――「すみません。左手(アリステラ)を使ってもいいでしょうか?」――






南北海道大会決勝戦 副将戦

副将A「…………えっ?」

副将B「アリ……ス……?」

副将C「……何ですって?」

由暉子「…………こちらの手でツモをしてもよろしいでしょうかと」スッ



副将A「あ、ああ、左手?」

副将B「……はい、別に」

副将C「いいですけど」

由暉子「ありがとうございます」

スッ

実況「おっと、有珠山高校の真屋選手、左手でツモにいきます」

解説「どうしたんでしょうかね」



由暉子(2か月前……。私の左手に目覚めたこの不思議な力)

由暉子(そのとき、その人は言いました。これは仲間のことを大切に想う気持ちの力だと)

由暉子(…………今なら、その意味もよくわかる)

タンッ



由暉子(私を麻雀部の仲間にしてくれた有珠山の先輩方……)

由暉子(皆さんのことを想い起こすと、不思議と強い力が湧き上がってきます)

由暉子(これは私と皆さんとの絆……! 先輩たちへの感謝の力……!)

由暉子(…………友情パワー!)

ボワァッ



副将A(何……、あれ……?)

副将B(左手が……、いえ、彼女の体全体が……)

副将C(……光っている……?)

タンッ

由暉子(すべては……、大切な仲間のために!)




4月 有珠山高校

担任「それじゃ後片付けよろしくね、図書委員さん」

由暉子「はい」

由暉子「山積みの本……。図書室へ持って行かないと……」

トコトコ

由暉子「うわっ」

コケッ

バサッ バサバサッ

由暉子「転んで…… 本が散らかっちゃいました……」

スッ パタパタッ

由暉子「1、2、3……。……あ、あんなところにも……」



由暉子「……おや?」

由暉子「見たことない、黒い表紙の薄い本……」

由暉子「こんな本……ありましたでしょうか……」

由暉子「…………」

由暉子「……タイトルは……」

由暉子「『ディクシア・レポート』……?」

パラッ






――目覚めよ…… アリステラ……









ドクン









由暉子「…………これ……は…………」








――麻雀界の覇権を握る、ふたつの大いなる力あり。



自動麻雀卓において無敵を誇る秘術、マグネットパワー。



そして、ときにどんな運命や理不尽をも覆す奇跡の力……、友情パワー。








力を求めよ―― 我らが祖国のために――




目覚めよ―― アリステラ――







――知性チームへ帯同する最中、垣間見えた預言の書に曰く。


『桜田家の城主消え逝くとき、大いなる大地の力はくびきを失い再び溢れ出づる時を待つ。


混沌を求めるものは窓を開け。秩序を求めるものは鍵をかけよ――』



由暉子「……大地の……力……」




――その窓は富士の麓にあり。


鍵を手にせよ―― 富士の麓に鍵を求めよ――



由暉子「富士の……麓……」



麻雀部室

ガチャッ

由暉子「…………」スタスタ

誓子「あら、遅かったわねユキ」

成香「おつかれさまです」

由暉子「…………」

揺杏「?」

爽「どうした、ユキ?」



由暉子「…………」

成香「?」

誓子「大丈夫? 何か目が虚ろよ?」

揺杏「何をブツブツ言ってんだ?」

由暉子「…………富士山へ」

爽「?」

由暉子「富士山へ行きましょう」

四人「えっ!?」



5月の連休 富士山の麓

誓子「…………ということで、急な話だったけど来ちゃったわ」

揺杏「着いたなー、富士山!」

成香「すてきですー」

爽「みんなで旅行することにして正解だったな!」

誓子「……まあ、せっかくだからね」

由暉子「…………」



由暉子「…………」トコトコ

誓子「……ちょっとユキ? 一人でどんどん行かないで?」

由暉子「…………」

フラフラッ

揺杏「おい、どこまで行くんだよユキ!」

由暉子「…………」

スタスタスタ

由暉子(私を……呼ぶ声が聞こえる……)



由暉子「…………ここです」

成香「ここ……って……?」

由暉子「この山のふもとに……あるはず……」キョロキョロ

誓子「山?」

成香「山って……。目の前のあれですか……?」

爽「山っていうかあれは……、丘とか高台って感じだぞ……?」

揺杏「……うん、すぐ登れちゃうよあんな低いの……」

誓子「……あっ、観光案内の看板があるわ。『トーナメント山跡地』ですって」

爽「トーナメント山?」



誓子「昔の写真がついてるわね。以前は凄く高い山だったみたいよ」

爽「へー」

成香「この写真だと、富士山が二つあるみたいに見えます……」

揺杏「それがこんなに低くなっちゃったの?」

由暉子「…………」

誓子「えーと、読んでみるわね」

看板「富士山の手前にあったもう一つの富士、『トーナメント山』」

看板「かつてこの山を舞台に、友との絆を試される激しい死闘が繰り広げられたという」

由暉子「友との……絆……」



看板「しかしその戦いが終わった後……。山は激しい崩落が続き、徐々に標高も低くなり……」

看板「今ではすっかり、小高い丘くらいの大きさになってしまいました」

看板「現在はただの観光名所。頂上まで階段も整備されて徒歩五分!」

誓子「…………だってさ」

爽「ふーん」

揺杏「こんなちっちゃな丘がねー」

成香「信じられないです……」

誓子「…………それで? ユキはこれが見たかったの?」

由暉子「…………」


ワイワイ ガヤガヤ


爽「ん?」



憩「ふーぅ、疲れたですー」

藍子「もう少しだよ、がんばって!」


誓子「……あらっ、あの人たち……」

成香「?」



憩「ホンマにこんなとこに、ええ雀卓があるんですー?」

藍子「うん、もうすぐだよ」

もこ「…………遠い」ブツブツ

藍子「ほらほら、ファイト!」

利仙「……着物で……登山させないで……」ハァハァ

絃「同じく……。チャイナドレスなんだから配慮してよ……」ゼェゼェ

もこ(……そのりくつはおかしい)

藍子(…………着替えてきなよ山登りって言ったんだから)



誓子「ねえ、あの人って麻雀雑誌で見た……」

成香「……そうですね、去年個人2位の……!」

爽「荒川憩だー!」

揺杏「おー、ホントだー」

憩「?」

由暉子(……麻雀打ちの方々が……こんなところに来る理由……)



スタスタ

由暉子「…………すみません」

藍子「?」

誓子「ユキ?」

揺杏「おいおい」

藍子「……なんですか?」

由暉子「あなたがたは……なぜこちらへ?」

藍子「?」



藍子「なぜって……麻雀を打ちにだよ」

由暉子「!」

成香「……こんなところに……ですか?」

藍子「ほら、そこに自動卓があるでしょ?」

揺杏「あー」

爽「あるね、地面から生えてるみたいなのが」

藍子「うん、半年くらい前に突然地面から生えてきたっていう話なんだ。よく知らないけど」

爽「へぇー」

由暉子「…………」



由暉子(あの雀卓……)

由暉子(あんなものが地面から生えてきたなんて……。本当だとしたら、普通ではない話です……)

由暉子(自動麻雀卓なのに野ざらしになっているのもおかしいですし……。何か危険な雰囲気を感じます……)

由暉子(おそらくあれが……!)



藍子「この卓で打つとね、なんかすごく調子がいいんだ。だから時々うちの部の練習場にしてたんだよ」

誓子「わざわざ富士山まで……?」

藍子「地元静岡だからねー」

由暉子(……やはり、この場にある力をわかって……?)

憩「うん、そういう話を百鬼さんから聞いてー」

絃「私たちも付き合いに来たってわけ」

利仙「ええ」

もこ「…………」

由暉子(そして、力を知る人の範囲を広げようとしている……)

由暉子(これは……いけません……!!)



由暉子「……申し訳ありませんが」

藍子「?」

爽「ユキ?」

由暉子「この卓を使うのは、もうやめていただけませんでしょうか」

全員「!?」

由暉子(マグネットパワーなんてものが自動雀卓の世界に持ち込まれたら……、大変なことになります……!)

由暉子(それだけは……。それだけは阻止しないと……!)



誓子「ちょっとユキ、突然何言い出して」

藍子「そう言われてもなー」

絃「いきなりなんなの……?」

由暉子「この卓は危険なもの……。封印しなければならないものなんです」

利仙「危険……?」

藍子「よくわかんないな」



藍子「あなたもこれで打ちたいのかな? だったら一緒に使えば……」

由暉子「……いえ、そういうことではなく」

藍子「?」

由暉子(あまり詳しい話をするのはまずいです……。どうしましょう)

爽「ユキ?」

由暉子「…………それでは」

藍子「??」

由暉子「打って決着をつけましょう。もし私たちが勝ったら、お願いを聞いていただけますか」

揺杏「おいおいユキ……」

誓子「……ユキってこんなアグレッシブな子だった?」ヒソヒソ

成香「わかんないです……」ヒソヒソ



憩「よーわからへんけどー、打ちたいって言いはるなら打ったらええんちゃいますー?」

利仙「そうね。とどのつまり対戦しましょうよってことでしょう?」

絃「うん、それなら別にかまわないわよ」

もこ「…………無問題」

藍子「……まあいけど」

由暉子「では、2名ずつの2対2で。チームのトータル点数勝負です」

藍子「いいよー」

由暉子(…………止める!)



少女対局中……

藍子「ツモ! 3000・6000!!」タンッ

揺杏「ちくしょー」

……

憩「ロンやでー。18000!」ズカァン

成香「ひぃぃ……」

……

利仙「ツモ。2000・4000です」フワッ

爽「むぅ……」

……



憩「なんか本当に調子がええですー」

藍子「ねっ。こんな配牌来てほしいなーと思ったら、その通りに来てくれるみたいな」

利仙「そうそう、そんな感じよね」

もこ「…………」

由暉子(この場の力が……彼女たちに味方している……)

絃「牌を思い通りに操れるんじゃないかって、そんな風に思えちゃうわね」

藍子「でしょー? もう少し練習したらもっと使いこなせる気がするんだよね」

利仙「この力があれば……。今度こそ神代小蒔に……」フフフフフ

由暉子(いけません、他の方々も使いこなし始めている……。意識的にマグネットパワーを……!)



揺杏「やっべー、あの人たち凄く強いぞ」

成香「全然勝てないです……」

誓子「カムイはどうしたのよ爽!」

爽「連れてきてないって! 打つなんて思わなかったもの!」

由暉子「うう……」



少女さらに対局中……

もこ「…………ツモ。3300・6300」ブツブツ

誓子「……やられたわね」

……

藍子「ツモ! 4000・8000、倍満だよ!!」バシッ

由暉子「くっ……」

……

憩「ツモ! 12000オールですぅー」

絃「おぉー、親三倍」

藍子「さすがだねー」

由暉子「うう……」

…………

……



成香「勝てない……です……」

爽「きっついなー……」

誓子「心が折れるわ……」

揺杏「もういいんじゃない、ユキ……」

由暉子「…………」

由暉子「絶対に負けちゃいけない戦いなのに……。私の言いだしたことで……皆さんに迷惑をかけてるのに……」

由暉子「…………悔しい…………!」







――力が欲しいか、少女よ







由暉子「!」ハッ


――「私はここだ……。この山の頂にいる……」


由暉子(山の上から……、声が聞こえる……!)

ガタッ



揺杏「ユキ?」

誓子「どうしたの? 対局中よ?」

由暉子「…………この卓、後をお願いします」

ダダダッ

爽「あっ、ユキ!」

成香「行ってしまいました……」

藍子「??」

爽「と、とりあえず追っかけよう!」

揺杏「う、うん!」



トーナメント山 頂上

由暉子「頂上……。ここに……」

爽「おーい、ユキー!」

揺杏「どうしたんだよー!?」

由暉子「…………」キョロキョロ

キラッ

キラキラッ

由暉子「!」

揺杏「なんだあれ……?」

爽「何か……地面に埋まってる……?」



キラッ キラキラッ

由暉子「これ……は……」

揺杏「…………ねえ、あれってさ……」ヒソヒソ

爽「うん、どう見ても和式のベン……アレだよな」ヒソヒソ

揺杏「……うん……。なんかキラキラ光ってるけど……」ヒソヒソ

爽「なんであんなもんが山の頂上に埋まってんだよ……」ヒソヒソ



???「――よく来たな、力を求める少女よ」

由暉子「!」

ボォッ

爽「何か……空中に……」

揺杏「人の影が浮かび上がった……?」



由暉子「あなた……は……?」

頭頂部のエラードオブジェが特徴的な超人の魂「私の名は……そうだな、エラードマンとでも呼ぶがいい」

由暉子「エラードマン……」

エラードマン「その下に埋まったものに宿った……魂だけの存在だ」


爽「人っていうか……。何だあれ……?」

揺杏「体に和式のアレがついてて……タイル貼りの体にパイプの手足……」

爽「うん、頭の上のオブジェも……アレだよな……」

揺杏「…………うん、あれは」

爽揺杏「「変態だーー!!」」

エラードマン「超人と言ってもらいたいのだが」



キラッ キラキラッ

由暉子「ここに埋まっている……輝くこれは……」

エラードマン「少女よ……それこそが希望」

由暉子「……では……」

エラードマン「私がこの地で守り続けた……大いなる大地の力の鍵。かつて私の体の一部だったもの」

由暉子「これが……鍵……」

エラードマン「……そう。そしてあの麻雀卓こそが……」

由暉子「…………アポロン・ウィンドウ!!」

爽(なに言ってんのあの人とユキ)ヒソヒソ

揺杏(わかんねーよ全然!)ヒソヒソ



エラードマン「…………だが」

由暉子「?」

エラードマン「今のままの君では……。これを引き抜くには足りない」

由暉子「!」

エラードマン「……問おう、少女よ」

由暉子「……はい」

エラードマン「君は……、なんのために力を求める?」

由暉子「…………」



由暉子「それは勿論……。マグネットパワーを封印するため……」

エラードマン「…………それだけか?」

由暉子「……いいえ……! それ以上に……!」

エラードマン「…………」

由暉子「……私の先輩たちを……これ以上傷つけないため……!」

エラードマン「…………」


由暉子「……はじめてできた、"たいせつなおともだち"に……。笑顔でいてほしいから……!」


ボワァッ



爽「えっ、何あれ……」

揺杏「ユキの体が……光ってる……?」

エラードマン「…………そう、それだ」

由暉子「?」

エラードマン「この山に埋まったものを引き抜くために必要なのは……仲間のためを想う強い気持ち」

由暉子「仲間を……想う……」

エラードマン「これは、その熱き想いが生み出す無限の力……。友情パワー!」

由暉子「友情……パワー……」



エラードマン「さあ、引き抜くがよい……。その左手で」

由暉子「左手……?」

エラードマン「…………頼んだぞ、友情の力を」

スウッ

シュゥゥゥン

由暉子「あ……? 私の左手に……」

爽「あれの姿が……。ユキの左手に吸い込まれるようにして消えた……」

揺杏「どういうことなんだよ……」

由暉子「エラードマン……さん……」



由暉子「この左手に……エラードマンさんを……」

由暉子「……先輩たちへの強い気持ちを……感じる……!」

由暉子「…………いきます!」

ズッ

ズズズッ

爽「ユキ……」

由暉子「…………えいっ!」

ガバァッ

揺杏「アレを……地面から引き抜いた……」



由暉子(これで……麓のあの卓を……!!)

揺杏「ユキ?」

ダダダダッ

由暉子「…………たあっ!!」

グワッ

爽「ユキ!!」

揺杏「和式のアレを小脇に抱えて……!」

爽「麓へ飛び降りた!!」

ゴゴゴゴゴゴ







由暉子「アポロン・ウィンドウ・ローーック!!」





グワッシャン





由暉子「…………ハァ……ハァ……」

藍子「…………」(ドン引き)

利仙「…………」(ドン引き)

絃「…………」(ドン引き)

もこ「…………」(ドン引き)

憩「?」

絃(負けてるからって卓こわすとか……)

利仙(……しかも、あんな光る和式のアレで……)

誓子(……どうしちゃったのよユキ……)

由暉子「……ハァ……ハァ……ハァ……」

藍子「…………まあ、そこまでって言うなら別にいいけどさ……」



―回想終―


由暉子(――多少誤解された感は否めませんでしたが。

こうして、アポロン・ウィンドウは再び閉じられ……、

マグネットパワーが世に出ることはありませんでした。

私の左手(アリステラ)に残ったのは……。あの人の魂が宿ったこの光る紋様。

決意とともに手に入れた、友情の力……!)



タンッ


由暉子「ツモ! 4000・8000です!」


ワァァァァーーーーー





――だが、彼女はまだ知らなかった。

全国大会個人戦を前に、再びその脅威と相対することになる運命を。

封印したはずのマグネットパワーを我が物と使いこなし、再び彼女の前に立ちはだかる百鬼藍子の姿を。

鍵をかけたはずのアポロン・ウィンドウが、幾多あるうちのたったひとつに過ぎなかったのだということを。

真屋アリステラ由暉子の戦いは続く――!






――敵か味方か!? アリステラの元に現れる未知の雀士たち……! 仲間に迫る危機……!!








海賊風の巨漢超人「"セントエルモの火"を知っているかね……? お見せしよう、失われた神代の秘技――"神盲牌"」




悪魔の将軍「かかってくるがよい……。我がロンズデーライトパワーの源泉たる神聖な言霊――"ロン"の使い手たちよ」





元運命の王子A「……そうか、貴様たちのところにも現れたか」

元運命の王子B「ああ、あのような話を聞かされては……」

元運命の王子C「さすがに見過ごすわけにはいかぬ」

元運命の王子D「うむ」

元運命の王子A「……ところで、その話とは」

元運命の王子BCD「勿論」


「「「「 神のお告げだ!! 成香ちゃんかわいい!! 」」」」



カン





【参考資料】

マグネットパワーを放つ百鬼藍子さん

百鬼さん

友情パワーのオブジェ(基本形)

オブジェ

アリステラはオブジェと出会う

1

仲間は集う、アリステラの元へ

2

顕現

3


よくわかる友情パワーと麻雀力

慈悲

慈悲




画像引用:
『咲-Saki- 阿知賀編』3巻
『咲-Saki-』14巻
『キン肉マン』53巻
『ムダヅモ無き改革』13巻

2018/04/17