索:麻雀王国一筒:麻雀王国九筒:麻雀王国東:麻雀王国南:麻雀王国西:麻雀王国北:麻雀王国白:麻雀王国發:麻雀王国中:麻雀王国 白:麻雀王国

智紀(!)

塞(あっ!)

爽(ツモった!)

透華(……終了ですわね)

はやり「…………」

カチャッ



はやり「…………」スクッ

良子「はやりさん?」

塞「立ち上がって……何を……?」

いちご「……?……」

はやり「…………佐々野さん」

いちご「……はい……?」



スッ


白:麻雀王国


いちご「? ……白……」


はやり「……アイドルがそんな泣きベソ顔じゃ、お客さんは笑ってくれないぞっ☆」


ピッ


中:麻雀王国


いちご「!」



はやり「…………」コトッ

中:麻雀王国

由子「!」

春「!」

爽「えっ!?」

塞「中を……切った……」

いちご「あ、ロ、ロン! ロンです!!」

はやり「…………はい」



爽「これって……」

智紀「親番に役満直撃……」

塞「……ってことは」

智紀「……48000、直取り」

爽「だよね!」

透華「逆転ですわっ!!」

\ワァッ/


1位:いちご 100900(Total:126000)
2位:春    19200
3位:由子   -9400
4位:はやり -10700(Total: 84200)




はやり「私の負けだね」

いちご「…………どうして…………」

はやり「…………」

スッ

いちご「?」

はやり「事務所の電話番号。はやりの紹介でって言えば通るように話しておくよ」

いちご「!!」

はやり「それでいいかな?」



いちご「……いいんですか……?」

はやり「私は紹介しただけ。チャンスを掴むのはあなたの力だぞっ☆」

いちご「はやりん……。いえ、はやりさん……」

はやり「はやりんでいいよ☆」

いちご「ありがとう……ありがとうございます……」グスン



はやり「ほら、泣いてちゃダメダメっ。アイドルは笑顔だよっ☆」

いちご「…………はい!」ニコッ

はやり「よしっ☆」

コンコン ガチャッ

マネージャー「すいませーん。はやりさん、そろそろお時間でーす!」

はやり「はーい! 今行くよーっ☆」クルッ

スタスタスタ

はやり「じゃ、そういうことでっ☆」

バタン

はやり「…………大切にね、その友達」



マネージャー「こんな直前まで何してたんですか? 心配しましたよ!」

はやり「ゴメンゴメン! それよりね、ひとつお願いがあるの……」

…………

……

AD「ハイ、諸々準備よろしければお願いします! ライブ開演でーす!!」

はやり「はーい! おっけーだよー!」

…………

……



――後継ぎ、か。

そんなのまだまだ、考えたことも無かった。簡単に譲る気も無いけれど。

友達の笑顔のためにがんばっている人がいたのなら、応援するのが牌のおねえさんの務め。

それでいいよね、慕。

いいですよね、真深さん。



はやり「よぉーーっし!! 今日もいっくよーーー!!!」

ワァァァァーーーー



カン



牌画像引用 (c)izumick supported by 麻雀王国


2016/04/13