――ありますよ。本物のタイムマシン。



――えっ?







前日談:デアゴスティーニ(本物)「『週刊デロリアン』創刊!」はやり「これだ…!」





8月 ハートビーツ大宮クラブハウス

はやり「今年のインターハイも終わっちゃったな……」

はやり「…………」

はやり「夏は毎年、思い出すよね……」

はやり「私が出ていたときの事……」



夏の高校生たちの熱気がそのまま残り続けているかのような、8月の終わり。

作りかけた車の模型をいじりながら、私はひとり昔を思い出す。

部屋の片隅に小さく佇むそれは、有名なあの映画に出ていたあの車の……、

1/8スケールの組み立て模型。

人が乗れる大きさじゃない、ましてやタイムスリップなんてできないおもちゃ。



今年の初め。

週刊デロリアンが創刊されたと聞いてにわかに沸き上がった私の郷愁は、

1/8ですという良子ちゃんの冷静な指摘で、即座に跡形もなく砕かれた。


それでも、これも何かの縁。

せっかくだからと私は定期購読を申し込み、模型を作ってみることにした。



それから半年。

毎週少しずつ1/8スケールデロリアンを組み立てていくうちに、私の心も少しずつ落ち着いてきた。


…………というか、あの日が格別おかしかった。

冷静に考えて、タイムスリップなんてできるわけないよね。神様でもあるまいし。

それに、万一できたとしても。そんなものを週刊雑誌で頒布するわけもないよね。



はやり「…………まったく。まったくもってだね」



何年経っても、冷静じゃないなあ。

…………だって。

他でもない、慕のことだもん。



コンコン

はやり「はーい」


――「お届け物です、瑞原はやりさん」


はやり「うんっ☆ 待ってたよっ☆」



ガチャッ

おかっぱ黒セーラー服の少女「……今週号の『週刊デロリアン』、おまたせいたしました」

はやり「ありがとっ☆ ……って、おや?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「何か」

はやり「あなたは……。いつも持ってきてくれる人じゃないんだね?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「……はい」

はやり「学生さん……かな? 制服みたいだけど……」

おかっぱ黒セーラー服の少女「…………」

はやり「?」



おかっぱ黒セーラー服の少女「…………こちら。受領のサインを」

はやり「あ、はい……」サラサラッ

おかっぱ黒セーラー服の少女「…………」

はやり「……もしかして、ファンの子かな? ゴメンだけど、ここは会社の人しか入っちゃいけないんだよ?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「…………」

はやり「??」



おかっぱ黒セーラー服の少女「……『週刊デロリアン』……、購読されてらっしゃるんですね」

はやり「? うん」

おかっぱ黒セーラー服の少女「……時間遡行に、興味がありますか?」

はやり「あ、うーんと……。夢があるよね、タイムトラベルって☆ ロマンだよねっ☆」

おかっぱ黒セーラー服の少女「ありますよ」

はやり「?」





おかっぱ黒セーラー服の少女「――ありますよ。本物のタイムマシン。」



はやり「――えっ?」





はやり「えっと……。どういうことかな?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「…………瑞原はやりさん」

はやり「はい?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「あなたに、お願いがあります」

はやり「…………何?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「『それ』を使って……。過去の世界へ行っていただけませんか」

はやり「えっ?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「白築慕ちゃんを……助けてあげてください……」

はやり「!」



はやり「何を……言ってるのかな……?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「……詳しいことは、実際の現場で。明日はオフですね?」

はやり「……うん」

おかっぱ黒セーラー服の少女「明日の午前9時半。チャンピオンの地元、ヒルバレーの駅前でお待ちしています」

はやり「ヒルバレー……? 映画の主人公たちが住んでた?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「……暗号と思ってください。あなたもよくやっている」

はやり「それは、自分で作るのは好きだけど……」

おかっぱ黒セーラー服の少女「万が一にも、他の誰かに漏れるわけにはいかないので。ご理解ください」

はやり「…………はい」



おかっぱ黒セーラー服の少女「不安でしたら、戒能プロと一緒に。彼女なら暗号の意味も分かるでしょう」

はやり「良子ちゃんが……?」

おかっぱ黒セーラー服の少女「……では、失礼します」

はやり「…………」



なぜだか、何も言い返せなかった。

からかってるのかな? って怒ってもおかしくない話。

トンデモない発言で、私の心の奥にズケズケと踏み込んでくる話だったのに。

不思議と、言い返せない威圧感が彼女にはあった。



その日の夜

はやり「……って、言われたんだけどね」

良子「…………ふむ」

はやり「良子ちゃんは、どう思う?」

良子「一般常識的に考えて。本物のタイムマシンが存在するなどありえない話です」

はやり「……うん」

良子「そして、仮に存在したとしても。なぜそれを、はやりさんに極秘で教えようとするのか」

はやり「そうだよね」

良子「ただのイタズラという可能性が最も高いのではと、聞いた限りでは思います」



はやり「…………でもね」

良子「はい」

はやり「なんだか、あの子には言い返せなかったの」

良子「…………」

はやり「威圧感っていうのかな。無言の説得力っていうか……、信じられる気がしたっていうか……」

良子「…………ふむ」

はやり「なにより、私と慕のことを知っていて……。助けてくださいって言われたの」

良子「…………」



はやり「…………何を言ってるんだって……思われるかもしれないけど……」

良子「…………はい」

はやり「私……。私ね…………」

良子「…………はい」

はやり「どうしても、慕にもう一度会いたい……!」

良子「…………」



はやり「デマでもドッキリでも、なんでもいいから……。お願いします」

良子「…………」

はやり「…………」グスン

良子「…………」

はやり「…………」

良子「オーライ、話を聞くだけ聞くのもいいでしょう。疑わしければ、その場で引きあげれば済むことです」

はやり「…………うん」

良子「私もトゥギャザーしましょう。一人では危険かと」

はやり「……うん、ありがとう」



はやり「でもね、どこに行ったらいいのかがわかんなくて……」

良子「ノープロブレムです。ヒルバレーの駅前ですよね?」

はやり「うん、でも……。それって、映画で主人公が住んでた町だよね……?」

良子「そうですね」

はやり「そんなの、架空の町なんじゃないのかな? それにいきなり明日アメリカまで来いっていうの……?」

良子「いえ、チャンピオンの地元と言っています。今年のインハイのことなら、長野でしょうね」

はやり「……でも、ヒルバレーって」

良子「岡谷です」

はやり「えっ」

良子「長野県岡谷市ですね」

はやり「…………そういうこと?」



良子「では明日。始発のあずさに乗ればジャストタイムですね」

はやり「うん。……新宿に7時だね」

良子「はい。今日は早めに休みましょう」

はやり「うん、おやすみ」

良子「グッドナイトです」



同時刻 某所

あぐり「おつかれさん」

立「ええ」

あぐり「ひとまず第一段階クリア、ってとこか?」

立「そうね。次は明日、ヒルバレーで」

あぐり「岡谷やろ」

立「…………だってヒルバレーの方がかっこいいし」

あぐり「…………」



あぐり「しかし今回はタイムマシンかい。ヘビーな話やな」

立「重さは関係ないわよ?」

あぐり「それはええねん。……おまけにここ、漫画にするつもりない言うてたやんな?」

立「…………ええ」

あぐり「……それをわざわざ。こんな回りくどいやり方で過去に干渉するってな、どういうつもりや?」

立「…………そうね」



立「私たち創造神(漫画家)ができるのは……。ひとつの新しい世界を創り出すこと」

あぐり「…………おう」

立「そして、その世界で起こった出来事を『漫画』と呼ばれる表現媒体に描き起こし……。世間に伝えること」

あぐり「……せやな」

立「そのために必要な、世界に関するあらゆる権限を持っているとされているわ」

あぐり「…………」



立「でも、本当に何でもしていいわけじゃない。そんなことをしたら世界のバランスが崩れるだけよ」

立「世界という枠組みは作っても。そこで実際に何が起こるのかは……その世界の住人自身の運命に委ねるべき事」

立「すべてを自由にするなんてことは……できてもしてはならない。それが宇宙の摂理」

あぐり「……難儀なもんやのお」

立「『キャラが自分の手を離れて動くんです』なんて、謙遜めいて言う人がいるけれど……。本当はそれが正しい姿」

立「度を越した神の力の介入は、世界自体のバランスを崩すものよ」

あぐり(……………………まあええわ)



あぐり「にしても、そんだけ思うとるんなら。タイムスリップなんて一番世界のバランス崩すヤツやんけ」

立「…………普通の話ならね。……でも」

あぐり「?」

立「私たちと同じ側の住人がかかわっているとなれば……話は別よ」

あぐり「……どういうことや」

立「それが、今回の目的。ここまで私たちが出てきた理由」




立「…………『白築慕ちゃん現代では亡くなっている説』って、知ってる?」


あぐり「……おお。連載始まった頃よう聞いたな」




あぐり「あれだけ強くて実績もある奴が、現代麻雀界で欠片も姿を見せてへんのには理由がある……。ってやっちゃろ?」

立「…………ええ」

あぐり「今まで一切出てへんのに、スピンオフの中心になるほどの実力者……。しかも、瑞原はやりの幼馴染や」

立「…………そうね」

あぐり「故人やからこその思い出の過去話っちゅーのも、よくあるパターンやし」

立「…………」

あぐり「シノハユのシノは「偲」であり「慕」であり「死の」。……タイトルからもそうやとか言われとったな」



あぐり「せやけど、言うても昔の噂話やろ? お前かて最近、現代にもおるみたいな様子仄めかしとったやんけ」

立「ええ、そのつもりでいたわ。でも……」

あぐり「?」

立「…………迂闊だったわ。こんなことを許していたなんて……」

パラッ

あぐり「なんや、新聞記事かい?」



立「……そう。今から約10年前のこの世界で見つけた、島根の地方新聞……」

あぐり「『白築慕さん 告別式のお知らせ』……?」

立「……ええ。正確に言えば9年と5か月前の記事」

あぐり「……どういうことや」

立「この世界において白築慕ちゃんは……。高校を卒業した直後、その3月に……命を落としているわ」

あぐり「!」

立「彼女は――殺されたのよ。『シノハユ』を快く思わない、私たちの世界から来た指定暴力団によって――」

あぐり「!!」



あぐり「指定暴力団……やと?」

立「…………ええ」

立「マンションさんが教えてくれたの。自分も身が危なくなったから、最後にこれだけ伝えておきますって……」

立「……恥ずかしながら。私もそこで初めて耳にしたわ」

あぐり「原作者のお前に黙って……?」

立「…………ええ」

あぐり「ありえんやろ」

立「…………そうとしか、考えられないのよ」



立「彼らは、私たちに見つからずにシノハユ世界の過去へと戻れるルートを……どうやってか手に入れた」

立「……それで、慕ちゃんを殺害しようという計画が持ち上がったらしいの」

立「死亡説が出ている人なら、実際に亡くなっていたところでさほど不審には思われない。ある意味既知の方向性」

立「話題にはなるでしょうけど、トンデモなく外れた展開じゃない……。何かがおかしいなんて疑う発想は出てこない」

立「……むしろ、自分たちの手で確実にやってしまえばいい」

立「狙いは勿論……、シノハユ連載終了の前倒しよ」

あぐり「!」

立「そしてあわよくば……。現代とのつながりを切って、本編の進行にまで支障をきたさせること……」

あぐり「なんやと……」



立「……私自身も、現代ではインターハイにかかりきりで……。最近そちらに目を向けている余裕がなかった」

立「マンションさんに言われて過去を調べ直して……。そこでようやく、異常に気付いたの」

あぐり「…………」

立「…………見つけられたのは、この告別式のお知らせだけ」

立「そこに書かれた命日とされている日から……。慕ちゃんの姿が、世界のどこにも確認できなかった」

立「その日に何があったのか。なぜか霞がかかったようにそこだけが……この私にも見えなかった」

あぐり「…………どういうこっちゃ」

立「……私の関知していないところで、この世界に何かが起きている」

あぐり「!」



立「自然の運命ならまだしも……。そんな勝手な介入を許しておくことはできないわ」

あぐり「…………」

立「……お願い、あぐり」

あぐり「……なんや」

立「はやりの時間遡行に同行して、一緒に過去を見てきてほしいの」

あぐり「!」

立「そして、この世界の枠組みから外れた何かがそこにあったら……。止めてほしいの、あなたの力で」

あぐり「…………」



あぐり「……お前は行かんのか」

立「……この世界の過去は、もうあなたに預けた領域……。私は手を出さないほうがいいわ」

あぐり「…………」

立「…………」

あぐり「…………」

立「…………」

あぐり「…………ほな、目ぇ逸らさんとこっち見て言えや」

立「…………」



あぐり「……ホンマの理由は?」

立「…………本編を描くスケジュールが今きつくて……」

あぐり「…………」

立「……あと、また単行本分の直しとか……。シノハユのネームもまだ……」

あぐり「…………」鉈スチャッ

立「ごめんなさい、がんばりますからその鉈は収めてください」

あぐり「…………」



あぐり「まあええわ。シノハユを好き勝手しよう言うなら、ウチも黙っちゃおれん話や」

立「…………ええ」

あぐり「引き受けたるけど、それなりの見返りはもらうで」

立「……見返り?」

あぐり「シノハユのネーム、2か月分先渡しでどや」

立「…………」

あぐり「…………」

立「…………せめて1か月分では」

あぐり「…………」鉈スチャッ

立「がんばらせていただきます」

あぐり「おう」



あぐり「……ただし、や」

立「?」

あぐり「ウチはあくまでその、別世界の干渉があったら……。本来の摂理から外れたそいつらを排除するだけや」

立「…………」

あぐり「あいつらが過去に行ったことで、この世界がどう変わっても……。そこまでウチは知らんで、お前が言う通り」

立「……ええ、わかってるわ」

あぐり「よっしゃ。……大仕事になりそうやな」

立「…………頼むわね」

あぐり「鉈砥ぎも念入りにしとかんとな」ヒッヒッヒッ

立(…………怖っ)



翌日 岡谷駅前

立「お待ちしていました」

はやり「…………うん」

あぐり「時間通りやな」

良子「こちらは?」

立「同行してもらう私の知人です。私の代理と思ってください」

あぐり「おう」

良子「…………そうですか」



良子「…………」キョロキョロ

あぐり「ん?」

良子(周囲に隠し撮りのような不審な霊圧は感じない……ですね、ひとまず)

あぐり「どした?」

良子「……いえ。それで、なぜこのヒルバレーに?」

立「あと二人。ここに来るよう声をかけている人がいます」

良子「……ほう」

立「ここは、その二人が集まれるちょうど中間地点でもあるので……」



駅アナウンス「岡谷~、岡谷~」

はやり「あ、電車が来たね」

立「……まず一人。あの電車に」

咲「…………」トコトコ

はやり「あの子は……」

咲「…………あっ、はやりんさん」

良子「…………ニューチャンピオン」



立「……来てくれてありがとう、咲さん」

咲「あ、はい……。……大切な用事があるって言われたので……」

あぐり「なんや、説明しとらんのかい?」

立「詳しいことはこれからよ。……そしてもう一人」

ブロロン

キキキッ

はやり「ワーゲン?」

あぐり「あの荒い運転は……」

バタン

智美「ワハハ」



立「どうも、お待ちしていました蒲原さん」

智美「ワハハ」

咲「あ……鶴賀の部長さん……? 副部長さんでしたっけ?」

智美「おー、清澄の子ー」

咲「どうしたんですか?」

智美「ちょっと車出してほしいって言われてなー。ドライブ行きたい人がいるからって」

咲「えっ」

あぐり「えっ」

立「はい」



立「揃いましたね」

あぐり「おい、あと二人てホンマにこいつらなんか」

立「そうよ」

咲「?」

智美「ワハハ」

立「では、皆さんこちらへ。説明いたします」

あぐり「……嫌な予感しかせんぞ……」



近くの駐車場

立「さて。では本題ですが、このワーゲンがタイムマシンになります」

智美「ワハ?」

立「もう少し正確に言えば、これからタイムマシンにします」

咲「タイムマシン……???」

立「デロリアンと一緒です。タイムマシンと言えば車型ですよ」

智美「ワハハ、なに言ってんだ」

良子「…………」



立「今からこのワーゲンに、次元転移装置(フラックス・キャパシター)を設置します」

良子「次元転移装置……」

立「これです」

ゴトッ

はやり「えっ……?」

良子「これは……」

咲「…………麻雀卓?」



あぐり「これが?」

立「はい、次元転移装置です」

良子「……あの、どう見ても自動麻雀卓にしか見えないんですが」

立「はい。この卓の内部に次元転移装置が組み込まれています」

良子「はい?」

あぐり「……猛烈に悪い予感しかせんぞさっきから……」



設置作業中……

立「……はい、完了です」

はやり「後部座席を付け替えて……。中央に卓とそれを囲む四つの座席……」

咲「本当に……車の中に卓ができちゃった……」

智美「ワハハ」

立「あと必要なのは……この次元転移装置を作動させる力。ご存知かもしれませんが」

良子「……はい」

立「時速88マイル(約141.6km/h)以上の速度と、1.21ジゴワット以上の電力です」

咲「ジゴワット……?」

良子(…………そこは某映画と同じなんですね)



立「必要なものは、次元転移装置が組み込まれたこの雀卓とそれを搭載したこの車」

立「必要な人は、卓を囲める四人のメンツと運転手」

立「……そして必要なことは、時速88マイル以上に加速したこの車内のこの卓で」

立「牌に愛された運命の子たる彼女、宮永咲さんが役満払いを和了ること」

咲「えっ」

あぐり「は?」

立「今から運転手の蒲原さんを除く四名で、この卓で麻雀を打っていただきます」

良子「はい?」



立「彼女がここ一番の和了を見せたとき現れる、ほとばしる電流のようなビジョン……。ご存じあるかと思いますが」

良子「……ええ」

立「あれは本物の電気です」

良子「えっ」

立「時速88マイル以上のこの卓上という特殊な環境下で発せられたそれは瞬間的に1.21ジゴワット相当の大きさに達し」

はやり「??」

立「それが卓から次元移転装置へと流れ込み、時空間移動に必要なエネルギーへと変換されます」

あぐり「いや待てや」

良子「ちょっと何を言ってるのか全くアンダスタンドできませんが」



立「蒲原さん」

智美「ワハ?」

立「これから私の神の力をゴニョゴニョして、日本中の高速道路を閉鎖します」

智美「?」

あぐり「おい」

立「……要するに、邪魔する車はいません。貴女はそこで思いっきり運転していてください、時速142km以上で」

智美「ワハハ、お安い御用だぞー」



立「……ということで、よろしくお願いします」

良子「えっ」

立「説明は以上です」

はやり「えっ……」

咲「その車に乗って……」

良子「…………麻雀を打てと?」

立「はい」



あぐり「おい立」ヒソヒソ

立「何?」ヒソヒソ

あぐり「なんでタイムスリップまで麻雀やねん」ヒソヒソ

立「……私、麻雀漫画家だから」ヒソヒソ

あぐり「不器用ですからみたいに言うなや! そうやとしてもあいつのワーゲンでやらんでええやんけ」ヒソヒソ

立「麻雀するにはそれなりにスペースが必要なの。他に大きな車の持ち主がいなかったから」ヒソヒソ

あぐり「車ん中で牌積んだって崩れてまうだけやろが!」ヒソヒソ

立「大丈夫、私の神の力を付与した特別製の牌と卓よ。ちょっとやそっとじゃ倒れないようにしてあるわ」ヒソヒソ

あぐり「余計なことすな! 神の力の使い方間違うとるわ!」ヒソヒソ

立「私にはこれが精一杯」キリッ

あぐり「お前絶対楽しんどるやろ!?」



あぐり「……まあそれじゃ、百歩譲ってワーゲンでもええ」

立「ええ」

あぐり「ウチは乗らんでええやろ? よう考えたら、この世界の過去なんてウチは元々行き放題やろが」

立「麻雀は四人いないと打てないの」キリッ

あぐり「…………」

立「…………」

あぐり「……お前知っててやっとんな、これ」

立「…………」

あぐり「…………目ぇ合わせろや」



立「そう、一つ言い忘れていました」クルッ

あぐり「聞けや」

はやり「はい?」

立「行先の時間ですが……、9年と5か月前。3月×日にしてあります」

はやり「!」

あぐり「!」

立「いいですね」

はやり「…………はい」

良子「……それは……?」

はやり「…………あの日……だ……」

良子「……?……」

あぐり(『命日』の……、前の日やな)



智美「じゃあ、出発するぞー」

良子「はい」

はやり「……お願いします」

咲「???」(よくわかってない)

あぐり「チッ……ったく……」ブツブツ

立「行先は島根でよろしくです」

智美「おけー」



智美「出発ー」

ブロロロロ

咲「うわっ!」

ガタガタッ

あぐり「くっ……やっぱりか……」

良子「こ、これは……」

キキィッ ギャルルン

咲「こんな荒い運転なんて……」

はやり「聞いてないよー!!」



あぐり「乗った時点でもう覚悟せえや!」

良子「し、しかしこんなワイルドドライブだとは……!」

あぐり「知らんかったんかい、コイツの運転技術!?」

はやり「知ってたらもっと嫌がったよー!」

あぐり「今更遅いわ!!」

ガタガタッ

グラグラッ

ガッタンゴットン



あぐり「ええからサイコロ振れや! やらなしゃーないやろが!!」

良子「ほ、本当に……」

咲「この状況で麻雀を……!?」

はやり「わ、わかりました……」

ぽちっ


―闘牌開始!―

東家:はやり 25000
南家:咲   25000
西家:あぐり 25000
北家:良子  25000



あぐり「いらんわそんな演出!!」



良子「では配牌を……」

咲「は、はい……」スッ

ガタッ

咲「うわっ!」バラバラッ

良子「あっ……」

はやり「牌を落として……山が崩れちゃった……」

良子「……やり直しですね」

咲「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

良子「…………ドンマイです」

あぐり(そらそうなるやろ……!)

あぐり(なんぼ神の力込めた言うたかて……扱うんは人間やろが……!)



少女対局中……

ガタガタッ

グラグラッ

咲「こっ、これって! いつ止まるんですか!」

あぐり「ええからお前が役満和了ったらええねん!」

咲「ええー!?」

良子(……これは……予想したより数倍ハードな……)

はやり(どうしよう……)

咲「ひぅぅぅ……」



はやり(何か……方法を考えないと……)

あぐり(どうしたらええ……)

良子(……私たちは和了る必要ナッシングです……! ならば……!)

タンッ

咲「あ、ロンです……。1300」

良子「はい」

はやり「!?」

あぐり「!?」

はやり(そんな安いのなんて……)

あぐり(狙うんは役満やぞ……!)



次の局

良子(続いて……これ!)

タンッ

咲「ロ、ロン……。2000です」

良子「……はい」

あぐり(……二連続で咲に差し込んだ……。そうか……!)

はやり(そうだよね……良子ちゃん……)

あぐり(八連荘……!)

良子(全員が協力できるなら……、これが一番近道のはず……!)



数局後

咲(やっと少し……慣れてきた……)

あぐり(五連荘……あと少しや……)

良子(……頑張りましょう……)

はやり(…………これ!)

タンッ

咲「! ロ……」

智美「おおーっとここで厳しいカーブだー」

ギュゥゥゥン

咲「う、うわっ!?」ガタガタッ

グシャッ

バラバラッ



咲「あ……」

はやり「牌山が……崩れた……」

良子「…………チョンボでしょうか」

咲「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!!」

良子「…………ドンマイです」

はやり「やり直し……だね……」

あぐり「か・ん・ば・ら~~~」

智美「ワハハ」



さらに少女対局中……

はやり(あれから何度か、八連荘に届きそうにはなったけど……)

あぐり(毎度絶妙なタイミングで牌ぶちまけチョンボが挟まりよる……。わざとちゃうやろな、蒲原……)

良子(……それに、いかに彼女と言えど……。流局もすればノーテンの時もある)

はやり(やっぱり……、高い一撃が入るのを待つしかないのかな……)

良子(……しかしいずれにせよ)

タンッ

咲「! ポン!」白ポン

良子(役満でも安めでも……。私たちにできる事はこれだけ……!)タンッ

咲「もいっこポン!」發ポン

あぐり(……大三元……!)



良子(頼みますよ……!)

はやり(がんばって……!)

咲(……いける……!)

チャッ

咲「カン!」白加槓

カァン

あぐり「!」



良子(来ましたか……?)

はやり(いけたんだね……!)

咲(これで……中をリンシャンツモ……!)

スウッ


智美「おっ、サービスエリアあるなー。寄ってくかー」

グゥゥゥン


良子「えっ」



タンッ

咲「ツモ! 8000・16000です!!」バチバチッ

あぐり「よっしゃ! いったか!?」

良子「いえ……速度が……」

あぐり「えっ」

はやり「急に……減速したよ……?」

咲「サービス……エリア……?」

智美「ちょっと休んでこー。ここの食堂おいしいんだぞー」ワハハ

あぐり「蒲原ァーーーー!!!!」



まだまだ少女対局中……

はやり「もう……体力が……」

良子「限界に近いですね……」

あぐり「早よ……いってくれや……」

智美「ワハハ、もっと速くいくのかー?」

あぐり「お前に言うたんやない」

智美「ワハハ」



チャッ

咲(……今度……こそ……!)

あぐり(頼むで……!)

咲(この一局で……、決めます!)

ゴォッ

良子(彼女の麻雀力が……膨れ上がった……!)

はやり(いける……よね……!)



咲「…………カン!」カァン


あぐり(……よっしゃ!)


咲「……もいっこ、カン!」カァン


あぐり(……いったれ……!)


良子(カモンです!)


咲「もぉいっこッ……、カンッ!!」カァン


はやり(がんばれ……!)


咲(リ・ン・シ・ャ・ンッッ……!!)スゥッ


タンッ








咲「――ツモ! 嶺上開花三槓子その他! 16000オールです!!」











バチッ バチバチバチッ




ガオン!!






キキィッ グラグラッ

咲「うわっ!」ガタンッ

あぐり「おい! 急に減速すな!」

良子「ワッツハプンですか!」

はやり「そ、外……。車いるよ……」

あぐり「なにィ!?」

智美「ワ、ワハ……。いきなり車がいっぱい……」アタフタ



キキィッ パパァーン

あぐり「ちょっ……あのアホ……!」

ガタガタガタッ

あぐり「高速閉鎖て……、過去の方までやっとらんやないか……!」

はやり「ぶつかるー!!」

キキキィッ グォォォン

ガッタンゴットン

…………

……



次のパーキングエリア

良子「なんとか……危機は逃れましたね……」

はやり「生き……てる……」

咲「はぅぅ……」

智美「ワハハ」

あぐり「おい、もう142キロは出さんでええぞ」

智美「えぇー? そうですかー?」

あぐり「ええから安全運転せえ……! 事故起こすんか鉈で切られるんか、どっちも嫌やろ?」鉈スチャッ

智美「イ、イエッサー」ワハハ



数時間後

はやり「中央道から名神、中国道などを経て……」

良子「やっと着きました……、島根ですね」

咲「夜になっちゃった……」

智美「長旅だったなー」ワハハ

あぐり「……とりあえず、今日はもう遅いわ。泊まれるとこ探しや」

智美「おー。どこ行くー?」

はやり「…………松江の玉造温泉に」

智美「おっけー」



稲村旅館

杏果母「……はい、では5名様のご宿泊ですね」

あぐり「…………おう」

はやり(懐かしい……。杏果ちゃんの旅館だ……)

良子「…………」

杏果母「二人部屋と三人部屋に分かれてしまいますが、よろしいでしょうか?」

あぐり「ええで」

杏果母「ご宿泊の日数は?」

あぐり「とりあえず……二泊やけど。後から変えてもええか?」

杏果母「はい、チェックアウト時間前までに仰っていただければ」

あぐり「…………助かるわ。ほなそれで」

杏果母「かしこまりました」



その夜 はやりと良子の宿泊部屋

良子「テレビや新聞等、いくつかチェックしてみたのですが」

はやり「…………うん」

良子「……やはりここは、10年前の世界のようです。アンビリーバブルですね」

はやり「…………そうだね」

良子「20△▽年3月×日。確かに彼女が言った通りです」

はやり「…………そう」

良子「…………」

はやり「明日私は……。慕に会いに行く……!」

良子「…………」



良子「いくつか、確認しておきたいのですが」

はやり「……うん」

良子「……なぜ、この日だったのでしょう」

はやり「…………」

良子「…………」

はやり「今日……。3月×日は」

良子「はい」

はやり「…………私と慕が一緒にいた……最後の日」



はやり「明日の始発の電車で……。ここにいる18歳の私は東京に行くの」

良子「…………はい」

はやり「……もう二度と、慕の顔を見ることはない」

良子「…………」

はやり「…………大事なことを、言えなかったまま」

良子「…………」

はやり「だから私は……。ずっと、もう一度慕に会いたかった」

良子「…………」

はやり「…………会って、謝りたかった。今日のことを」

良子「…………何があったんでしょうか」



はやり「…………」

良子「…………」

はやり「…………笑わない?」

良子「……ノーウェイです」

はやり「…………」

良子「…………」

はやり「…………喧嘩、しちゃったの」



はやり「今日が……最後の日だったから」

良子「…………」

はやり「小学校から仲良くなって、中学からずっと一緒にいた慕と……。離れ離れになっちゃうから」

良子「…………」

はやり「最後に、慕に……。私の気持ちを伝えたかった」

良子「…………」



はやり「なんて言ったらいいのか、うんと悩んだけれど……」

良子「…………」

はやり「……やっぱり、慕にはきちんと言わなくちゃって思ったから」

良子「…………」

はやり「慕を呼び出して、ふたりっきりで会って……」

良子「…………」

はやり「……初めてちゃんと伝えたんだ、私の『大好き』っていう気持ち」

良子「…………」

はやり「……それで……慕も……」

良子「…………」

はやり「『私と同じ気持ちに、なってくれないかな』って。そう言ったんだ」



はやり「…………でも…………」

良子「…………」

はやり「…………」

良子「?」

はやり「…………でもね」ポタッ

良子(! ……涙……)

はやり「そのとき、慕が返してくれた言葉は…………。私が欲しかった答えとは違ってた」

良子「!」



はやり「…………慕は悪くないの」

良子「…………」

はやり「…………むしろ逆。私や閑無ちゃんや……みんなのことを気遣ってくれた、慕の優しさが詰まった答え」

良子「…………」

はやり「そういう答えでも、仕方ないって……。普通は受け止めなくちゃいけないこと」

良子「…………」

はやり「…………今なら、そう思うこともできる」

良子「…………」

はやり「…………でも」

良子「…………」

はやり「その時の私は……。そう受け取ることができなかった」



はやり「…………その言葉に笑顔を返せるだけの……気持ちの余裕がなかった」

良子「…………」

はやり「それどころか、私がこんなに悩んだのに……なんて。裏切られた感じさえしちゃって」

良子「…………」

はやり「……慕の気持ちも考えないで……。興奮してひどく怒鳴り散らしちゃった」

良子「…………」

はやり「一方的に、慕を傷つけて……。それで終わりにしちゃったんだ」

良子「…………」

はやり「…………最低だよね、私」

良子「…………」



言い訳をさせてもらえるなら。

私はあのとき、自分のことでいっぱいいっぱいだった。

卒業と別れの寂しさ。これから一人、東京で生活していく不安。

アイドル麻雀プロという、誰よりも厳しい世界に挑んでいく重圧。



……それでも、その隣に慕がいてくれたなら。

慕が私と同じ気持ちでいてくれたなら……、私はきっとがんばれる。

そうやって、がんばっていくんだ。念願だった牌のおねえさんになれたんだから。


……そんな私の決意に、ばっさりと冷水をかけられた思いがしてしまった。



そこにあったのは決して超えられない、如何ともしがたい決定的な壁。

認識のずれ。思いの格差。


いちばん大切に思っていた人から、いちばん私の気持ちを受け容れてくれると思っていた人からの…………悲しい一言。



はやり「……慕のその言葉を……聞いた瞬間……」

良子「…………」

はやり「頭にうわっと血がのぼる感じがして……。何も冷静に考えられなくなって……」

良子「…………」

はやり「…………そこから先は、もう何を話したのかよく覚えてない」

良子「…………」

はやり「覚えてるのは…………。そう、戸惑った様子で悲しそうな慕の顔だけ……」

良子「…………」

はやり「……それが、私が見た最後の慕だった」



またすぐに帰ってくる。帰ってきたら謝ればいい。

そう思ってた。

それが最後の会話になるなんて、露とも思いもしなかった。

そのときから、私の中にずっと残っている傷。

どんなに泣いても叫んでも戻らない、取り返しのつかない後悔。



はやり「アイドルの仕事の都合で……。それからなかなか東京から帰ってこれなくて」

良子「はい」

はやり「一か月後、たまたまこっちに寄れる仕事があって、帰ってきたら……。……家にあったのが、これ」

パラッ

良子「……『白築慕さん 告別式のお知らせ』……」

はやり「…………それももう、過ぎた日のことだった」



そのまま私は、そこから逃げるように……再び東京へ。

弔問にも行かず、誰の顔も見ず。

何をどうしてたのか。気が付いたらまた東京にいたくらいしか覚えてない。



それから10年。

私は努めて明るく振舞い、牌のおねえさんとして光り輝く毎日の中にいた。

そんな過去など何もなかったかのように。

いつも明るくいつでも元気な、みんなのはやりん☆。

それを演じている間だけは、慕のことを忘れられたから。



はやり「その日から今日まで……。ずっと、実家には帰ってなかった」

良子「…………」

はやり「何度も帰れる機会はあったけど……。体が動かなかった」

良子「…………」

はやり「…………認めたく……なかったんだと思う。なにもかもを」

良子「…………」

はやり「……ずっと私は……、逃げてきたんだ」

良子「…………では、地元のフレンズと話すことなども」

はやり「……全然ない。たまに実家のお母さんが気遣ってくれようとしてたけど……、断ってた」

良子「……そうですか」



良子「差し支えなければでいいのですが」

はやり「……うん」

良子「……その、彼女の言葉とは」

はやり「…………」

良子「…………」

はやり「…………」



はやり「…………」

良子「…………」

はやり「…………」

良子「…………」

はやり「…………二度は言いたくないから。聞き直さないでね」

良子「…………はい」









慕「――私は、きのこもたけのこも嫌いじゃないよ?」ニコッ












良子「…………ジーザス」






良子「しかし……。そんなタイミングで亡くなってしまうとはあまりにもトラジディ」

はやり「…………」

良子「私も存じ上げずにソーリーですが、死因とは?」

はやり「……えっとね……」

良子「…………」

はやり「…………あれっ?」

良子「?」



はやり「…………」

良子「…………」

はやり「あ……、え……?」

良子「?」

はやり「……えっ? ……えっ?」

良子「……どうしました?」

はやり「…………思い出せない」

良子「?」



はやり「そん…………え…………?」

良子「……はやりさん?」

はやり「なん……で……」ガタッ

良子「…………」

はやり「あっ…… えあ…… しの…………」

良子「…………」

はやり「私……、私…………!」ガタッ ガタガタッ

良子(……パニックを起こしかけている)



良子「……オーライ、大丈夫です」

ギュッ

はやり「…………良子ちゃん……」

良子「……今日はいろいろありましたから。ちょっと脳のメモリーも疲れたんでしょう、よくあることです」

はやり「…………」グスン

良子「……もう今日は……休みましょう。大丈夫ですから」

はやり「…………うん……」

良子(…………何かありますね、これは)



智美あぐり咲の宿泊部屋

あぐり「……今回はすまんかったな、こんなんに付き合わせてもうて」

智美「いやー、楽しいドライブだったぞー」ワハハ

咲「…………(^_^;)」

あぐり「…………ホンッマにすまんかったな、咲」

咲「い、いえ……」



あぐり「……さて、お前らは明日どないする?」

智美「?」

あぐり「悪いけど、ウチもウチでやることあんねん。明日は二人で時間潰しとってや」

智美「おっけー」ワハハ

咲「えっ……車でですか……」

あぐり「……まあ、その辺は任せるけどもや……。ただひとつ」

智美「?」

あぐり「…………絶対、事故だけは起こしなや。帰る時にもその車が要んねん」ギロッ

智美「イエッサー」ワハハ



あぐり「……ほな、ちょっと出てくるわ」スタスタ

咲「あっ……、どちらへ?」

あぐり「……ちょっとな。先に休んでてええで」

咲「……はあ……」

あぐり「…………あんたらは気にせんでええ。……大人の話や」

咲「……そうですか……」

智美「ワハハ」

咲(お酒でも飲みに行くのかな……?)



深夜 旅館の外

あぐり「…………さて、ここからが本題や」

あぐり「明日が慕の命日て……。一体何があった言うねん」

あぐり「おまけに、立にも見えなかったやと……。そんな事があり得んのかい……?」

あぐり「…………調査が必要やな」

スゥッ

あぐり「……『タヌキの千里眼(スキャン・ザ・ワールド)』……!」

あぐり「…………」

あぐり「…………」

あぐり「…………」



あぐり「…………なるほど。これは異常や」

あぐり「確かに……。明日から先の、慕の様子だけがまったく見えん」

あぐり「…………このウチにもや」

あぐり「…………生きとるんか死んどるんかすらわからん……。……黒塗りでもされとるかのようやな」

あぐり「…………」

あぐり「…………」

あぐり「……ほな……」

あぐり「…………やっぱり、アイツしかおらんわ」



翌日

良子「では、まいりましょうか」

はやり「……うん」

智美「運転はいいんですかー?」

良子「……ええ。歩きでノープロブレムですから」

智美「お気遣いなくー」

良子「…………いえ、ちょっとプライベートな話になりますので。貴女たちは休んでいてください」

智美「そうですかー」ワハハ

はやり「…………」



智美「じゃあ私たちは留守番してますねー」

良子「はい、よろしくです」

はやり「…………うん」

良子「……そういえば、もう一人のあの方は……?」

智美「あー、朝から見てないなー」

咲「今日は別行動する、って言ってましたけど……」

良子「…………オーライ、了解です」



はやり「…………行こう、良子ちゃん」

良子「はやりさん……」

はやり「昨日は取り乱してごめんなさい。もう大丈夫だから」

良子「…………」

はやり「…………大丈夫だから」

良子「……そうですか」

はやり「……うん!」

良子「…………」



―回想・昨晩―

良子「……殺害された可能性……?」

あぐり「…………おう。せやからわざわざ、ウチらがこんなことしとんねん」

良子「誰が……何のためにと言うんですか……?」

あぐり「わからへん。……せやから可能性の一つや」

良子「そう……ですか……」

あぐり(…………これくらいにボカしといた方がええやろ)



あぐり「ウチもそうはならんように動くつもりやが……。要するに、何があるかわからん」

良子「…………」

あぐり「頼むで、明日。……アンタが頼りや」

良子「…………はい」

あぐり「はやりには話さんでええで。余計に思い詰めさしてもあかん」

良子「…………イエスマム」

―回想終―

良子(…………不安は拭えませんが)



旅館の駐車場

咲(どうしよう……。ふたりでドライブなのかな……)ドキドキ

智美「それじゃー、洗車でもして待ってるかー」ワハハ

咲(…………ホッ)

智美「んー?」

咲「い、いえ! いい考えですね! 手伝います!」アセアセ

智美「おー、サンキュー」

咲「じ、じゃあ……。旅館の人にバケツとか借りてきますね……」

智美「おー」ワハハ



旅館の中

咲「…………うぅ~、迷っちゃったよぉ……。旅館の人どこ……?」ウロウロ

ガラッ

咲「……あっ、こっちは……。はやりんさんと戒能プロの部屋……」

パラッ

咲「……ん?」

咲「なんだろう、この紙……。新聞記事?」

咲「……はやりんさんの忘れ物かな……?」



咲「そういえば……。昨日もおトイレ行った帰りに迷っちゃって……」

咲「この部屋の前を通りがかったんだ……」

咲「その時も……。部屋の中がちらっと見えて……この紙のことを話してた……」

咲「確か……。告別式のお知らせ……だったっけ……?」

咲「…………」

パラッ



紙『朝酌女子高校構内で殺人事件! 身元不明の成人女性が包丁で刺され犯人は逃走――』

咲「…………」

咲「…………告別式じゃなかった」

咲「……私の聞き間違いだったかな……?」

咲「…………」

咲「…………まあいいや」

咲「殺人事件かぁ……。なんだか物騒だな……」




――それぞれの思いを乗せて、運命の日は動き出した。


一方、その頃…………。




現代より7年前 大阪

めきめき「さーて! 今日も元気に、怜ちゃんと竜華ちゃんがイチャイチャしてる様子を見に行きますか~」ウェッヒッヒッ

めきめき「立おねえさま達は今なにか大変みたいだけど~、私は私でがんばらないとね~」

めきめき「こちらの世界はおねえさまの手を煩わせる領域じゃないし。私まで連載が滞っちゃどうしようもないもんね!」

めきめき「さてさて、今日の怜ちゃんたちは~……」



石連寺小学校 麻雀部室

葉子「……何を読んでるんですか、竜華?」

怜「雑誌……?」

竜華「あ、うん。部室に置いてあったから」

怜「『WEEKLY麻雀TODAY』……、麻雀雑誌?」

あゆみ「あっちにいっぱい積んであるで、バックナンバー」

葉子「さすが麻雀部ですね」

怜「私こういうの読んだことない……」

パラッ パラパラッ



竜華「プロチームの試合結果やイベントレポート、コラム、4コマ漫画と盛りだくさんやで」

怜「プロチーム……」

竜華「怜ちゃんは、プロの試合とか見に行ったりする?」

怜「……ううん、全然……」

竜華「そっかー」

怜「プロ麻雀なんて……。全然縁がない世界の話やったから……」



怜「でもプロかあ……。ええなあ……」

葉子「プロに興味がありますの?」

怜「私も目指してみよかなー、麻雀プロ」

あゆみ「軽く言うなあ」

怜「麻雀やってお金貰って生活できるなんて! すてきやん!」キリッ

あゆみ「そんな甘いもんやないでー」

葉子「ちびっこの発想ですね……」ヤレヤレ

怜「むぅ~」(`3´)

竜華「…………」ウフフッ


めきめき「おぉー、将来の話ですね~。二人で結婚でいいんじゃないかな~」



竜華「……ほな、一緒に読もう怜ちゃん。プロの勉強にもなるで」

怜「うん!」

知恵「なになに、今日は読書の日かなー?」

多恵「私たちもー」

竜華「うん、みんなで読もう。今週号の特集は……」

雑誌『徹底特集! 小鍛治健夜プロと小鍛治世代』

怜「こかじプロ……?」

竜華「……この人も知らん?」

怜「……うん」

葉子「疎い子ですねー」



葉子「前人未到、夢の九冠王! の期待がかかる、今注目の若手ナンバーワンですよ!」

怜「へー」

知恵「若手どころか、もう日本を背負って立つエースやんねー」

多恵「そうそう」

あゆみ「それに、同学年のライバルたちもすごい選手がいっぱいおんねんで」

竜華「うん。今年が高卒3年目やけど、大学進学した選手も含めて『小鍛治世代』って呼ばれて注目されてるんやって」

怜「そうなんや……」



怜「ほな、しんちゃんのおすすめ選手って誰?」

あゆみ「進士!」

怜「えっ……、しんちゃんって自分がおすすめ……」

あゆみ「なんでやねん! しんちゃんて呼ばんでって話!」

怜「冗談やって」

あゆみ「もう……」

葉子「まあまあ……。それで、しんちゃんはどなたがお好み?」

あゆみ「……うーん、この人かな……。椋千尋プロ」パラッ

竜華「おー、千里山のー」

怜(葉子がそう呼ぶのはええんや……)



怜「千里山って…… うちの近くの千里山女子……?」

あゆみ「うん、地元のインターハイ常連校やね。この辺で麻雀強い子が行く高校って言うたらまず千里山や」

知恵「この人自身は大阪出身やなかったけどー、一年上の柚葉さんと島根コンビって呼ばれてて凄かってんでー」

あゆみ「インターハイで見せた神域の国士無双は今でも伝説やね」

多恵「"千里山の千尋の神国士"! あれかっこよかったー」


めきめき「なるほどなるほど、そうでしたね~」

めきめき「高校時代まで進んだら、いずれ私が描くこともあるのかな……?」



怜「ほな、葉子は誰が好きー?」

葉子「私はなんといっても! はやりんです!」

あゆみ「瑞原プロなー」

怜「あ、その人は知ってる……テレビで見たことある」

葉子「麻雀プロとアイドルの両立! 強さと美しさを兼ね備えたまさに理想の女性です!」

怜「アイドル……かあ……」


怜(私なんて全然やけど……。竜華ちゃんはアイドルとか興味ないんかな……?)

めきめき「おおっと、心の声ですねー」

怜(やったら似合いそうやなぁ……。竜華ちゃんスタイルええし……)

めきめき「うんうん」



怜「他にはー?」

竜華「んーと、次のページは……」ペラッ

葉子「!」

あゆみ「!」

竜華「!」

怜「……ん?」

めきめき「?」



葉子「これ……は……」

竜華「……凄いニュース!」

怜「?」

雑誌『緊急スクープ! あの小鍛治世代最後の大物が日本に電撃復帰!』

知恵「わぁー!」

多恵「凄い凄い!」

雑誌『海外での留学生活を終えて先日極秘帰国! 日本復帰の理由は「探しものが見つかったから」と意味深コメント』

怜「??」

雑誌『島根・朝酌女子高校出身。小学校から全国大会上位の実績を誇り、瑞原プロとは中学からのチームメイト……』

あゆみ「この人も凄い人やねんで!」

怜「誰ー?」

雑誌『…………白築慕選手!』


めきめき「…………えっ?」



めきめき「あれっ……えっ……??」

めきめき「だって……それは……」

めきめき「今それで、おねえさまたちが大変なことになってるアレで……」

めきめき「…………」

めきめき「……慕……ちゃん……」

めきめき「…………」

めきめき「生きて……るの……?」

??「見ぃ~~たぁ~~なぁ~~」

めきめき「!?」



黒ガーターベルトとフルフェイスメットの女「……やれやれね。こんなところから足がつくなんて」

めきめき(へ、変態だー!!)ガビーン

黒ガーターベルトとフルフェイスメットの女「こっちの方まで手を回すべきだったとはね。さすがに考えてなかったわ」

めきめき「あ……あ……」ガクガクブルブル

黒ガーターベルトとフルフェイスメットの女「スピンオフ多角展開が結果的にリスクヘッジになったってとこかしら?」

めきめき「…………」ガクガクブルブル

黒ガーターベルトとフルフェイスメットの女「貴女とは……。はじめましてだったかしらね、第3のスピンオフ作家さん」

めきめき「…………」ガクガクブルブル

黒ガーターベルトとフルフェイスメットの女「悪いけど。一緒に来てもらうわね」



現代 時輪荘

ブーッ ブーッ

紗「あ、メール」

ピッ

紗「……めきちゃんから……。こんな時間に、珍しいな……」

ピッ

メール『HELP!!(><)』

紗「めきちゃん…………?」



紗「どうしたのかな……。電話してみよう……」

プルルルル プルルルル

ピッ

大和田「…………」

紗「……もしもし、めきちゃん?」

大和田「……こんちゃかわー」(棒読み)

紗「! …………その声は……」



大和田「お久しぶりね、メガネっ娘さん」

紗「悟沢空子さんと慕ちゃんのときの……フルフェイス痴女……」

大和田「丁度よかった。ひとつお願いを聞いてもらえるかしら」

紗「お願い……?」

大和田「この電話の持ち主さんを預かっているわ。引き取りに来ていただける?」

紗「!」



指定○力団 ○書房

バタンッ

大和田「来たわね」

めきめき「紗先輩……」

紗「めきちゃん……」

大和田「ようこそ、メガネっ娘さん」

紗「……あなたは……。一体何を企んでいるんですか……」



紗「こんなところにめきちゃんを監禁なんてして……! 今度は私たちに何をしようって言うんですか……!」

大和田「別に。何もしないわよ」

紗「……?……」

大和田「素直に言うことを聞いてくれるなら、危害を加えるつもりはないわ」

紗「…………」

大和田「バレちゃったなら仕方がないからね。ちょっと口裏を合わせてほしいだけ」

紗「口裏……?」

大和田「あの子にだけは、ネタバレされちゃったら台無しだからね。それだけよ」

紗「……あの子って……。立おねえさまのことですか……」

若頭「おう、そういうことだお嬢ちゃん」

紗「!?」



若頭「悪ぃが、大人しく言うことを聞いていてもらうぜ……。スピンオフ作家さんよ」

紗「…………」

若頭「出口から玄関先までウチのモンが固めとる……。出られるたぁ思わんこった」

紗「!」

若頭「事が済むまで言うとおりにしてたら……何もしないで帰してやるよ」

紗「…………」

若頭「……ただし」

紗「…………」

若頭「抵抗するようなら……。二人とも容赦しねえがな……!」フヒヒッ



ガタッ ガタガタッ

若頭「ん?」

構成員A「お、おい、お前!」

構成員B「そっちに行くんじゃない!」

構成員C「待てやコラ!!」

若頭「なんや!? やかましいで!!」

バタンッ

あぐり「…………邪魔するで」

若頭「!」



紗「虎さん……」

めきめき「虎ねえさま……」

あぐり「……ほう。知った顔が揃っとるやんけ」

若頭「……五十嵐あぐり……」

あぐり「…………大体、予想通りやけどな」ギロッ

大和田「あら、いらっしゃい」



若頭「……よくここがわかったじゃねえか」

あぐり「ちょっとそこのフルフェイスがおらんか探しに来たら……。見慣れたちんちくりんの姿が見えよったからな」

紗「虎さん……」

大和田「…………」

あぐり「……おかげで確信したわ」

大和田「…………」

あぐり「今回の黒幕……。やっぱりアンタか、大和田の」



大和田「……あら。何のことかしら」

あぐり「すっとぼけなや、ここまできて」

大和田「…………」

あぐり「過去に行って世界をスキャンして……。一目でピンときたわ」

大和田「…………」

あぐり「そもそもからおかしい思ったんや。原作者の立がその世界で起きたことを感知できんなんぞ……異常が過ぎるわ」

あぐり「おまけに、同等の権限があるウチまでや。この二人を差し置いて世界に干渉するなんて真似ができる奴……」

あぐり「……そんなもん、同業者(漫画家)しかおらんわ」

大和田「…………」



あぐり「そう言うたら、もうアンタしかおらん。前にも似たような事しかけた前科あるんや、忘れたとは言わさへんで」

大和田「…………」

あぐり「ええ度胸しとるわ、相変わらず」

大和田「サンキュー」

あぐり「…………褒めてへんわアホ」



あぐり「……まあ、言うてもアンタが黒幕なら底は割れとる。最初はどんな謎の異変が起きたんか思うたけどな」

大和田「…………」

あぐり「ウチも同業者(漫画家)や。アンタに何ができて何ができんかぐらい見当つくわ」

大和田「…………」

あぐり「…………いくらアンタがメチャクチャしよるなんでもありや言うてもな」

大和田「…………」

あぐり「…………」

大和田「…………つまり?」

あぐり「慕が死んだ言うんは……。アンタの作ったフェイクやろ?」

大和田「…………」



あぐり「ホンマは慕は死んじゃおらんし、立に黙って過去へ殺しに行った奴もおらん」

大和田「…………」

あぐり「考えてみたらその話かて、立があのアホ(マンション)から聞いただけや。はっきり確認したもんとちゃう」

大和田「…………」

あぐり「……できるわけがないモンは、できるわけがないわ」

大和田「…………」

あぐり「原作者に黙って過去の世界へ行く……。ましてやそこで、主人公を殺すなんぞ。ありえんにも程があるわ」

大和田「…………」



大和田「…………悟沢空子さんの時は、黙って過去に行ったわよ?」

あぐり「あんときは鳥山のオッサンが許可してもーたんやんけ。……まんまと出し抜かれたとか言うとったけどな」

大和田「…………」

あぐり「……今回は他に、そんな奴ぁおらん。……ほな、アンタができる事言うたら大体知れとる」

大和田「…………ふむ」

あぐり「せいぜいが、死んだように見せかける偽装……。世間やウチらの目を騙す程度や」

大和田「…………」

あぐり「…………せやろ」

大和田「…………ご名答」



あぐり「…………フン。堂々としたもんやな」

大和田「…………」

あぐり「……まあええわ、ほなさっさと撤回してもらおか。なんのつもりか知らんが、しょーもない大騒ぎは終いや」

大和田「…………」

若頭「おおっと、そういうわけにはいかねえな」

あぐり「……あ?」



若頭「クククッ……。とんだ夏の虫だ、おめでてーな五十嵐あぐり」

あぐり「……あん?」

若頭「お前までこっちに来るとは……手間が省けたってもんだ」

あぐり「……どういう意味や」

若頭「ここにお前ら三人が揃ったなら……、これで邪魔する奴はいなくなった」

あぐり「なんやと……?」

若頭「今頃うちの鉄砲玉が……、仕事をしてる頃なんでな。大人しくしていてもらうぜ」

あぐり「!?」



あぐり「アホ言いなや……! 今の話聞いてたやろ……!」

若頭「…………」クククッ

あぐり「原作者に黙って過去に行く手段なんぞ……!」

若頭「おお、あるわけねえさ」

若頭「…………『原作者が作ったタイムマシン』にでも乗らねえ限りはな」

あぐり「!!」



あぐり「まさか……おのれら……」

若頭「クククッ… そうよ」

若頭「鉄砲玉が乗ってたのは……、お前らと同じあの車」

あぐり「!」

若頭「『白築慕殺害事件』は……これから起きるのさ」

紗「!!」



若頭「バカめ……。だからあのアホ(マンション)に虚言を流して小林立を動かしたんだよ」

若頭「原作者公認のタイムマシンを作らせ、それに乗って合法的に過去へ行く……。それこそが真の狙い」

若頭「ハナっからこっちの掌の上だったってこった……。まんまと引っかかってくれたぜ……」

若頭「鉄砲玉は最初から……。蒲原智美が鶴賀を出る時からあのワーゲンの中よ」

あぐり「なん……やと……!!」



紗「なんて……ことを……」

あぐり「えげつないことさせよる……! 人の心が無いんかお前ら……!」

若頭「…………クックックッ、なんとでも言えや」

あぐり「無事で済むわけないやろその鉄砲玉……! かわいそうに……!」

若頭「えっ」



―回想・昨晩―

あぐり「……『スキャン・ザ・ワールド』!」

あぐり「…………」

あぐり「…………」

あぐり「…………特に……。不審な動きしとる奴はおらんよな……」


ワーゲンの荷物入れの中

鉄砲玉「…………」

鉄砲玉「…………」

鉄砲玉「…………」

鉄砲玉(…………なんやあの運転は……)死~~ん

―回想終―



若頭「フン……まあいい。どうあれ流れは完全にオレたちの味方……」

あぐり「?」

若頭「出発直前に受けた連絡じゃ……。宮永咲までその車に乗ってるって話じゃねえか」

あぐり「…………あ?」

若頭「ここまで都合良くいくたぁ思わなかったが、これ幸い……。鉄砲玉には全員殺せと命令しておいた……」

紗「!!」

若頭「トータリーデストロイ……! これでシノハユどころか、咲-Saki-本編もお終いだ……!」フヒヒッ



あぐり「…………フン、アホか。ずいぶん調子よくベラベラ喋ってくれるもんやな」

若頭「……あ~ん?」

あぐり「そんなんが許されるとでも思ってんのかい、常識的に考えて」

紗「そうですよ……。こんなことが世間に知れたらあなたたち……!」

若頭「クククッ……。だから甘ぇんだよお前らは」

あぐり「…………あ?」



若頭「バレずに済むなら越したことはねえが……。事さえ終わればどうだっていいんだよ……!」

若頭「裏の経緯や事情がどうだとしても……世間にとっちゃ関係ねえ……」

若頭「起きた事実は『小林立が読者に内緒でタイムマシン作って白築慕と宮永咲を死なせてしまいました』……だ」

若頭「通るかっ……! そんなもんっ……!」

若頭「どう言い訳しようとてめえの管理責任……! なんでタイムマシンなんか作ったんだって話だろうがっ……!」

若頭「こんなスキャンダルなんてな……先にでかい声で拡散しまくった方の勝ち……」

若頭「その後からどう取り繕ったところで……。炎上沙汰は間違いねえ……!」

あぐり「……こいつ……」



あぐり「アホ言いなや! 咲が死んだらタイムマシンも動かんのやで!」

若頭「…………だからどうした」

あぐり「その鉄砲玉かて帰ってこれんやんけ! そんなアホな真似できるかい!」

若頭「……フン、知るかよ」

あぐり「あん?」

若頭「鉄砲玉は……戻ってこねぇから鉄砲玉って言うんだよ……!」クククッ

あぐり「この……外道が……!」



あぐり「…………くっ!」ダダダッ

若頭「待てや! お前らはここから逃がさへんで!」

構成員たち「へいっ、アニキ!!」

ズラズラズラッ

あぐり「くっ……」

紗「出口を……塞がれた……」

大和田「…………」



若頭「クククッ……。抵抗するなら、それなりの対応をさせてもらうぜ……」

あぐり「おのれら……」

構成員A「…………」フヒヒッ

構成員B「…………」フヒヒッ

構成員C「…………」フヒヒッ

若頭「この世界のマスター(神)は今……。そこにいるフルフェイスの女」

大和田「…………」

若頭「お前らをこの場で取り押さえることくらいは造作もないさ……。なあ大和田?」

大和田「…………」



大和田「…………」

スタスタスタ

あぐり(…………こっち来んな)

大和田「…………」

あぐり「…………」

大和田「…………」

あぐり「…………やんのか?」



大和田「…………」

あぐり「…………」

大和田「行きなさい」

あぐり「あ?」

若頭「!?」

大和田「…………前にも言ったでしょう? 私はあなたたちの敵じゃあないわ」



若頭「大和田てめぇ…… 裏切る気か……?」

大和田「……よくぬけぬけと言うわね。裏切ったというならそちらの方よ」

あぐり「?」

大和田「…………話が違うわね、最初の依頼と」

あぐり「!」

大和田「私が聞いていた今回のネタは……。『二代目白築慕オーディション』だったはずよ」



大和田「声優を通り越して、慕ちゃん本人を別の人と入れ替えるというサプライズオーディション……」

あぐり(…………クソ迷惑やな)

大和田「……そのための切っ掛けとして、一時的に慕ちゃんの存在を世界から消し去る事」

大和田「勿論、消えたように見せかけただけ。その存在と人々の記憶にちょっぴり情報操作をかけて姿を隠しただけよ」

大和田「今までの話の通り。世界から完全に消すなんて、原作者様に内緒でできるわけもないしね」

あぐり(……勝手に情報操作だけでも一大事やろ。何がちょっぴりやねん)

大和田「最後には何事もなく本人が登場して、逆サプライズのお笑いエンド……だったはず」

あぐり(…………笑えんわ)

大和田「……こんなことを企んでいるとは聞いてなかったわ」



若頭「……だからなんだってんだ」

大和田「…………都合よく利用しくさったわね、この私を」

若頭「ヘッ、知らんな。お前も抵抗するならここで黙らせるぞ?」

大和田「……自分の立場が分かっていないようね」

若頭「あ?」

大和田「さっきあなたが、自分で言った通り……。この場の神(作者)はこの私」

若頭「…………」

大和田「神に逆らうってことがどういうことか……。見せてあげるわ」ギロッ

若頭「!」ゾクッ



若頭「ぬ、ぬかすな! お前の細腕で何ができる!?」

大和田「あら、私は何もしないわよ」

若頭「何……?」

大和田「あなたたちの始末ごとき……。"これ一台"で十分」ゴゴゴゴゴゴ

若頭「!?」

大和田「…………召喚!」

カッ



若頭「なにィ……」

構成員A「あれは……!」

構成員B「『ムダヅモ』でおなじみの最強麻雀魔神(マシン)……」



                       >''´二二_/`'<
                      //;;;;;;;;;;;;;;;;;;i} i  .\
                     / /;;;;;;;;;;;;,ィ' ヽ,;;;i i   ,=.∨     _人人人人人人_
                    ././ィ' ヽ;;;;;i   .};;;i   ∥,-}i,     > ア シ モ ! <
                    , ,;;i  ,};;;;;乂_ノ;;;;;i   i i{  .i      ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
                    { i;;ゝイ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i   iノ{  .i
                    .Ⅷ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i  .マ'  .i
                    Ⅷ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;}    ./
                     マ',;;;;;;_,。.‐''"´==ニニニ >'´ ̄ ヽ''<
                     ゝ===≦>''"´ ̄''‐/      }  \
                        /   ./    /      ./   .∨
                   _,。s≦/   ./    .',     .ノ  ´  ).i},
                 /   / ゝ=- ´     __∨_  / .', _,,,,。,_Ⅷ
                ∥  ./.∥       >≧==、、、'<./ィ===、 .',.|
                .マ  .i..∥      / ,イ".},イ`i,ィ┐)) ∨s。_.\i
                 ゝ=.、.|i       ゝゝイゝィ乂ノ  ', .}.ii`''<'"ヾ,
                 ∥ .ヾ        ./"ヽ_}      ソ∥  ∨ }
                 ∥=、"''i        /"ヽ ̄"''=ェ─'´ノ    }i .,'
     _           {i_ .\i       乂ノ  i   i'<´     .ノノi'
  >.i´ノ ,ィ'ヽ、、=======、、_ノ")≧s。           .i   i  ゝ≧ニニシ'´|
 /ゝイミソ´  ,ィ∨     \ヽゝ/ i           .i   i  _i|,。""´| "|
ゝイ´ヾ,   /_} i ̄ ̄ ̄ ̄.ゝi'´   i       _,,,,,。i。。。ィゞ´  iヽi{  .|
    ゝ ,,ィ'ヽノノ        } ./ .i >=‐''''"" ̄_,,,,,,,。====   i´ `ヽム丿
      ゝイ  `"'''''''''''''''''ニ彡イ   .}。‐'''''" ̄  _,,,,,,,。====   .i_  i.|イ



アシモ「お呼びでしょうか、大和田様」ピボッ

大和田「命令(コマンド)……。"全敵掃討"(トータリーデストロイ)」

アシモ「イエスマイゴッデス」シャキィン

構成員A「ひ……ひぃぃぃぃ!!」

構成員B「うわぁぁぁぁ!!」



若頭「くっ、出会え、出会え! カチコミやで!!」

アシモ「無駄でございます。何人いらっしゃいましてもアシモ七大兵器の前には……」

スゥッ

アシモ「アシモカウボーイ!」バシュッ

ヒュン ヒュヒュン

クルクルクルッ ギュギュッ

構成員A「う……動けねえ!?」

構成員B「細い鋼線のようなものが……体に巻き付いて……」

構成員C「……全員縛られた!?」

アシモ「カーボンナノチューブでございます。構成員軍団を拘束、行動を制限……、完了」



アシモ「今でございます、五十嵐様」

あぐり「お、おう! 行かせてもらうで!」

ダダダッ

若頭「くっ……!」

バタンッ

アシモ「五十嵐あぐり様の脱出を確認……。そして一人ずつ……」

スチャッ

構成員A「も、木製バット……!?」



ユラリ

構成員B「あ、あれは……!」

構成員C「神主打法!?」

構成員A「ヒ、ヒイッ!!」

グワッ

アシモ「アシモホームラン!!」バッキィン

構成員A「ぎゃぁぁぁぁ!!」

構成員B「ち、躊躇なく頭にフルスイング……」

構成員C「全盛期の……三冠王……!」



アシモ「アシモホームラン!!」バッキィン

構成員B「ぎゃぁぁぁぁ!!」

アシモ「アシモホームラン!!」バッキィン

構成員C「ぎゃぁぁぁぁ!!」

アシモ「アシモホームラン!!」バッキィン

構成員D「ぎゃぁぁぁぁ!!」

めきめき「……強い……」

構成員D「ど、どこが……麻雀マシンだよ……」

ガクッ



若頭「ま、待てや、大和田!」グイッ

大和田「!」

若頭「コイツに無事でいてほしかったら……その機械止めろや……!」

紗「…………」

めきめき「紗先輩を……人質に……!」

大和田「……外しなさい、その子に突き付けてるその刃物」

若頭「じゃかあしわ! こっちも必死や!」

紗「…………」

大和田「…………シースファイア(撃ちかたやめ)」

アシモ「……イエス」ピボッ



大和田「……攻撃はやめたわよ。その子を掴んでいる手を放しなさい」

若頭「そう言われて放すかボケ……! 次はそのカーボンなんたらで……お前ら全員縛らせろや……!」

めきめき「あ……あわわ……」

紗「…………」

若頭「…………早よせえや! コイツどうなってもいいんかい!!」グイッ

めきめき「紗先輩……!」

大和田「……やれやれ、どこまでも汚いわね」

若頭「引き下がれるかい……! なぜか消極的な辻野のオジキを出し抜いて……オレが上に行くチャンスなんや……!」

紗「…………」



紗「……救えぬ輩ぞ……」グロロロロ

若頭「!?」

紗「どこまでも醜い……。あの下等超人どもにも塵とも及ばぬ……外道めが」

若頭「お、お前は……」

紗「…………」ガシッ

若頭「いっ!? いぎぎぎぎ……!!!」ミシミシミシミシッ

めきめき「紗先輩!?」

若頭(う、腕を掴まれて……。物凄ェ握力……!)

紗「…………グロラッ!!」

ガバッ

若頭「ヒィッ!?」

めきめき「腕を……無理矢理外した!?」



紗「…………」グイッ

グググググ

構成員E「頭を掴んで握力だけで……」

構成員F「アニキの巨体を持ち上げた……!?」

若頭「がっ…… ごっ……」ジタバタジタバタ

紗「おのれの罪を悔い……浄土へ還れ……!」



紗「……グロラァッ!!」

グワッ

ゴゴゴゴゴ


紗「 "完武" 兜砕き!! 」


グワッシャァン


構成員E「アニキの頭を膝上に抱え上げて……」

構成員F「そのまま思いっきり膝に叩きつけた……」

大和田「…………やるじゃない」


―若頭死亡確認―



紗「…………めきちゃん」

めきめき「…………はい」ガクガクブルブル

紗「……今見たことは誰にも言わないこと。いいね」

めきめき「…………」ガクガクブルブル

紗「…………ここには何もなかった、貴女は何も見なかった。OK?」

めきめき「…………はい」ガクガクブルブル



過去の世界 朝酌女子高校

良子「…………こっちです、はやりさん」

はやり「……うん」

良子(イタコの術で降ろした霊に彼女を捜索してもらったところ……。示された場所がこの校内)

良子(今ここには……、彼女は確かに生きている)

良子(彼女をつけまわしているような不審な霊圧も……、特に何も見つからなかった)

良子(…………何も起こらなければいいのですが……)



はやり「…………あっ」

良子「?」

慕「…………」トコトコ

はやり「あっち……。そこの道を歩いてる……」

慕「…………」トコトコ

はやり「……慕……!」



はやり「慕が……生きてる……」

慕「…………」トコトコ

はやり「……動いてる……!!」ボロ…ボロ…

良子「はやりさん……」

はやり「良子ちゃん……! ほら……! 慕が……!!」ボロ…ボロ…

良子「……そうですね」

はやり「よかった……! 私……!」ボロ…ボロ…

良子(…………やれやれ。どうやら杞憂で済みそうですね)ホッ


鉄砲玉「……見つけたぜぇ……。白築慕」



鉄砲玉「……やっと……追いついた……」

鉄砲玉「あの運転のおかげで……昨日はすっかりダウンして」

鉄砲玉「今朝も目が覚めたらあいつらが出発した後……。出遅れたと思ったときは肝を冷やしたが」

鉄砲玉「ヤマを張って朝酌に直行して正解だったぜ……!」

鉄砲玉「そして考えてみれば……。逆に出遅れた方がよかったんじゃねえか……?」

鉄砲玉「今まで下手に近づかなかったおかげで……、あいつらもオレの存在など掴めなかったはず……!」

鉄砲玉「そのまま油断してろ……!」

鉄砲玉「…………」

鉄砲玉「…………」

鉄砲玉「…………おえっぷ」フラフラッ



鉄砲玉「…………」フラフラッ

はやり「…………!!」ハッ

良子「はやりさん?」

はやり(今……慕に近づいて行った……あの人……)

良子「どうしました?」

はやり(あの手に持ってたもの……、……包丁!!)

良子「?」

はやり(慕……向こうを向いて気づいてない!!)

ダダッ

良子「あっ、はやりさん!?」


――考えるより早く、体が動いていた。



はやり「慕!! 逃げて!!」

慕「……えっ?」クルッ

鉄砲玉「…………死ね!!」

慕「!?」


はやり「危ない!! 慕!!!」バッ


ドスッ




慕「あ…… え……?」


はやり「……か…………はっ……」


良子「二人の間に割って入った……はやりさんに包丁が……!」


鉄砲玉「フフ…… フヒヒッ……」


はやり「……し……の…………」


慕「はやり……ちゃん……?」



はやり「よかっ…………無事…………」ゴフッ


慕「お腹…… 血がいっぱい…………!」


はやり「…………」ニコッ


ドサッ


良子「はやりさーん!!」



良子「はやりさん! しっかりしてください!!」

はやり「…………」

良子「はやりさん! はやりさん!!」

あぐり「……どきや!!」

グイッ

良子「!?」

ガバッ

あぐり「――『タヌキの作者都合(ベホマ)』!!」カッ

シュゥゥゥゥ…

良子「い……いつの間にここへ……」



良子「傷口が……塞がっていく……」

あぐり「…………大丈夫や。心配いらん」

良子「あなたは……、あなたがたは一体……何者なんですか……?」

あぐり「…………」

良子「…………」

あぐり「…………神」

良子「?」

あぐり「……いわゆるゴッドや」

良子「…………はあ」



慕「あ……あの……?」

あぐり「大丈夫や。あんたは何も気にせんでええ」

慕「……あなたは……前にもどこかで……?」

あぐり「…………おい、はやりとこの子頼むわ」

良子「イ、イエスマム」

慕「……?……」

良子「…………さ、ここはデンジャーです。一緒にこちらへ……」

慕「は、はい……」



あぐり「……やってくれよったな、○書房の」ギロッ

鉄砲玉「ぬぅ……五十嵐あぐり」

あぐり「……『作者都合(ベホマ)』なんて裏技まで使わせよって……。高ぅつくで、この代償」

鉄砲玉「お前が……なぜここに……」

あぐり「……答える義理はあらへんな」

鉄砲玉「大和田が弊社で根回ししてたんじゃねーのかよ……。お前には邪魔されないように……」

あぐり(…………弊社言うなや鉄砲玉が)



あぐり「もう凶器は……あらへんやろ。大人しくしてもらおか」

鉄砲玉「…………フン」

あぐり「?」

鉄砲玉「ククッ……。誰が……包丁しか持ってないって言った……?」

あぐり「……何?」

鉄砲玉「…………フヒヒッ」

スチャッ

あぐり「!」

良子「サバイバルナイフ……!」



鉄砲玉「フヒヒッ……。最初からこうすればよかったんじゃねえか面倒くせえ」

あぐり「……あん?」

鉄砲玉「瑞原はやりより白築慕より……。まずお前をやればシノハユは終わりや」

あぐり「!」

鉄砲玉「死ね!」

グワッ

良子「危ない!!」



ガキン

あぐり「…………」

鉄砲玉「え……」

良子「鉈で……ナイフを止めた……?」

鉄砲玉「なん……だと……」

あぐり「……あんまなめんな」

鉄砲玉「ぐっ……」

ググググググ



あぐり「…………刃は使わんといたる……。有難く思えや」

カキンッ グワッ

鉄砲玉「ヒ、ヒイッ!?」


あぐり「 ア ト ミ ッ ク フ ァ イ ヤ ー ブ レ ー ー ド ! ! ! 」


ドッゴォン




稲村旅館 駐車場

智美「じゃあ、燃えるゴミはここにまとめてなー」

咲「あ、はーい」

咲「…………」

咲「……あっ、そういえば……。さっきの紙、ポケットに……」ガサガサッ

咲「…………」

咲「……捨てちゃってもいいのかな……?」

パラッ

咲「…………あれ?」



スウッ

紙『             』

咲「…………」

咲「……白紙……?」

咲「…………」

咲「字が……消えた……」

咲「さっきまで確かに……。殺人事件の記事が書いてあったのに……」

咲「…………」

咲「…………」

咲「…………変なの」

ポイッ



朝酌女子高校 中庭

あぐり「後のことは心配せんでええ。……もう大丈夫や」

良子「…………はい」

あぐり「ゆっくりしとってええで……。あいつの気が済むまでな」

良子「……はやりさん……」

あぐり「……おっと、ちょい待ち」

良子「?」

あぐり「…………二人にさしといたりや」

良子「…………」

あぐり「…………なっ」

良子「…………」



あぐり「気になるか?」

良子「…………いえ……」(-3-)

あぐり「…………フフッ」ニヤリ

良子「?」

あぐり「……まあ、気持ちはわかるで。アンタもなかなかにヘビーな立場やな」

良子「……ウェイトは関係ないですが」

あぐり「それはええて」

良子「…………」



あぐり「…………大丈夫や。ウチは好きやで、アンタみたいなの」

良子「…………」

あぐり「今から楽しみやな、アンタを"描ける"時」

良子「……?……」

あぐり「…………こっちの話や」

良子「…………」

あぐり「……ほな、先行ってるで。後のこと頼むわ」

良子「…………はい」



某所

大和田「……こいつらの後始末は任せてもらえるかしら」

あぐり「…………」

大和田「……この私を謀ったからには……。相応の報いを受けてもらうわ」

あぐり「…………フン。指定○力団の顔なんぞ二度と見たぁないわ。好きにせえ」

大和田「どうも」

あぐり「…………その代わり」

大和田「?」

あぐり「ひとつだけ、答えといてもらおか……。アンタの最近の動きくらいこっちも知っとる」

大和田「…………」



あぐり「アンタんトコの"ハコ様"…………。本命の敵は、今やっとる世界大会の後やろ」

大和田「…………」

あぐり「トランプが言うてた『奴らと戦う』て……。誰のことや」

大和田「……何を言ってるかわからないわね」

あぐり「…………ウチらの世界にブッ込む気ぃちゃうやろなー言うてんねん」

大和田「……あら、その手があったわね。気づかなかったわ」

あぐり「…………おい」

大和田「冗談よ。そんな気はさらさら無いわ」(棒読み)

あぐり「…………」

大和田「むしろ知っててくれて嬉しかったわよ。それじゃ、シーユー」

あぐり「…………フン」



紗「虎さん……」

めきめき「…………」ガクガクブルブル

あぐり「おう。お前らも大事ないか?」

紗「……はい」

めきめき「…………」ガクガクブルブル

あぐり「…………どうしたんやこいつ」

紗「いえ、何もないです」

めきめき「…………」ガクガクブルブル

あぐり「……さよか。まあ無事ならええわ」

紗「……はい、でも……」

あぐり「ん?」



紗「こんな事……。おねえさまになんて報告すれば……」

あぐり「…………せんでええわ」

紗「?」

あぐり「……こんなモンに神経使うとる暇が勿体ないっちゅうねん。仕事に集中させといたらええ」

紗「そう……ですか……」

あぐり「全部片付いたから心配すなだけ言うとけ。…………あと、ネーム先渡しの約束忘れんなってな」

紗「ネーム……ですか……?」

あぐり「……3か月分や」

紗「…………はあ」



朝酌女子高校 中庭

はやり「…………はっ!?」ガバッ

慕「……気がついた」

はやり「ここは……。私、慕のひざまくらで……寝てた……?」

慕「…………うん」

はやり「……あっ、そうだ……! 包丁持った人……!」キョロキョロ

慕「……大丈夫だよ」

はやり「?」

慕「私にはよくわかんないけど……。一緒にいた人が言ってたよ、『もう大丈夫』だって」

はやり「…………そう。よかった……」



はやり「…………」

慕「…………」

はやり「……えっと、その……」

慕「…………」

はやり「あの……私……」

慕「…………」

はやり「瑞原はやり……です……」

慕「…………うん、わかるよ」



はやり「……ほんとはね。私じゃなくて、東京にいる18歳の私が言わなきゃいけないんだけど」

慕「…………うん」

はやり「どうしても…………言わせてください。私が10年間言えなかった言葉」

慕「…………うん」

ギュッ

はやり「…………ごめんなさい、昨日のこと」

慕「…………うん、気にしてないよ」



慕「はやりちゃんが……。私を助けてくれたんだよね」

はやり「!」

慕「…………」

はやり「…………」

慕「…………ありがとう、はやりちゃん」

はやり「慕……!」



慕「…………はい、これ」

はやり「!」

慕「……私こそ。はやりちゃんの大切な気持ち、よくわかってなくてごめんなさい」

はやり「きのこの……箱……」

慕「さっき買ってきたの。本当は東京に送ろうって思ってたんだけど……」

はやり「慕……」

慕「受け取ってください、仲直りのしるしに」

はやり「……あ……」



慕「…………」ニコッ

はやり「…………ありがとう」

慕「…………」

はやり「……慕……!」

ギュッ

慕(……抱きつかれた……。はやりちゃんのいい匂い……)



はやり「少し……このままでいさせて……」

慕「…………うん」

はやり「しの………… しの…………」

ギュギュギュッ

慕(おっきいなあ……。昨日のおもちより……)



はやり「うっ………… うぅ…………」

慕「…………」




はやり「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」









溢れ出た、10年の思い。




慕はただそれを、黙って受け止めてくれていた。






翌日

あぐり「ほな帰るで。やり残したこと……、もう無いな?」

はやり「はい!」

良子「…………」

はやり「……ん?」

良子「…………いえ。随分すっきりした顔をされていると」

はやり「うん! もう大丈夫!」

良子(…………今まで見たことがない顔でしたね)

はやり「……ありがとう、良子ちゃんも」

良子「…………イッツマイプレジャー」(-3-)



良子「……しかし、帰りの交通はどうされるのです?」

あぐり「ん?」

良子「高速道路を閉鎖されていたのは……。貴女でなく、ブラックセーラーの方の御業だったと記憶しています」

あぐり「あー……。せやな」

良子「また何かなさるなら、ついでに……。もう少しセーフティドライブの手段があると有難いのですが」

あぐり「…………」



あぐり(忘れてたわー……)

あぐり(……ウチがやらなあかんのかい、高速閉鎖なんてクソめんどくさい……)

あぐり(…………)

あぐり(…………)

あぐり(……よっしゃ、それなら……!!)ニヤッ



あぐり「あー、蒲原」

智美「ワハ?」

あぐり「お前運転せんでええわ。代わりに卓ついとき」

智美「えっ」

良子(……ナイスファインプレイ……!)

あぐり「ウチが運転したる」

良子「えっ」



あぐり「皆乗ったなー? 出発するでー」

良子「何をされる……おつもりで……」

あぐり「フフッ……。デロリアン映画のシメ言うたら……コレやろ」

咲「?」

あぐり「仲直り記念にサービスしたるわ! ウチが許したる!!」

はやり「それって……」

良子「まさか……」

スウッ

あぐり「『タヌキの未来改造(ホバー・コンバージョン)』!!」

バリッ バリバリバリッ



あぐり「道が空いてへんなら……。空いてるとこ通ったらええねん!」

フワッ

咲「う、浮かんだ……!?」

はやり「空……飛んでる……」

良子「フライング……デロリアン……」

智美「おぉー」ワハハ



あぐり「行っくでー! 気合い入れて役満和了れやーー!!」

咲「そこは変わらないんですかー!?」

智美「ワハハ」

グラッ グラグラッ

はやり「こ、これ他の車にぶつからないってだけで……!」

良子「中の揺れはこっちの方が……!!」

ガタガタガタッ ギュゥゥゥーーン

咲「ひぃぃぃぃーーっ!!!」








バチッ バチバチバチッ






ガオン!!








9月 ハートビーツ大宮クラブハウス


秋の気配なんてまだまだやってこない、9月の初め。

部屋の片隅に佇む車の模型を眺めながら……、

私はひとり、夢のようだった数日前の事を思い出す。


はやり「タイムスリップ……。したんだなぁ、私……」



本当に夢みたいだった。でも、夢じゃない。

いま私の手には、確かにその証が残っている。

9年も前の賞味期限が書かれた、小さなお菓子の箱がひとつ。

でもその中身は間違いなく、つい数日前に買ったばかりの我らがきのこ。

そして――


コンコン


はやり「はーいっ☆」


ガチャッ




慕「……久しぶり、はやりちゃん」


はやり「うん! 久しぶり、慕!」



カン





鶴賀学園

智美「よーし佳織、今日もドライブ行くかー」

佳織「もういいよぉー!」

智美「ワハハ、楽しい楽しい空の旅だぞー。ワクワク感も倍増だー」

佳織「倍増したのはスピードと揺れだからーー!!」

桃子「……最近、ドライブの誘いに拍車がかかってるっすね」

睦月「うむ。あの車が空を飛べるようになってからというもの……もう毎日のように」

桃子「……誰なんすか、よりによって元部長の車にそんな魔改造やらかしたのは」

睦月「…………わからないよ」

ゆみ「……もしもし龍門渕さん? すまないが航空法について厳しく説教のできる人を紹介してもらえないだろうか……」

ゆみ「……ああ、ちゃんと授業料も支払うから……。あと頭痛薬と太田胃散とキャベジンを」


もいっこカン





時輪荘

立「咲日和を……引退したい……!?」

紗「…………はい」

立「どうして……そんな急に……」

紗「…………」

紗(いかに下等にも満たぬ外道が相手だったとはいえ……。人間に手をあげてしまったことは事実……)

紗(……責任を取らねばなるまい……)グロロロロ

立「…………」

紗「…………」

立(強い決意の目……。固い理由がありそうね)



立「わかったわ、紗」

紗「…………ありがとうございます」

立「…………でも」

紗「?」

立「……気が向いたなら、またいつでも来て。ずっと待ってるから」

紗「!」

立「……ありがとう、今まで」

紗「…………身に余る……御言葉です……!」


りんしゃんつも





※このSSは漫画『立-Ritz-』および関連作品等を基にした二次創作であり、実在の人物・団体・神様等とはあまり関係ありません。



前にも似たような事しかけた前科の時の話
悟沢空子「ハッピーかい、慕?」

黒セーラー服メガネの"完武"様の話
THE女子「私は立おねえさまのスピンオフ漫画を描きたいと思う」サイコマン「ニャガ?」

ジークきのこ
はやり「ファービーを!」閑無「バーロー」

ハイルきのこ
はやり「一番戦いたくないチームは、有珠山高校ですっ☆」NG集

2018/05/13