高校二年生 4月

黒服A「さあ! 今日から新年度の部活動開始ですよ!」

智葉「……まだ居る気なのかお前らは」

黒服A「今回も全国各地にスカウトを飛ばし! 必ずやお嬢の力となれる人材を勧誘してきました」

智葉「……去年も聞いたが。そのスカウトってのは誰がやったんだ」

黒服A「我々ですが?」

智葉「…………」

黒服A「?」

智葉「……期待できんな」



黒服B「はっはっは、お嬢は心配性ですね」

智葉「お前らにマトモな人材が集められるとは思えん」

黒服B「何をおっしゃいます! 打率10割ですよ!!」

智葉「……何人呼んできて10割なんだ」

黒服B「四人です」

智葉「…………少ないだろ」

黒服B「部員は四人必要と! 昨年お嬢よりアドバイスいただきましたので!!」

智葉「……お前ら仕事できないタイプって言われるだろ」

黒服B「?」



智葉「じゃあ今年こそ、新入部員が来る前に帰ってくれ」

黒服C「?」

智葉「その微塵も想定してなかったですって顔やめろ、また怖がられて逃げられるだろうが」

黒服C「スカウトのときに会ってますから、われわれの存在は皆さんご存知ですよ?」

智葉「去年ドン引きされてたのをもう忘れたのか。顔じゃなくて行動だよお前らの」

黒服C「???」

智葉「……本気でわかっとらんのか……」



智葉「とにかく。去年のような大騒ぎをされたらかなわん、早く帰れ」

黒服D「ははっ、わかりました。今日は準備万端できてますから、かまいませんよ」

智葉「……準備?」

黒服D「はい! 初顔合わせですから、対面形式の長机と椅子をご用意しました!」

怜「面接試験みたいやな」

智葉「……大げさなんだよ、いつもいつも」

黒服D「ではごゆっくり! いつも通り階下に控えておりますので!」



コンコン

怜「どうぞー」

煌「失礼します!」

成香「こんにちは……」

漫「失礼します……」

玄「よろしくお願いします!」

怜「来たなー」

照「……新入生さん」

智葉「まあ……、それじゃ座ってくれ」

煌「はい!」



智葉「では最初の君、まず自己紹介を」

煌「はい! 信州上伊那は高遠原中より参りました、花田煌と申します!」

照「!」ドキッ

智葉「信州……。長野県か」

怜「また誰とも遠いとこやな……」

煌「よろしくお願いします!」

照(…………ご近所さん)



智葉「では、本校へ入学した動機を」

煌「はい! よりすばらな方々と麻雀が打てる高校をと考えていましたら、ちょうど声をかけていただきまして!」

智葉「ふむ」

怜「マトモやん」

智葉「普通、入学志望動機ってのはマトモなもんだがな」

煌「すばらっ!」

照(……大丈夫。中学は違うはず……)ドキドキ



智葉「じゃあ次の君。自己紹介と志望動機を」

成香「あ、北海道から来ました……。本内成香です……」

怜「お次は北の大地か……。バラッバラや」

照(……おいしいものの宝庫)

成香「えっと……動機はちょっと言いにくいんですけど……」

智葉「かまわんよ、言える範囲で」

成香「実家の牧場が……、ちょっと経営が苦しくて……」

智葉「えっ」

成香「ここなら、特待生で学費免除になるって聞いて……」



成香「あと、寮費も無料でいいから食い扶持が浮くし……牧場に融資もしていただけると……」

怜(…………重いわ)

智葉「えっと、その話は誰から?」

成香「黒い服を着たスカウトの方でしたけど……」

智葉「…………」

怜「…………」

智葉(あいつら…………。後でぶっとばす)

怜「ただの身売りやんけ……」

智葉「言うな」



智葉「……では次」

漫「はい……。大阪から来ました、上重漫です」

怜「! ……ふーん、大阪……」

漫「うちも実家がちょっと……。お好み焼き屋なんですけど」

照(大阪のお好み焼き屋さん……有能)

漫「お父ちゃんがちょっと下手こいて赤字続きやったんですけど、ここに入れば資金援助してくれはると……」

智葉(……こいつもか)

漫「ここだけの話、ちょっとヤバイとこからしてた借金を片付けてもろうて「もういいよ」

漫「あ、はい……」

智葉「…………頭が痛い」



智葉「じゃあ最後」

玄「はいっ! 奈良県・阿知賀女子学院中等部より参りました、松実玄と申します!」ズビシッ

智葉「……念のために聞くが、君の実家も何か商売を?」

玄「はい! 松実館という旅館を経営しています!」

智葉「…………まさかとは思うが」

玄「このたびはうちの総リフォーム費用を出していただきまして、ありがとうございました!!」

智葉「おい待て」

玄「更に、旅館経営を学ぶための学費やその他寄付金までいただいて! とっても感謝しているのです!!」

智葉「……なにを考えてんだあいつらは……」

怜「まあ、アタマ抱えたくなんのはわかるけどな」



智葉「……じゃあ、こっちから何か質問するか?」

照「はい」

智葉「はい照」

照「地元のおいしいお菓子を教えてください。それを麻雀部に提供できるかどうかも」

智葉「却下」

照「えぇー」

智葉「却下だ」

照「…………百歩譲って、甘くないやつでもいいから」

智葉「却下だ」



智葉「怜……、何か頼む。お前だけが頼りだ」

怜「んー、急に振られても……。ほな、ひとりずつ」ガタッ

智葉「?」

怜「ちょっと膝枕させてもろうてええ?」

成香「えっ?」

玄「膝枕ですか……?」

智葉「おい、何を」

怜「大丈夫やから」

四人「???」



怜「ん」ポフッ

煌「?」

怜「……細い」

……

怜「ん」ポフッ

成香「?」

怜「……狭い」

……



怜「ん」ポフッ

玄「?」

怜「……上質」

……

怜「ん」ポフッ

漫「?」

怜「……暫定首位」

四人「?????」



怜「……大体わかったわ」

智葉「何がだよ」

怜「ほな、質問やけど……。特にそっちの二人」

玄「?」

漫「?」

怜「どんくらい長いこと膝枕されても平気?」

玄「へ?」

漫「は?」

智葉「……どいつもこいつも……」



智葉「……まあ、各々事情はあろうかと思うが、ここに集まってくれたことはうれしく思う」

怜(……強引にまとめよったな)

智葉「共に頑張っていこう。よろしくな」

照「うん、一緒に頑張ろう」

怜「よろしゅーな」

成香「は、はいっ! よろしくお願いします!」

漫「がんばります!」

煌「すばらっ!」

玄「…………」

玄(ふぅ~む、なるほどなるほど~)

玄(これは、なかなかになかなかだねー……)



玄(この私、松実玄がお姉ちゃんやあの部室と離れてまでこの高校に来た理由……)

玄(表向きは話した通り。松実館の未来のためと、貰っちゃった莫大な援助金のため……)

玄(……そして、最後は笑顔で送り出してくれたお姉ちゃんに、私の成長した姿を見せるため!)

玄(でも!)

玄(実はもうひとつ、話さなかった大きな理由があるんだよ!)



―回想―

黒服B「ということで、ぜひうちの高校に入学していただきたいと」

玄「ひとつ、大事なことを教えてください」

黒服B「なんですか?」

玄「その部に、おもちはありますか?」

黒服B「お、お餅ですか……? 必要ならば、いくらでもご用意いたしますけど」

玄「!!」

―回想終―


玄(……そう、ここに来ればおもちたっぷり選り取り見取りだと! スカウトの人に聞いたからなのです!!)

玄(それで喜び勇んでやって来た、今日のこの日だったのですが……)

玄(……蓋を開けたらこの有様だよ!)



玄(まったく、やれやれなのです)

玄(右を見ても左を見ても……、とんだおせんべいの厚さ比べ。おもちは上重さんしかいないのです)

玄(…………)

玄(…………)

玄(…………)

玄(これはもしかして……騙された……?)

玄(…………)

玄(……と! 普通の人なら思うでしょうが!!)キラーン



玄(あの髪を縛ったメガネの先輩……! 私の目はごまかせないよ!)チラッ

智葉「?」

玄(押さえつけて着やせしてるように見えるけど……、あれはかなりのおもち……!)

智葉「どうかしたか?」

玄「はいっ! 私もひとつ確かめたいことがありまして!」

智葉「ん?」

玄「先輩の、本当の姿を見せてください!」

智葉「??」

玄「とーうっ!!」

ガバチョッ

智葉「んなっ!?」



グイグイッ ガバッ

玄「やっぱり……! さらしで押さえつけてる!」

智葉「ちょっ、何してんだ! 上着を脱がすな!」

玄「こんなおもちの敵の悪い布など! どっかいっちまえーなのです!!」

スルスルッ

智葉「あっ、バカっ、よせ!!」

玄「ふはははー! よいではないかよいではないかー」

ドタバタドタバタ

煌「こ、これは……」

成香「一体……」

智葉「おい、見てないで助けろ!!」



怜「……お呼びやで」

照「うん」

怜「ほな、助けたるか」

照「…………どっちを」

怜「……そら勿論」

照怜「おもしろそうな方を!!」



怜「よーし智葉、今助けたるでー」(棒読み)

ガシッ

智葉「うわっ、おい怜! 放せ!!」

玄「うふふふふー、よいではないかー」

智葉「ちょ待てよ! 放せって!!」

照「もっとこうしたほうが解きやすい」グイグイッ

玄「あ、ありがとうございます!」

智葉「おい照! なんで手助けしてんだ!!」

怜「はいはーい、危ないからメガネ取ろなー」スッ

智葉「あっ、こらっ!」



ドタバタッ スルスルッ

バッ

玄「とったどーー!!!」

智葉「わっ、ちょっ、バカ、危なっ」

フラフラッ

ドンガラガッシャン


むにゅっ



成香「あ……」

漫「これは……」

煌「お二人が絡まりあって倒れて……」

照「松実さんの顔の上に……」

怜「智葉の生おもちが……思いっきりのしかかった……」

智葉「…………」

玄「フヘヘヘヘ…… 幸せ……」



智葉「……なんなんだよもう……」ムクッ

パラッ

怜「あっ、髪の毛ほどけた」

智葉「ん?」ファサッ

煌「おお……」

成香「わぁ……」

智葉「?」

漫「髪がほどけて……メガネ取れたら……」

煌「これはこれは……。ずいぶん印象が違いますね……」

成香「素敵な美人さんです……」

智葉「…………」

煌「すばらっ!」



怜「そして……」チラッ

智葉「?」

怜(……でかい)

照(大きい)

成香(素敵です……)

煌(こちらもすばら!)

漫「?」

智葉「?」

玄(おもち……ウフフ……)



バタンッ

黒服A「お嬢! どうかしましたか!」

黒服B「フヒッ、どうしたんですかお嬢! 上半身裸で!」

智葉「ちょっ、お前らは入ってくるな! 出てけー!」

バキッ

黒服A「ぐほっ!」

智葉「出てけ! 出てけー!」

ドカッ ドスッ バコッ

黒服B「がはっ!」

黒服C「おふっ!」

黒服D「ごへっ!」

智葉「出てけ! 出てけ! 出てけー!」



バタン ガチャリ

智葉「ハァ……ハァ……ハァ……」

怜「…………あっ」

照「…………」

怜「なあ、背中……」

照「うん」

怜「無いな、入れ墨」

照「うん」



智葉「さて…… お前ら……」ゴゴゴゴゴ

怜「あっ」

照「まずい」

智葉「どういうつもりか説明してもらおうか……」ゴゴゴゴゴ

怜「あんたら、今日は帰り」

玄「えっ」

照「私たちが止めておく。心配しないで」

煌「は、はあ……」

怜「まだ死にたないやろ、ほら早よ!」



智葉「待てこらぁーーー!!!」

成香「ひっ」

煌「に、逃げましょう!」

漫「ほな、お言葉に甘えて!」

玄「???」

ダダダッ

バタン

智葉「…………」



智葉「ったく…… なんなんだよ今日は……」

怜「まあまあ、かわいい後輩とのスキンシップやん」

照「おこらないで」

智葉「お前たちも率先して参加してたよな?」ギロッ

怜「…………」

照「…………」

智葉「目をそらすな」



怜「私らが謝るから、ゆるしたってーな」

照「うん、まだ接し方がよく分からなかっただけ」

智葉「お前らは接し方が分からん先輩に対してまず服を脱がすのか」

怜「…………」

照「…………」

智葉「目をそらすなよ」

怜「…………悪かったて。ほいでもやで」

智葉「?」

怜「そないに言うなら、こっちかて智葉に言いたいことあるわ」

照「うん」

智葉「?」



怜「智葉にはガッカリや」

照「うん、失望した」

智葉「何がだ」

怜「うちらと同じ側の人間や思うてたのに……。とんだおもちやったな」

照「うん、おっきかった」

智葉「何がだよ」

照「…………内緒」

智葉「は?」



怜「……ほいでも、安心もしたわ」

照「うん、した」

智葉「?」

怜「背中、なんも無かったからな」

照「うん、無かった」

智葉「背中?」



智葉「意味がわからんぞ」

怜「大丈夫やで。私たちは心が広い」

照「ガイトがおもち側の人間でも、百歩譲って許してあげる」

怜「おう、言うてもオバケほどでかい事もないしな。……その代わり」

智葉「?」

怜「おふろはいろーやー、人も増えたしー(入れ墨なかったんやしー)」

照「はいろー」

怜「がっしゅくー」

照「がっしゅくー」

智葉「……結局その話か」



智葉「わーかったよ……。5月の連休にでも一回やるか」

怜「わーい」

照「わーい」

智葉「その代わり。本題の麻雀はきっちりやるぞ」

怜「むうー」

照「えぇー」

智葉「当たり前だ」



次の日

智葉「じゃあ、今日から部活スタートだ。早速打ち始めていこう」

照「おー」

怜「でも、七人ってなー」

智葉「……なんだよ」

怜「また4で割ったら3余るやん」

智葉「いいよ、四人いれば卓は埋まるんだ。交代で打てばいいだろ」

怜「卓が埋まる?」

智葉「ああ」

怜「卓ふたつあるで、この部室」

智葉「!?」



智葉「な……、えっ?」

怜「ほら」

照「……うん」

智葉「おい、いつからうちの部は卓ふたつになったんだ?」

怜「いつの間にかあったなあ」

照「昨日までは無かったと思う」

智葉「…………」

扉の外

黒服A「…………」ニコニコ

怜「めっちゃ手ぇ振っとるで」

智葉「あいつら…………」



煌「あの……。あの方々は……?」

怜「おう、あれこそうちの部の秘密兵器。智葉部長様の忠実なるしもべたちや」

成香「しもべ!?」

智葉「嘘を教えるな、人聞き悪い」

玄「入学スカウトの方じゃ……?」

怜「側近やで、側近」

照「うちの若い衆」

智葉「嘘を教えるなと言ってるだろうが」



智葉「……せっかく、もう要らんと思ってたのに……」

怜「ええやん、もう今更やで?」

照「今までどおりでいい」

怜「黒服さんのおかげで、ものすご色々助かっとんねんで?」

照「うん、すごく感謝してる(主におやつとターキーに)」

智葉「…………」

漫「でも、七人で卓ふたつってどうすんねやろー?」

玄「あの黒服さんたちも一緒に打つのかな……?」

怜「ほら、もう認知されてもうてるし」

智葉「…………ちっ」



黒服E「どうぞ、お好きな方の卓へ。私は空いた席に入らせていただきます」

成香「あ、はい……」

智葉「……フン」

黒服F「では、今日は我々二人。いつも通りに務めさせていただきますね」

黒服E「今年度も引き続きよろしくお願いします、お嬢」

智葉「…………」プイッ

黒服F「花田様、お飲み物は何になさいますか?」

煌「あっ、そんな! お茶の用意くらい我々下級生にお任せください!」

黒服F「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですので」



智葉「いいぞ、やらせておけ」

煌「そ、そうですか……?」

黒服F「我々はこれが仕事で生きがいでございます。お飲み物、何になさいますか?」

煌「あ、それでは緑茶を……」

黒服F「かしこまりました。どうぞお座りになってお待ちください」ニコッ

煌「紳士的な方々ですね! すばらです!」

黒服F「権田と申します。最年長で趣味はボウリング」

智葉「黒服Fな」



一週間後

智葉「よし、今日も終了だ」

怜「おつかれー」

漫「お疲れ様でした!」

玄「ありがとうございました!」

照(一通り……。新入生さんを鏡で見た……)



照(松実さんは……凄く特殊な力の持ち主)

照(ドラが集まる……、それは大きいけれど隙も多い。おもちの話じゃなくて大きいけれど隙も多い)

照(集まったドラを手放そうとしないから、打ち方が凄く限定される)

照(……それは、気持ちが縛られているってことかもしれない)

照(逆に、ドラを切ったらどうなるのか。たぶんそこが彼女の鍵……)

照(…………打ち方も、精神的にも)



照(上重さん……)

照(当たれば大きいけど、その大爆発が出せるかどうかはムラがある)

照(そこがまだまだ未完成……。だけど、もっと精度が洗練されたら……)

照(安定して爆発ができるようになったら……。すごく面白い)

照(不安定なのは松実さんと一緒かもしれないけど……)

照(心をきつく縛っているものは無い感じかな。それならある程度、努力で改善できそうかも……)



照(花田さん……。前二人のような爆発力があるわけじゃないけど)

照(……正直、彼女が一番怖かった)

照(どれだけ突き放しても、決して諦めず食らいついてくる心の強さ)

照(点数は私が勝っているはずなのに、どこかどうしても敵わないかもと思わされる)

照(……そんなことを思ったのは初めて)

照(…………)

照(…………)

照(…………違う。二回目)

照(……どんなに私のすべてを尽くしても、プラマイゼロにされたあのとき以来……)



照(そして……本内さん……)チラッ

成香「!?」ビクッ

照「…………」

成香「…………?」ビクビク

照(…………かわいい)

成香「?」

照(……かわいい。以上)



照(いままでは……、ガイトと怜としか打ってなかった) ※黒服の存在は捨てるっす

照(……その前は家族で打ってただけ)

照(それが、四人も増えた)

照(こんなに大勢の人と毎日打つのは初めて)

照(…………)

照(……たのしい)ウフフッ




5月 ゴールデンウィーク

怜「……ついに来たで」

照「うん、ねんがんの」

照怜「がっしゅく!!」

智葉「…………ああ」

黒服A「……では皆様、ご乗車の準備はよろしいですか?」

黒服B「出発いたします!」

智葉以外「おー!」

智葉「…………予想はしてたが。やっぱりこいつらの運転で行くのかよ」



一時間後 山の中の合宿所

ブロロロ… キキッ

黒服B「はい、到着でございます!」

漫「うわぁー、山小屋やー」

玄「こんなところに合宿所があったんですねー」

成香「緑がいっぱいで空気も美味しい、素敵な場所ですー」

怜「ええやん、ええとこやんー」

照「……静かでいい」

煌「すばらですね!」



智葉「学校所有の合宿所……。という名の、うちの保養施設の使いまわし」

黒服A「ええ、ちょうど使ってなかった物件があってよかったです」

智葉「高等学校の持ち物にしては過ぎたものだがな」

黒服A「まあ、新設校の設備すべてを一から作るというのは、さすがに無理がありますしね」

智葉「こんな上等な山小屋を高校が所有しているほうが無理あるだろうが」

黒服A「いいじゃないですか。みなさん大喜びですよ」

ワイワイキャッキャッ

智葉「……ふん、まあいい。使えるものなら使わせてもらうだけだ」

黒服A「はい! 我々もがんばります!」

智葉「……お前たちのことじゃない」



成香「建物の中も綺麗ですねー。麻雀卓も二台完備ですー」

煌「キッチンもすばらな広さですよ! 野外の設備も充実しています!」

玄「薪のかまどがあって、丸太テーブルがあって……。キャンプ場みたいだねー」

漫「うわ、すっごいでかいバーベキュー鉄板やー。これは腕が鳴りますねー!」

怜「お風呂は温泉の露天風呂やってー」

照「おぉー」

智葉「ほらほら、騒ぐのは後だ。まずは麻雀だぞ」

六人「はーい! がんばります!」

智葉「……こういうときだけいい返事だな」

…………

……



対局終了後

黒服A「お嬢、本当にいいんですか?」

智葉「……最初から話してただろう。お前たちは送り迎えと麻雀だけだ」

黒服A「…………了解しました。寂しいですが、我々はこれにて」

黒服B「名残惜しいです……」

智葉「十分だろう。大体送り迎えだって、本当は公共のバスでよかったんだ」

黒服B「いえ……、ここ一応うちの私有地ですんでバスは無いです」フヒヒッ

智葉「…………フン」



黒服C「それでは、また明日。麻雀を打つ時間にお伺いします」

智葉「ああ」

黒服D「何かありましたら、遠慮なくお電話くださいね! すぐに参ります!」

智葉「いらん」

黒服C「ははっ、相変わらずお嬢は手厳しい」

智葉「……素直に今日はありがとうで終わりにさせろよ」

黒服D「はっはっは、これはこれは。……では、失礼します」

智葉「……フン」

ブロロロロ……

黒服E「いいんですか?」

黒服A「さすがにお泊りをご一緒することはできんからな」

黒服B「ああ。それに……、できる限りの準備はして置いてきた」



黒服C「麻雀卓はもちろん、三日分の食材、花火、キャンプ用品……」

黒服D「……それに、あの巨大なバーベキュー鉄板」

黒服E「あんなの、よく手に入りましたね?」

黒服F「ああ、うちの倉庫に眠ってたんだ」

黒服A「特注で作らせたきり、お蔵入りしてたらしい。コードネーム「ヤキドゲ」という一品だ」

黒服E「ヤキドゲ……? どういう意味が?」

黒服A「知らん」

黒服E「特注品なんて、使っちゃっていいんですかね……?」

黒服A「まあ大丈夫だろ、埃かぶってたし」



山小屋のキッチン

煌「さて、それでは夕食の準備にかかりましょう!」

全員「おー!」

怜「何作るんー?」

煌「食材も設備もたくさん揃ってますから、なんでもできますよ!」

照「うん、黒服さんがいっぱい置いていってくれた」

智葉「あいつらめ……」

煌「すばらなご協力に感謝ですね!」

智葉「…………」



成香「……えっと、私がお願いしてたものは……。もう冷蔵庫の中かな?」

ガチャッ

成香「……、あった!」

煌「それは?」

成香「はい、今日のために私の実家から送ってもらいました……」

玄「なになに?」

成香「じゃーん! うちの牧場で作っているお肉と牛乳です! おいしいですよ!」

玄「おぉー」



怜「でも私、牛乳はちょっとな……」

照「……飲みすぎたらおなかがいたくなる」

成香「ウフフッ、大丈夫ですよ。これがありますから」スッ

怜「?」

成香「これも黒服さんに用意していただきました! アイスクリームマシーンです!」

照怜「 ア イ ス ク リ ー ム ! 」

成香「はい、私が作りますから!」

玄「成香ちゃん、アイスクリーム作れるの!?」

照「あなたが神か」

怜「いや、天使やで」

煌「すばら!」

成香「機械を使えば、そんなに難しくないですよ」ウフフッ



煌「じゃ、アイスよろしくです、成香!」

成香「はいっ!」

煌「そうしましたら、我々は……。外の用意をしましょうか」

玄「うん」

煌「山小屋のキッチンもいいですけど、せっかくだからかまどですねー」

漫「本格的やなー」

煌「とりあえず今日は、豚汁でも作りましょう。明日はカレーもいいですね」

玄「なんだか難しそう……」

煌「大丈夫、薪で火を焚くだけですよ」

玄「でも、薪のかまどなんて使ったことないよ……」

漫「私もや……」

煌「おや、そうですか? じゃあ私が!」



ボォォォッ… パチパチッ…

煌「はい、火おこしできましたよ!」

煌「えっ、薪に虫? そんなものはヒョイッでポイッです!」

煌「あっ、そこにテント張るならここの紐をぎゅっとしてですね……」

漫「手馴れた感じやなー」

玄「煌ちゃんすごーい」

煌「これでも山の子ですからね! アウトドアは日常茶飯事です!」スバラッ

玄「!」ドキッ

漫「? どうかしたん?」

玄「う、ううん! なんでもないよ……」

玄(…………山の子……か……)



煌「じゃあ、こちらのテーブルに食材を並べていきましょう」

漫「うん。ほなテーブルクロス敷いて……」

玄「あっ、テーブルクロスなら私が!」

漫「?」

玄「ふふふ、見ててね……。とうっ!」

ピッ フワッ

パサッ

漫「おぉー」



煌「一発で綺麗に敷きましたねー」

漫「かくし芸やー」

玄「テーブルやまな板のことはおまかせあれ! 松実館のお手伝いでいつもやってましたから!」

漫「やっぱり旅館の娘やでー」

玄「ふっふっふ。和食でも洋食でも、なんでもござれだよ!」

煌「すばらっ!」

玄(……ほんとはまな板よりおもちの方が得意っていうかそっちが専門なんだけど!!)

煌「ん? 何か言いました?」

玄「い、いえ何も!」



ゴォッ ボォォッ

煌「はい、この大きな鉄板にも炭が入りました!」

玄「成香ちゃんがくれたお肉でバーベキューだね!」

漫「フフッ、鉄板やったら私の出番やな」スチャッ

煌「漫……。それは?」

漫「マイお好みヘラにマイトング! 持ってきといてよかった!」

煌「おお」

漫「お好み焼きは勿論! 焼肉焼きそば、なんでもいけるで!」

玄「さすがお好み焼き屋さん……」

煌「じゃあ、鉄板は漫にお任せしちゃいましょうか!」

漫「ええけど、周りのことは手伝ってやー?」

煌「アハハッ、もちろん! なんでも言ってくださいね!」



玄「はい! お肉とお野菜切れましたよー!」

漫「ほな焼き始めるでー?」

玄「お皿とお箸はおっけーです!」

成香「それじゃ、冷蔵庫からジュース出してきますね。バケツに氷を入れて冷やしておきましょう!」

煌「あっ、一緒に行きますよ! 重たいしスイカもありますから!」

玄「飲み物のコップもおまかせあれ!」

ワイワイキャッキャッ

怜「…………」

照「…………」



怜「よう働くな、あいつら」

照「うん」

怜「こんだけ働いてくれとったら、私らのやる事なんて無いよな」

照「……むしろ妨げになることはすべきでない」

怜「せやな」

照「邪魔してはいけない。後輩のがんばりを見守るのも先輩の務め」

怜「ええこと言うやんけ」



照「それに、私たちには大事な仕事が残っている」

怜「ん?」

照「みんなががんばって作った料理を食べる役」

怜「おぉー」

照「そう、すべての料理は食べておいしいと言う人がいなければ未完成」

怜「そこに気づくとは、さすが照や」

照「それほどでもない」

怜「こんな大役は先輩が引き受けたらんとな」

照「うん、可愛い後輩を信じて待つのも大事な仕事」

怜「せやな」

智葉「働けお前ら」



怜「な、なんや智葉ー、どしたん急にー」

智葉「下級生が頑張ってるのに、何してるんだお前らは」

怜「いやー、せっかくええ調子でやっとるとこ邪魔したらあかんやろー」

照「後輩たちの自主性を尊重しその成長を期待して」

智葉「手伝いくらい、邪魔せず自主性尊重したままいくらでもできるだろうが」

怜「フッ、一年も付き合うて私らのダメ人間ぶりをわかっとらんとは、まだまだやな智葉」

智葉「自慢することかよ」

照「得意分野をほめてこそ人は伸びるもの。決して私たちが苦手だとかやりたくないわけじゃない」

智葉「いいから働けっての」



智葉「大体お前らはいつも…………」

煌「部長ー! ちょっとこちら見ていただけますかー?」

智葉「あ、ああ今行く」

タッタッタッ

怜「…………」

照「…………」

怜「……助かったな」

照「うん」

怜「こんなヘルプまでできるとは、流石やな煌」

照「……すばら」



漫「はい、最初のやつあがりですー!」

玄「失礼します! お料理をお持ちしました先輩!」

怜「うむ、くるしゅーない」

照「おいしそう」

漫「あっついうちに食べ始めちゃってくださーい!」

怜「おー、ほなお先ー」

照「お気遣いありがとう」



怜「お好み焼き……」モグモグ

照「焼肉……」ムシャムシャ

怜「やきそば……」パクパク

照「アイス……」ペロペロ

怜「……うへへ……美味いなぁ……」

照「……幸せ……」

怜「…………」

照「…………」

怜「やってよかったな、合宿」

照「うん、よかった」

智葉「ったくあいつら……」



成香「あの……。部長さんも……」

智葉「ん?」

成香「アイスクリーム……どうぞ……」(恐る恐る)

智葉「…………」

成香「…………」ドキドキ

智葉「ああ……。ありがとう」

成香「!」パァッ

煌「すばらっ!」

智葉(…………やれやれ。説教は後か)



智葉「……じゃあいただくよ」

成香「はいっ!」

パクッ

智葉「これは…………美味いな…………」

成香「よかった!」ニコッ

煌「よろしければこちらもどうぞ! トッピングのきな粉と黒蜜です!」

智葉「お、おおそうか。それじゃ」

パラパラッ

漫「バニラアイスにきな粉と黒蜜……?」

玄「最近流行ってるみたいだよー」

智葉「…………エホッ ケホッ ゴホッ」

煌「おや?」



夕食終了

全員「ごちそうさまでしたー!」

漫「ふう……。ええ仕事できました」

成香「おいしかったです……」

玄「おなかいっぱいだねー」

煌「鉄板焼きもアイスもすばらでしたね!」

智葉「よし、後片付けは二年生に任せろ」

怜「えっ」

照「えっ」



智葉「皆よく働いてくれたからな、先に入ってくつろいでいてくれ」

成香「それはでも……」

漫「ええんですか?」

智葉「問題ないぞ。お疲れ様だったな」ニコッ

玄「そうですか? では遠慮なく!」

煌「お気遣いすばらです!」

照「そんなぁ……」

怜「殺生やわぁ~、部長~」ウルウル

照「ぶちょー」ウルウル

智葉「そんなかわいそうな目をしても駄目だ。ほら、私も一緒にやるから」

照怜「…………はい」




夕食後

怜「やっと片付け終わったで……」

照「疲れた」

煌「あっ、先輩方お疲れ様です! 一緒にこれ、どうですか?」

照「……卓球?」

怜「定番やな」

智葉「そんなもんまであったのか……」



漫「対戦しましょう、先輩!」

怜「……ええけど。私とやるいうなら……」

漫「?」

怜「もちろん、罰ゲームありやで」キラッ

漫「! ……いいでしょう、受けて立ちます!」

煌「おっ、やる気ですね漫!」

怜「いくで!」

漫「はいっ!」

煌「では、漫vs園城寺先輩! どうぞ!」ピッ



怜「よっ、ほっ、たっ!」

カコン カコン カコン

漫「やりますね、先輩!」

カコン カコン カコン

怜「漫こそな!」

カコン カコン カコン

成香「うわぁー……」

玄「二人ともすごーい」



怜「とあっ! たぁっ!」

カコン カコン カコン

智葉「後片付けの後でよく動くな、お前」

怜「温泉卓球は別腹や!」

智葉「まだまだ労働が足りてなかったか?」

怜「うっ」ドキッ

スパーン

漫「よし!」

怜「しまった……。集中が……」



怜「くっ……、負けへんで……!」

…………

……

怜「とあっ!」

スパーン

\おぉー/

煌「ゲームセットです! 勝者・園城寺先輩!」

怜「ふっ、勝ったな」

漫「……まいりました」

怜「(智葉の圧力に)私は負けへんで……!」

智葉「なんで麻雀より熱くなってんだよ」



怜「ほな、負けた漫には罰ゲームや」

照「何をするの」

怜「そやねー……」

漫「…………」

怜「…………」ニヤリ

漫「?」

怜「おでこに油性ペンしてええ?」

漫「えぇーー!?」



キュキュッ

怜「ほい完成」

おでこ「ヽ(・∇・)ノ」

漫「うう……」

煌「あははっ、すばらですよ!」

照「かわいい」

怜「ええやん、好評やで」

漫「…………」しょぼーん



怜「でも気ぃつけや」

漫「……何がですか……?」

怜「私やから油性で済んでんで、智葉やったら入れ墨針やからな」

照「うん」

漫「ひっ!?」サッ

智葉「誰がそんなことするか」

怜「気ぃつけやー、うちの組の掟やで」

智葉「何が何の組だとおいコラ」

怜「ひぃやぁー、怖い怖いー」(棒読み)

漫「…………」ガクガクブルブル

智葉「真に受けなくていいからな」



山小屋のロビー

怜「ふぅー……。いい汗かいて、ねんがんのおふろも入った」

怜「……ほな、始めよか。ここからがこの合宿の本題や」

怜「…………そう、今こそあの新しい膝枕たちを思いっきり堪能する時!」キラーン

玄「…………」トコトコ

怜「……おっ、言うてたら早速や」

玄「…………」トコトコ

怜「くーろー」

玄「はい?」

怜「ええとこおったわ、膝枕してー」

玄「……はい?」



ポフッ

怜「あー……。ええわ、めがっさええわ」

玄「はあ」

怜(……悪いけど、照とは段違いやで)

怜「癒されるわー……」

玄「…………」

怜「ほんま玄の膝枕は……五臓六腑に染み渡るで……」

玄(ごぞう?)



怜「……にしてもすごいな、ドラ」

玄「えっ?」

怜「あんたのドラ爆や。すごいなって」

玄「…………ありがとうございます」

怜「あんだけドラばっかり集まるって、どうなってんのん?」

玄「どうなってると……言われましても……」

怜「単なる好奇心やて。どないしたらあんなんなるん?」

玄「…………お母さんが」



怜「お母さん?」

玄「……はい。昔お母さんに、あなたはもっとドラを大事にしなさいって言われて……」

怜「ほう」

玄「その言葉を守って打つようにしたら……、ドラが集まってきてくれるようになったんです」

怜「へー」

玄「…………」

怜「ほな、切ったらどうなんの?」

玄「!」ドキッ



玄「…………」

怜「言うても、絶対ドラ切らなあかん時やってあるやん?」

玄「…………はい」

怜「他のもん鳴いたり、カンドラ増えたりしたら……。極端な話、手の中全部ドラとかなってまうやろ?」

玄「……なるべくそうならないように打ってますけど……。もちろん、どうしても仕方ないときはあります」

怜「……そしたら、どうなんの?」

玄「一回ドラを切ったら……。そのあとしばらく、ドラが全然来なくなっちゃうんです」

怜「ふーん」



怜「それはそれで、極端な話やなー」

玄「…………」

怜「あんま自由に打てないんちゃうの? 相手にしたって、玄がそうする前提や思うたら随分打ちやすいで」

玄「!」ドキッ

怜「ん?」

玄「宮永先輩にも……言われました」

怜「照にも?」



怜「あいつが人にアドバイスなんて珍しいな……。まあ、誰でもそこは気になるか」

玄「……でも……、宮永先輩はもっとなんていうか……。もっと大事なところを見透かされてるっていうか……」

怜「?」

玄「いきなり私を全部言い当てられちゃったみたいで……。何かもうすべてお見通しみたいな感じで」

怜「……まあ、あいつ麻雀に関しては別人やしなー」

玄「……なんていうか……。……ちょっと、こわかったです」

怜「そない怖がらんでもええて。麻雀してなけりゃなんでもないであいつ?」

玄「…………」

怜「そんで、照はなんて?」

玄「そのままだと打ち方が凄く限られるから……。ドラを切ることにも慣れておいた方がいいって……」

怜「まあ、普通そう言うやろなー」



玄「自分でも……、それは分かってるんですけど」

怜「あかんの?」

玄「…………こわいです」

怜「怖い?」

玄「お母さんとの……約束ですから……」

怜「…………」

玄「ドラを手放して、ドラに嫌われちゃったら……。お母さんにも嫌われちゃうんじゃないかって……」

怜「…………そうか」



怜「……ま、そう言われてまうと他人にはわからんとこやけど」

玄「…………」

怜「もっと自信持ったらええと思うで。ええもん(膝枕)持っとんねやから」

玄「……えっ」

怜「…………私が保証するわ。あんたのそれ(膝枕)は五大陸に響き渡るで」

玄(園城寺先輩……)

怜「自分自身(の膝枕)に自信持って堂々としとったら……。(私に)嫌われることなんてあれへんて」

玄(……ドラが来てくれる自分に、自信を持つ……)



怜「…………それにな」

玄「?」

怜「こわいとこに踏み出すいうのも、意外となんとかなるもんやで?」

玄「…………」

怜「……ここの高校に来たことやって、見知らぬこわいとこに踏み出してきたようなもんやんか。あんたも、私も」

玄「…………」

怜「私なんか、なんも持ってへんかったけど。それでもなんやかやここまできたわ」

玄「…………」

怜「去年の私なんて酷いもんやったで。周りにおるん、照と智葉(の膝枕)だけやったからな」

玄「先輩……」



怜「ほいでもそんな中で、あーでもないこーでもない言いながら(照の膝枕で)我慢してやってきたんや」

玄「…………」

怜「今はそうでも……。がんばってたら、また新しい(膝枕との)出会いが来てくれるやろ、思うてな」

玄「!」ドキッ

怜「おかげで、玄や漫(の膝枕)とも会えた。待ち続けた甲斐があったっちゅーもんや」

玄「新しい出会い……待ち続けた……」

怜「…………おう」

玄「…………」

玄(……まだ一か月しか一緒じゃないけど。部長と宮永先輩が桁外れの強さだっていうのはわかる)

玄(その二人を相手に、園城寺先輩は……。ずっと自分なりに、頑張ってきたんだ……)

玄(……強い人だな……)

怜(ええわぁー玄の膝枕……)



怜「…………大丈夫やって」

玄「?」

怜「ドラ切ったって、玄は玄や」

玄「…………」

怜「私は好きやで、玄の(膝枕の)こと」

玄「先輩……」

怜「まさかドラ切ったらいきなり、この膝枕がガリッガリに痩せこけてまうわけやないやろ?」

玄「え? え、ええ」

怜「ほな、なんも問題なしや。もしそんなことになるんやったら、命がけで止めたるけどな」

玄「あ、あはは……」



露天風呂

漫「ふう……。やっと落ちた、油性」キュキュッ

煌「おっ、漫! 露天風呂楽しんでますか?」

漫「あ、煌……」

煌「今日はおでこ、災難でしたね!」

漫「うん……。まあ負けたんはしゃーないし、油性は落とせばええねんけど……」

煌「けど?」

漫「…………。えっと、ここだけの話やねんけどさ」

煌「ん?」

漫「辻垣内部長って、正直どう思う?」



煌「……どう、とは?」

漫「…………別にその、好きとか嫌いの話やなくて」

煌「うん」

漫「……さっき入れ墨針て言われたのが……、ちょっと引っかかってな」

煌「ふむ」

漫「ぶっちゃけた話……。ほんまにありえそうやん」

煌「…………」

煌(…………否定はできない)



漫「園城寺先輩も当たり前の感じに入れ墨針言うて、宮永先輩も平然としてたし」

煌「…………そうでしたね」

漫「…………」

煌「…………」

漫「……えっとな、皆たぶん薄々思うとるかもしれへんけど……。言うてええ?」

煌「…………」

漫「あの人って…………ヤクz「それ以上いけない」



煌「…………」

漫「…………」

煌「…………」

漫「…………」

煌(…………いけません)フルフル

漫「…………」

煌「家庭環境のことを言うのは……。すばらくないです……」

漫「でも確か……。うちの学校、理事長の名前も辻垣t「いけませんって」



漫「…………ほいでも、黒服やで?」

煌「……はい」

漫「……お嬢やで?」

煌「……ええ」

漫「…………普通やないよね?」

煌「…………」

漫「理事長の名前も……。そういうことなら、うちの実家の借金返してくれはったのもそういうことなんかな……って」

煌「…………」


露天風呂の岩陰

智葉「…………」

智葉(…………全部聞こえてるんだが)



煌「…………やめませんか、深く考えるの」

漫「…………」

煌「……仮にそうだとしても。私たちが毎日接している部長は、すばらな普通の部長じゃないですか」

漫「…………うん」

煌「変に想像で怖がったりするなんていうのが、いちばんすばらくないですよ」

漫「……そうやね」


智葉(……なんでもいいから早くあがってくれ、出られん)



煌「あんまりくよくよ悩んでいたら……。ふっふっふ」キラッ

漫「?」

煌「すばらくない子のおもちなんか、こうしちゃいますよ!」

むにゅっ

漫「ひゃっ!? ちょっと!」

煌「うふふふふー、おっきいですねー」むにむに

漫「や……やめ……」

キャッキャッ バシャバシャッ

智葉(……おい、こっちに来るな)



煌「ふははー、待て待てー」バシャバシャッ

漫「やめてって! 煌お前もか!」バシャバシャッ

智葉(こっち来るなって!)

ばっしゃん!

智葉「うわっ」

煌「あっ」

漫「あっ」



漫「ぶ、部長……」

煌「いらっしゃってたんですか……」

智葉「…………ああ」

漫「…………」

煌「…………」

智葉「…………」

漫「えっと、もしかして……」

煌「……今の話……」

智葉「……ああ、聞こえてた」

煌「!」ビクッ

漫「!」ビクビクッ

煌「す、すみません! 陰で失礼なことを!」

智葉「……いや、いいよ。疑問に思って当然の事だしな」



かぽーん

煌「では、落ち着いたところで……」

漫「……ほんまに、聞いてもええんですか?」

智葉「別に、隠すつもりはないよ」

煌「……何か申し訳ありません」

漫「えっと……じゃあまず、うちの学校の理事長って……」

智葉「……ああ、私の父だ」

漫「……てことは、じゃあ……えっと、あの」

智葉「皆まで言わなくても。大体聞きたいことはわかるよ」

煌「…………」

智葉「……まあ、一般的にはうちは……。普通とちょっと違った家庭と言うんだろうな」



智葉「確かに、常時黒服がくっついてくるなんてのは普通じゃないかもしれない」

智葉「…………だが」

智葉「親の話は親の話だ。黒服たちも親に言われて集まっているに過ぎん」

智葉「私は私だ。そう思ってやっている」

智葉「それで変に気を遣われる方が……私には堪える話だよ」フッ

煌「!」

漫「!」

煌(今一瞬だけ、物凄く寂しそうな顔をしましたね……)

漫(なんだかんだ言うても、気にしてんのやろな……)

煌(色々と、気苦労も多そうですしね……)



智葉「怜と照……」

煌「?」

智葉「黒服どもがあれだけ付きまとっている中で……、普通に接してくれた同年代のやつは」

智葉「思い返せば、あいつらが初めてだったかもしれんな」

漫「……部長……」

智葉「……だから、お前たち一年生も。……あいつらほど図々しくなれとは言わんが」

智葉「そういうのは気にしないで、普通の高校生同士として接してくれたら嬉しいよ」

煌「……はい、勿論です」

智葉「…………あいつらには内緒だぞ、今の話。調子に乗るからな」ギロッ

漫「お、押忍!」ゾクッ

煌「御意に」



漫「あ、あのそれじゃ、園城寺先輩の言うた入れ墨針って……」

智葉「あいつらの悪ノリだ。そんなものあるわけない」

漫「…………」

智葉(…………私の目の届く範囲には)

漫「…………ホンマですよね?」

智葉「……ああ」

漫「…………」ホッ



煌(…………)

漫(…………)

煌(……随分、外見の印象だけで誤解をしていたような気がしますね)

漫(……反省せなあかんよね)

煌(これは私たちが、もっとしっかり支えて差し上げませんと。自然に、お気遣いなさらず済むように)

漫(…………うん)



漫「ほな、思い切ってもっとフランクな感じにしてもうた方がええですか?」

煌「そうですね、軽く抱きついちゃってみたり!」

漫「あー、最初の日の玄みたいな?」

智葉「あの件はまた別だ」ギロッ

漫「ヒッ」

智葉「…………まだ謝りに来てないからな、あいつ」

煌「えっ」

漫「えっ」

煌(何してるんですか玄……)



智葉「別にもう怒っちゃいないが……。あれっきりというのはよろしくない」

智葉「一応のケジメとして一言あれば、それでいい話なんだがな」

煌「で、でも玄は部長のこと、避けてるような感じには……」

漫「うん、いちばん接しやすい先輩やって……話してましたよ……」

煌「はい、いつも和やかにお話されていたように見えましたが……」

智葉「…………ああ」

智葉「あいつはあれで、仲良くなったつもりなんだろう」

煌「…………」

智葉「翌日から普通に話しかけてきたし、謝るようなことじゃないと思っているんだろうな」

漫「…………」



智葉「だがさすがに。いきなり先輩の服を脱がせて何も無しでは、周りのやつらに示しがつかん」

煌「…………はい」

智葉「あいつが自主的に謝りに来るのが筋だから、今まで黙っていたが……」

智葉「……そろそろ一度、ちゃんとしないといけないかもな」

智葉「私もそんなにぐだぐだ引きずるつもりは無いが。筋は通さんとな」

漫「…………」

煌「あの……。でしたら私達から、玄に来させるように一言……」

智葉「……まあ、気遣ってくれるのは嬉しいが。あまり大事にする気はないよ」



智葉「……それに、私がお前たちに言ったからあいつが来るというんじゃ、筋が通らないだろう」

漫「…………」

智葉「本当に反省してるなら……、玄が自分で謝ろうと考えて来るのが筋だし、私にしても直接本人に言うのが筋だ」

煌「…………」

智葉「だから玄に話すのはいいが。あくまで自分から気付いてくれるのを促す程度にしてほしい」

漫「……わかりました」

智葉「悪いな、面倒なことを言うようだが」

煌「…………いえ、わかります」

智葉「ありがとう」

漫「…………」



漫(…………)

煌(…………)

漫(……ケジメとか筋を通すとか示しがつかないとか……)

煌(…………普通です、普通ですから)

漫(……やっぱ、端々の言葉遣いがヤク(いけませんって漫)

漫(煌……、さっきから直接脳内に……!?)


※翌日、玄ちゃんはちゃんと謝りに行きました☆





成香「……うーん……。なんだか寝つけないです……」

ムクッ

成香「……キッチンでお水でも持ってこよう……」

トコトコ

成香「あれ……? 明かりがついてる……」

チラッ

照「…………」

成香(宮永先輩……? 冷蔵庫を開けてどうしたのかな……?)



成香「何してるんですか?」

照「!!」ビビクン

成香「?」

照「違う、これは違うから」コソコソッ

成香(……後ろに何か隠した?)

照「…………」

成香「何を後ろに?」

照「なんでもない、アイスなんかじゃない」

成香「アイスですか?」

照「あっ」



成香「それ……、今日私が作った余りの?」

照「違う、なんでもないの」

成香「?」

照「決して私の分だけ別に隠しておきたかったとか、ついでに今ちょっとだけ食べようとかしていたわけじゃない」

成香「…………」

照「…………」

成香「そうなんですね」



照「えっと…… その……」

成香「…………」

照「…………おいしかったから」

成香「……ありがとうございます」

照「これは本当。凄くおいしかった」

成香「気に入ってもらえて嬉しいです」



成香「…………」

照「…………」

成香「食べちゃいましょうか、いまふたりで」

照「!」

成香「…………」ニコッ

照「でも……なくなっちゃったら、皆におこられる」

成香「少しくらい減っても平気です、問題ありませんよ」

照「…………いいの?」

成香「……明日また作ればいいですから」



成香「……もし、よかったら」

照「?」

成香「明日は一緒に作りませんか?」

照「……私は作れない」

成香「作り方、教えてあげますから」

照「…………でも、そういうのは苦手」

成香「大丈夫ですよ、簡単です」

照「…………」

成香「あっ、いちごジャムがありますね。明日はストロベリーアイスにしましょうか?」

照「!!」



成香「どうですか?」

照「やる」

成香「はい! よかった!」ニコッ

照「うん」

成香「がんばりましょうね」

照「…………ありがとう」

成香(……宮永先輩……)

成香(去年の全国優勝者で麻雀いちばん強くって、空いた時間はずっと本読んでるかお菓子食べてるか……)

成香(……あるいは、本とお菓子の両方か)

成香(だからなんとなく話し難くて、近寄り難いなって思ってたけど……)

成香(……意外にかわいい、素敵な人です)ウフフッ



――こうして、楽しい合宿は過ぎていった。

二日目から智葉の指示で、私と照が強制的にお手伝い係にさせられたんは誤算やったけど……。

それでも、収穫はいっぱいあった。

料理は毎日おいしかったし、みんなそれぞれ仲良うなった。

その後アイスクリームマシーンは部室に置かれ、照も作り方を覚えてくれた。

つまりこれから、いつでも手作りアイス食べ放題いうわけや。なんたる勝ち組。

でっかい鉄板? あれは知らん。

いつの間にかなくなっとったわ。




一年生
二年生(前)
二年生(後)
三年生
2016/06/06-06/08 SS深夜VIP
智葉「私立先鋒学院高校麻雀部」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1465045109/