地の獄‥‥! 底の底‥‥!

(中略)

これは‥‥ 地下にいながらもチンチロで大金を稼ぎ‥‥

「1日外出券」を利用しては‥‥ 外で悠々自適な1日を送るE班トップ‥‥‥‥


大槻班長の1日外出の記録である‥‥!



白糸台中央公園

大槻‥‥ 解放‥‥!

大槻「ん~~~‥‥‥‥」ググッ

大槻(‥‥‥‥)キョロキョロ

大槻(ククッ‥‥ ビンゴ‥‥!)

大槻(思った通り‥‥ 今回は白糸台‥‥!)



大槻(計算通り‥‥!)

大槻(一年前から情報を集め‥‥ 解放場所のローテーションを読み調整した甲斐があった‥‥!)

そう‥‥ 大槻は今回の外出‥‥

この日‥‥ この場所‥‥ すべて狙い撃ち‥‥!

絶対に外せなかったあるイベント‥‥!



大槻(‥‥とはいえ)

大槻(本番は明日‥‥! 今日は体力温存せねばな‥‥!)クククッ

結局この日大槻は‥‥ 近場で簡単な夕食を済ませ‥‥


就寝‥‥! 格安ビジネスホテル‥‥!



翌日 白糸台高校

ワイワイ ガヤガヤ

大槻(クククッ‥‥ やはり今日‥‥!)

大槻(今年もやってきたこの日‥‥! 一年ぶり‥‥!)

大槻の目的、それは‥‥

白糸台高校文化祭‥‥ 一般公開日‥‥!



受付「ようこそおいでくださいましたー」

受付「こちら、パンフレットとアンケート、企画への投票券などが入っておりますー」

大槻「はい‥‥どうも‥‥」ニコ‥ニコ‥

昨今の高校文化祭‥‥

祭りだからと調子に乗って逸脱する輩どものおかげで、非公開や招待客以外お断りなどの措置をとる学校も多い中‥‥

この白糸台高校は‥‥ 結構いいとこの女子高にもかかわらず‥‥

誰でも入場可‥‥! 一般開放っ‥‥!

大槻(クククッ‥‥ 変わっとらんな去年と‥‥!)



警備員「‥‥‥‥」

大槻「!」

警備員「‥‥‥‥」

大槻(‥‥ご苦労さん)ペコッ

そう‥‥ だからと言って、無法地帯であるはずはなく‥‥

当然、至るところに光る‥‥! 監視の目‥‥!

警備員「‥‥‥‥」

大槻「‥‥‥‥クククッ」

この日ばかりは‥‥ 警備員倍づけっ‥‥! 何か起こっても即対応‥‥!



大槻(クククッ‥‥ だが‥‥)

大槻(いくら警備を増やそうと、起こるものは起こる‥‥)

大槻(それでも一般開放しとるのは‥‥ とどのつまり主催者の厚意‥‥)

大槻(‥‥来場者との信頼関係っ‥‥!)

大槻(それが成立すること自体‥‥ この学校の優良さ‥‥)

大槻(‥‥‥‥)ニヤリ

大槻(根本的に違うのだ‥‥! 民度が‥‥!!)



大槻(さーて‥‥ 目指すはもちろん‥‥)

大槻が向かった場所、それは‥‥

大槻(中庭‥‥ 模擬店エリア‥‥!)

スタスタ

大槻(麻雀部の出店‥‥! パンケーキセット‥‥!)

大槻(このパンケーキと‥‥ セットで付いてくる緑茶が絶品‥‥!)



大槻がこのパンケーキと出会ったのは、昨年のこと‥‥


―回想―

大槻‥‥ 解放‥‥!

大槻「‥‥さて、まずはゆっくり‥‥」

解放時‥‥ 枕代わりに置かれていた、WEEKLY麻雀TODAYの特集記事‥‥

パラッ

大槻(‥‥麻雀雑誌か‥‥珍しい‥‥)

雑誌『インターハイ連覇を目指す! 西東京代表・白糸台高校の素顔に迫る!』

大槻「‥‥フム」



雑誌『アットホームな雰囲気の楽しい部活! 文化祭の催しではパンケーキをつくっています!』

大槻「‥‥‥‥」

大槻「女子高生のパンケーキ‥‥か」

大槻「‥‥クククッ‥‥ 面白い‥‥」

大槻「意外とこういう所にあるものだ‥‥ 新しい味との出会いというのは‥‥」ニヤリ



その年の秋‥‥ 訪れる、白糸台高校‥‥!

ワイワイ ザワザワ

大槻(フム‥‥ 成程‥‥)

大槻(広い中庭‥‥ 中心を囲むように並ぶ出店の数々‥‥)

大槻(そして、中央に並ぶテーブルとイスたち‥‥ フードコート形式‥‥)

大槻(窮屈しない十分な数の席‥‥ 寛げる空間‥‥)

大槻(なかなかになかなか‥‥)



麻雀部員「いらっしゃいませ!」

大槻「パンケーキセットを‥‥ ひとつ‥‥!」

麻雀部員「かしこまりました! こちらでお召し上がりですか?」

大槻「はい」

麻雀部員「それでは、後ろのテーブル席でお待ちください! すぐお持ちいたします!」

大槻「はいはい‥‥ ありがとう‥‥」ニコ‥ニコ‥



菜月「お待たせしました」

大槻(おっ‥‥ きたきた‥‥)

菜月「‥‥ごゆっくりどうぞ」スッ

大槻(‥‥‥‥ほほう)

大槻(盛りつけこそ文化祭仕様‥‥ チープな紙皿に割り箸だけだが‥‥)

大槻(テーブルにつけられたファンシーな飾りつけ‥‥ 中央に活けられた生花と、品のある花瓶‥‥)

大槻(溢れる女子高生の手作り感‥‥!)



大槻(そう‥‥ ここで大事なのはまず、この雰囲気‥‥)

大槻(女子高の文化祭で食べるというのが、また格別‥‥!)

大槻(周囲に見えるのは若い娘ばかり‥‥ 楽しそうな黄色い笑い声‥‥)

大槻(地下にはそんな華のある光景など‥‥ 皆無だからな‥‥!)クックックッ



大槻「では‥‥」

ぱくっ

モグモグ

大槻(‥‥うまっ‥‥!)

大槻(丁寧に混ぜられたダマのない生地‥‥ 市販の粉だけでない独自の材料ブレンド‥‥)

大槻(シロップとの調和を考えた絶妙の甘さ‥‥ 深い味わいを加える生クリーム‥‥)

大槻(‥‥完璧な焼き加減‥‥!)

大槻(これは‥‥予想以上‥‥!)



大槻(そしてこの‥‥緑茶‥‥!)

ズズッ

大槻(口の中の甘さを整えるすっきりした渋み‥‥ パンケーキにも不思議とよく合っている‥‥)

大槻(‥‥‥‥)

大槻(‥‥大正解だ‥‥!)クククッ

大槻(決定‥‥! 一軍ローテーション入り‥‥!)

―回想終―



大槻(さて‥‥ 今年も‥‥)

麻雀部員「いらっしゃいませー! 麻雀部でーす!」

大槻(ククッ‥‥ あるある‥‥)

麻雀部員「麻雀部の、手作りタコスとお好み焼きですー! いかがでしょうかー!?」

大槻「!?」

なんと我が耳を疑う声‥‥! そこにあったのは‥‥!



優希「へーい! らっしゃいらっしゃーい!」

大槻「な‥‥」

優希「ゆーきちゃん特製、ウルトラスペシャルタコスだじぇー!」

京太郎「誰の特製だとおいコラ! 作ってんのオレだろ!」

大槻「ぎっ‥‥」

漫「いらっしゃいませー! 大阪のお好み焼きですよー」

洋榎「美味いで安いでー、出来立てやでー!」

大槻「がっ‥‥ ぐぐっ‥‥ ごっ‥‥」



大槻(なんだ‥‥ なんだこれは‥‥)

大槻(タコス‥‥? お好み焼き‥‥?)

大槻(パンケーキ‥‥ パンケーキ屋は‥‥?)キョロキョロ

大槻(‥‥‥‥)

大槻(‥‥無い‥‥!)


大槻、呆然‥‥! 今年の出店は‥‥

パンケーキでは‥‥ なかった‥‥!



誠子「あの、どうかしましたか?」

大槻「!?」

誠子「?」

大槻「あ‥‥ その‥‥」

誠子「はい?」

大槻「この店は‥‥麻雀部?」

誠子「はい」



大槻「あの、間違ってたらスマンのだが‥‥」

誠子「はい」

大槻「‥‥麻雀部の店は、パンケーキ屋ではなかったかな?」

誠子「ああ、はい」

大槻「‥‥‥‥」

誠子「去年まではそうだったんですけど、一番おいしくパンケーキを作れる先輩が卒業しちゃったんで」

大槻「!!」



誠子「誰もあの味を再現できなかった(判定:照)ので、思い切って今年は違う粉ものにしようって」

大槻「‥‥なん‥‥だと‥‥」

ぐにゃぁ~


まさかの卒業‥‥! 大誤算‥‥!

これには大槻‥‥ 大ショック‥‥!



大槻「‥‥‥‥ハァーッ」ガックリ

誠子「?」

大槻(‥‥卒業‥‥か‥‥)

誠子「‥‥あの?」

大槻(考えてみれば‥‥当たり前のこと‥‥)

誠子「‥‥大丈夫ですか?」

大槻(‥‥時は流れとるんだ‥‥ ワシらのような、何の変化もない地下の住人と違って‥‥)

誠子(‥‥‥‥あれ、そんなに落ち込んじゃう話?)

大槻‥‥ ちょっぴりセンチメンタル‥‥!



誠子「ま、まあ今年はその代わりの新企画! 今年インターハイで知り合った他校とのコラボメニューなんです!」

大槻(‥‥‥‥はっ、いかんいかん)

誠子「よかったら、ぜひ!」

大槻(1日外出で肝要なのは‥‥ 取り乱さぬこと‥‥)

誠子「いかがでしょう!?」

大槻「そう‥‥だな」



大槻「ありがたいが‥‥ ちと早いな」

誠子「?」

大槻「もう少し後でいただくよ‥‥。 お昼ごろにまた来よう」

誠子「え、でも混んできちゃいますよ?」

大槻「‥‥お気遣いどうも‥‥。 だが、おなかを減らして食べた方が美味さも違うからね‥‥」ニコ‥ニコ‥

誠子「そうですか! お待ちしてまーす!」



大槻‥‥ ひとまずこの場を離脱‥‥!

大槻(ククッ‥‥ そうそう‥‥)

大槻(あてが外れたからと‥‥ 慌てて代わりのものに飛びつくのはへたっぴさ‥‥)

大槻(おのれの腹具合を見失った、典型的ミステイク‥‥!)

そう‥‥ 時刻はまだ10時を過ぎたばかり‥‥

大槻(冷静に考えて、この時間に二品はちと重い‥‥ しかも両方甘くない系‥‥)

大槻(がっつり食うのなら‥‥ もっと空腹にして来んとな‥‥!)



兎にも角にも大槻‥‥ まずは気持ちの切り替えに‥‥


巡回‥‥! 校舎内‥‥!


展示発表‥‥! 演奏会‥‥! ステージパフォーマンス‥‥!


ひととおり文化祭を満喫し‥‥ 戻ってきたのは昼食時を過ぎたころ‥‥



麻雀部の控室

菫「ふーん、そんなおじさんが」

誠子「はい」

菫「‥‥やっぱり人気だったんだな、宇野沢先輩のパンケーキ」

誠子「ですねー」

淡「宇野沢先輩?」

誠子「ああ、大星は知らないか。実はね‥‥」

‥‥‥‥

‥‥



誠子「というわけ。だから今年は変えたんだよ」

淡「へー」

照「あれこそは神の御業」

尭深「お茶との相性も抜群‥‥」

菫「‥‥ああ。美味しかったなあれは」

誠子「よっぽど食べたかったんでしょうね、そのおじさんも」

淡「私も食べたーい」

誠子「だからもう無理だって」

淡「えぇー」



淡「たーべーたーいー」

菫「我慢しなさい」

誠子「作れる人がいなきゃ無理だから」

淡「ぶぅー」

尭深「‥‥‥‥あっ」

照「あ」

菫「ん?」

照「‥‥あっち」

栞「こんにちはっ」



誠子「あ、宇野沢先輩、棚橋先輩ー!」

淡「!」

栞「遊びに来ちゃった!」

菜月「‥‥お久しぶり」

菫「噂をすれば‥‥」

誠子「ようこそ! お久しぶりブリです!」

栞「‥‥‥‥ウフフッ」



淡「せんぱい! せんぱいがパンケーキの人!?」

栞「えっ?」

誠子「おい大星」

栞「あなたは‥‥」

誠子「あ、紹介しますね。一年の大星です」

栞「‥‥うん、インハイ見てたよ。凄かったね」



淡「私も食べたい! パンケーキ!」

栞「えっ?」

淡「去年はパンケーキ作ってたんでしょー? また作って、せんぱい!」

栞「え、えっと‥‥」

誠子「す、すみません失礼なヤツで」

菫「ワガママ言うんじゃない。今日は先輩もお客さんなんだ」

淡「食べたいもんー パンケーキー」

菫「また今度にしろ」

淡「えぇー」



尭深「‥‥あっ」

誠子「ん?」

尭深「‥‥来たよ、そのおじさん」

誠子「おお」

菫「‥‥‥‥ほら、仕事入ったぞ」

淡「えぇー」

菫「接客してこい。この話は終わりだ」

淡(‥‥‥‥よーし、それなら‥‥‥‥)



大槻(ふう‥‥ さて)

大槻(無いものは仕方あるまい‥‥。 タコスとお好み焼き食って帰るか‥‥)

麻雀部員「何になさいますか?」

大槻「そうだな‥‥」

大槻「チキンタコスと‥‥ 豚玉、お茶セットで‥‥!」

麻雀部員「かしこまりました! テーブルの方でお待ちください!」

大槻「‥‥うむ、ありがとう」ニコ‥ニコ‥



麻雀部員「お待たせしました! ごゆっくりどうぞ!」

大槻「はい‥‥ どうも‥‥」ニコ‥ニコ‥

大槻(さて‥‥)

大槻(まずは‥‥ 緑茶‥‥)

ズズッ

大槻(うまっ‥‥!)

大槻(よし‥‥ こっちまでは変わっとらん‥‥!)

大槻(去年と同じクオリティ‥‥ ペットボトルでなく茶葉から淹れた本物‥‥)

大槻(クククッ‥‥ こうでなくては‥‥!)



大槻(そして‥‥ タコス‥‥!)

ガブッ

大槻(トルティーヤ‥‥! 小麦粉で代用などせず、ちゃんとトウモロコシの粉‥‥!)

大槻(‥‥奥で(京太郎が)一枚一枚手で焼いとる‥‥。 いい腕前だ‥‥)

大槻(チキンの揚がり具合もよし‥‥ ピリ辛サルサとの相性も抜群‥‥!)

モグモグ

大槻(‥‥なかなかの逸材‥‥!)



大槻(お好み焼きは‥‥ 盛りつけから秀逸‥‥!)

大槻(別皿に盛られたソース、マヨネーズ、七味に辛子に紅しょうが‥‥)

大槻(‥‥お好みで分量を調節できる配慮‥‥!)

大槻(この気遣い‥‥ この一手間が‥‥)

大槻(できんものなのだ‥‥! クズどもには‥‥!)



大槻(そして‥‥生地に入っとる‥‥)

ガブッ

大槻(‥‥山芋‥‥! 粉っぽさを抑えた絶妙のふんわり感‥‥!)

モグモグ

大槻(ボリューム感たっぷりの豚バラ‥‥ とろふわ玉子‥‥)

パクパク

大槻(キャベツ、ネギ、桜エビ‥‥! うまさ溢れる新鮮な具たち‥‥!)



大槻(更にこのソース‥‥!)ペロッ

大槻(明らかに市販品ではない深い味‥‥ どこぞの店からでも持ってきたのか‥‥)

漫(‥‥うちの店ですよ)

モグモグ‥ モグモグ‥

大槻(‥‥‥‥うまい!)

大槻(パンケーキが食えんのはちと残念だが‥‥ これなら大満足‥‥!)



トコトコ

淡「おじさんっ」

大槻「!?」

淡「おじさんさー、パンケーキ食べたい?」

大槻「‥‥‥‥え?」

淡「食べたかったんでしょ?」

大槻(なんだ‥‥この子はいきなり‥‥)

淡「食べたいよね?」

大槻「‥‥そりゃ‥‥あれば食いたいが‥‥」

淡「よし! じゃあ任せて!」

大槻「?」

淡「オーダー入りまーす! パンケーキセットいっちょー!!」

大槻「!?」



タッタッタッ

大槻(‥‥行ってしまった‥‥)

厨房

誠子「おい、何やってんだよ大星」

淡「注文入ったよ! 作って、せんぱい!」

栞「えっ」

誠子「‥‥我慢しろって言われただろう」

淡「私じゃないもん! お客さんが食べたいんだもん!」

誠子「こいつ‥‥」



誠子「どうします?」

菫「‥‥‥‥仕方ないな」

栞「?」

菫「来ていただいたところすみませんが。ひとつお願いできませんか、宇野沢先輩」

栞「弘世さん‥‥」

菫「材料は部室にあります。後でお礼もさせていただきますので」

栞「‥‥うん、わかったよ」

淡「やったー!」

菫「お前が食べる分じゃあないぞ」

淡「わかってるわかってる!」

‥‥‥‥

‥‥



淡「へいおまちっ! パンケーキだよ!」

大槻「!?」

淡「はいどうぞ!」スッ

大槻「な‥‥ え‥‥?」

淡「‥‥‥‥」エヘヘッ

大槻「いや‥‥ 売ってなかったよ‥‥?」

淡「おじさん、パンケーキ食べたかったんでしょ!? だからつくってもらった!」

大槻「!」

淡「淡ちゃんの特別サービスだから! 遠慮しないで!」

大槻「!!」


その時‥‥ 大槻に電流走る――!



大槻(あわい‥‥ちゃん‥‥?)

パンケーキのサプライズを飛び越し‥‥ はたと気づくその名前‥‥

大槻(‥‥‥‥!)ハッ

そして‥‥見つける‥‥! 胸につけた「おおほし」のネームプレート‥‥


大槻(‥‥大星‥‥淡‥‥?)



大槻(まさか‥‥そんな‥‥)


大槻(この子‥‥)


大槻(‥‥‥‥ワシの‥‥娘‥‥?)



大槻の脳裏に浮かびあがる‥‥ 遥か昔の記憶‥‥!

莫大な借金を抱え、地下へ送られる前のこと‥‥

大槻の元にもあった、ささやかな普通の幸せ‥‥

愛する妻と幼き娘‥‥!



当時‥‥

借金取りから逃れるために大槻は、できたばかりの妻子を連れ‥‥

転々と各地を逃亡‥‥! 夜逃げ‥‥!

そして名乗っていた‥‥ 偽名‥‥!

それが‥‥


大槻 → 大月 → 大星


大星っ‥‥‥‥!



大槻(逃げ切れると‥‥ 思っとったんだがな‥‥)

しかし‥‥ 帝愛の債務者捜査網はそう甘くはなく‥‥

あえなく捕縛‥‥! 強制連行っ‥‥!

一家は離散‥‥! 堕ちる、地下へと‥‥!



そして‥‥ 当時まだ赤ん坊だった一人娘の名前こそ‥‥

大槻「‥‥‥‥」


淡‥‥!

淡‥‥!!

淡‥‥!!!


大槻(‥‥バカ‥‥な‥‥)



大槻(確かに‥‥ 無事に生きておれば、この子ぐらいの歳だが‥‥)

大槻(そう言われれば‥‥どことなく面影が‥‥)

大槻(‥‥‥‥母親似‥‥! ワシの都合などかまわずグイグイ来るこの性格も‥‥!)

大槻(‥‥‥‥)

大槻(‥‥なんて‥‥ことだ‥‥)

淡「?」



淡「‥‥‥‥」ジーッ

大槻「?」

淡「‥‥‥‥」チラッ チラッ

大槻(ずっとこっちを‥‥ いや、パンケーキをチラチラ見とる‥‥)

淡「‥‥‥‥」チラッ チラッ

大槻「‥‥‥‥」



淡「‥‥‥‥」チラッ チラッ

大槻「‥‥‥‥」

淡「‥‥‥‥」チラッ チラッ

大槻「‥‥‥‥よかったら‥‥」

淡「!」

大槻「‥‥食べるかい? 一緒に‥‥」

淡「うん!」

淡(‥‥‥‥計画通り!)



大槻(わからんものだ‥‥ 人生、どこでなにがあるか‥‥)

大槻‥‥ 我が娘と囲む、初めての‥‥

淡「いただきます!」

大槻「‥‥いただきます」

そしておそらく、最後の食卓っ‥‥!



大槻「‥‥‥‥」モグモグ

淡「おいしー!」モグモグ

言葉を交わすことも無く‥‥ 大槻、終始無言‥‥

だが‥‥

大槻「‥‥‥‥」モグモグ

淡「ウフフ‥ しあわせ‥‥」モグモグ



変わらぬ味のパンケーキ‥‥ 輝かしく変わった娘の笑顔‥‥!

大槻(大きく‥‥ なったな‥‥!)

‥‥最高の贅沢っ‥‥!

大槻(うまっ‥‥! うまっ‥‥!)ボロ‥ボロ‥

至福‥‥! 大槻、涙のパンケーキ‥‥!



大槻「‥‥‥‥ごちそうさま」

淡「ごちそうさま!」

大槻「‥‥‥‥」ジーッ

淡「?」

大槻(‥‥いや。何も言うまい)

淡「どうしたの?」

大槻「‥‥‥‥いや。美味かったよ、パンケーキ」ニコ‥ニコ‥

淡「うんっ! まいどありっ!」

大槻(‥‥‥‥ちと塩味が濃かったが、な)



宮本「時間だ、大槻‥‥」

大槻「はいはいっ‥‥」

宮本「‥‥‥‥大槻、ひとつ聞くが」

大槻「?」

宮本「お前が注文していたタコスとお好み焼き‥‥ 私も食べた。‥‥確かに美味かったが」

大槻「‥‥‥‥」

宮本「‥‥泣くほどのことか? 辛子でもつけすぎたのか‥‥?」

大槻「‥‥さーてね‥‥」


ブロロロロ‥‥



大槻帰還後

誠子「大星、お客さん来てるぞ」

淡「?」

淡父「やあ淡、文化祭見に来たぞー」

淡母「元気にしてた? 寮生活、寂しくない?」

淡「あ、パパー! ママー!」


おおっと同姓同名‥‥! 大槻、とんだ人違い‥‥!


カン




2017/09/08