1年前・夏 サカルトヴェロにて――

トシ「今回は悪かったね、こんな遠くまで付き合わせちゃって」

良子「いえ、ノープロブレムです。女同士の二人旅というのもナイスなものですよ」

トシ「あら、こんなオバサンと一緒でかい? お気遣い嬉しいわ」

良子「……しかし、こんなところに一体何が……? 一見、落ち着いた感じの普通の町に見えますが」

トシ「…………そうね」

良子「あなたが私を誘ったということは……。まず間違いなく、麻雀に関係あると思うのですが」

トシ「……ええ」



トシ「ここはサカルトヴェロの中央部に位置するシダ・カルトリ州の首府、ゴリ……」

良子「…………」

トシ「ソビエト連邦第2代最高指導者にして伝説的麻雀打ち……。ヨシフ・スターリンの生誕地よ」

良子「!」



良子「…………」

トシ「…………」

良子「……成程。それはそれは」

トシ「…………」

良子「アンダスタンドです。私も興味がありますね」

トシ「…………驚かないわね」

良子「……ノーウェイ。納得こそすれ、サプライズではないですよ」

トシ「あのスターリンが麻雀打ちだったって……。今の子たちは知らないものと思ってたわ」

良子「……イタコの界隈では、あれは有名な話ですので……」



良子「今をさかのぼること数年前に起きた、人類最大のハザード……」

トシ「…………ええ」

良子「今ではすっかり情報が統制され、真相を探る人も少なくなりました」

トシ「……そうね」

良子「突如、月より現れた侵略者……。生きていたあのヒトラー率いる第四帝国より突きつけられた、世界への宣戦布告」

良子「それに対し、時の各国首脳が結集して極秘裏に迎え撃ち……撃退したという」

良子「地球の命運をかけた、麻雀五番勝負……"神々の黄昏"(ラグナロク)」



良子「……そのラストの大将戦、圧倒的な実力差を見せるヒトラーとの闘いを前に」

良子「地球代表ジュンイチロー小泉が、更なる力を求めて挑んだ相手……」

良子「それが、"ヤルタ会談の三巨頭"と称される連合国首脳陣……。ルーズヴェルト、チャーチル、スターリン」

良子「……ヒトラーに勝ちうる麻雀打ち」

トシ「…………」

良子「勝利への手がかりを掴むため……。ジュンイチロー小泉は彼らと卓を囲んだ」

良子「……イタコ界のレジェンド、恐山の三女神様の力を借りて」

良子「彼がそののちに見事ヒトラーを討ち果たしたのも、この修業があってこそ成しえたのだと聞いています」



トシ「ご名答。よく知ってたわね」

良子「……恐山の三女神様は、すべてのイタコたちが敬愛するイタコ界の大先輩様です」

トシ「…………」

良子「その方々が、命を賭して最期に降ろした相手ですから……」

トシ「…………そうね」



良子「…………ではまさか」

トシ「ん?」

良子「三女神様が降ろしたそれを、ここで私に降ろせと?」

トシ「……そうできれば、それもいいんだけれど。残念ながら違うわ」

良子「…………」

トシ「大先輩様が命を落としたほどの負担を、貴女にかけるわけにいかないからねえ」

良子「…………」

トシ「貴女にその実力がないと言っている訳じゃないのよ。貴女も失うわけにはいかない大切な人材だからね」

良子「…………」

トシ「……万が一にも、リスクは避けなければならないの」



良子「……それでは何を」

トシ「スターリンの遺した遺産が……この地に眠っているらしいのよ。ここ、サカルトヴェロのゴリに」

良子「……遺産?」

トシ「スターリンの血を引く稀代の麻雀打ち……。彼に匹敵するかもしれない麻雀の才能が」

良子「!」

トシ「今回の目的は、それをこの目で確かめること。そして、可能であれば日本に連れて帰ること」

良子「…………」

トシ「貴女には、それを見つけ出すために。スターリンと霊的な繋がりのある存在を探してもらいたかったの」



トシ「どうかしら?」

良子「……確かに、本人の霊を降ろさずとも……。似た波長の霊圧をたどることはインポッシブルではありません」

トシ「そう」

良子「親族や子孫……。あるいは生家などがあれば、本人を感じられる何かが残っているかもしれませんね」

トシ「よかったわ」

良子「…………しかし」

トシ「?」

良子「……日本に連れて帰りたいとは。何を考えていらっしゃるのですか」



トシ「もちろん、日本の麻雀大会に出てもらうためさ。有体に言えばスカウトよ」

良子「!」

トシ「スターリンのような打ち手であるのなら、まさに麻雀界を劇的に揺るがす逸材……」

良子「…………」

トシ「こんなところで引きこもらせておくのは勿体ないわ。ぶつけてみたいのよ、あの子たちに」

良子「あの子たち……?」



トシ「……今の日本の、高校麻雀界。あなたはどう思うかしら?」

良子「?」

トシ「中心にいるのは、言わずと知れた白糸台の宮永照。……凄いわよね、彼女」

良子「…………特に」

トシ「今年のインハイも、団体・個人ともに彼女が連覇。来年三連覇も最有力と言われているわ」

良子「…………」

トシ「…………でもね」

良子「?」



トシ「やっぱり、一人勝ちはつまらない。ライバルが沢山いてこそ盛り上がると思うのよ」

良子「…………」

トシ「彼女自身のためにも。お互いに勝ったり負けたり、切磋琢磨できる存在は一人でも多い方がいい」

良子「…………あれをディフィートできるのは相当な実力者に限られるかと思いますが」

トシ「あら、そうだったかしら。確か去年、ずいぶん涼しい顔して勝ってた人もいた気がしたんだけど?」

良子「…………」(-3-)



トシ「そして、宮永さん以外の子たちにも。もっと新しい力に出会って、もっともっと刺激しあってもらいたい」

良子「…………」

トシ「……それが必ず、麻雀界全体の成長に繋がるはずだから」

良子「…………」

トシ「私はね。今そんな未来を思い描いて動いているの」

良子「…………」



良子「……デンジャーなミッションですね」

トシ「そうかしら?」

良子「それほどのいわく付きなら、今まで全く目をつけられていないはずはないでしょう」

トシ「そうね」

良子「ならばここまで世間に知られなかったのは、それなりに隠されていたからと考えるのが妥当」

トシ「……ええ」

良子「会えたとしても、別のハードルが多々あるように思われますが」

トシ「…………そこは、交渉次第かしらね。なんとか説得してみせるわよ」



トシ「表向きは留学生で通るとは思うけど……。隠す必要もあるかもしれないわね」

良子「…………」

トシ「いざとなったら、岩手の山奥にいたってことにしておきましょう」

良子「岩手ですか……」

トシ「ちょっとそっちの方にコネがあってね。編入させてもらえそうな高校があるのよ」

良子(……人脈の底が知れない方だ)

トシ「そこは他にも、鍛えれば輝くけど埋もれている子たちがいる所……。腕が鳴るわ」

良子「…………」

トシ「来年のインターハイ。岩手代表を楽しみにしてもらえると嬉しいわ」



トシ「じゃあ、行きましょうか。ここからは貴女が頼り」

良子「…………」

トシ「何しろ情報が少なすぎて。貴女がいなければ雲を掴むような話だったのよ」

良子「…………」

トシ「今わかっているのは……高校生くらいの年頃で、身長197cm。イニシャルT.A. ……それだけなの」

良子「……それを、ここから探し出すと?」

トシ「そうよ。期待してるわ」

良子「…………」

トシ「コードネーム『サカルトヴェロのゴリ』。日本の麻雀界の未来のために……」

良子「……ラジャー、了解です」





良子「――そうして、私たちは出会いました」


良子「スターリンの遺産、サカルトヴェロのゴリ」


良子「後に日本だけでなく、世界の麻雀界を揺るがすことになるビッグインパクト――」










トシ「ねえアンタ……。麻雀は好きかい?」








現代 全国大会Bブロック二回戦

実況「さあ、いよいよ大将戦の開始です!!」

トシ「……さ、出番よ」

サカルトヴェロのゴリ「はい」

トシ「……遠慮しなくていいわ。思いっきり、あなたの力を見せてらっしゃい」

ゴリ「…………はい」

胡桃「やっと出番だね! 一回戦は塞が副将で終わらせちゃったから!」

塞「うん、ついに全国デビューだ」

ゴリ「……うん」



ゴリ「行く前に……。皆に聞いてほしい」

エイスリン「?」

胡桃「どうしたの?」

ゴリ「数か月前、日本に来て皆に会うまで……。自分はずっと、生まれた村から出たことがなかった」

塞「……うん」

ゴリ「ずっと村の人たちに……。『お前は特別だから』と外へ出してもらえなかった」

白望「…………」

ゴリ「外の世界と言えば……。テレビと、たまに買ってきてもらえるビデオの映像だけ」

トシ「…………」

ゴリ「……そこで、日本のインターハイに出会って」

ゴリ「自分も、あの場所で麻雀を打ちたいと思うようになった」



ゴリ「……いつも寝る前に、この日を想像していた」

ゴリ「いつか日本に行って……。ひとりじゃなくて仲間と一緒に……」

ゴリ「全国の強豪たちとインターハイ優勝をかけて戦うところを……。毎晩思い描いていた」

ゴリ「……小さいときから……ずっとだ」

白望「…………」

ゴリ「……そして今。それが目の前にあるんだ」



ゴリ「目標は……全国制覇!」

白望「……うん」

胡桃「がんばって!」

塞「頼んだよ!」

エイスリン「ファイト!」

トシ「さ、いってらっしゃい」

ゴリ「ウス」



実況「――そして、宮守女子高校の大将はなんと身長197cm! "サカルトヴェロのゴリ"こと赤木剛憲選手です!!」

ワァァァァーーーー

ゴリ「大丈夫……。オレたちは……強い……!」


まこ「ちょっ……、なんじゃあれは」

久「ゴリっていうかゴリラね……」

優希「なんでSHOHOKUって書いた赤いユニフォーム着てんだじょ……?」

和「咲さん……」

豊音(実家テレビ観戦)「わぁー凄い大きな人ー。197cmって私と一緒だよー」


カン











――「ツモっ。 400・800です!」



「「「 え っ 」」」






実況「2回戦第3試合決着ーーー!!!」













|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.::::::|
.|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::_==三三三彡
..|―――――――────―‐三三三三三三三彡
 |                  .三三三三三三三彡
 |                  三三三三三三三.彡 .
 .|       l::            ≡三三三/ ̄.ヽ|    .
  | ,,,    |  |:.r.     ,,,,,,,,,,         三|     |
  彡ミミ,,,,,,||  |.l:: ...:,,,;彡"""""""              .|
  \ __ミミ.| l 从ミ彡-‐‐‐‐‐シ      .       ./
  /~l l~~ミ.Ξ〃  ヽ ̄| |´       .::        /|
  | |./  | | /      ヽ.l       .::::::       / .|
 . | .ll   |    ー 、 .||     .::::::::   |` ̄  |
 . ヘll . ,(   ,-- 、丿`ヽll         .|     \
.    `、,' `┬′      .||ヽ         |
   . ヘ , ' `‐´ ̄`丶、  || |        /
       .,-====---ヽ.||       /
     (_______/||      /
       Y::, ---.:::::::::... //    /
       |´    .\::::::| |   /
     . ヽ       / |  /
        \___/_」/




もいっこカン




2017/06/30