高校三年生 4月

智葉「新年度……か」

黒服A「…………」

智葉「どうした、珍しく元気がないな」

黒服A「…………いえ」

智葉「で、今年は何人来るんだ」

黒服A「…………」

智葉「ん?」

黒服A「…………一人です」

智葉「……何?」

黒服A「…………」

バタン

優希「たーのもー!!」



優希「麻雀部に入部しに来ましたじぇー!」

煌「あっ、優希!」

優希「花田せんぱーい!!」

ギュッ

優希「お久しぶりだじょ!」

煌「よく来てくれましたね、優希!」

玄(……ちょっと、昔の憧ちゃんに似てる子だ)



怜「ふーん、知り合いなん?」

煌「ええ、私と同じ中学の後輩です!」

優希「だじぇ!」

成香「そうなんだー」

煌「でも、よくここに来てくれましたね?」

優希「ふっふっふ、海より深い深謀遠慮の末にだじぇ……」

智葉(こいつも笑えない事情があるのか……?)



―回想―

黒服C「というわけで、ぜひともうちの麻雀部へお迎えしたいと思っています」

優希「ちっちっちっ……。このゆーきちゃんを安く見積もられちゃ困るじぇ」

黒服C「?」

優希「花田先輩と一緒なのは確かに魅力だじょ……。でも、それだけでのどちゃんのおっぱいを捨てるわけにはいかないじぇ」

黒服C「はあ」

優希「のどちゃんと私を別れさせたいなら、それなりの対価が必要だじぇ! 私はそんなに安くないじょ!」

黒服C「学食のタコス食べ放題というのはどうです?」

優希「乗った!!」

―回想終―



優希「まあ一言で言うなら、タコスに導かれて来たんだじぇ!」

成香「タ、タコス?」

玄「?」

煌「言葉の意味はよくわかりませんが、とにかく相変わらずですね……」

優希「タコスは宇宙の真理だじぇ!」

煌「ところで……、あなたが来たのなら、和は?」

玄「!」



優希「のどちゃんは地元の公立だじぇ!」

煌「そうですか……」

玄「一緒に来れたらよかったのに……」

優希「なんかな、お父さんの仕事の都合で離れられないって言ってたじょ」

煌「お父様のお仕事ですか……。それじゃ無理には言えませんね」

玄「阿知賀から転校するときもそうだったね、和ちゃん……」

優希「ん? こっちの先輩はのどちゃん知ってるのか?」

玄「あ、うん、実はね……」

智葉「…………」



智葉「あいつらが今話してたのって……、ミドルチャンプの原村和か」

黒服A「はい。花田様や片岡様と同じ中学です」

智葉「そっちには声かけなかったのか? 親の都合と言ったって、一人で寮に来たっていいだろう」

黒服A「だって……それは無理な相談というか……」

智葉「?」

黒服A「彼女のお父さん、凄く怖そうな弁護士さんだったので……」

智葉「…………」

黒服A「…………」

智葉「…………ヘタレめ」



智葉「それにしても、一人とはな」

黒服A「申し訳ありません……。実は、先手を打たれてしまったといいますか」

智葉「先手?」

黒服A「実は我々のほかにも、全国の有望選手に声をかけていた高校がありまして」

智葉「ほう?」

黒服A「大概の子は先に声を掛けられていたり……うちの誘いを断るよう根回しされてしまったりで」

智葉「……ふむ」

黒服A「問題ないとは思うのですが……。何かありましたらまたご報告します」

智葉「……ああ」



翌日

智葉(……で、こいつの実力だが)

優希「どーん!! 連荘ツモだじぇ!」

成香「ひゃぁぁ……」

怜「大したもんやん」

煌「相変わらず、東場の勢いはすばらですね!」

智葉(ふむ。なかなかやるじゃないか)

優希「今日も元気だタコスが美味いじぇ!」

智葉(……だが……)



南一局

成香「あっ、それロンです!」

優希「…………はい」

玄「東場のうちは凄いのに……」

怜「南場に入ると、とたんにからっきしやな……」

煌「そういうところも変わってませんね……」

智葉(集中力が続かないで片づけるにしては……極端過ぎる)

優希「……しょぼーん……」

智葉(こいつもまた……。常識の外側にいるヤツなのか……?)



数日後

優希「ふっふふーん、今日も元気だタコスが美味い~」モグモグ

煌「相変わらずですね、優希」

玄「いつも食べてるけど……それ何なのかな?」

優希「タコスです! 私の元気の源だじぇ!」

成香「いろんな具を包んで巻いて……、クレープみたいな感じですか?」

優希「これはトルティーヤ! 小麦粉じゃなくてトウモロコシの粉を焼いたんだじょ!」

玄「へぇー」

優希「小麦粉を焼いたのなんて邪道だじぇ!」

漫「あん?」ピクッ



玄(あっ……)

成香(……これは……)

玄「で、でも、小麦粉を焼いたのでもおいしいのあるよね?」チラッ

成香「そ、そうですよね! お、お好み焼き……とか……」チラッ

優希「あー、広島のあれなー」

漫「ほう」ビキッ

玄「え、えっと……広島じゃなくて……」チラッ チラッ

優希「?」

成香「う、薄皮で焼くのは確かに広島のほうが似てますけど……」チラッ

玄「混ぜて焼くのもおいしいよね?」チラッ

優希「ん? 混ぜ焼きなんてしたらタコスじゃなくなっちゃうじょ?」

漫「…………」ビキビキッ



煌「あの……、漫?」

漫「これはこれは……。ちぃーとばかし痛い目見せたらなあかんな……」ゴゴゴゴゴ

煌「あの、漫? なるべく穏便にね?」

漫「……わかってるて」

ツカツカ

漫「おい」

優希「? はい?」

漫「さっきから聞いとりゃ、言いたい放題やないか」

優希「じょ?」

漫「言うとくけどな、そんなんは最高のお好みを知らんから言えんねん」

優希「?」

漫「粉もんなら大阪のお好み焼きが最強や。異論は受け付けへん」

優希「??」



漫「まあええ。知らんなら教えたったらええ話」

優希「?」

漫「見とき。今から世界で一番美味いお好み焼き作ったるわ」

優希「??」

漫「黒服さん! 鉄板!!」

黒服C「はっ」ザザッ

優希「じょ!?」

成香「一瞬で鉄板を用意した……」

怜「ええコンビネーションやんけ」

煌「すっかり慣れたものですね……」

智葉(……何やってんだ)



漫ちゃん料理中

ジュゥゥゥ… クルッ ペタン

漫「ほいっ、いっちょあがり!」

優希「おぉー」

玄「すごーい」

智葉「…………何部だここは」

怜「まあええやん、お好み食えるで」

照「おいしいは正義」

智葉「…………」

漫「ほら、食うてみいや」



モグモグ

優希「うまーい!」

漫「フッ、どや」

優希「はい! おいしいです!」

煌「いつも通りすばらな味だね!」

怜「さすがやな」

照「…………」モグモグ

優希「でも小麦粉焼きならタコ焼きのほうがいいじぇ、タコ入ってるし」

漫「」(♯^ω^) ビキビキッ



漫「すんません黒服さん、タコ焼き器ってあります?」

黒服C「申し訳ありません……さすがにそこまでは」

漫「……そうですか」

黒服C「家庭用でよろしければ今から買いに走れますが……、さすがに業務用ですと今日中というわけには」

漫「…………わかりました、明日でいいんで業務用お願いします」

黒服C「かしこまりました」

成香「これは……」

煌「漫も本気だね……!」

智葉(……なんで使いこなしてんだよ黒服を)



漫「おい、聞いたとおりや」

優希「じょ?」

漫「明日、世界一のタコ焼き作ったる……。それ食うてからどうこう言えや」

優希「なんかよくわからんけど、了解だじぇ!」

煌「…………ふう。ひとまずこの場は収まりましたか」

成香「でも、タコ焼き作れるなんてさすが大阪の人ー」

玄「そうだねー。大阪のおうちならタコ焼き機、一家に一台あるんでしょ?」

漫「いやいや、そんなんやないよ」

玄「そうなの?」



漫「どこにでもあるわけちゃうて、風評被害もええとこや。うちにはあるけど」

玄「えっ」

怜「せやで」

成香「園城寺先輩……」

怜「大阪やから言うて、偏見で喋ったらあかんわ。うちにはあるけど」

煌「えっ」

成香「えっ」



次の日

漫「ほっ! とあっ!!」

ジュゥゥゥ… クルッ クルクルッ

智葉「……今日は一体何やってんだ」

黒服J「ははっ。見ての通りタコ焼きでございます、お嬢」

黒服K「ご心配なく。お嬢の分も材料用意してますよ」

智葉「……お好み部の次はタコ焼き部かよ」

漫「ほいっ! 出来上がりや!」

成香「わぁー」

玄「おいしそー」

優希「すごいじぇー!」

漫「どや、食うてみい」



モグモグ

優希「うむ! 美味!」

漫「……どや、小麦粉焼きのこと見直したか?」

優希「はい! 最高です! ありがとうございました、上重先輩!」モグモグ

漫「…………調子ええやっちゃな」

煌「すばら!」

怜「…………うまいな」モグモグ

照「…………おいしい」モグモグ




5月

智葉「さて、今年も5月連休合宿が終わったわけだが……」

成香「あっ、ロンです! ダブ南ドラ3です!」

優希「はい……」

智葉「結局、合宿中もずっとああだったなあいつ」

優希「南場なんてしょぼーんだじぇ……」

智葉「照、どういうことなんだあれは」

照「どういうことも何も無い。彼女はそういう子」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「それだけか」

照「だけ」

智葉「…………ふむ」



智葉「……ひとつ、試してみるか」

照「?」

智葉「よし、みんなきけ」

玄「はい?」

智葉「来週一週間は東南戦でなく、東風戦だけにしよう」

優希「!」

みんな「!」

怜「……なんでや?」

智葉「率直に言って。優希、お前の力が見てみたい」

優希「!」



智葉「何か質問は?」

優希「はいっ!」

智葉「はい優希」

優希「タコスはいくつまで持ち込み可ですか!?」

智葉「……別にいくつでも構わんが」

優希「!!!」

優希(ボーナスステージ……開幕だじぇ……!)



そして一週間後


―東風戦トータル順位―

1位 片岡優希
2位 宮永照
……

(以下略)


優希「どやっ!」

玄「うわぁ……」

成香「すごいです……」

怜「……ほんまにやりよったな……」

照「…………」



智葉「……煌」

煌「はい」

智葉「……本当に、どういうやつなんだあいつは」

煌「中学の時分からそうでしたので。あの子のすばらな個性と思っていただければと」

智葉「「……南場のあいつも含めてか」

煌「はい」

智葉「これが半荘続けば立派な主戦力になれるのだが……。もたんのか」

煌「もちません」

智葉「言い切るな」

煌「はい」

智葉「……どうしたもんか」ヤレヤレ



次の日

智葉「優希。話がある」

優希「じょ?」

智葉「……まず、先週はよくやったな。東場のお前の力はよくわかった」

優希「ありがとうございます!」

智葉「…………だが」

優希「?」

智葉「だがどうしても。東場でそれだけできるのに南場がしょぼんというのはわからん」

優希「……南場は苦手なんだじぇ」

智葉「できることなら、南場でも東場と同じに打てるようになってほしいんだが。お前のためにもな」



優希「そう言われてもだじょ……」

智葉「きちんと対策を考えて、改善できるように取り組むんだ。必要なら特訓スケジュールを組んだっていい」

優希「うえぇぇぇ~~、めんどくさいのはやだじょ~~」

智葉「せっかく東場は勢いがあるのに、勿体無いじゃないか。それに裏を返せば、南場が弱点になるってことだぞ」

優希「…………」

智葉「現に今、部内でだってそうだろう。皆、お前と打つときは南場を待って狙い撃ちだ」

優希「先週みたいに、ずっと東風戦でやればいいんだじぇ」

智葉「無理を言うな。部内でどれだけ言っても、大会に出れば東南戦なんだ」

優希「うぅ~……」



智葉「理由は何なんだ。なぜ南場になると調子が落ちる?」

優希「タコスぢからが切れるから集中力が持たないんだじぇ」

智葉「そういう問題なのか」

優希「だじぇ」

智葉「…………」

優希「力がなくなっちゃうものはどーしよーもないんだじょ」

智葉「…………」

煌(苦手なことには本当に甘えんぼさんですね、昔から……)



智葉「集中力、南場まで持つ体力か……」

優希「そうだじぇ。だからそんなのムリムリで……」

怜「ほーう。ほな、お前も一緒に朝走るか?」

優希「じょ!?」

怜「毎朝やっとるランニングや。体力無いなら私と一緒につけたらええわ」

智葉「ふむ。それはひとついい案だ」

怜「決定やな。明日から朝起こしにいくで」

優希「えぇー!?」



智葉「他には何か無いか、照」

照「……英国紳士も言っていた、こういうときは逆に考えればいい」

智葉「ほう?」

照「南場だと思うから力が出ない、だったら親が二周してもまだ東場だと思っていればいい」

智葉「……どういうことだ」

照「一荘戦をやろう」

優希「いーちゃんせん?」

照「一荘戦とは東場、南場のあとに西場、北場までやって一回戦」

優希「えっ」



照「つまり大きな目で見れば、東場南場が前半戦、西場北場が後半戦」

優希「そ、そんなんしても私は東場しかもたないじょ!?」

照「一荘戦だけど、最初の2つは東場、後の2つは南場という名前でやる」

智葉「ふむ」

照「東場だから集中力は持つ、持たせようという気持ちでこの一荘を打てば、結果半荘分の長さが持つようになれるはず」

優希「そんなオカルトありえないじぇ!!」

智葉「なるほど、いいかもしれんな。付き合うぞ」

照「これで私に勝てるようになってこそ次世代のエース」

優希「そんなーー!!」



優希「ひどいじょー! 一人の一年生をみんなしてー!!」

智葉「そんなんじゃない。お前の弱点克服のためだ」

照「そう、決して一週間の東風戦だけとはいえ部内トップを取られたからどうとかいう気持ちは無い」ゴォッ

怜「おう、決しておもろそうやからこの流れに便乗しようと思ってるだけとちゃうで」

優希「先輩たち考えが全部だだ漏れてるじょ!?」

漫「タコスやのうてタコ焼きやったら、作ったってもええでー? 半荘分我慢した後でな」

優希「後でなんていらないじょーー!!」

玄「これは……」

煌「わりと皆さん……負けず嫌いですね……」

成香「あはは……」



煌「結局優希は、毎朝のランニングと週に2回の一荘戦が日課となりました」

智葉「効果ありそうなら、一荘戦は回数増やすからな」

優希「しょぼんだじぇ……」

煌「どんまいですよ、優希!」

成香「でも、みんなが弱点克服に付き合ってくれているんですから。素敵なことだと思います」

煌「そうですよ! 期待されているからこそです!」

成香「はい。私なんて何もないんですから、うらやましいくらいです」

優希「先輩……」



優希「でもいくらやったって、自信ないじょ……」

煌「でも優希だって、南場でも同じように打てるようになったらすばらでしょう?」

優希「それは……そうですけど……」

煌「みんなそういう、すばらな優希になってほしいと思ってやってくれてるんですよ」

優希「苦手なもんは苦手なんだじぇ……」

成香「がんばってみる前から諦めてちゃダメですよ、優希ちゃん」

優希「…………」

成香「そんなだったら、私が代わりにレギュラー取っちゃいますよ?」

優希「じょ?」



成香「今までの成績は優希ちゃんより下ですけど。諦めちゃう子には負けられません」

優希「…………」

成香「私も、みんなに勝てなくたって諦めてないんですから。優希ちゃんも諦めちゃだめです」

優希「なるか先輩……」

煌「うんうん」

成香「諦めたら、そこで試合終了ですからね!」ニコッ

優希「…………わかりましたじょ」

煌「うん! さすが優希! すばらな強い子ですね!」



成香「じゃあ一緒に! がんばるぞの掛け声しましょう!」

優希「おー!」

成香「はいっ、『心を強くして!』」

優希「『麻雀も強くなるぞ!』」

煌「すばら!」

優希「『モリモリ!!』」

煌成香「モリモリ!?」




6月

智葉「いよいよ来週……。東東京大会か」

黒服A「はい、全国各地でも県予選が始まった頃……。早いところはもう個人戦まで決まってきてますね」

智葉「……ああ」

黒服A「それで、ちょっとお耳に入れておきたいことが……」

智葉「……なんだ」

黒服A「以前お話しました、先手を打たれたという高校なのですが」

智葉「!」

黒服A「やはり出てきました。県大会で優勝したそうです」

智葉「…………ほう」

黒服A「少し長くなりますが、報告よろしいでしょうか」

智葉「ああ、今日終わってからな」



部活終了後

怜「ほな、また明日なー」

智葉「ああ」

バタン

黒服A「皆さんはよろしいので?」

智葉「私が聞いておけばいい。必要なら後で私から話す」

黒服A「かしこまりました」

黒服E「では、ここからは私、佐衛門三郎二朗がご報告させていただきます」

智葉「黒服Eな」

黒服E「こちらのスクリーンにご注目ください」

パッ



ジャジャーン

パッ ヒューン


『   目=-


智葉「?」


『目   指=-


『目指   せ=-


『目指せ   連=-   覇=-


智葉「…………」


パパパパパッ


『目指せ連覇!! 佐衛門三郎二朗プレゼンツ 謎に包まれたライバルのすべて』



智葉(…………)

智葉(……このうざい文字アニメーション……)

智葉(パワポ……!)

黒服E「よろしくお願いします」

智葉「そういう自己主張はいらん、早くしろ」

黒服E「はっ。私がご報告させていただく高校とはズバリ……」


ギュルルン ズギャッ


黒服E「兵庫県代表・私立大将学院高校。今年新設された女子校で初出場です」

智葉「……うちと似てるな」

黒服E「創設者にして初代理事長は、古塚財閥の会長様です」

智葉「!」



智葉「古塚の会長だと……?」

黒服E「はい。関西財界の雄にして、うちの会長とは積年のライバル」

智葉「一緒にされたら向こうに失礼だろう。関東でアレに匹敵する財力があるのは弘世のとこくらいだ」

黒服E「左様です。しかしうちの会長とは若い頃から個人的な因縁があり、お互い意識している存在だと」

智葉「……知ってるよ。こっちはずっとそれを聞かされて育てられたんだ」

黒服E「…………はい」

智葉「そうしてうちが伸びてきたことは否定しないよ。そんなレベルから張り合い、競い合ってきた相手だ」

黒服E「…………」

智葉「……だが、親同士の話だ。私にまで火の粉をかけるなと、常に思ってるからな」



智葉「……で、まさかとは思うが。今回もうちに張り合って高校作っちゃいましたとか言うんじゃないだろうな」

黒服E「はい。そのまさかです」

智葉「大人気ないな……。大財閥の会長がやることかよ」

黒服E「よっぽどうちのことが悔しかったんでしょうね」

智葉「一緒にするなって。向こうは表立った世間体のある大財閥だろうが」

黒服E「うちがこの高校で大成功しましたから……。古塚会長としてはそれはもう思うところがあったのかと」

智葉「大成功?」

黒服E「インハイ団体初出場初優勝、個人二連覇は立派に成功と言っていいでしょう」

智葉「たかだか二年の話だろうよ」

黒服E「そんなことはありません、ご立派ですよお嬢」

智葉「フン、私だけの力じゃない」

黒服E「自らを謙遜し仲間を讃える。さすがのコメントです」

智葉「やかましい」



智葉「だが、古塚の娘なら私と同い年だろう。確か劔谷じゃなかったか?」

黒服E「はい。当初はその梢お嬢様をはじめ、全国の実力者を引き抜く計画だったようですが……」

智葉「無節操な……。そんなことで人を転校させるなよ……」

黒服E「はい。当の梢お嬢様を転校させようとして激怒され、泣く泣く断念したとのことです」

智葉「そりゃそうだろうよ」

黒服E「転校生は一定期間公式戦に出場できない規定もありますしね。致し方ないでしょう」

智葉「それ以前の問題だろうが」



黒服E「よって、生徒は一年生のみ。しかし相当気合を入れて勧誘していたようで……」

智葉「で、うちが遅れを取ったと」

黒服E「はい」

智葉「……やれやれだな」

黒服E「昨年インハイ団体戦で大暴れしました、龍門渕の天江衣にも声をかけていたという情報もありました」

智葉「!」

黒服E「どうしました?」

智葉「……成程。ただの道楽じゃなさそうだな」



智葉「それで、結局どんな奴らなんだ」

黒服E「はい、現在部員数はちょうど五名。全員一年生です」

黒服E「こちらが兵庫県大会のオーダーです」

パッパパッパッパッパッ

ピシューン ドルルルッ キラキラキラッ

智葉(…………パワポうぜえ)


大将学院高校麻雀部

先鋒:大星淡
次鋒:ネリー・ヴィルサラーゼ
中堅:高鴨穏乃
副将:宮永咲
大将:安福莉子


智葉(…………ふむ)



智葉(……とりあえず、知った名前は一人)

智葉「ネリーって、世界ジュニアのあのネリーか」

黒服E「はい。サカルトヴェロのあのネリーです」

智葉「……よく連れてきたもんだ」

黒服E「…………そうですね」

智葉(他は見たこともない名前ばかりだが……。宮永……?)

智葉(……まさかな)



黒服E「やはり全国から集められたようで。地元出身は大将の部長さんだけですね」

智葉「……ふむ」

黒服E「そしてその彼女こそ、古塚会長の秘蔵っ子」

智葉「ほう」

黒服E「梢お嬢様とは旧知の仲。当初は劔谷へ進学予定だったようですが……」

黒服E「二,三年生を引き抜けなかったため、代わりに本校打倒を託された最強の切り札だともっぱらの評判です」

智葉「……どこでの評判なんだ」

黒服E「我々ですが?」

智葉「…………」



智葉「まあいい。で、その秘蔵っ子の戦績は?」

黒服E「…………」

智葉「ん?」

黒服E「…………ありません」

智葉「?」

黒服E「兵庫県大会は……一度も大将までまわりませんでした……」

智葉「……ほう」



黒服E「全試合、すべて副将まででトビ終了。先鋒や次鋒だけで終わらせた試合まであります」

智葉「……兵庫と言えば、全国屈指の大激戦区だったはずだが?」

黒服E「…………はい。先鋒と次鋒の二人が大半の得点を削り切っているようですね」

智葉「……前から順に強いヤツを集めたということか?」

黒服E「オーダーの組み方も……。こちらのインタビューが唯一の手がかりなのですが」

ピッ

淡(映像)「出たい人順! 先鋒ネリーじゃなければなんでもいいって言われた!」

黒服E「…………とのことで、正直よくわかりません」

智葉「まあ、留学生は先鋒禁止になったからな」

黒服E「…………はい」



黒服E「あちらもあちらで、情報統制をかけているようで……。断片的で未確認な情報が多く」

黒服E「全員同程度の実力者だという話もあり、一番ヤバイのは副将だという説もあり。情報が錯綜しています」

智葉「……その一番ヤバイ説ってのは何だ」

黒服E「個人予選で10戦連続プラマイゼロだったというのですが……。それを意図的にやったのでは、という噂が」

智葉「…………ありえんだろ」

黒服E「……はい。あちらに掴まされたガセネタかもしれません」

智葉(……だがしかし……。宮永、か……)

黒服E「……ひとまず、この学校について分かっていることは以上です」

智葉「…………そうか」



智葉「他の有力校を聞こうか」

黒服E「はっ。まず鹿児島の永水女子、長野の龍門渕は昨年同様の強さで今年も勝ち上がっています」

智葉「神代に天江か……」

黒服E「常連校では奈良の晩成、南大阪の姫松。西東京白糸台は弘世のお嬢様率いるチーム龍姫」

黒服E「姫松と白糸台は流石の層の厚さを見せていますね」

智葉「……まあそうだろうな」

黒服E「しかしやはりこちら。全国ランキング二位、昨年個人二位の荒川憩を擁する北大阪の千里山女子が最重要です」

智葉「…………ああ」


千里山女子麻雀部

先鋒:荒川憩
次鋒:二条泉
中堅:江口セーラ
副将:船久保浩子
大将:清水谷竜華



黒服E「そして……。やはり常連校ですが、戦力の上積みが気になるのが福岡の新道寺女子」

智葉「新道寺?」

黒服E「地元の実業団チームが廃部になりまして……、そこの選手を今年から監督にスカウトしたとか」

智葉「ほう」

黒服E「こちらがメンバー表です」


新道寺女子麻雀部

先鋒:鷺森灼
次鋒:安河内美子
中堅:江崎仁美
副将:白水哩
大将:鶴田姫子

監督:赤土晴絵(前所属:博多エバーグリーンズ)



黒服E「この新監督というのが、かなり有能な方らしく……。選手たちの実力は春から格段にパワーアップ」

黒服E「県大会では近年に無い圧勝劇を見せたということです」

智葉「……ふむ」

黒服E「特に注目は先鋒、ダブルネクタイの鷺森選手」

智葉「ダブルネクタイ?」

黒服E「新道寺の制服といえばかわいいネクタイが特徴的ですが……。鷺森選手は二枚重ねでもう一本してるんですよ」

智葉「なんだそりゃ」

黒服E「ゲンかつぎとか、そういうことじゃないですか?」

智葉「…………」

黒服E「そしてまた、赤土監督と同郷の奈良出身。実業団選手だった彼女を追いかけて福岡に進学したという噂です」

智葉「……ほう」

黒服E「そのあこがれの選手を監督に迎え、並々ならぬ思いがあるとのこと」

智葉「……ふむ」



―福岡 新道寺女子―

晴絵「……なあ、灼」

灼「…………何」

晴絵「……いよいよ、全国大会だな」

灼「うん」

晴絵「今日まで……。灼には本当に感謝しているよ」

晴絵「私なんかを追いかけて、一人で福岡まで来てくれて……」

晴絵「ここの監督の仕事だって、灼がいなかったら話さえ無かった」

灼「……大したことじゃない」

晴絵「……でもひとつ。まだ聞いてなかったこと、教えてくれないか」

灼「?」

晴絵「どうして、私が福岡にいるってわかったんだ?」



晴絵「お前が高校に入る年。一年半くらい前……」

灼「…………」

晴絵「その頃の私なんて、知名度もなにも全くなかった」

灼「…………」

晴絵「ましてや、奈良でなんて……。私の友達に聞いても、全然話題にもなってなかったみたいだし」

灼「…………」

晴絵「ブログにだって、こっちの事はひとつも書いてなかったのにさ」

灼「……声が……聞こえたから……」

晴絵「声?」



一年半前 奈良・鷺森レーン

ウィーン

灼(中3)「いらっしゃいませ」

黒服H「いやいやいやー、来ましたねボウリング場!」

黒服B「やっぱり、仕事の後はこれですよねー!」

黒服C「たまの出張の時くらいな!」

ハッハッハッハ

灼(なにあれ…… 黒服……?)

黒服D「あっ、大人4人でお願いします!」

灼「……はい」



ゴロゴロ… ガラガラァン!!

黒服H「よしっ! ストライク!!」

黒服B「ナイッショー!」

黒服C「さすが中田くん!」

灼「…………」

黒服H「いやー、ひと仕事終わってからのこれは最高ですよね!」

黒服C「勧誘も大成功だったしな。堂々と羽を伸ばせるってもんだ」

黒服D「阿知賀女子学院中等部、松実玄様……。必ずやうちの高校で、お嬢の力になってくれるでしょう」

灼「!」



灼(……そっか。玄、阿知賀の高等部行かないんだ……)

灼(…………別に。関係ないけど)

黒服H「それにしても、こんなところでいい人が見つかるとは思いませんでしたよね!」

黒服D「そうだな。あの学校、麻雀部も無さそうだったのに……」

灼「…………」

黒服B「あっ、でも阿知賀女子って聞いたことありますよ!」

黒服C「うん、阿知賀女子といえばアレだよ。8年前一度だけ全国行った!」

黒服D「あー、覚えてる覚えてる。小鍛治プロのときの!」

灼「!」ピクッ

黒服B「あの人ってどうしたんでしょうね? てっきりプロになってるかと思ったのに!」

黒服D「うーん、高一の時しか聞かなかったしなあ」

黒服H「そうですねー」

灼(……何も関係ない人たちが……わずらわし……)



黒服H「でも、赤土晴絵選手ですよね?」

黒服C「ああ、確かそんな名前だ」

灼「…………」

黒服H「確か、日本リーグでそんな名前の人いましたよ?」

灼「!?」

黒服H「どこだったかな? 確か九州の……、博多?」

黒服B「博多って……エバーなんとかの?」

黒服H「そうそう、博多エバーグリーンズ!」

灼「――――!!!」ガタッ

―回想終―



晴絵「声って……?」

灼「……なんでもない。たぶん、ただのボウリングが趣味の人」

晴絵「?」

灼「…………大丈夫だから」

晴絵「?」

灼「きっかけはどうあっても。今ここに、私がいてハルちゃんがいる」

晴絵「…………」

灼「……絶対、私が連れて行くから。ハルちゃんが行けなかったその先へ……」

晴絵「灼……」

灼「ハルちゃんの傍で、ハルちゃんのために。そう思ってこの高校で……、ううん、声が聞こえたあのときから鍛えてきたんだ」

晴絵「……そうか。期待してるぞ、エース」



…………

……

黒服E「…………以上になります」

智葉「……ふむ」

黒服E「いずれ劣らぬ強豪揃い……。正直申し上げて、昨年よりも数段厳しい戦いになることが予想されます」

智葉「……面白いじゃないか」

黒服E「えっ?」



智葉「新参だろうと謎だろうと侮りはしない。だが勝つのは我々だ」

智葉「私は、私の仲間を信じているさ」

智葉「あんなやつらだが……。二年間一緒に過ごしてきた私の仲間達だ」

黒服E「お嬢……」

黒服A「ご立派です……」

黒服B「あっ、一緒に過ごしてきた仲間達ってことは……」

智葉「お前らは違う」

黒服B「えっ」

黒服A「えっ」

黒服CDEFHIJK「えっ」




次の日

玄「……部長さん」

智葉「なんだ」

玄「……団体戦のメンバーは、もう決めちゃったですか……?」

智葉「……いや。これからだ」

玄「だったら……。お願いがあるのです」

智葉「なんだ」

玄「私……、中堅で出させてください!」

智葉「…………理由を聞こうか」



玄「夕べ……。お姉ちゃんから電話があって…………」

―昨晩―

玄「もしもし、おねーちゃん?」

宥「玄ちゃん……元気だった……?」

玄「…………うん。今日はどうしたの?」

宥「……うん。あのね」

玄「うん」

宥「えっと……あの……」

憧「ほら! ちゃんと宥姉から言いなさいよ!」

宥「う、うん……」

玄「? 誰かそこにいるの?」

宥「あ、うん」



憧「やーっほー! 玄ー! 私のこと覚えてるー?」

玄「その声……、憧ちゃん!?」

憧「そうよっ!」

玄「……忘れないよ……忘れるわけないよ……」

憧「……そっ。まあ安心したわ」

玄「…………どうして、お姉ちゃんと一緒に……」

憧「もっちろん! あんたに話があるからよ!」

玄「……えっ」

憧「それじゃ、大事な話があるからよく聞いてなさい! 宥姉と私、二人からね!」



宥「えっと、玄ちゃん、今年もインターハイ出るの……?」

玄「……東東京は来週から予選開始だよ」

宥「そう……」

玄「……うん」

宥「あのね……お姉ちゃんね……」

玄「うん」

宥「インターハイの個人戦、出ることになったの」

玄「!」



憧「ふっふっふ、驚いたー?」

玄「おねーちゃんが…… どうして……」

宥「……玄ちゃんがね、去年出ていたのをテレビで見て……」

玄「去年……」

宥「玄ちゃんに会いたかったから……。がんばったの」

玄「……私に……?」

宥「憧ちゃんにもすごく、背中を押してもらったんだよ」



憧「やるわよねー、宥姉! 奈良個人三位よ、三位!」

憧「ちゃんと指導者がいてブランクなければもっと上も狙えたって、解説の人も言ってたんだから!」

憧「ま、一位と二位はうちの先輩だけど!」

玄「うちって…… 憧ちゃんは……?」

憧「晩成よ! 団体の奈良代表!」

玄「!」

憧「私だって個人も出てたら負ける気は無かったけどねー。晩成は大所帯で上級生優先だから!」

玄「…………そうなんだ」

憧「その代わり! 団体戦は出るわよ! あんたと同じ中堅!」

玄「!!」



玄「……どうしてそんな、ふたりとも……」

憧「…………決まってるじゃない。あんたのせいよ、有名人さん」

玄「有名人?」

憧「……もっと自覚持ちなさい。インターハイ優勝メンバーなんだから!」

玄「…………」

憧「去年の全国、当然みんな見てたのよ。こっち大騒ぎだったんだからね!」

玄「…………そうだったんだ」

憧「…………その大騒ぎで、誰かさんが盛り上がっちゃったわけ。あんたとミドルの和を見てさ」

玄「……誰かさん、って……?」

憧「盛り上がって盛り上がって盛り上がりすぎちゃって……。私に黙って兵庫なんかに引き抜かれて行っちゃったわ」

玄「……兵庫……?」

憧「…………本当、冗談じゃないわよね」



玄「あの、憧ちゃん誰のこと……」

憧「あら、まだわかんないの? 全国出たいなんて言うだけ言って、私のこと置いてけぼりにしてった世紀のバカタレのことよ」

玄「……?……」

憧「他県の予選結果くらい、そっちでも見れるでしょ?」

玄「…………」

憧「全国紙でも載ってるはずだから。見てごらんなさい、兵庫県代表!」

玄「……兵庫……?」

憧「真ん中あたりに見慣れた文字で、"バカシズ"って書いてあるから!」

玄「!!」



玄「……穏乃ちゃん……阿知賀じゃなかったの……」

憧「…………ええ。見事にみーんな離れ離れよ」

玄「…………」

憧「ある意味、なんもかんもあんたのせいだからね」

玄「…………えっ」

憧「…………」

玄「…………」

憧「…………いろいろ考えたわ、私も。玄がいなくなって、シズが出て行って」

玄「……う……」ズキッ



憧「……本当にいろいろ。眠れないほど悩んだり、時には開き直ったり」

玄「…………」

憧「後悔とか、理不尽だとか。どうしようもない考えばっかりになってた日もあったわ」

玄「…………」

憧「…………でもね」

玄「?」

憧「それでも、最後に思ったのは。やっぱりあんたたちとまた麻雀がしたいってことだった」

玄「!」

憧「…………だから、私もここまでがんばったのよ。あんたたちと全国の舞台で打つために!」

玄「…………」

憧「……まったく! ほんと晩成でレギュラー取るの大変だったんだからね!」

玄「憧ちゃん……」



憧「だからね、玄!」

玄「?」

憧「そーいうのもみんな含めて! 私の思いを全部ぶつけてやるから! 覚悟してなさいよ!」

玄「…………」

憧「絶対負けないからね、あんたにもシズにも!!」

玄「……うん! 私こそ負けないよ!!」

憧「そうこなくっちゃ!」

玄「…………うん」

憧「……それじゃ、そういうことで! 次会うときは全国よ!」

玄「……うん!」


玄「…………ありがとう」

―回想終―



玄「えっと、奈良にいた昔のお友達が……。中堅で、大会に出るって聞いて……」

智葉「…………ほう。奈良代表か?」

玄「はい、晩成の新子憧ちゃんと……」

智葉「…………ふむ」

玄「それから、兵庫代表の……」

智葉「!」ピクッ

玄「あの、新しくできた学校みたいなんですけど……」

智葉「……大将学院か」

玄「はい。高鴨穏乃ちゃん……です……」

智葉「…………」

玄「ずっと……、ずっと、また一緒に打ちたかった人たちなんです!」

智葉「…………そうか」



智葉「……いいだろう」

玄「!」

智葉「別に反対する理由は無い。去年もお前は中堅だったしな」

玄「ありがとうございます!」

智葉「友達だからって、手加減なんかするんじゃないぞ」

玄「もちろんです!!」

智葉「うむ。頼んだぞ」

玄「はいっ!」



玄「それと、個人戦も……」

智葉「個人は全員予選参加だ。東京は枠だけは多いからな、お前次第だ」

玄「……そうですか……」

智葉「そっちにも誰か出るのか」

玄「……はい。二人と一緒のお友達だった和ちゃんと……」

智葉(……原村和。さすがに個人では出てくるか)

玄「奈良から、おねーちゃんが出るんです」

智葉(…………お姉ちゃん、か)

智葉「そうか。負けられないな」

玄「はい!」




部活終了後の部室 智葉と照

照「話って何」

智葉「インターハイのことだ。各地で全国出場者が決まってきている」

照「…………」

智葉「見てみろ。新聞だ」パサッ

照「…………」

智葉「…………」

照(…………兵庫県代表…………)ピクッ

智葉「…………」

照「…………」

智葉「……何か思うところは?」

照「…………別にない。誰が相手だって関係ない」

智葉「…………」



智葉「じゃあ、話は変わるが」

照「?」

智葉「お前、東京から出たことない東京出身だって言ってたけどさ」

照「…………」

智葉「嘘だろ」

照「……嘘じゃない」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「そうか。もしかしたら兵庫出身かと思ったんだがな」

照「兵庫じゃない、長野県」

智葉「ほう」

照「あっ」



照「…………どうしてそんなこと聞くの」

智葉「別に。なんとなく、兵庫に知り合いでもいるんじゃないかと思ってな」

照「…………いない」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………この、兵庫代表のメンバーなんだけどさ」

照「知らない。私の妹なんかじゃない」

智葉「ほう、妹とは一言も言ってないが」

照「あっ」



智葉(……黒服の調べた資料。宮永咲の出身も確か長野だったな)

照「…………」

智葉(……間違いないか)

照「…………」

智葉「…………」

照「…………ずるい」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………副将の宮永咲。妹なんだな」

照「…………知らない」



智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………じゃあ、質問を変える」

照「…………何」

智葉「お前、副将やらんか」

照「……やらない」



智葉「…………いいのか?」

照「いい」

智葉「…………そうか」

照「そう」

智葉「……だったら、どこがいいんだ」

照「…………先鋒」

智葉「…………」

照(……副将から……いちばん遠いところ……)

智葉「…………いいんだな」

照「……去年と同じ。問題ない」

智葉「…………」



その日の夜

智葉(……さて。どうしたものかな)

智葉(照のあの反応……。宮永咲があいつの妹なのは間違いない)

智葉(……その妹との間に、何かがあったのだろうことも)

智葉(…………その上で、副将やりたくない、か)

智葉(…………)

智葉(……それで、あいつはいいのか?)



智葉(個人的な家庭の事情など、放っておいてもいいのかもしれないし……)

智葉(あえて身内となど打ちたくないと思う気持ちも、それはそれでわかる)

智葉(……だが、あいつの態度はそうではなかった)

智葉(…………)

智葉(……もう少し、納得のいく理由を聞きたいところなんだが……)

智葉(……あいつが、素直に話すとも思えんな)



智葉(…………それにしても)

智葉(全国の舞台で、姉と妹と、か)


――玄「全国大会で、おねーちゃんと打ちたいんです!」


智葉(…………一方で、そんな妹がいるというのにな)

智葉(…………)

智葉(……もしも、あいつが……)

智葉(後ろ向きな気持ちで逃げているだけならば……。私のほうから無理矢理にでも……)



智葉(しかし照が副将に行ったら……。先鋒はどうする)

智葉(こちらもエースや規格外が集まるポジション……。疎かにはできんところだが)

智葉(…………一番、無理をしそうなポジションでもある。怜にやらせるわけにはいかん)

智葉(煌をあてて取られても最小限に抑えるか……。漫の爆発に期待して真っ向から殴りあうか……)

智葉(……あるいは、常識外の未知には常識外の未知。いっそのことタコス娘に賭けてみるか……?)

智葉(…………)

智葉(成香は…………。すまん)



智葉(……もしくは、私なんだが)

智葉(…………)

智葉(どうしても、次鋒……。ネリーが気になる)

智葉(あのネリーが世界ジュニアのアレなら、最重要警戒人物……。できれば私が打ちたい)

智葉(…………)

智葉(…………)

智葉(…………)

智葉(……いずれにせよ)

智葉(先鋒か次鋒。どちらかは私ということになりそうだな)



次の日 智葉と怜

智葉「怜、大将を任せていいか」

怜「…………どういう風の吹き回しや?」

智葉「言葉の通りだ」

怜「……先に理由、聞かせてもらおか」

智葉「理由も何も。お前ならうちの大将を務められると判断した」

怜「…………」

智葉「秋大会も春大会も、色々と違うオーダーを組んでみたが……。今回はこれで考えている」

怜「……そんでも、大将だけはずっと智葉か照やったやん」

智葉「…………」



智葉「……他に、ちょっとあってな」

怜「?」

智葉「私が別の場所に行くかもしれん。だから大将が空いただけだ」

怜「……智葉は堂々としとったらええんちゃうの。昨年王者の部長やんか」

智葉「……戦略というよりは、個人的な都合かもしれん」

怜「ふーん?」

智葉「…………どうしても、放っておけないことがあってな」



智葉「まあ、そういうわけだ。大将が空いたから、できそうなやつに声かけた。それだけだ」

怜「…………さよか」

智葉「……できないと思うやつには、声などかけんぞ」

怜「まあええけど。責任重いなあ……」

智葉「荷が重いなら、無理にとは言わんが?」

怜「…………」



怜(一巡先が見えるようになってから、ずっと……)

怜(団体レギュラーを目指してここまでやってきたし、秋も春もお試しって感じやけど出させてもらえた)

怜(出られるならそれだけで、どこでもええと思ってたけど……)

怜(でも……大将てことは……)

怜(千里山と…………。竜華と打てるかもしれへん)

怜(やっと……見せられるな……)

怜(こっちで成長した、私の姿……!)



怜「ええで。引き受けたるわ」

智葉「ああ。……ただし」

怜「?」

智葉「絶対に、無理はするなよ」

怜「…………」

智葉「…………」

怜「無理なんかせんて。私病弱やし」

智葉「それだ」

怜「?」

智葉「その病弱アピール……。それが無理してる証拠だろ」

怜「!」



智葉「……黒服に確認させた」

怜「…………」

智葉「お前の診断書、カルテ、通院履歴……」

怜「…………」

智葉「去年の秋、退院してからも何度か病院に行ってるな……。私たちに黙って」

怜「……黒服さんたちも意外と趣味悪いなー、女子高生の通院履歴漁るとか」

智葉「ごまかすな」

怜「…………」



智葉「もう病院の世話にならんように、一巡先を日常的に見てもいいように……。特別シフトでやってきたんだろう」

怜「…………」

智葉「三年生の体育でやったスポーツテストの資料もある……。体力は付いてきているはずだ」

怜「…………」

智葉「それでも、たまにフラフラするのは……」

怜「…………」

智葉「練習してるだろ、その先を見る」

怜「!」ドキッ

智葉「いつまでも体力無いふりして病弱アピールは……それを悟られないようにするためだろう」

怜「せやから元々病弱やし~」

智葉「黙れ」

怜「…………」



怜「…………隠してたつもりやったけどな」

智葉「……照が同じ部屋で生活してるんだ。気付かんわけないだろう」

怜「……ふん、私に黙ってバラしよってに」

智葉「とにかく、そういうわけだ。無理はするな」

怜「そう言われたらしたくなるわ~」

智葉「するな。部長命令だ」

怜「…………りょーかい」

智葉「……心配しなくていい」

怜「?」

智葉「大概の相手なら、お前に回る前にケリをつけてやる。ゆっくり構えてろ」

怜「…………そら、頼もしいことで」




次の日 部活

玄「ツモ! タンヤオドラ6です!!」

怜「おー」

煌「玄、気合入ってますね!」

玄「うん、お友達がいっぱい全国に出るって聞いたから!」

優希「のどちゃんが出るなら、私も負けてられないじぇ!」

玄「個人戦でも全国に出て! 和ちゃんとおねーちゃんに会うんです!」

照「!」

煌「お姉ちゃん?」

玄「うん! 実はね……」

照「…………」



部活終了後 照と玄

玄「話ってなんですか?」

照「……聞かせてほしいことがある」

玄「はい」

照「今日の部活。あなたは個人戦に出たいといった」

玄「はい」

照「離れ離れになったお姉ちゃんと会って打ちたいと」

玄「はい!」

照「……どうして、そう思えるの」

玄「?」



照「怖いと、思わないの」

玄「怖い?」

照「離れて暮らしている間……。お姉さんが何を考え、何を感じていたのかあなたにはわからない」

照「……自分のことを、どう思っているのかも」

玄「…………」

照「離れる時間が多ければ多いほど……その気持ちは強くなると思う」

照「それなのに……。会って、怖くはないの」

玄「んー、ないですよ?」

照「…………どうして」



玄「だって、お姉ちゃんですから」

照「?」

玄「私、お姉ちゃんのこと大好きですから」ニコッ

照「…………」

玄「?」

照「…………私は…………咲のこと…………」ボソッ

玄「??」



照「…………なんでもない」

玄「?」

照「……好きなんだね、お姉ちゃん」

玄「はい!」

照「……でもそれはたぶん、いいお姉ちゃんだから」

玄「??」

照「……私は……いいおねーちゃんなんかじゃない……」



玄「んー」

照「…………」

玄「先輩が何を考えているのか、よくわからないですけど」

照「…………」

玄「私は先輩がおねーちゃんだったら、嬉しいと思います」

照「…………えっ」

玄「…………」

照「…………」

玄(……抱きつき!)

ぎゅっ

照「!」



玄「……大丈夫です」

照「…………」

玄「……私は、先輩のこと大好きですから」

照「!」

玄「私のほかにも。煌ちゃんも漫ちゃんも成香ちゃんも優希ちゃんも」

照「…………」

玄「部長さんも、園城寺先輩も。みんな先輩のこと大好きだと思いますから」

照「…………」

玄「……大好きな人たちがそばにいてくれたら。怖くてもきっと大丈夫です」



玄「…………『こわいとこに踏み出すいうのも、意外となんとかなるもんやで?』」

照「?」

玄「……私も、大好きな先輩にそう教えてもらって。大好きなお友達が支えてくれて」

照「…………」

玄「それで、ここまでやってこれましたから」

照「…………そう」

玄「…………」ニコッ

照「…………ありがとう」

玄「はいっ! よかった!」



その夜

照(『なんとかなるもんやで』……)

照(……やで、と言う先輩は……。ひとりしかいない)チラッ

怜「…………」zzz

照(……怜、ガイト、みんな……)

照「…………」

照「…………」

照「……こわくない」

照「みんながそばにいてくれるから。私もこわくない」

照「私も……。目をそらさずに向かい合う」

照「…………咲、あなたと」



翌日

照「メンバー決めたの?」

智葉「ああ。今から提出してくる」

照「…………私は」

智葉「…………先鋒でいいんだろ? お前の希望だ」

照「!」

智葉「…………」

照「…………」

智葉「…………」

照「…………えっと、あの」

智葉「……だが、ひとつ困ったことがあってな」

照「?」



智葉「実はここに、副将の選手しか食べられないという不思議なお菓子があるんだが」

照「えっ」

智葉「…………困ったことに、今日が賞味期限なんだ。ものすごくおいしいと評判なんだがな」

照「…………」

智葉「……今だったら、お前に食べさせてやってもいいぞ」

照「…………」

智葉「……お前の希望は尊重したいが。そんなお菓子があるんじゃ仕方ないよな」

照(何を言っているのか。ガイトらしくもない)

智葉「…………」

照(…………ううん、違う。本気でそう思ってやってるわけじゃない)

智葉「…………」

照(…………ガイトにまで、気を遣わせている)



照「…………」

智葉「…………」

照「…………」

智葉(…………やはりこんなのじゃダメか)

照「…………」

智葉「いらんなら仕方ない。実はもうひとつ、自分の事を正直に話す先鋒だけが食べられるという……」

照「…………待って」

智葉「…………何だ」

照「…………お菓子はいらない。副将やる」



実況「――さあ、全国高校生麻雀大会、東東京予選大会がいよいよ始まります!」

実況「注目は何といっても大本命! 全国連覇をかけて予選突破に挑む、私立先鋒学院高校です!!」


智葉「…………いいんだな」

照「うん、もう決めた」


先鋒学院高校麻雀部

先鋒:片岡優希
次鋒:辻垣内智葉
中堅:松実玄
副将:宮永照
大将:園城寺怜


智葉「よし、いくぞ!」

全員「おー!」


カン




一年生
二年生(前)
二年生(後)
三年生
2016/06/11-06/12 SS深夜VIP
智葉「私立先鋒学院高校麻雀部」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1465045109/