高校一年生 4月

智葉「……で、ここが麻雀部の部室か」

黒服A「はい」

智葉「しかし何考えてんだうちの親は……。勝手に私の進学先を……」

黒服A「いいじゃないですか。我が子のために全力を尽くす親御さん……、すばらな話です」

智葉「『中学卒業祝いに新しい高校つくったよ!』って……。15の娘に言うことかよ」

黒服B「親分なりの愛情表現かと思いますよ」

智葉「親分って言うな。人聞きが悪いだろうが」

黒服B「はっ……。では、組長なりの愛情表現かと」

智葉「…………大差ないぞそれ」



智葉「一体何が楽しくて、親が理事長やってる女子校に通わねばならんのだ」

黒服C「はっはっは。新設校に新築校舎なんて羨ましい限りじゃないですか」

黒服D「しかも、ご自宅から通えるすぐ近く! 都内の一等地ですよ!」

智葉「……それで、ここで一から麻雀部も作れと。大した愛情だな」

黒服A「かわいい娘には旅をさせろと言います。言うまでもなくお嬢はちょーかわいいです」

智葉「黙れ」ギロッ

黒服A「ひっ」ゾクゾクッ

黒服B「オゥ……お嬢の睨み……」

黒服C「たまりませんな……」

黒服D「いいなぁ……」



智葉「大体、いきなり麻雀部なんて無茶だろうが。一年生しかいないんだろう?」

黒服A「はい! 目指せインターハイ優勝! 期待してますよ!」

智葉「一人じゃ麻雀は打てんぞ」

黒服A「もちろんです! これから出会うかけがえのない仲間とともに!」キラキラ

智葉「こんな新設校でわざわざ麻雀したい奴なんて、そうそういるわけないだろうが」

黒服B「その点は問題ありません。このために全国各地より選りすぐりの生徒をスカウトし入学してもらってます」

智葉「……そのスカウトってのは誰がやったんだ」

黒服B「我々ですが?」

智葉「…………信用ならんな」

黒服B「?」



智葉「お前らもお前らだ」

黒服C「はい?」

智葉「今日もこんなとこまでついてきて……。いい加減に子離れっていうか私から離れろよ」

黒服C「何をおっしゃいます! お嬢のことは幼少の頃より見守らせていただいてますから!」

智葉「さっきの入学式だって、全員そろって号泣してたじゃないか。大の大人が情けない」

黒服D「それはもう、お嬢の晴れ舞台ですからね!」

智葉「大げさなんだよ。周りが引いてただろうが」

黒服D「我々は大丈夫ですから、ご心配なくです!」

智葉「私が大丈夫じゃないってんだよ、恥ずかしいな」



智葉「で、ひとつ気になることがあるんだが……」

黒服E「何でしょうか」

智葉「なんだあの掛け軸は」

『校訓:じゅんけつ以上』

黒服E「本校の校訓ですが」

智葉「それは見ればわかる。なぜそれが理事長銘の書画になって麻雀部室にぶら下がってるんだ」

黒服F「組長の自信の一筆らしいですよ。校内至る所に飾ってます」

智葉「だから組長とか言うな」

黒服F「はっ。オヤジの自信作ということですんで」

智葉「…………一緒だっての」



智葉「じゃあ、帰ってくれ」

黒服全「えっ!?」

ざわ…

智葉「そろそろ入部希望者も来る頃だろう。その前に帰ってくれ」

黒服A「いや、その発想は……無かったんですが……」

智葉「黒服グラサンの男達に付きまとわれてる女子高生なんて怯えられるだけだろうが」

黒服B「そ、そう言われましても……」

智葉「おまけにそれが理事長の娘だなんて知れたら、誰も寄り付かんぞ」

黒服C「し、しかし……」



智葉「何か問題でもあるのか」

黒服D「いや……お嬢もおっしゃったとおり、人手は必要かと」

智葉「必要でもお前らは要らん」

黒服E「でも例えば……メンツが足りなかった時の代打ちとか……」

黒服F「お、お茶出しとかおやつ管理係とか、いろいろ役割はありますし……」

黒服G「あっ、自分チーしますか?って言って回る係なら得意っすよ!」

智葉「……いいってば。そういうのは部員同士の仕事だろう」

黒服H「えぇー……寂しい……」

智葉「……帰れよ」



コンコン

智葉「ん?」

怜「すみませーん、入部希望なんやけどー」

照「…………おじゃまします」

智葉「げっ、もう来ちまった」

黒服A「おお! ようこそ麻雀部へ!」

黒服B「さあさあ、どうぞ中へ!」

照「!?」

怜「!?」

智葉「ちょっ、おいバカ」



黒服C「どうぞどうぞ! ゆっくりおくつろぎください!」

黒服D「コーヒー、紅茶、どちらになさいますか!?」

黒服G「チーしますか? チーしますか?」

照「」ビクビク

怜「」ビクビク

智葉「やめろってだから! 二人とも怯えてるじゃないか!」



黒服E「おやつもたくさん用意してございますよ!」

黒服F「緑茶の方がいいですか? なんでもすぐ用意いたしますから、遠慮なくご注文ください!」

黒服G「チーしますか? チーしますか?」

照「」ビクビク

怜「」ビクビク

智葉「いいからもう早く帰れよお前ら!」

黒服H「えぇー」

黒服全「えぇー」

智葉「帰れ!!」



バタン

智葉「ふぅ……。ようやく出て行ったか」

怜「えっと……。何なんです? あの人たち」

智葉「気にしないでくれ」

怜「あの……ここ、麻雀部でええんですよね?」

智葉「ああ」

照「あなたが親分さんですか?」

智葉「どういう言い方だよ」

怜「ああ、ボスやでボス」

智葉「違う」



智葉「親分でもボスでもなんでもない。お前らと同じ、ただの麻雀部入部希望者だ」

照「そうなんですか?」

智葉「タメ口でいいよ、私も一年だ」

怜「……ええの?」

智葉「ああ」

照「…………そう」



智葉「それじゃ、改めて自己紹介しようか」

怜「大阪から来た園城寺怜や。こっちの照とは寮で同部屋」

照「……宮永照」

智葉「宮永と園城寺か」

怜「怜でええよ」

照「私も」

智葉「ふむ。じゃあよろしく、怜、照」

怜「うん。あんたは?」

智葉「辻垣内智葉だ」

照「…………」

智葉「どうした?」

照(彼女もむずかしい名前……)



照(えっと……なんだっけ)

智葉「?」

照「よろしく……。ムニャガイトさん」

智葉「?」

怜「…………」

智葉「さん付けなんてしなくていいぞ」

照「そう……。よろしくガイト」ホッ

智葉「……どういう耳してんだお前」

照「?」

怜(……こいつ私のことも一回で呼ばれへんかったしな)



―回想 寮での初顔合わせ―

怜「……ふーん、あんたも麻雀部に」

照「そう」

怜「……まあ、それで同じ部屋になったんも何かの縁や。よろしゅーな」

照「うん、よろしく。私は宮永照」

怜「園城寺怜や」

照「…………」

怜「?」

照(えっと……長い名前難しい……)



怜「呼び捨てでええで。あんたも照でええよな?」

照「…………うん」

怜「?」

照(確か……。なんとかジョージさん……)

怜「どした?」

照「……なんでもない。よろしくジョージ」

怜「誰がジョージやねん」

照「?」

怜「?」

照「女の子なのにジョージ……?」

怜「しばくで?」

―回想終―



智葉「……ま、好きに呼んでくれたらいい。別にこだわりはないからな」

怜「器でかいな、さすがボスや」

照「さすがおやぶん」

智葉「前言撤回、ちゃんと名前で呼べ」

怜「冗談やって、智葉」

照「……ガイト」

怜「…………」

智葉「…………まあいいが」



智葉「じゃあ、ひとまずこの三人か」

怜「せやな」

照「うん」

智葉「何はともあれ、打ってみたいところだな。まずはお互いの実力を知りたい」

怜「打つ言うても……、三人やで?」

照「四人いないと打てない」

智葉「ああ……」



部室の外

黒服A「予想通りの展開……。おい、あれを」

黒服B「はいっ!」カキカキ

バッ

カンペ「メンバーいますよ! 四人で打てますよ!」ヒラヒラッ

智葉「…………」(無視)

ササッ ヒラヒラッ

怜「なあ、あれ……」チョイチョイ

智葉「知らん」

怜「ええの?」

黒服A「気付かれたぞ! もっとアピール!!」



カンペ「麻雀のメンツが足りなくてお困りのアナタに! 出張代打ちの大サービス!」

怜「なんや紙振ってるで……?」

智葉「見なくていいよ」

カンペ「飲み物・お菓子食べ放題! ポッキーもあるよ!」

照「ポッキー……」キラッ

智葉「惹かれるな惹かれるな」



怜「えっと、さっきからそうなんやけど。何なん、あの人ら?」

智葉「気にしないでくれ」

怜「智葉の手下なん?」

智葉「そんなんじゃない」

カンペ「お嬢かわいい! お嬢最高! メンバーいますよ!」

怜「お嬢て?」

智葉「なんでもないったら」



カンペ「三人じゃ麻雀できないなー、いや残念! まずここに! ひとりいるのになー!」

怜「めっちゃアピールしてるで……?」

智葉「…………ハァーッ」ヤレヤレ

黒服全「…………」ドキドキ

智葉「しょうがないな、一人だけ入ってこい」

\オォッ/

黒服A「は、はいっ!」

智葉「騒ぐな」



黒服A「失礼します」

怜「あ、はい」

照「……お願いします」

黒服A「山崎と申します。趣味はボウリング」

智葉「誰も聞いてないよ。黒服Aでいいだろ、自己主張すんな」

黒服A「ははっ、相変わらずお嬢は手厳しい」

智葉「これ以上ふざけるなら別のヤツとチェンジさせるぞ」

黒服A「よろしくお願いします。精一杯務めさせていただきます」キリッ

智葉「ったく……」



初対局終了

照「ツモ 6200オールです」ギュルルン

黒服A「……はい、トビです」

怜(……な……)

智葉(……くっ……)

怜(……何や今のは……)

黒服A(……これは凄い)

照「…………ありがとうございました」

智葉(なんだ……なんなんだこいつは)



智葉(この私が……完全に抑えられただと……)

智葉(…………)

照「?」

智葉(悔しいが、高々数回の偶然で済む話じゃない……。こいつは、強い)

智葉(……正直言って、同学年に私以上なんていないと思っていた)

智葉(都内どころか、関東、全国だって……。その私を……)

照「…………」

智葉(……少し、考え方を改めねばな)



黒服B「お疲れ様でした。何かお菓子はいかがですか?」

智葉「おい誰が入っていいって言った」

照「ポッキー」

黒服B「はっ、用意してございます」スッ

照「…………ありがとうございます」ポリポリ

智葉「…………」



智葉(対して、こっちの大阪人は……)チラッ

怜「?」

智葉「…………」

怜「……なんや?」

智葉(……平凡、だな。まあメンツ合わせにはなるか)

怜「?」

照(…………違う)



照(彼女はまだ、自分の力に気づいてないだけ……)ポリポリ

照(実は凄い力を秘めている……。それに目覚めたら、誰にも真似できない強さを得る可能性)ポリポリ

照(……鏡にそう映っていた)ポリポリ

照(二年……、いや、一年半後くらいには……)ポリポリ

照(自分の力に気づくときが来るはず……)ポリポリ



怜(ふぅー……。きっついわ……)

怜(セーラたちと打ってて……。実力差のある相手には慣れてたつもりやったけどな……)

怜(……正直、高さが見えへん)

怜(…………)

怜(あんま簡単には認めたないけど……)チラッ

照「?」

怜(こいつら……セーラや竜華よりも……)



黒服B「どうぞお嬢。コーヒー入りましたよ」

智葉「…………ん」

黒服B「お二方もどうぞ。ミルクとお砂糖はこちらに」

照「ありがとうございます」

怜「……どうも」

黒服B「川崎と申します。趣味はボウリング」

智葉「自己主張すんなっつってんだろ黒服B」



智葉「……それじゃ一息ついたところで、聞いていいかな」

怜「なんや?」

智葉「どうしてこの高校に来たんだ?」

怜「…………スカウトされたからやけど?」

智葉「……そういうことじゃない」

怜「…………」

智葉「こんな得体の知れない新設校に、わざわざ大阪から東京まで……。普通は考えにくい話だろう」

怜「…………」

智葉「何か、理由はないのか?」

怜「…………まあちょっと、思うところあってな」



怜「……憧れの存在って、あるやん」

智葉「?」

怜「そう言うたら聞こえはええけど……。結局それって、どうしても埋まらん距離があるってことやんか」

智葉「…………」

怜「……憧れやなしにな、対等な立場になりたいって思うてん」

智葉「…………」

怜「ずっと一緒におった、大事な友達と……」



怜「いつも一緒で、誰よりも仲良くしてて……。お互い友達って意識やったとは思う」

怜「……でも麻雀に関しては、ずっと手の届かへん憧れやった」

怜「あいつら二人とも優しいから、そんなん気にもせんと仲良うしてくれとったけど……」

怜「……やっぱりな、同じ目線になりたかってん。他でもない麻雀で」

智葉「…………」

怜「……私の中では、それが大事なことやった」

怜「…………せやから」

怜「一回、あえて離れて別の場所に来てみたら……。何か違う景色が見えるかもってな」



怜「今の麻雀見たら、何をアホなて思われるかもしれんけど……」

智葉「…………」

怜「全国大会、出たいねん。あいつらと戦えるくらい強うなって」

智葉「…………」

怜「…………」

智葉「…………」

怜「……アホなこと言うてると思ってくれてええで」

智葉「……いや、思わんよ。真剣なのは見れば分かる」

怜「…………おおきに」



智葉「照、お前は?」

照「……別にない。都内ならどこでもよかった」

智葉「?」

照「…………親元に近いから」

智葉「ふむ……。地元はこの辺か?」

照「…………」

智葉「?」

照「……そう。東京から出たことなんてない、私は生粋の江戸っ子」

智葉「…………そうか」



部活終了後

黒服A「お嬢、それでは明日からの事なんですが」

智葉「なんだ」

黒服A「こちらの方でシフト表を作りますので。一日あたり代打ち一人とお手伝いは何人ご利用ですか?」

智葉「いらんいらん! 入ってこようとするな!」

黒服A「おや、そうですか。では、最低限の代打ち一人雑用一人で」

智葉「一人もいらないってだから!」

黒服A「フヒヒッ……。しかし、三人では麻雀は打てないですよ」

智葉「…………」

黒服A「…………」

智葉「…………ちっ」

黒服A(ぃよしっ!)グッ



智葉「ったく……。大体、なんで三人しかいないんだよ」

黒服A「スカウトは全国各地で頑張ったのですが……。なにぶん、急な話だったもので」

智葉「それにしたって、最低四人いなけりゃ活動もできんだろうが。何部だと思ってんだよ」

黒服A「申し訳ありません。その償いのためにも、我々が粉骨砕身」

智葉「いらんってだから」

黒服A「ははっ、相変わらずお嬢は手厳しい」

智葉「なんでもそれで済まそうとするな」



黒服A「人数ばっかりは仕方ありませんって」

智葉「…………なんか白々しいな」

黒服A「そんなことないですよ!」

智葉「部に関われるから嬉しくて仕方ないって顔してるぞ」

黒服A「それは否定しませんけども! それもこれもお嬢のためです!」

智葉「…………嘘でも否定しろよ」



智葉「…………そういえば」ハッ

黒服A「はい?」

智葉「部員のスカウト、誰がやったって言ってたっけ?」

黒服A「我々ですが?」

智葉「…………」

黒服A「?」

智葉「……人数、謀ったな?」

黒服A「いえいえ何をおっしゃいます!! 偶然ですよ!!」



次の日

黒服C「お待ちしておりました!」

黒服D「さあ今日も頑張りましょう!」

智葉「授業終わる前からスタンバイしてるんじゃない。暇なのかお前ら」

黒服C「フッフフ、部室棟の地下は我々の詰所にしてありますので!」

黒服D「いつでも即座に出入り自由! お気軽になんでもご用命ください!」

智葉「…………過保護とか過干渉を通り越した何かだな」

黒服C「我々はお嬢チームですので。お嬢のためだけに全力を尽くせと仰せつかっています」

智葉「……いいか、仕方ないから打つときだけは許可してやるが、こっちから呼ぶまで入ってくるな」

黒服D「ええ、勿論! 決してお邪魔はいたしません!」



黒服C「では、今日は我々二人が務めさせていただきます」

黒服D「よろしくお願いします」

照「…………はい」

怜「いやすんません、区別つきませんけど……」

黒服C「あっ、これは失礼。ちゃんとご挨拶してませんでしたね」

智葉「いらんからな」

黒服C「荻野と申します。趣味はボウリング」

智葉「黒服Cでいいぞ」

怜「……はあ」



黒服D「どうぞ。今日のおやつはイチゴショートでございます」

照「ありがとうございます」

黒服D「萩尾と申します。趣味はボウリング」

智葉「黒服Dでいいからな」

照「荻尾さんと萩野さん」

黒服D「荻野と萩尾でございます宮永様」

照「?」



黒服C「…………」

黒服D「…………」

照「…………」

黒服C「おい、下の名前も言った方が」ヒソヒソ

黒服D「そ、そうですね」ヒソヒソ

照「??」

黒服C「失礼しました。荻野圭一と申します」

黒服D「萩尾純一です」

照「……はぎ……おぎ……いち…………さん……」

黒服C「…………」

照「?????」(泣きそう)

黒服D「…………黒服CDで結構です」



――こうして、私の高校生活は始まった。

竜華ともセーラとも遠く離れた、ここ東京で。

そこで私を待っていたのは、どう見ても尋常やない強さを持った二人の同級生。

…………と、なんやわからん黒服グラサン。

普通やないにも程があるってもんやけど……。平々凡々よりはよっぽどええわ。

……待っててな、竜華、セーラ。

私はここで、頑張るから。

いつかあんたらと、本当に一緒に笑いあえるように……。




6月

黒服A「お嬢、こちらの書類が顧問から」

智葉「ふむ?」

怜(おったんや顧問……)

智葉「『全国高校生麻雀大会参加申込用紙』……か」

照「麻雀大会……?」

怜「インターハイやな」

照「……出るの?」

智葉「ああ。……まあ、今年は個人戦だけだな」



智葉「『学校名』『選手氏名』『学年』『監督』『顧問』『部長』…………。ふむ」

黒服A「?」

智葉「そういえば部長決めてなかったな」

怜「えっ」

照「えっ」

智葉「ん?」



怜「智葉やろ? 部長」

照「うん、ガイトだと思ってた」

智葉「……言った覚えはないぞ」

怜「完全にそう思うてたわ」

照「うん、私も」

智葉「…………なんでだよ」



怜「まあええやん、智葉部長で」

照「うん、いちばんえらいひと」

智葉「……偉い人ってお前」

怜「なんも問題ないやんな」

照「うん」

\オーッ/

智葉「何がオーだ」

黒服B「皆の信頼を受けて人の上に立つ人間に……ご立派ですお嬢……!」

智葉「大げさなんだよお前らは」



怜「ほな多数決でええやん。私と照と黒服さんたちみんな智葉に一票やで」

照「うん、いいと思う」

智葉「黒服さんとか普通に言ってるんじゃない、部員じゃないぞこいつらは」

怜「かたいこと言いっこなしやでー」

照「うん」

智葉「……ったく……。簡単にこいつらと馴染みやがって」

怜「毎日至れり尽くせりで文句なんてあるわけないやんー」

照「お菓子をくれる人に悪い人はいない」

智葉「女子校にこんな奴等がいること自体にもう少し疑問を持てよ」



智葉「……じゃあ、私が部長な」

照「うん」

怜「おー」

智葉「他は……。監督もコーチもいるわけない、顧問も名前だけ……」

黒服A「はい」

智葉「…………じゃ、これで完成だな」

黒服A「はい、では提出しておきますので」

智葉「ん」

黒服A「当日のお迎えは朝何時になさいますか?」

智葉「ちょっと待て」



黒服A「何か?」

智葉「お前ら、大会にまでついてくる気でいるのか」

黒服A「えっ」

黒服B「えっ」

黒服C「駄目なんですか……?」

智葉「言わなけりゃわからんのか」



黒服A「もちろん、我々が車で送り迎えして差し上げますよ。寮にも参ります」

智葉「送り迎えなんぞいらん、電車と歩きでいいだろ」

黒服B「いやしかし……。車の方がいろいろと楽だし、便利かと思いますよ」

智葉「お前らの言う車ってのは、うちの親父たち御用達の黒ベンツリムジンだろうが」

黒服A「ええ、お嬢もいつも乗られてるじゃないですか」

智葉「そんなもんで部活の大会に出る高校生がどこにいる。悪目立ちするだけだろ」

黒服B「し、しかし……」

黒服C「来年、長野あたりにいそうですけどね?」

智葉「あ゛?」ギロッ

黒服C「ヒィッ」



智葉「歩きでいいよ。現地集合だ」

黒服全「えぇー……」

怜「現地集合いうても私、場所わからへんでー?」

照「…………私も」

智葉「……なら、私が寮まで迎えに来るよ。皆で歩いて行けばいいだろう」

怜「ほいでもやー、知らん場所にいきなりは色々きついでー」

照「……うん」

怜「一回くらい、下見しといた方がええんちゃう?」

照「うん、したらいいと思う」

智葉「下見?」



怜「せっかくやから、下見ついでにどこか遊び行かへん?」

照「それはいい考え」

智葉「遊びにってお前……」

怜「こっち来てから、遊び行ったことなんてどこもなかったもんなー」

照「たまにはみんなでおでかけしたい」

智葉(……そういえば。こいつら寮生じゃ気軽に外出もままならんか)



智葉(…………まあ、たまには気晴らしも必要か)

怜「ええやんー、なー部長ー」

照「ぶちょー」

智葉「……わかったよ。次の日曜日な」

怜「おー」

照「おー」



日曜日 新宿駅

智葉「……で、どういうことだ」

怜「何がや?」ギュッ

照「?」グイッ

智葉「私の服を二人で引っ張るな」

怜「そんなんしてへんて、気のせいやって」ドキドキ

照「うん、気のせい」ドキドキ

智葉「……なら鷲掴みしてるこの手はなんだ」



智葉「手を離せ、後ろにくっつくな。なんでそんなに腰が引けてんだ」

怜「いやー、大阪もんにゃー東京の駅とかハードル高いでー」

智葉「だからって私の服を掴むんじゃない。普通についてくればいいだろうが」

怜「怖いわー、東京のコンクリートジャングル怖いわー」(棒読み)

智葉「照、お前は東京人じゃなかったのか」

照「人には得意分野というものがある。だから今日は道案内が得意なガイトに任せてあげる」

智葉「得意だと言った覚えはないぞ」

照「恥ずかしがらなくていい、ガイトは照れ屋さん」

智葉「苦手なら素直に苦手と言え」



照「バカにしないでほしい、私は山手線だって乗れる」

智葉「最悪乗る方向間違えてもいいからな」

照「駅の順番だって知ってる」

智葉「ほう」

照「とーきょー、かーんだ、あーきはばらー」

智葉「……歌じゃねえか」

照「おかーちまち、たけいー、うぎーすだーぎー」

智葉「たけいじゃねえ、うえのだ」



照「にーっぽり、にしこり、たーばーさー」

智葉「もう怪しくなってきたぞ」

照「……フーフごめ、フーフがも、フーフフンフンフーン」

智葉「ここまで行き着くのか」

照「…………」

智葉「?」

照「……おわり」

智葉「ここ新宿だぞ」



照「ガイトはひどい」

智葉「何がだ」

照「私は傷ついた、お詫びをするべき」

智葉「何だよお詫びって」

照「私をちゃんと連れていってくれたら許してあげる」

智葉「素直に助けてくださいと言えんのか」

照「ガイトはとてもひどい、私は更に傷ついた」

智葉「あーあーもーわかったよ」



智葉「分かったからとにかく一旦離せ。服が伸びる」

照「…………」ギュッ

智葉「離せ」

照「…………わかった」

パッ

智葉「ふう……。まったく」


―― 3 2 1 ハイッ


智葉「いいか照。お前も東京人なら新宿駅くらい――」

怜「おらんで」

智葉「えっ!?」

怜「おらんで、照」



智葉「なっ……、どこ行ったんだ!?」

怜「見当たらんなー。迷子やなこれ」キョロキョロ

智葉「今の今までそこにいただろう!!」

怜「ちょっと目ぇ離した隙やったなー」

智葉「と、とにかく探すぞ!」

怜「あっ、待ってーや」グイッ

智葉「離せ! 動けないだろ!」

怜「ひとりにされたら私も迷子なるでー」グイグイッ



少し離れたビルの陰

黒服A「何っ!? 宮永様が迷子!?」

黒服E「はい! 見失ってしまいました!」

黒服B「お嬢は無事なのか!?」

黒服E「はい! 宮永様の単独迷子です!」

黒服C「なんてこった……。よし、総出で捜索!」アタフタ

黒服E「はい!」アタフタ

黒服D「えらいこっちゃ……」アタフタ

…………

……



数分後

黒服F「いたぞー!」

黒服G「!」

黒服H「おお!」

黒服I「お嬢! こちらです!」

智葉「お前ら……。いたのかよ」

ダダダッ

黒服J「宮永様! 心配しましたよ!」

照「?」アイスもぐもぐ



黒服A「おーい! こっちだこっちだ!」

黒服B「いやー、よかったよかった」

黒服C「一時はどうなることかと!」

ゾロゾロ

智葉「ちょっ……集まってくるなよお前ら……」

黒服D「よくぞご無事で……。お怪我などありませんか……?」

照「? はい」アイスもぐもぐ

黒服E「それはなにより! 安心しましたよ!」

ハッハッハッハ

智葉「だから声もでかいって……目立つんだよ……」



智葉「おいお前ら」ヒソヒソ

黒服F「どうしました、お嬢?」

智葉「もうちょっと人の目を気にしろって! 何やってんだよ街中で!」ヒソヒソ

黒服G「?」

\えぇーなにあれー/ ヒソヒソ

\女の子が黒服に囲まれてるー/ ヒソヒソ

\やだーコスプレー?/ ヒソヒソ

智葉「くっ……」

黒服H「??」



\黒服軍団発見なう@新宿、……っと/ ヒソヒソ

\変質者かなー?/ ヒソヒソ

\誘拐? 誘拐? 通報? 通報?/ ヒソヒソ

智葉「ぐぐ……」

黒服I「あの、お嬢?」

智葉「いいから散れっ! 人目につくな!」

黒服J「お、押忍!」



智葉「……で、結局」

怜「…………」右手ギュッ

照「…………」左手ギュッ

智葉「両手が塞がったわけだが」

怜「智葉から握ってきとるやん」

照「やさしいガイト」

智葉「これ以上街中で騒ぎは起こせん」

怜「さすが智葉やー」

照「やー」

怜「頼りになるわー」

照「わー」

智葉「…………フン」



智葉「……いいから大人しくついてこい」プイッ

怜「智葉てわりとちょろいな」

照「うん、ガイトはちょろい」

智葉「この両手、今すぐ振りほどいてもいいんだぞ」

怜「ごめんなさい」

照「ごめんなさい」

智葉「ったく……。立場と状況をわきまえろ」

怜「そんな厳しいこと言わんといてーや、なあお嬢」

照「おじょー」

智葉「あーもう見放す、決定」

怜「冗談やって」



怜「ところで照」

照「何」

怜「そのアイスどこで買うたん?」

照「あそこ」

怜「お、東京にもあったんやアラサーワンアイス。いつも大体30前後の種類が選べるでおなじみの」

智葉「アバウトだな」

怜「智葉ー、私らも買うてこー」

智葉「……仕方ないな」



アラサーワンアイス店内

ラッシャーセー

怜「照はどれにしたん?」

照「これ。京風まっちゃマシュマロチョコパーティートリプルナッツキャラメルチェリーベリーチーズタルトバナナメロンソーダクラッカーキャンディキュートフラワーベイクドチーズオンチーズゆずこしょうパイ黒ごまアイス」

智葉(……なんだそれは)

怜「ほな、私もその京風まっちゃマシュマロチョコパーティートリプルナッツキャラメルチェリーベリーチーズタルトバナナメロンソーダクラッカーキャンディキュートフラワーベイクドチーズオンチーズゆずこしょうパイ黒ごまアイス」

智葉(……なんで言えるんだよお前も)

怜「それが一段目で二段目は……」

智葉「!?」



智葉「……結局三段重ねかよ」

照「……私もそうすればよかった」

怜「ウフフ……」

智葉「?」

怜「トリプル…… トリプルや……」

智葉「どうした?」

怜「ウフフフフ…………」ニヤニヤ

智葉「??」

照(……ずっと三段重ねを見つめてニヤニヤしている)

智葉「早く食べろよ、落とすぞ」

怜「えへへ……幸せや……」ニヤニヤ

智葉(…………そんなに嬉しかったのかよ)

ぼとっ

怜「あっ」



その夜 照と怜の部屋

怜「なあ」

照「何」

怜「あんた……。東京出身言うてたやんな……?」

照「…………それが何」

怜「ウソやろ」

照「……嘘じゃない」

怜「別にバカにせーへんで? ええやん、無理に東京人ぶらんでも」

照「嘘じゃ……ないっ!!」プイッ

バタン

怜「…………何ムキになっとんねん」




――そして挑んだ、一年目のインターハイ。


実況「個人戦決勝卓、決着です!」

実況「優勝はなんと無名の新設校から現れた一年生! 東東京代表、先鋒学院高校の宮永照選手です!」

ワァァァァーーーー

怜「やりよったなー……」

智葉「…………フン」

怜「智葉かて凄いやん、5位」

智葉「……決勝卓に進めんようじゃ何位でも一緒だ」

怜「東東京予選落ちの私からしたら十分やけどな」



怜「組み合わせが悪かったんちゃう? 相手がちょっとアレやったもんな」

智葉「……フン、言い訳するつもりはない。私の力不足だ」

怜「大生院の戒能さんと、千里山の藤白先輩……。決勝行った二人と二連荘やってんからしゃーないて」

智葉「……それは照も同じだ、って……先輩?」

怜「藤白先輩は千里山のレジェンドやからな。うちらはあの人に憧れて千里山中行ったんや」

智葉「そういえば……。お前中学は千里山だったな」

怜「千里山行った友達に聞いてんけどな……。今年の部内レーティング2629。バケモンやで」

智葉「千里山のレートのつけ方なんぞ知らんが……」



アナ「以上、宮永選手のインタビューでしたー!」

照「ありがとうございました!」ニコッ(営業スマイル)

……

照インタビュー終了後

照「ただいま」

怜「おー、おつかれー」

智葉「どうだった、感想は?」

照「うーん……あんまり」

智葉「ほう?」



智葉「そんなに手応えがなかったとでも?」

怜「贅沢な悩みやな」

照「……違う」

智葉「?」

照「表彰式とか、インタビューとか。ひとりぼっちはやだ」

智葉「うん?」

照「……ひとりはつまんない。団体戦やりたい」

怜「照……」

智葉「お前……」



照「みんな一緒がいい。ガイトも、怜も一緒に」

智葉「…………」

怜「…………」

智葉「……そうだな、来年は団体戦も考えるか」

照「…………うん」

怜(……同じ舞台に立つ……。こいつらと、竜華やセーラと同じ……)



9月

怜「全国大会終わって思ったんやけどな」

智葉「ん?」

怜「この部に足りひんもんあったわ」

智葉「何だ」

怜「合宿とかせーへんの?」

照「!」



智葉「合宿?」

怜「強豪校のインタビューとか見てたら、合宿やって力をつけてーとか言うてるやん」

照「それはとてもいい考え」

智葉「うちは三人しかいないだろう」

怜「ええやん、三人でもやったらー」

照(ドキドキワクワクお泊りタイム)



怜「三人でお泊りとかしたいわー」

照「一緒に寝たりしたいー」

智葉「お前たちは同じ部屋で毎日一緒に寝てるだろうが」

怜「智葉はちゃうやんー」

照「ガイトと寝たいー」

智葉「ワガママ言うんじゃない二人して」



照「三人でお泊りしたこと一度もない」

智葉「必要ない」

怜「せっかくの全国大会かて、寮から通いやったやんかー」

智葉「当たり前だ」

怜「ひどいわー、東京代表やからいうてー」

照「よそはみんな東京に来てお泊りしてるー」

智葉「よそはよそ、うちはうち」

怜「えー」

照「えー」



怜「なんでそないイヤなんー」

智葉「やる意味がない。今だって、毎日打ってることには変わらないんだ」

照「お泊りはー」

智葉「生活を共にするなんてのは、チームとして結束を強めることが目的だろう」

怜「ええやん三人で結束強めたらー」

智葉「そんなのは団体チームが組めてオーダーを考えて、それぞれの役割を考えながら打つようになってからでいい」

怜「えー」

智葉「大体、団体に出られる人数もいないだろう。私達には早い」

照「えー」



怜「ええやんかー、やろーやがっしゅくー」

智葉「やらん」

照「がっしゅくー」

智葉「必要ない」

怜「がーっしゅくー」机バンバン

照「がーっしゅくー」机バンバン

黒服A「がーっしゅくー」机バンバン

智葉「おい待てそこのお前」



黒服B「なぜです、いいじゃないですか合宿」

黒服C「我々の総力を込めて! サポートさせていただきますよ!」

黒服D「バーベキューとか花火とかも用意しますから!」

黒服G「自分はキャンプファイアーやりたいです!!」

智葉「いらんいらんいらん!! 遊ぶためのものじゃない!!」

怜「あの人ら、意外と話わかるな」

照「うん、怖そうだけどいい人たち」



怜「ええやん、三人でー」

照「でー」

怜「おふろとか一緒にはいろーやー」

照「やー」

黒服G「お、お風呂っすか!? もちろんお供いたしますよ!!」カァァァ

智葉「よしお前から死ぬか?」スチャッ

黒服G「ヒイッッ」

黒服A「お嬢! 仕込み刀を抜かないで!!」

黒服B「冗談ですから! ジャスト黒服ジョークですから!!」

ワーワー ドタバタ

怜(刀を持ってること自体には突っ込まへんねやな)



智葉「とにかく。今そんなことをやるつもりはない」

怜「えー」

照「えー」

智葉「…………寮に門限まで顔出すくらいならしてやるよ。それで我慢しろ」

怜「むぅー」

照「ぶぅー」

智葉「我慢しろ」



部活終了後

黒服A「お疲れ様でした、お嬢」

智葉「ん」

黒服A「……ところで、今日の合宿の話なのですが……」

智葉「なんだよ」

黒服A「少々、お二方がかわいそうな気もするのですが。なぜそこまで?」

智葉「話したとおりだ、三人でやったってしょうがないだろう。……それに」

黒服A「それに?」

智葉「絶対お前らが余計なことすると分かってるからだ」

黒服A「…………フヒヒッ」



その夜 照と怜の部屋

照「合宿……、却下された」

怜「されたなー」

照「三人でお泊りしたかったのに……」

怜「……まあ、智葉の言うこともわかるけどな」

照「うん…………。でも」

怜「?」

照「それだけじゃないと思う。何か他に理由が」

怜「あるかー?」



照「私たちと一緒にお風呂に入りたくないとか……」

怜「なんでやねん」

照「なにか……知られたくない事があったり……」

怜「風呂に入んのに…………?」

照「…………」

怜「…………」

照「…………入れ墨とか」ボソッ

怜「!」



怜「…………」

照「…………」

怜「…………」

照「…………」

怜「それや……!」

照「それだね」

怜「間違いないな」

照「間違いない」



怜「……そういうことやったか……」

照「…………うん」

怜「黒服付きのお嬢やもんな……」

照「刀も持ってた」

怜「…………」

照「…………」

怜「ほなやっぱ……あんま言わんといてやる方がええんかな……?」

照「……そうかもしれない……。でも」

怜「?」



照「入れ墨があったとしても……。ガイトがそういう人だったとしても」

怜「…………」

照「…………ガイトは、私たちの友達」

怜「…………」

照「…………」

怜「…………あったりまえやないかい」



怜「ほな、もう合宿のことは言わん。一緒に風呂入りたいも言わん」

照「うん」

怜「まあ、向こうから言うてきたら別やけど。もし見せられたとしてもギャーギャー騒がん」

照「わかった」

怜「ほな、この話は終わりや。もう寝よ」

照「うん、おやすみ」

怜「おやすみ」



照「…………」

怜「…………」

照「…………」

怜「…………」

照「……怜……」

怜「…………」

照「…………もう寝た……?」

怜「…………なんや」

照「……ガイトの、入れ墨……」

怜「…………うん」

照「パンダさんの絵だとかわいいと思う」

怜「寝ろや!!」




10月 とある日の部活

怜(相変わらず……。二人とも強いな……)

チャッ

怜(お、テンパイ)

―ピキッ―

怜(あっ、下家が三筒ツモ切り……。それで当たりや)

怜「ロン」パタッ

智葉「えっ」

照「えっ」

黒服B「えっ」

怜「?」



智葉「ロンってお前……」

怜「? ロンやで? 智葉の切ったそれ」

照「?」

智葉「いや、私が切ったって……。まだ何もしてないが」

怜「えっ」

照「まだガイトの番じゃない」

智葉「ああ、お前がまだ切ってないだろ」

怜「えっ」

黒服B「…………チョンボですかね」



怜「いや、えっ……? そんなはずは……」ポロッ

智葉「牌落としたぞ」

怜「えっ……」

智葉「?」

怜「…………」

怜(切ったつもりやった牌……。手の中にあった……)

怜(……まだ……切ってへんかった……)

智葉「……どうしたんだ?」



智葉「自分が切る前にロンって……。どういうことだ?」

照「……ツモ和了りの間違い?」

黒服B「……いえ、手は揃ってないようですが」

怜「…………」

智葉「?」

照「?」

怜「…………ごめん、チョンボやわ」



怜(そんなはず……ないねんけど……)

智葉「?」

怜「……ちょっと、その牌見てええ?」スッ

照「?」

怜(智葉のツモるはずやった牌……)

タンッ

怜(三筒……。当たりや)

黒服B「?」

怜(なんや今のは……)

怜(……一つ先が見えた……?)



その日の夜

怜「ふぅー……」フラフラッ

照「……どうしたの」

怜「なんや今日は疲れたわ……」

照「?」

怜「ちょっと集中しすぎたかも知れんなー」

照「…………」

怜「あんたらが強すぎるせいなんちゃうかー?」アハハ

照「…………」



怜「ちょっと休みたいわ。膝貸してーや」

照「?」

ポフッ

怜「あー、ええなー……」

照「……ひざまくら……」

怜「ものすご落ち着くわ、この感じ……」

照「…………」

怜(……ちょっと、細めやけどな)



怜「ふぅー……」

照「……無理はしないで」

怜「ん?」

照「そんなに疲れるなら……、無理しないで休んで。対局中に止めたってかまわない」

怜「おう、ありがとな」

照「……膝枕くらいなら、いつでもするから」

怜「なんや、今日は優しいやん」

照「…………」



照(今日最後の変なチョンボに……この疲れ……)

照(明らかに、なにかおかしい……)

照(…………)

照(これは……)

照(鏡に映っていた、自分の力に目覚める前兆……)

照(…………かもしれない)

照(…………でも)

照(こんなにフラフラになるなんて…………)



怜(ふう……。膝枕、してくれんのはありがとうなんやけど……)

怜(正直、ちょっと物足りひんよなー……。このボリュームじゃ)

照「?」

怜(智葉はどないやねんやろなー……、あんま変わらんかなあ)

怜(一回確認したいとこやけど……。たぶんぶっとばされるな、してくれ言うたら)

照「??」

怜(……竜華やったら……こんなもんやないやろな……)

怜(あー、やっぱり竜華が恋しいわー……)スリスリ

照「???」


――それからなんとなく。照の膝の上が、私の定位置になっていった。




12月

怜「クリスマスやん」

照「うん」

怜「パーティーしたいわ」

照「うん、ケーキ。あとターキー」

怜「寮生やもん、気軽に遊びに行かれへんねんからそれくらいしたいよな」

照「うん」



怜「黒服さんたちも意外と薄情やんなー。みーんな口揃えて『お嬢の許可がないと……』言うて」

照「勝手にやったらおこられる。しかたない」

怜「まあそやけどなー」

ガチャッ

怜「おー、来たなー」

智葉「すまんな、遅れた」

怜「遅かったやん」

智葉「ああ、ちょっとな」

照「?」



智葉「それじゃ今日も始めるか」

照「おー」

黒服A「あっ、そういえばお嬢。さっきのクリスマス会の件ですが」

智葉「! バカッ! その話はここでするな!」

怜「?」

照「?」

黒服A「は、はあ……」



部活終了後

照「クリスマス会……」

怜「言うたな、確かに」

照「……それに、私たちに聞かれたくないみたいだった」

怜「……どこかよそでパーティーやる気やな、間違いない」

照「私たちにないしょで……」

怜「ひとりだけクリスマス会楽しもうとは……。そうはいかんで」

照「……どうしよう」

怜「当日尾行やな、これは」



黒服A「お嬢、先ほどは一体……」

智葉「空気読めよバカ」

黒服A「は、はあ……」

智葉「恥ずかしいだろうが、あいつらに聞かれたら」

黒服A「そんな、気になさるほどのことでは……」

智葉「あいつらには絶対に喋るんじゃない、いいな」ギロッ

黒服A「お、押忍!」ゾクッ



照「でも、尾行なんて私たちには難しい」

怜「大丈夫やって」

照「分からないように後をつけるのも大変だし、車に乗られちゃったりしたら追いつけない」

怜「心配せんでええ、ちゃんと考えあるて」

照「考え?」

怜「あんたのおでかけバッグ出しや、照」

照「?」

怜「そこについてるキーホルダーあるやろ。前に私と智葉があげたやつ」

照「??」



照「これ?」

怜「そう。あの新宿迷子事件の後に黒服さんが買うてきてくれはった、照専用まいご追跡GPS!」

照「えっ」

怜「これを当日、智葉のバッグに入れたったらええ。コソコソついて行かんでも、車や電車乗られても問題なしや」

照「そんなのあったんだ」

怜「おう、またいつどこで迷子なってもええようにな」

照「必要ないのに。まいごなんてこどもみたい」ショボン

怜「もうちょい自分のこと冷静に見つめ直したってもバチ当たらんで?」



クリスマス当日

智葉「じゃ、今日の部活終了だな」

怜「おー、おつかれー」(棒読み)

照「おつかれさま」(棒読み)

智葉「?」

怜「ほな照、早よ帰るでー」ギクシャク

照「うん」いそいそ

コソコソッ

智葉「……なんだあれは」



怜「よっしゃ、ものっすごい自然に出てきたで」

照「うん、さすがわたしたち」

怜「ほな、スマホのGPSアプリで受信して……」ピッ

ピコン ピコン

怜「出た出た」

照「おー」

怜「よっしゃ、行くで! ……っと、その前に」

ギュッ

照「? 手をつないだ……」

怜「…………絶対、手ぇ離したらあかんで。ええな」

照「???」



黒服A「お嬢、それでは参りましょう」

智葉「ああ」

バタン ブロロロロ…

怜「車乗ったで!」

照「やっぱり」

怜「ほなもう、焦ってもしゃーないわ。止まったとこ目指してゆっくり行こ」

照「うん」

…………

……

怜「……で、着いたけど……この建物……?」

照「これは……」

怜「児童養護施設……?」



施設の庭

怜「裏に回ってきたけど……、どこか入られへんかな」

照「…………あっ、あれ」

怜「ん?」

黒服D「よし、ビデオカメラセット!」

黒服E「はいっ!」

黒服F「絶対見つかるなよ、お嬢には内緒だからなこれ!」

黒服E「わかってます!」

怜「……黒服さんたちおるな」



怜「何やっとんねや、あれ……?」

照「隠れて中をのぞき見してる」

怜「……完全に不審者やないか」

照「私たちも人のことは言えない」

怜「あっちの窓やな、覗いてるの」

コソッ

怜「…………これは…………!」



施設内

職員「はい、今日はクリスマス会です! みんなのところに、今年もサンタさんが来てくれたぞー」

子供「おー」

智葉「メリークリスマス。みんないい子にしてたか?」

子供「わぁー」

子供「サンタだー」

子供「また来てくれたー、お嬢サンター!」

智葉「ああ、もちろんさ」



智葉「ほら、プレゼントだぞ」

子供「わぁーい!」

子供「やったー!」

子供「おじょーさんたー、いっしょにうたうたってー」

智葉「うん、歌おう」

子供「けーきたべるー」

智葉「ああ、みんな順番にな」

子供「めりくりー」

智葉「……ああ、めりくり」フフッ

ワイワイ アハハハハ



怜「…………」

照「…………」

怜「……お嬢サンタやて」

照「…………うん」

怜「……こんなんやっとったんか……」

照「…………うん」

怜「…………まったく」

照「…………まったく」

怜「ほんま、まったくやな。うちの部長は」

照「うん、ほんまにまったくや」

怜「そこはマネせんでええわ」



黒服E「今年も、無事できましたね」

黒服F「ああ」

黒服D「親をなくしてここに引き取られた子供たちのために、お嬢が毎年やっているこのサンタ……」

黒服F「クリスマスだけは何をおいても優先してきた、お嬢にとって最も大事なイベントだ」

黒服E「うちが経営している施設とはいえ、よく毎年……。もう四年目になりますか?」

黒服D「ああ」

黒服E「すばらですよね」

黒服F「ああ、あれこそ我々がお仕えするすばらなお嬢だ」

黒服D「はい」

怜「ほーん、そうなんや」

黒服D「!」ビクッ



怜「……聞かせてもろたで、黒服さん」

黒服D「園城寺様……宮永様……」

黒服E「ど、どうしてここが……」

黒服F「ち、違うんです! 決してお二人をのけ者にしてたわけでは!」

怜「そんなんええですから。それより……」

黒服D「?」

怜「サンタの服、もう二着あらへんの?」



クリスマス会終了後

智葉「じゃあ、またな」

子供「お嬢サンタ、さよーなら!」

子供「ありがとー!」

子供「また来てね!」

職員「……今年もありがとうございました、お嬢様」

智葉「ああ」

スタスタ

黒服A「……お疲れさまでした、お嬢」

智葉「ん」

怜「おう、お疲れさん」

照「お疲れ」

智葉「!」



智葉「お前ら……どうしてここに……」

怜「サンタやからな」

照「うん、怜サンタと照サンタ」

智葉「……その衣装どこから」

怜「どこでもええやん」

智葉「…………何しに来たんだよ」

照「サンタが来るのはプレゼントをあげるため」

智葉「…………ここの子たちになら、もう終わったぞ」

怜「もう一人おるやん、まだプレゼントもろうてへん子が」

智葉「?」



怜「まあ別に、ええ子ってわけやないけどな」

照「うん、困った子」

怜「おう、せやな」

智葉「…………」

怜「言うてくれたらなんぼでも手伝うたったのに……、かわいい部員をほったらかしにしよった困った子や。ほら」

スッ

智葉「いちごショートケーキみっつ……」

怜「近くのケーキ屋さんで買うてきた。ふたりのおこづかいやで」

照「いっしょに食べよう」

智葉「お前ら……」

怜「メリークリスマス」

照「メリークリスマス」

智葉「…………ああ、メリークリスマス」



怜「……あ、それはそれとしてや」

智葉「?」

怜「明日はちゃんと部室でパーティーやるで」

照「うん、ターキーも食べる」

智葉「何言ってんだ。クリスマスはもう終わりだぞ」

照「部室ではまだやってない」

怜「当日やなくたって、コンディションのええときにやったらええねんて。2と4のつく日は誤差の範囲や」

智葉「ひと月の半分近く該当するぞそれ」

怜「こまかいことはええってー」

照「たーきー」

智葉「……やれやれだぜ」フフッ




3月

智葉「……そんなこんなで、もう3月か」

黒服A「ですねー」

智葉「結局、一年が終わろうとしているわけだが……」

黒服A「はい」

智葉「見事に、部員は増えなかったな」

黒服A「どうしてなんでしょうねー」

智葉「お前らが部室に溜まってるからだよ! 勧誘しようにも人が寄りつかん!!」

黒服A「…………!」

智葉「……その発想は無かったわって顔やめろ、腹立つ」

黒服A「ま、まあ新入生にご期待ください! 我々も頑張ってますから!!」

智葉「…………どうだかな」




一年生
二年生(前)
二年生(後)
三年生
2016/06/04-06/06 SS深夜VIP
智葉「私立先鋒学院高校麻雀部」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1465045109/