5月の終わり

成香「合宿……楽しかったですねー」

漫「そうやねー」

煌「すばらなひと時でした……」

漫「ここに来て二か月……。正直最初は不安やったけど、ホッとしてるわ」

煌「うん。私もですよ」

成香「部活は楽しいですし、先輩方も優しいですし……。本当によかったです」

玄「…………」

煌「そろそろこっちの生活にも慣れてきましたか?」

漫「まあ、ぼちぼちやね」

成香「はい! 毎日素敵です!」

煌「すばら!」

玄「…………」



漫「ねっ、玄も」

玄「…………」

漫「ん?」

玄「…………うん、そうだね」

漫「?」

玄「…………」

漫「どうかした?」

玄「…………ううん、なんでも」

漫「…………」

玄「…………」



数日後 玄と漫の部屋

玄「うっ……うえっ……」

漫「?」

玄「……うえっ……ひっく……」

漫「玄?」

玄「ふえぇ……ふえぇぇぇん…………」

漫「泣いとんの?」

玄「うぅ~、ふえぇぇぇ~~」

漫「……どないしたん、急に……」



漫「ほら、泣いたらあかん。頭なでなでしたるから」なでなで

玄「ふぐ……、へっく……」

…………

……

漫「…………落ち着いた?」

玄「……うん」

漫「体どっか痛いん? 保健室行く?」

玄「ううん、そういうのじゃないよ」

漫「…………」

玄「ちょっと……、思い出しちゃったの」

漫「思い出し?」

玄「…………奈良にいた、お友達のこと」

漫(……なんや、ホームシックかな?)



漫「……こないだの話?」

玄「…………」

漫「こっちの生活楽しいって話してた時……。ちょっと沈んだ顔した気がしたけど……」

玄「…………」

漫「……寮生活……まだ慣れへんの?」

玄「…………」

漫「この学校で麻雀すんの……楽しくないとか?」

玄「……ううん、そうじゃないよ」

漫「?」

玄「楽しいから……つらいの……」

漫「……えっ?」



玄「ここに居るのは、楽しい……すごく楽しいよ……」

漫「…………」

玄「…………部室にたくさん、人が集まって。みんな笑顔で優しくて」

漫「…………」

玄「……でも……。みんなのこと……考えたら…………」

漫「…………みんな?」



玄「…………ずっと、待ってたのに。毎日お掃除してたのに」

漫「?」

玄「いつか……。いつかみんなが、戻ってくると思ってたのに」

漫(……何の話や……?)

玄「……それまで待ちきれなかった」

漫「…………」

玄「待ちきれなくて、私は…………。自分から離れちゃったんだ」

漫「…………」



玄「……私なりに、割り切ってたつもりだったのに。なるべく考えないようにしてたのに」

漫「…………」

玄「……こっちが楽しければ楽しいほど、思い出しちゃうの……」

漫「…………」

玄「……みんなとはできなかったのに……私だけ楽しいって……」

漫「…………」

玄「……みんなは楽しくないのに、って……」

漫「…………」

玄「そればっかり……考えちゃうの……」

漫「…………」

玄「…………」グスン



漫「…………」

玄「…………」

漫「…………正直、何の話なんかようわからんけど」

玄「…………」グスン

漫「……つらい思いしてたん、気付かんでごめんな」ギュッ

むにゅっ

玄(…………オウフッ、おもちの感触が)



漫(明るく振る舞ってたように見えたけど……。玄なりに色々抱えてたんやな……)ギュギュッ

玄(うへへ……おもちが……)

漫「…………」

玄「…………」モフモフ

漫「…………」

玄「…………」モフモフ

漫「…………」

玄(…………あったかい)

漫「…………元気、出してな」

玄「……うん……。ありがとう」



玄「もう少し……こうしてていい?」

漫「?」

玄「えへへ……おっきなおもち……」

漫「…………」

玄「……おねーちゃんみたい、なの……」

漫「…………」

玄「…………おねーちゃん…………おかーさん…………」ギュッ

漫(…………しゃーないな)ヤレヤレ



漫「……それから三日後」

漫「なんだかんだで、一回泣いたら落ち着いたみたいや。もう玄が夜泣くことはなくなった」

漫「……代わりに、私は毎日抱き枕や」

漫「まあ、日常生活に引きずらへんならそれでもええんかもと思うけど……」

漫「…………でも」

漫「さすがに毎日おもち枕は…………、私もきつい」



漫「……てなわけでな、ちょっと慰めに来てくれへんかな」

煌「ホームシック……ですか?」

漫「まあ多分、そんな感じやと思う」

成香「心配です……」

漫「まあ、別に深い事情聞いたりせんでもええと思うから。楽しく話し相手なってくれたらさ」

煌「うん、お安い御用!」

成香「わかりました!」



その日の夜 玄と漫の部屋

コンコン

漫「どうぞー」

玄「あっ、煌ちゃん、成香ちゃん」

煌「おじゃましますっ!」

成香「こんにちは」

煌「ほほーう、同じつくりの部屋でも雰囲気違うものですねー」

玄「……どうしたの?」

煌「なーに、ちょっとお話しに来ただけですよ!」



成香「……漫ちゃんから、聞きました」

玄「?」

成香「……故郷のお友達を思って、つらい思いをしているって」

玄「…………」

成香「…………」

ギュッ

玄「? ……成香ちゃん?」

漫「玄の両手を握って……?」



成香「『ペテロの第一の手紙』第5章7節――」

玄「成香ちゃん……?」

成香「『思い煩いは、何もかも神にお任せしなさい。神が、あなたがたのことを心にかけていてくださるからです。』」

玄「…………?」

煌「……聖書の一節、ですかね?」

成香「……大丈夫です」

玄「…………」

成香「神様はきっと見守っていてくださいます。玄ちゃんも、故郷のお友達さんも」

玄「……神様……?」



玄「成香ちゃんは……クリスチャンさんなの……?」

成香「い、いえ……。ちゃんと勉強してるわけじゃないです」

成香「私なんかがそんなこと言ったら、ちゃんとしてる人におこられちゃいます」

成香「だから的外れかもしれませんし、全然そういうのじゃないんですけど。私も同じだなって思って」

玄「?」

成香「私も、北海道に置いてきた友達がいるんです」

玄「!」



成香「幼馴染の一つ上のおねえさんが……。お家が教会の子で、そういう高校に行ったんです」

成香「それで、私も読むといいよって……。昔から聖書やそのお話の本を貸してもらったりしていて」

成香「……それで、ちょっとだけ覚えたんです」

玄「…………そうなんだ」

成香「……小学校のときから、そのおねえさん……ちかちゃんと一緒にずっといて……」

成香「私も……一緒の高校に行くんだろうなって思ってたんですけど」

玄「…………」



成香「牧場の融資と、この学校の話が来て……そこから色々悩んで考えて……」

成香「いっぱい不安で、何度も泣いちゃったりしましたけど。それでも」

成香「これが、神様が私に示してくださったお導きだと思って。がんばってみようって思ったんです」

成香「ちかちゃんと、牧場と離れても……。神様は見守っていてくださると思うから」

玄「成香ちゃん……」



煌「……私もね、玄」

玄「煌ちゃん……」

煌「故郷を離れ、ひとりこの東京にやってきたのは……。ここにいる四人みんな一緒」

煌「不安や心配も、それはありましたけれど……。来なければ得られなかったすばらなこともたくさん感じてる」

煌「玄が来てくれなかったら、この四人がここに集うことも無かったんです」

煌「私はここで玄に会えて、それだけでもすばらだったと思ってますよ」

玄「…………」



煌「あなたは優しい人。残してきた人を思う気持ちもすばらだけど」

煌「あなた自身が選んだこの道。それに自信を持ちましょう」

玄「自信を……持つ……」

煌「玄が楽しく笑顔でいる方が、故郷の友達も嬉しいと思いますよ」

玄「煌ちゃん……」

玄「……園城寺先輩にも……似たようなこと言われたかも……」

煌「ほほう」

成香「……きっと先輩も、玄ちゃんを元気づけてくれたんですよ」

玄「……うん。そうだね」



成香「……元気、出してくださいね」

煌「私たちがついてますよ!」

玄「…………ありがとう」

成香「……余計なお世話だったかな?」

玄「そんなことないよ! 凄く元気もらったよ!」

成香「……よかった」エヘヘッ

玄「ありがとう!」

煌「すばら!」

漫「…………」ホッ



煌「……おや、この写真は……」

玄「あっ、それ……? ここに来るとき、家から持ってきたの」

漫(…………いっつも眺めてたな、机の上に置いて)

玄「昔のお友達と一緒に撮ったの。河原に遊びに行ったときのだよ」

煌「この子…………、和!?」

玄「えっ」

煌「間違いない、この顔、このふわふわの服、このおもち……」

玄「和ちゃんを……知ってるの……?」

煌「知ってるも何も! 私の中学の後輩ですよ!」

玄「えっ」



煌説明中

玄「そうなんだ、阿知賀から転校した先の……」

煌「奈良から来たとは聞いていましたが……玄と一緒だったとは……」

玄「…………」

煌「……これは……」

玄「?」

煌「すばら! 実にすばらなことです!」

煌「友達の友達はみな友達! これは和が繋いでくれた縁ですよ!」

煌「ほら! またここにきてすばらな事が増えましたね!」

玄「…………そうだね、すばらだね!」



玄「ときに」キラリッ

煌「ええ」キラリッ

玄「和ちゃんのおもちはその後どうだったのかな!? 更におっきくなってるかと!」

煌「ええもうそれはそれは! 一年間でさらに成長しましたね!」

ワイワイキャッキャッ

漫「おもち星人どもめが……」




――なんや知らんが、一年生四人。いつの間にかまた、ぐっと仲良し度が増した気がした。

そんな効果もあってやろうか。麻雀部の方は毎日、ますます熱が入って盛り上がる。

傍から見てれば、活発で熱心なええ部活動なのかもしれんけど。

そのええ雰囲気とは裏腹に。この頃の私は、打っていてきついと感じる事が増えてきた。



――目に見えないあいつらの何かが、私に変化をもたらしたのか。

後輩には負けたくないと思う、対抗意識や危機感がそうさせたのか。

そこにどんな影響があったのかはわからへんけれど。

何回戦も休まずあいつらに付き合ったり、いつも以上に神経使って考えてみたり。

そんな日々を過ごす中で……。また、一手番先の未来が見えるようになってきた。


―ピキッ―

怜(あっ、次の下家の捨て牌……)

怜「…………やっぱこっち。リーチや」タンッ

玄「…………」タンッ

怜「ロン」

玄「! …………はい」

漫(直前に三面張を捨てて、単騎のリーチ一発……!?)

智葉(何だその打ち方は……)



――徐々にやけど、見える回数も長さも増えていった。

一日平均、一回が二回に。一人先だけやったのが、二人先までも。

自分で制御も調節もできない、たまに突然訪れるラッキー。

それでなんとか、あいつらに食らいついていく日々。


智葉「よし、今日は終わりにしよう」

怜「おー、漫……。ちょっと膝枕ー……」

漫「またですかー?」

ポフッ

怜「…………ふう」

漫「…………」

怜「ほんま漫の膝枕は……東洋一の神秘やで……」

漫「?」

怜「…………」ケホッ コホッ



――たくさん見えた日はそれだけ、疲れも込んできて。フラフラになることも多くなった。

それはつまり、玄と漫という新しい膝枕に世話になる時間が増えたってことやけど。

二人とも嫌な顔もせず、交代で付き合ってくれとった。

ほんまにあいつらの優しさは北半球を駆け巡るで。

…………というか、フラフラにならんでも膝枕は毎日やっとったけどな。

あんな優秀な膝枕が二つもあって、使わん方がどうかしとるわ。ウヒヒヒヒ。


玄「……先輩、今日も?」

怜「…………うん」フラフラッ

ポフッ

玄「…………」

怜「…………」

玄「……大丈夫ですか?」

怜「しんぱい……いらんて……」



――そんな、インハイ予選が間近に迫ったある日の部活。


智葉「よし、ここまでだ」

玄「はい!」

怜「…………ふう…………」

漫「お疲れ様でした!」

怜「…………すず…………ひざ…………」

漫「えー、今日は玄の当番ですよー?」アハハッ

怜「…………」フラッ

漫「……先輩?」

怜「…………」フラフラッ


ドサッ



――優秀な膝枕があるからいうて、無理してもええわなんて気持ちは無かったはずやけど。

その日はいつになく何回も、いつになく先の手番まで見えた。

今日はようやったなーと思いながら、いつも通り漫の膝枕に倒れこんで……。

そのまま私は、意識を失った。



数日後 怜の病室

怜「……夏終わるまで入院?」

医師「ええ」

怜「そんなおーげさな……」

医師「何を言ってるんです。何日生死の境を彷徨ったと思ってるんですか」

怜「…………」

医師「とりあえず、今から二週間は絶対安静。夏休みまでは、学校にもここから通ってもらいます」

医師「夏休みに入ったらもう一度入院して、一ヶ月療養してください」

怜「夏休み一ヶ月て、インハイは……」

医師「無理言わないでください。麻雀が原因というなら尚更、大会出場なんて許可できません。部活動も禁止ですよ」

怜「…………」


――結局、予選を前にドクターストップ。夏休みは強制再入院。

それが、私の二年目の夏やった。




数日後

黒服A「お嬢、今年もインターハイの申込用紙が届きました」

智葉「……む」

黒服B「今年はいよいよ団体戦ですよね!」

智葉「…………そうだな」

黒服C「やはり一番悩むのがオーダー決めかと思うのですが。お嬢が決められるんですよね?」

智葉「そのつもりだが」

黒服D「そうかと思いまして! 我々から、これをお嬢に!」

パサッ

智葉「?」



智葉「なんだこの紙の束は」

黒服E「合宿を含め、今年すべての部内対戦成績を記録し分析したレポートです」

智葉「……なんだと?」

黒服F「部員の皆様の特徴を捉え、お嬢のために参考になりそうなデータを多角的に分析しました」

智葉「…………お前らにそんな仕事できたのかよ」

黒服G「はい! 我々皆で手分けしてやりました!」

黒服H「是非、ご参考にしてください!」

智葉(こいつら……)

黒服全「…………」ドキドキ

智葉「…………フン」

智葉「内容を見てないからなんとも言えんが。一応、礼は言っておく」

\オオッ/

黒服全「は、はいっ! ありがとうございます!」



その日の夜

智葉「あいつらの作ったこの資料……」

パラッ パラパラッ

智葉「…………」

智葉「……よくここまで記録してたものだ」

智葉「専門家じゃないんだから当然、ところどころ的外れな点もあるが……」

智葉「……なかなかどうして、努力の跡は見える」

智葉「普段のあいつらが作ったとは思えんな」

智葉「…………」

智葉「…………腹立つことに」



智葉「それで……。改めて見えてきたうちの部員たち……」

智葉「…………」

智葉「単純な平均獲得点数や平均順位で見れば……、照と私が1位と2位」

智葉「……だが」

智葉「こいつらは……そんな数字では測れない……」



パラッ

智葉「まずは普段から目に見えて異彩を放つ、あのドラ爆麻雀……」

智葉「平均和了飜数……および、平均和了時ドラ所持数1位。松実玄」

智葉「……大したものだ、ここまで貫いているとな」

パラッ

智葉「……しかし、それを超えてくるこの数字……」

智葉「1位獲得時のみの得点平均値……。1位、上重漫」

智葉「……もちろん、1位の獲得回数自体には差があるが……」

智葉「いざ取った時の爆発力。局地的にしろ照や玄を上回るとはな」



智葉「そして……。そんな中にありながらこの……」

パラッ

智葉「トビ終了回数ランキング1位……。花田煌、0回」

智葉「…………どんな冗談だよ、この大火力揃いの中で」

智葉「…………」

智葉「……まったく。面白いやつらが揃ったものだ」フフッ

智葉「…………」

智葉「そして……成香……」

パラッ



レポート「本内成香お嬢様……。総合評価:かわいい」

智葉「…………」

レポート「園児服が似合いそうな部員ランキング1位」

レポート「頭なでなでして差し上げたい部員ランキング1位」

レポート「お茶をお出ししたときに返してくださる笑顔がちょーかわいい部員ランキング1位」

レポート「…………」

レポート「…………」

レポート「背中に乗って踊ってほしい部員ランキング、僅差でお嬢を抑え1位」

レポート「冷たい目で罵声を浴びせていただきたい部員ランキング、お嬢との激戦を制し1位」

智葉「…………」

…………

……

レポート「…………以上100項目。担当:海老谷(黒服G)」

智葉「…………クビだな、この黒服G」



次の日 部活

智葉「団体戦のメンバーを発表する」

全員「はい!」

智葉「入院している怜以外から、今までのデータを総合的に判断して決めさせてもらった」

照「…………」

智葉「……今年はこれでいく。目標は一つ、全国制覇だ」


先鋒学院高校麻雀部

先鋒:宮永照
次鋒:上重漫
中堅:松実玄
副将:花田煌
大将:辻垣内智葉



智葉「漫、玄」

漫玄「はい!」

智葉「お前たちには特に言うことはない。自分の麻雀をしてくればいいよ」

智葉「先に照が打つんだ、そうそう危ない状況にはならないだろう……。楽に打てばいい」

智葉「最後には私もいる。思い切って暴れてこい」

漫「はい!」

玄「がんばります!」



智葉「煌、頼むぞ」

煌「はい!」

智葉「副将は不測の事態が起こりやすい。……極端な話、大差の付いた相手をトバして大将に回さず逃げ切るとかな」

煌「……むむっ」

智葉「周囲の状況を見て上手く立ち回れる力が必要だ……。お前みたいな、な」

煌(部長……)

智葉「よろしく頼む」

煌「はい! すばらですっ!!」



智葉「成香」

成香「……はい」

智葉「お前は病院に……、怜についていてやってくれ」

成香「!」

智葉「すまんな、こんな役を」

成香「いえ! がんばります!」

智葉「……怜には私から伝える。今日の見舞いは一緒に行こう」

成香「…………はい」



――そして、全国決勝の日。

実況「団体戦決勝、決着です!!」

実況「序盤、中盤、終盤、隙のない大火力の競演! 脅威の得点力を発揮した先鋒学院高校が今年の夏を制しましたー!」

解説「先鋒学院? 強いよね」

ワァァァァーーーー


病院

テレビ「ワァァァァーーーー……」

成香「わあ……」

怜「全国優勝……か……」



成香「みんな、凄かったですね!」

怜「ああ。…………でもな」

成香「?」

怜「やっぱり、病院のテレビ越しなんてあかんわ」

成香「……えっ」

怜「来年は、あっちに行くで。あいつらと同じ会場に」

成香「…………」

怜「……お前も一緒にな」

成香「園城寺先輩……」



怜「……お互い、がんばろな。レギュラーに関しては全員ライバルやけど」

成香「わ、私なんてそんな……。全然麻雀強くないですし……」

怜「……あかんで、そういうの」

成香「…………えっ」

怜「勝てんからって、周りが強いからって。自分のこと強くないって決めつけたらあかん」

成香「…………」

怜「……諦めたらそこで試合終了やーいう言葉は、聖書には載ってへんかったんか?」

成香「……?……」



怜「……私かて、今年の成績は知っての通りや。たぶん入院してなくても、あのメンバーには入られへんかった」

成香「…………」

怜「……でもな」

成香「…………」

怜「私は諦めてへんで。来年はあっちに、あの中に入ったる」

成香「先輩……」

怜「……なんかな、何かが掴めそうな気がしてんねん」

成香「何か……?」



怜「成香かて今はそうでも……。諦めへんかったら、ある日突然何かあるかもしれんで」

怜「ある日突然、なんてのは……。それこそ奇跡(読み:原作新展開)て言われるもんかもしれんけど」

怜「何であっても、諦めたらそこまでや」

成香「…………」

怜「……なっ」

成香「…………はい」

怜「…………おう」

成香(……なんて……素敵な人……)




9月 退院後

怜「ツモ 3000・6000や」タンッ

漫「……はい」

智葉「また一発ツモか……」

玄「おおー」

黒服C「……これは凄い」

照「…………」



――夏休みの入院から明けて。私は、完全に私の力を自覚した。

見える。自分の意思で見たいときに見える。

以前は見えても一人二人の手番やったのが、今は確実に一巡先まで見える。



煌「最近の園城寺先輩はすばらだね!」

漫「せやね」

玄「なんていうか、気迫がまず違うよね」

煌「鬼気迫る勢いっていうのかな! 迫力を感じるね!」

成香「…………うん」

成香(やっぱり……。何かを掴んだんだ……)



煌「でも、気持ちだけの話じゃなく。傍から見ても明らかに打ち方が変わったね」

玄「うん……。特に、リーチしてからの一発ツモが急に増えたと思う」

煌「他家への放銃も、全然しなくなったかな」

玄「本当、どうしちゃったんだろうっていう感じ……」

成香「……うん、ちょっと怖いくらい……」

漫「…………」

成香「強くなるのは素敵なことだけど……少し心配です……」

漫「……こないだ膝枕したとき、ちらっと聞いてんけどな」

煌「うんうん」

漫「一巡先が見えてるらしいで、園城寺先輩」

玄「えっ」



成香「一巡先って……。未来が、ってこと……?」

漫「うん」

玄「まさか……そんなこと……」

漫「いや、マジらしいで。いつものあの人の軽口やなしに」

煌「それは……なんとまあ……」

玄「ふわぁー」

成香「すごーい……」

煌「すばらっ!」



――皆には、特に隠したりもせーへんかったけど。

別段気味悪がられたり否定されたりもせず、みんな普通に受け入れてくれとった。

ほんまあいつらの優しさは天井知らずやな。

これで……。この力で、来年こそ私も…………。



――そう思っていた、矢先のことやった。


10月 とある日の部活

照「ツモ 4000オール」ギュルルン

成香「……はい」

怜(それでも、照にはまだ勝てん……)

怜(まだや…… もっと先を……)

怜(…………試してみるか)

怜(ダブル……。二巡……先…………)

フラッ

バッターン!!

煌「園城寺先輩!!」



黒服H「ど、どうなさいました!?」

煌「早く! 救急車と部長を呼んでください!!」

黒服I「は、はいっ!」

漫「部長は!?」

玄「今日はまだ来てないよ!」

照「……怜! しっかりして!! 怜!!!」

…………

……



怜「…………はっ?」

漫「……目ぇ覚めましたか」

怜「ここは……」

漫「病院です」

怜「…………なんでや」

漫「……覚えとらんのですか」

怜「んー……。……ああ、(また)倒れたんか……」

漫「…………はい」

怜(……二巡先……あかんかったか……)



怜「そんで病院直行か……」

漫「はい」

怜「おーげさおーげさ……。ちょっとフラフラっとしただけやって」

漫「……見てたらわかりますよ、そんなんやないって」

怜「んー?」

漫「部長と宮永先輩があんなに取り乱したん……、夏んとき以来ですよ」

怜「…………」

漫「ほんま、無理せんといてくださいね」

怜「…………」

漫「……私でよければ、いつでも膝枕しますから」

怜「…………」



怜「ええ心がけやんか、さすが暫定首位の膝枕や」

漫「……まあ、褒め言葉や思うときますわ」

怜「当たり前やで」

漫「……ほな、いっこ聞いてええですか?」

怜「なんや?」

漫「なんでずっと『暫定』首位なんですか?」



怜「そこ引っかかるかー?」

漫「…………別に、深い意味ないならええんですけど」

怜「ほなええやんー」

漫「…………玄のほうが、ええんですか?」

怜「……玄とも僅差やけどな、そっちやないわ」

漫「?」

怜「真の首位は……、もっと別。大阪におるさかいな」

漫「…………」

怜「一年半、会うてへんけど……。あの感覚はこの頭が覚えとる」

漫「…………」

怜「あれに勝つんは容易やないで~……」フフフ



漫「……よーわかりませんけど。結局、その人の方がええってことですか」

怜「せやな」

漫(…………ふーん)

怜「?」

漫(……先輩のいちばんやないんや。あんだけやってんのに)

怜「なんや?」

漫「…………いえ」

漫(…………)

漫(別にええけど。こんな事で何言うとんねん私)



怜「よっしゃ、この際やから教えといたるわ」

漫「?」

怜「理想の膝枕っちゅーもんをや」

漫「……はあ」

怜「まず大前提は、適度な肉付きと程よい弾力。これが無かったら膝枕でもなんでもない、ただの足や」

怜「その点、漫はええ。玄もすばらや。たいしたもんや、あんたら二人」

怜「でもな。もう一段上、理想の膝枕となるにはそれだけじゃあかんねん」

怜「なにより、頭を預けたときの安心感! これが大事なんや。漫はその点……」

漫(ま、まずい……)

怜「…………で、…………は、…………の…………」

漫(いらんとこに火ぃついてもうた…………)



一時間後

漫「…………」ゲッソリ

怜「……ちゅーわけや」

漫「…………元気そうでなによりです…………」

怜「せやからおーげさ言うたやん」

漫「…………」

怜「…………」

漫「…………」

怜「ありがとな、漫。これからも頼むで」

漫「……ええ、任せてください」

漫(よし、なるべく玄に押し付けよう)



次の日 智葉と照

智葉「昨日怜が倒れた件だが」

照「…………」

智葉「あいつの一巡先が見える力に関係がある……。そうだな?」

照「…………」

智葉「お前には見えてるだろう、言え」

照「……言えない」

智葉「なぜだ」

照「言えば禁止される」

智葉「当然だろう」



智葉「やはり普通じゃないことをしてるんだ。限界が来たんじゃないのか」

照「…………」

智葉「……あるいは、一巡先だけじゃない。それ以上を見ようとしたか」

照「…………」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………どうなんだ」

照「……言えない」

智葉「…………そうだと言ってるのと同じだぞ、それ」

照「…………」



照「…………」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………言いたくないなら、それでもいい」

照「…………」

智葉「体を壊されるわけにはいかん。直接本人に聞いて禁止させるまでだ」

照「待って」



照「怜はずっと強くなりたいと……私たちと対等になりたいと思っていた」

智葉「…………」

照「大阪の友達のために、私たちとのために」

智葉「それで体を悪くするというなら本末転倒だ」

照「無理をしなければいい、一巡先までなら問題ない」

智葉「体力は消耗してるだろう。夏に退院してからもずっとフラフラしてたじゃないか」

照「それでも……やめろとは言えない」

智葉「……本当に、命に関わるかもしれんのだぞ?」

照「…………」



智葉「麻雀に勝てるなら、怜がどうなってもいいって言うのか?」

照「違う」

智葉「何が違う」

照「止めたら、ますます無理をすると思う。私たちにそれを隠そうとして、気付かない所でもっと大変なことをする」

照(…………もしかしたら、三巡先まで)

智葉「…………」

照「……怜はそういう性格」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「私たちがやめろと言ってもか」

照「だからこそ」

智葉「…………そうか」



智葉「それなら、別の方法だ」

照「?」

智葉「怜のための特別シフトを用意する」

照「……特別シフト?」

智葉「体力消耗するなら、体力づくりから始めたらいい」

照「…………」

智葉「運動に食事に健康管理。体を壊さないためにできることなら、他にもあるだろう」

照「ガイト……」

智葉「これからうちの部は、そうやって動いていく。いいな」

照「…………ありがとう」

智葉「……フン、もう倒れられるのはまっぴらごめんだからな」



次の日の朝 照と怜の部屋

バタンッ

煌「おはようございまーす!」

成香「おはようございます!」

煌「起きてください! すばらな一日の始まりですよー!」

怜「…………うーん」

照「…………うーん」

怜「なんやねん…… 一体……」

煌「今日から特別時間割だと! 部長よりお達しがありまして!」

成香「朝は早起きして体操から始めましょう!」

怜「……ええってそんなん……」



煌「さあ、起きてください!」

怜「なんで二人はそない元気なん……」

成香「牧場の朝は早いですから! 早起きは得意分野です!」

煌「先輩方とすばらな一日のためですので!」

成香「ほら! 宮永先輩も!」

照「……ねむい」

煌「早起きは三文のすばらと言いますよ!」

照「……私はいい」

煌「何をおっしゃいます! さあご一緒に!」

照(…………とばっちり)



成香「はい、いち、にっ! いち、にっ!」

怜「ねむ……ねむいて……」

照「…………」ウトウト

煌「来週からランニングもしますからね!」

怜「逆に体おかしくするわ……」

煌「大丈夫! お体の調子を見ながら、最初はお散歩からでいいですから!」



その日の部活

照「すみません、ポッキーおかわりください」

黒服J「はっ、宮永様。それが……」チラッ

照「?」

煌「すみません先輩。今日からポッキーは、みんなで一日ひと箱までです!」

照「えっ」

煌「健康のためですから! おやつも八分目にしませんと!」

照「!」ガーン

智葉「怜一人だけに我慢させるわけにいかんだろう。それくらい付き合え」

照「…………」

照(ときシフト…… しなくてよかったかもしれない……)



――なんやよーわからんけど。突然、規則正しい健やかな毎日が始まった。強制的に。

どうやら、私を健康にしたいらしい。この私を。

フフフッ、この筋金入りのダメ人間を更生させようとはええ度胸やないか。

…………なんて、軽口も叩きたくなるほどに。

全員が私なんかのために一生懸命やった。照も涙目でお菓子我慢してたしな。

ほんまに幸せもんやで、私は。

東京なんて、完全に孤立無援のひとりぼっちや思うてたのにな。




12月 とある金曜日の夕方 玄と漫の部屋

玄「……あっ、宿題のノート教室においてきちゃった」

漫「月曜日提出のやつ?」

玄「うん……。ちょっと、学校戻って取ってくるね!」

漫「もう学校、鍵閉まってまう時間やで?」

玄「でも、この土日でやらないとまずいから! ダッシュで行ってくるよ!」ビシッ

漫「そう……。気ぃつけてな」



キーンコーンカーンコーン

玄「うひゃあ、早くしないと!」

タッタッタッ

玄「よーし、ここは普段通らない近道を……。こっち!」

ガサガサッ

玄「ふっふっふ、ここの裏が通れるんだよね……」

ニャー

玄「ん?」

ニャー ニャー

玄「なんだろう……、何か声がした?」キョロキョロ

ニャー ニャー

玄「……これは……!」



バタン

漫「おー、おかえりー」

玄「……漫ちゃん……どうしよう……」

漫「ん? 何そのダンボール箱?」

ニャー

漫「えっ?」

玄「……子猫さん……拾っちゃった……」

漫「えええええーーー!?」



漫「捨て猫……やんな?」

玄「うん……。どうしよう……」

漫「どうしよう……言うても……」

玄「中庭の隅で、寒くて震えてたの……。放っておいたら凍えちゃうよ……」

漫「うーん、でも……。寮じゃペットなんて飼われへんし……」

玄「……でも……、ひとりぼっちだよこの子……」

漫「玄……」

玄「……あったかくないのは……だめだよ……」

漫「……よし、煌たちに相談しよ。二人ならきっとええ知恵持ってる」

玄「うん……」



煌と成香の部屋

コンコン

成香「はーい?」

玄「こんばんは」

煌「おや、いらっしゃい!」

漫「ごめんな遅くに」

成香「どうしたんですか?」

玄「……うん」

漫「……ちょっと、相談したいことあって」

煌「ほほう、なんなりと!」キラッ



玄説明中

煌「なるほどなるほど~」

猫「…………zzz」

玄「……どうしたらいいかな……?」

煌「ひとまずあったかくしてあげましょうか。古い毛布やタオルでも探してきましょう」

玄「食べ物もいるよね……? 自動販売機の牛乳でいいかな?」

成香「あっ、待って」

玄「?」

成香「人間の飲む牛乳は飲めない猫さんもいるから……。できれば、ミルクは猫専用のがいいんです……」

玄「そうなんだ……」

煌「さすが牧場の子! すばら!」

漫「でも、そんなんもう買いに行ける時間やないで」

成香「それじゃ、食堂で何か代わりのものを探してきます」

煌「よろしく!」



ムニュムニュ… フニャーオ…

玄「あっ、起きた」

猫「…………」フギャッ!!

ぴょんっ ダダダッ

玄「あっ、外に出ちゃだめだよ!」

煌「おとなしくしててください!」

漫「捕まえとかな!」

フニャーーー!!!



漫「大人しくせえって……。ほら、こっちや」

ガリガリガリッ

漫「うわっ、引っかきよった!」

ニャニャニャーーー!!!

煌「興奮しちゃってますね……」

玄「……だ、大丈夫だよ……。怖くないんだよ……」スッ

がぶっ

玄「痛っ!」

漫「こらっ! 噛んだらあかん!」



ガタッ ガタガタッ

玄「お願い! おとなしくして!」

ニャー!! ウニャニャニャーーー!!

ドタンバタン

怜「なんやーうるさいでー」

照「どうかしたの」

漫「あ、園城寺先輩、宮永先輩……」

怜「…………猫?」



怜と照に説明中

煌「……というわけでして。なるべく大事にせず内緒にしていただいて……」

怜「なるほどなー」

照「……猫さん」

怜「よっしゃ、任せとき。ほらー、なんも怖いことないでー」スッ

フギーーー!!!

がぶっ

煌「あっ」

怜「…………ぶっとばす」

煌「ど、どうか穏便に~」

ドタバタドタバタ



成香「……あ、あの、食べ物もらってきましたけど……」

漫「おー、助かった」

煌「これで大人しくなってくれれば……」

猫「……」フゥーッ

玄「ほ、ほら、ごはんだよ……」

スッ

猫「ウニャッ!!」

ガバッ

玄「!」

ガツガツムシャムシャ

成香「お、お皿を奪い取った……」

照「……早い」

怜「……なんちゅー勢いや」



猫「…………」スッ

照「?」

煌「何でしょう、これは……」

玄「お皿をこっちに差し出して……?」

猫「…………」トントン

成香「空になったお皿を指して……。足りないアピール?」

猫「…………オアアーーーォ」

漫「早よおかわり持って来いって感じの顔してますね……」

怜「……偉そうに」



照「……おかわり、あげてみる?」

成香「…………そうですね」

スッ

猫「……ウニャッ!!」

ガバッ ガツガツムシャムシャ

怜「…………早っ」

玄「あ、あはは……」

煌「これはなんとも……」

漫「行儀が悪いというか、ふてぶてしいというか、可愛げがないというか……」

怜「とんだドラ猫やな」

煌「……あっ、だから玄が拾ったんですか」

怜「あー」

漫「あー」

玄「えっ」



猫「…………」zzz

煌「おなかが膨れたら、落ち着きましたかね」

玄「この子……どうしたらいいかな……」

煌「とりあえず、ずっとこの子をこの部屋に置いておくのは無理ですね」

玄「うぅ~」

怜「一日二日はいけても、ずっとは厳しいで。寮の誰かでも見つかったら大事件や」

煌「はい。捨てられてしまうばかりか、ペット禁止の寮規則を破ったという話になれば多方面に迷惑が」

照「……こんなに暴れる子だと、人に怪我させてしまうかも」

玄「…………」

漫「食べるものも……。寮の食堂から毎日もらい続けるわけにはいかへんよね」

成香「私たちのお小遣いじゃ、猫缶や猫ミルクをずっと買い続けるのも難しいです……」

煌「……やはりいろいろな面で。寮生の我々だけでは限界がありますね」

玄「…………」



玄「部室で飼うのは……ダメなのかな……?」

漫「……ちょっと危険が多すぎやなあ」

成香「ずっと大人しくしてくれてたらいいんですけど……」

煌「ええ、対局中に卓の上で暴れられたりしたら……」

照「……鬼の顔が見える」

怜「……ああ。智葉、激怒するやろな」

煌「ですよねー……」

怜「最悪、漫のおでこが入れ墨で埋まるわ」

漫「ひっ!?」ササッ

怜「冗談やって」



玄「じゃあ、黒服さんたちに頼んでみるのは……?」

煌「……うーん……」

怜「あの人ら、智葉には逆らえへんからなー」

煌「ですよねー……」

玄「やっぱり……」

怜「智葉がダメ言うたら一気に敵になる人らやで」

煌「……ええ。逆に私たちが不審な行動を見せたら、部長にご報告してしまいそうですね」

怜「そうやなー」



怜「やっぱりどうするにしても、智葉を味方につけんとあかんわ」

煌「……そうですね」

怜「智葉に嫌われてもうたら、なんもかんも終わりや。逆に智葉さえ良ければどうとでもなるて」

煌「…………はい」

怜「そこが最大の壁やな。天国か地獄かの分かれ道や」

照「……ラスボス」



成香「……部長さんって、猫さんはお好きなんでしょうか……?」

怜「知らん」

照「わからない」

玄「うう……」

漫「……でも失礼やけど、なんとなくかわいいもん好きって感じやなさそうっていうか……」

煌「…………ええ、一緒に楽しく遊んでいる姿はあまり想像できませんね」

怜「むしろ食うてそうなイメージが」

漫「ひっ!?」

怜「冗談やって」



照「……でも、正直に話したほうがいいと思う」

玄「宮永先輩……」

照「内緒でこそこそやって見つかったら、いつもの5倍くらいおこられる。正直に話せば2倍くらいで済むかもしれない」

怜(……怒られる量が基準かい)

煌「どっちみちおこられるんですか……」

怜「……まあでも、それしかないんちゃう」

煌「……はい、部長だけが頼りですからね……」



煌「じゃあとりあえず、この土日はここで面倒見ましょう」

煌「明日は土曜日。学校も部活もありませんから、ここで色々と準備して」

煌「日曜日の部活のときに、なんとか部長に……」

照「うん」

煌「月曜日になる前にはどうにかしませんと。学校が始まってしまったら、昼間は誰も面倒が見れなくなりますからね」

怜「あさってが勝負やな」

煌「そういう方向で、いいかな玄?」

玄「……うん」



煌「では明日は、買い物チームと留守番チームに分かれましょうか」

成香「役割分担ですね」

漫「ほな、玄は留守番でこの子のそばにいてる方がええかな?」

玄「うん!」

煌「あとは、部長への言い訳……じゃなくて、説得の作戦を考えるチームですね」

照「むずかしいことを考えるなら、怜がいいと思う」

怜「ええで」

玄「煌ちゃんも……お願い」

煌「任されました!」



漫「ほな、私と成香と宮永先輩が買い物チームやな」

照「わかった」

煌「最悪一週間は面倒見られるくらいのものは買っておきたいですね」

漫「買うものは……、何が必要やろ?」

成香「それなら私、大体分かります」

漫「おぉー」

照「さすが牧場の娘」

煌「じゃ、そちらも大丈夫そうだね! よろしくです!」



土曜日

買い物チーム 照、漫、成香

漫「ほな、行ってきます」

煌「うん、気をつけて!」

成香「ひと駅隣のホームセンターに行けば、いろいろ揃うと思います」

照「うん」

怜「えっ、電車乗るん?」

漫「はい」

怜「……ほな、ちょっとこっち来てや」

漫「?」

タッタッタッ



怜「ほい、漫」

漫「はい?」

怜「こっちの袋がお金。あとこれ渡しとくわ」

漫「スマホ?」

怜「GPSのアプリが入っとるから」

漫「GPS……ですか?」



怜「…………みっつ、言うといたるわ」

漫「? はい」

怜「ひとつ、照と手ぇつないで絶対放したらあかん」

漫「?」

怜「ふたつ、もしもはぐれたときはそのGPSが命綱や。あんたらにかかっとるからな」

漫「……はあ」

怜「そんでみっつめ……。これがいちばん大事なんやけど」

漫「…………」

怜「ついでにあんぱんと牛乳頼むわ。あと鶏さんの揚げたやつ」

漫「…………はあ」



怜「ほな、いってら」

漫「……はい」

漫(何を大げさな……。ちょっと隣の駅行くだけやのに)

タッタッタッ

漫「お待たせー」

成香「うん。宮永先輩は?」

漫「えっ? 一緒におったんちゃうの」

成香「えっ」

漫「えっ」

(いない)

漫「先輩!? 宮永先輩ーー!?」



留守番チーム 怜、煌、玄

煌「さて。我々の使命は、第一に誰にも見つからず今日一日を乗り切ることです」

玄「うん」

煌「それから猫さんの面倒を見つつ、明日部長へ話す作戦を考えましょう」

怜「おー」

煌「寮や校内をウロウロ連れ歩くわけにいきませんから……、なんとかこの部屋の中で!」

玄「了解だよ!」

煌「今あの子は?」

猫「……zzz」

怜「寝とるな。一日こんな感じやったらええねんけど……」



煌「じゃあ、玄はいつ起きてもいいようにそばについていて」

玄「うん」

煌「我々は作戦会議ですね」

怜「おう」

煌「いくつかパターンを想定しましょう。部長の反応がよさそうだった場合、難しそうな場合、危険を感じる場合……」

煌「落としどころとしては、部でどうにか飼うか、部長のおうちでお世話になるか、引き取り先を皆で探すか……」

煌「あとは、黒服さんの動向ですね。先に話しておくべきか、黙っていた方がいいものか……」

煌「上手くこちらに協力していただければすばらなんですが……。いや、そうなるように持って行かないと」

怜「…………」



煌「こうなったら、こうして…………。いやいや、そうなることもありますね…………」ブツブツ

怜「煌……」

煌「はい?」

怜「麻雀の打ち筋見ててもそう思うたけど……」

煌「…………はい」

怜「お前結構……わるだくみとかイケるクチやな」

煌「……悪いことなどありませんよ。そこにすばらがあればこそ!」



買い物チーム 最寄り駅前

漫「…………」右手ギュッ

成香「…………」左手ギュッ

照「?」

漫「……ほな、行きましょう」

成香「はい」

漫(まさか出発前からまいごになるとは……)

成香(絶対、手を離さないようにしないと……)

ギュッ

ギュギュッ

むにゅっ

照(…………おもちが当たっている。片方からだけ)



照(この状態……)

漫「…………」右手ギュッ

成香「…………」左手ギュッ

照(……手を繋いで両手がふさがっている)

照(つまり、今の私は……)

照(…………去年新宿に行ったときの、ガイトのポジション!)キュピーン

照(しかも二人は後輩。ここは私ががんばらないといけない)ゴォッ

照「大丈夫。さあ行こう」グイッ

成香「えっ」

漫「こっち反対側のホームですよ!?」

…………

……



お昼過ぎ

照「ただいま」

煌「おかえりなさい! いかがでしたか?」

照「問題ない。ちゃんと買えた」

漫「…………」

成香「…………」

玄「どうしたの? 凄く疲れたみたい」

漫「宮永先輩は…… 絶対、ひとりにしたらあかん……」ゲッソリ

成香「…………はい」グッタリ

煌「?」

漫「気ぃつけよう、みんな……」

玄「一体何が……」

怜(…………やっぱりか)



煌「じゃあ、とりあえず猫缶をあげましょうか」

玄「そうだね」スッ

成香「あれ、三人ともその手……」

漫「引っかき傷だらけ! どないしたんですか!?」

煌「どうもこうも」

怜「半日あの子と付き合った結果や」

玄「はい……」

漫「…………やっぱりですか」

怜「おう」



怜「…………」

漫「…………」

怜「…………お互い、苦労したようやな」

漫「……はい」

怜(……暴れた猫に)

漫(……宮永先輩に)



日曜日 部室の前

怜「ほな、いよいよ智葉に話すときや。皆、用意ええな」

全員「おー!」

怜「入るで、部室」

―ピキッ―

怜「!」

煌「園城寺先輩?」

怜「…………あかん」

煌「?」



怜(見えた……。智葉の前で、玄がこの世の終わりみたいな顔で泣いとる未来が……)

煌「どうしたんですか?」

怜「あかんわ、智葉に見せたら」

煌「えっ」

照「どうしたの?」

怜「……なんとなくやけど。今話してもうまくいかん気がするわ」

成香「…………?」

煌(まさか、未来が見えた……?)



怜「……慎重にいこ。智葉の機嫌を見極めるんや」

玄「は、はい……」

怜「機嫌ええときを待って、それとなく猫の好き嫌い確認して……。無理そうなら日を改めたほうがええかも」

煌「……長期戦バージョンですね。想定内ですよ」

漫「それまでは……」

怜「とりあえず、黒服さんが頼りや。預かってもらえるか聞いてみよ」



黒服詰所

コンコン

黒服A「はい?」

玄「……こんにちは」

怜「どーも」

黒服A「これは皆様お揃いで、どうかなさいましたか?」

玄「あの……実は……」



黒服A「猫……ですか……」

煌「私たちじゃどうにもできなくて……。部長にお助け願いたいと思うのですが」

怜「正直、智葉が怖いんで。タイミング測りたいんです」

照「もしくは、一緒に説得してほしいです」

黒服A「……なるほど」

成香「あの、部長さんは猫さんお好きな方ですか……?」

黒服A「……申し訳ありません、わかりかねます」

黒服B「今まで一度も飼ったことはないかと思いますが……。特に好き嫌いとは聞いたことがないですね」

漫「そうですか……」



黒服A「ひとまず、事情は了解いたしました。とりあえず部活中はこちらでお預かりしましょう」

成香「いいんですか?」

黒服B「お嬢のご機嫌を伺えるまで、詰所に置いておいてかまいませんよ」

玄「ありがとうございます!」

黒服C「部活が妨げられると、お怒りになるかと思いますので……。お嬢にアプローチするのは部活終了後がよろしいかと」

漫「なるほど」

煌「さすがわかってますね」

煌「じゃあ、とりあえず部活は普通に。部長のご機嫌を損ねないように、バレないようにいきましょう」

全員「おー!」



部活中

タンッ

智葉「…………」

煌「ツモ 700・1300です」パタッ

玄「はい」

智葉「…………」

智葉(皆淡々と麻雀やってるが……)

煌「…………」

玄(…………普通に、普通に……)ドキドキ

成香(…………不審な動きをしなければ……大丈夫……)ドキドキ

智葉(…………)

智葉(……なんで全員、手に引っかき傷があるんだよ)



休憩時間

智葉「おい」

成香「はいっ!?」ビクッ

玄「なな、なにか?」ギクシャク

智葉「……その手、どうしたんだ」

玄「!」ドキッ

煌「まずい!」

怜「もう勘付かれた!?」



玄「な、なんでもないですよ?」

智葉「いや、お前ら全員そうだろ。傷だらけじゃないか」

玄「うっ」ドキッ

成香「えっと……その……」

煌「くっ、早くもピンチに……」

バタンッ

黒服C「おっ、おいこら!」

黒服D「そっちは駄目だ!」

黒服E「待ちなさい!」

フギャギャーー!!

玄「あっ、出てきちゃった!」

漫「最悪や……」

智葉「…………猫?」



タタタッ

煌「あっ、部長のほうに!」

玄「危ないですっ!」

怜「ああ、大変や!」

玄「ひっかかれちゃう!」

怜「斬鉄剣で真っ二つにされてまう!」

玄「えっ」

怜「えっ」



ダダダダッ

智葉「?」

ぴょん

煌「部長の胸に飛び込んだ!」

怜「ああ……」

漫「……おしまいや……」

ぽふっ

フニャー ゴロゴロ…

智葉「おいおい、なんだよ」

玄「えっ」

照「えっ」



智葉「……よしよし、大丈夫だぞ」なでなで

キューン フニューン

漫「あ、あのドラ猫がおとなしく……」

成香「すごく丸くなって甘えてます……」

怜「…………なんやこれ」



智葉「どうしたんだ、この子は?」

成香「私たちの誰にも懐かなかったのに……」

玄「全員ひっかかれたのに……」

フニャーオ ペロペロ…

智葉「ははは、くすぐったいぞ」

漫「……怯えて猫かぶっとるんとちゃいます?」

怜「いや、めっちゃ幸せそうに甘えてるで……」

フニュー… ゴロゴロ…

智葉「……フフッ、おとなしくていい子じゃないか」なでなで

照「…………ずるい」

煌「すばら!」



…………

……

黒服A「お嬢、連絡つきました」

智葉「うん」

黒服A「例の児童養護施設で、飼っていただけるとのことです」

智葉「……悪かったな、押し付けたような形で」

黒服A「いえいえ、皆さん喜んでいらっしゃいましたよ。一足早いクリスマスプレゼントだと」

智葉「…………そうか」

怜「……スピード解決してもうたな」

漫「何やったんでしょう、昨日の死闘は……」

成香「……でも、一件落着ですね」

玄「よかった……」

煌「すばらです!」



怜「ありがとな、智葉」

照「さすがガイト」

智葉「……私は何もしてないぞ」

怜「謙遜せんでええで。これで様子見に行くって口実もできたしな」

智葉「口実?」

怜「今年のクリスマスや。みんなで行くで、あの養護施設」

照「うん、みんなでサンタやろう」

智葉「…………仕方ないな、お前らは」



その夜 玄と漫の部屋

漫「よかったな。みんなのおかげやね」

玄「うん、ありがとう」

漫「でも部長に一番懐いたんは、びっくりしたけどなー」

玄「ウフフッ、ほんとだよね!」

アハハハハ ウフフフフ

……

漫「……そういえば玄、宿題のノートは?」

玄「あっ」


翌日

玄「倍の宿題……もらっちゃいました……」グスン

智葉「は?」

怜(……あっ、昨日見えた顔)




2月13日

煌「さて! 一年生四人集合です!」

漫「どないしたん、急に」

煌「ふふふ、明日は何の日か知ってるかな?」

成香「?」

漫「2月14日いうたら……」

玄「バレンタインデー……、かな?」

煌「そう!」



煌「日ごろお世話になっている先輩方に、私たちからチョコをお贈りしようかと!」

玄「おー」

漫「ええやん」

成香「素敵です」

玄「みんな甘いもの好きそうだしね!」

漫「特に宮永先輩、ごっつい食いそうやでー」

玄「ウフフッ、そうだね!」



成香「でも、どういうのがいいのかな……?」

煌「そこでね、私にいい案が!」

玄「いい案?」

煌「さらに4日後の18日! 宮永先輩のお誕生日なんだ!」

成香「わぁー」

漫「それはそれは……」

煌「だからバースデーケーキを兼ねて、チョコケーキはどうかな!?」

漫「なるほどー」

玄「一緒にお誕生日パーティーだね!」

煌「そう! たくさん作ってみんなで食べられるし!」

成香「素敵ですー」

煌「ではまず、材料のお買い物に行きましょう!」

三人「おー!」



夜 寮のキッチン

煌「それでは、始めましょうか!」

玄「おー!」

漫「チョコケーキってどう作るん?」

成香「基本的には、普通のケーキとそんなに変わらないです」

煌「ココアパウダーを入れて焼いたスポンジと、チョコクリームやフルーツを重ねて……」

玄「最後に、表面にチョコレートを塗ればいいのかな?」

成香「うん。あとは飾りつけですね」



煌「では、みんなそれぞれ飾りつけに買ってきたものを出しましょう!」

バラバラッ

漫「ハートや星のチョコ型、カラフルなつぶつぶ、いちごに粉砂糖にナッツにリッツ……」

成香「素敵です」

煌「玄、それは?」

玄「うふふ、私のはこれ!」

漫「四角いマシュマロ?」

玄「そう! いいこと思いついたんだ!」



玄「ふっふっふ、見ててね!」

玄「まずひとつの面だけにチョコを塗って……」ペタッ

玄「反対側の面に、つまようじでチョコを少しずつ……。ちょいちょい……と」

煌「おお……」

漫「これは……」

玄「はい、「中」! 四角いマシュマロにチョコで文字を描いた麻雀牌だよ!」

成香「わぁー」

煌「すばら!」



漫「これはええアイディアやね!」

成香「麻雀部のお祝いにぴったりですー」

玄「簡単な絵なら、字牌じゃなくても描けると思うよ!」

煌「よーし、皆で描きましょう! 誰が一番上手かなー?」

漫「競争やね!」

煌「そうだね! じゃあ漫が最下位だったらおでこにチョコで落書きしちゃおうかな!」

漫「なんやそれー、私だけ狙い撃ちやんー」

ワイワイ キャッキャッ

…………

……



次の日

智葉「よし、じゃあ今日も始めるぞ」

煌「お待ちください! 今日は始める前に!」

智葉「?」

煌「我々四人から、先輩方へ!」

漫「いつもありがとうございます!」

四人「ハッピーバレンタイーン!」

ジャーン

智葉「これは……」

照「ケーキ……!」

成香「三段重ねチョコケーキですー」

怜「わぁー! わぁーわぁーー!!」



煌「4日後は宮永先輩のお誕生日ということで! バースデーケーキも兼ねて!」

四人「ハッピーバースデー!」

照「ありがとう……。凄く嬉しい」

怜「トリプルやー! なー見てー! トリプルー!」キラキラ

智葉「……そうだな」

照「うん、凄い」

怜「わぁ…… トリプルやぁ……」キラキラ

智葉(…………あいつ何か知らんが、トリプルって言葉に異様に食いつくよな)



ワイワイ キャッキャッ

黒服A「……微笑ましいですね」

黒服B「後輩に感謝されるお嬢……。ご立派です」

黒服C「いいなぁ……」

玄「あ、それから忘れないうちに!」

クルッ

スタスタ

黒服A「?」

黒服B「松実様?」

黒服C「こっちに来ましたが……?」

玄「はい、黒服さんたちにも」スッ

黒服D「…………えっ」

ざわ…



黒服E「えっ……、あの……、なんと……?」

玄「ケーキの方にたくさん使っちゃったので、少なくてごめんなさいですけど」

煌「ちゃんと別に用意いたしましたので!」

成香「いつもありがとうございます! 日頃の感謝の気持ちです!」ニコッ

黒服F「われ……われに……?」

四人「はいっ!」

ざわ… ざわ…ざわ…

黒服H「おお……おおおっ……」



黒服A「なんて……いい子たちっ……」ボロ…ボロ…

黒服B「天使っ……圧倒的天使っ……」ボロ…ボロ…

黒服C「生きてて……よかった……」ボロ…ボロ…

智葉「泣くな泣くな大げさだな」

黒服D「チョコを……くれたねっ……! お嬢からももらったことないのにっ……!」

黒服E「うっ…… うおっ……」

黒服F「うおおおおーーーー!!」

バンザーイ バンザーイ バンザーイ

成香「こんなに喜ばれるなんて……」

煌「すばらっ!」

怜「……あげてへんかったん?」

智葉「…………誰がやるかよ」



全員「ごちそうさまー!」

照「とってもおいしかった……。今日はありがとう」

煌「はい! こちらこそ、喜んでいただきすばらです!」

照「……それじゃあ」

煌「はい」

照「4日後の本番も楽しみにしてるね」

煌「えっ」

玄「えっ」

照「?」


※4日後、急いでもう一個作りました。




一年生
二年生(前)
二年生(後)
三年生
2016/06/08-06/10 SS深夜VIP
智葉「私立先鋒学院高校麻雀部」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1465045109/