全国大会終了後 都内某牛丼屋

ネリー「シュックメルリ~、シュクメルリ~」

ウィーン

イラッシャーセー

ネリー「おーばちゃん! シュクメルリいっちょー!!」

店員「はいはい食券買ってね」

ネリー「おーうっ!!」

誠子(……うるさいなあ……)



誠子(やれやれ……だね。お行儀の悪い客だ)

誠子(他のお客さんだってたくさんいるんだから、静かにしなくっちゃ)

誠子(モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ)

誠子(独りで静かで豊かで……)

ネリー「フンフフフーン」ウキウキ

誠子(女の子か子供っぽい声だったけど……。一体どんな顔してるのやら)

チラッ

誠子「あっ」

ネリー「あっ」



誠子「お前は……臨海の大将……」

ネリー「……なんか知ってるやつ……」

誠子「なんかとはご挨拶だな。覚えてないのか、インハイの団体戦」

ネリー「…………えーっと、うーっと……。決勝でメグと打ったやつだっけ……?」

誠子「そう、亦野誠子。白糸台の副将だよ」

ネリー「マタノ!」



誠子「何してんだよ、こんなところで」

ネリー「シュクメルリ食べに!」

誠子「食事に来たならおとなしくしなよ。お行儀悪いぞ」

ネリー「うっさいなー、もう何度も来てるからキゴコロ知れてんだ!」

誠子「何度も来てる人がシュクメルリいっちょー! じゃないよ。木公屋は食券だろ常識的に考えて」

ネリー「いいだろ別に! 気持ちの問題!」

誠子「へいへい」



誠子「それにしても、留学生が朝からひとりで木公屋なんて。そんなに気に入ったのか?」

ネリー「気に入ったのかーじゃないよ! ネリーの国の料理だ!!」

誠子「いや知らんけど」

ネリー「サカルトヴェロをバカにすんにゃー!」

誠子「はいはい、ごめんよ」

ネリー「ちっちゃいコドモ相手みたいに言うなー!」

誠子(……あいつの相手で慣れてるからな、こういう扱いは)



ネリー「大体なんだよ! お前こそひとりじゃないか!」

誠子「今日はオフだからね」

ネリー「オフだからって友達いないのかよ! やーいぼっちぼっち!」

誠子「これから釣りに行くんだ。一人静かになりたい時だってあるさ」

ネリー「…………つり?」



ネリー「マタノはさかなつりするの?」

誠子「ああ」

ネリー「麻雀部なのに?」

誠子「麻雀部でも釣りくらいするさ。というか一応、白糸台のフィッシャー言われてたんだけどな」

ネリー「麻雀の話だと思ってた」

誠子「本物の釣りだってやるよ。ほら、こういう竿使って」

ネリー「ほえー……」(目キラキラ



ネリー「よしわかった!」

誠子「?」

ネリー「それ、ついて行ってやる!」

誠子「いや、何言ってんだ」

ネリー「ネリーもやりたいの! さかなつり!」

誠子「……言っておくけど、お金にはならないぞ」

ネリー「ぬっ、なんだよそれ!」

誠子「先輩方からお前の情報だって聞いてるよ。麻雀はともかく、それ以外じゃお金にしか興味ないって」

ネリー「それはそうだけどっ!」

誠子「そうなのかよ」



誠子「にしても自信満々だな。釣り、得意なのか?」

ネリー「やったことない」

誠子「はあ?」

ネリー「気にすんなそんなの! 問題ないから!」

誠子「よく言えたなそれで」

ネリー「ふっふっふーん、ネリーを誰だと思ってるんだー? 魚をとるなんてアサメシマエ!」

誠子「知らんし」

ネリー「アサメシはこのシュクメルリだけどな!」

誠子「あーはいはい」



ネリー「大丈夫だよ! きっとマタノより上手いし!」

誠子「ナメてるなー。そんな軽く言うもんじゃないよ」

ネリー「フッフフ、この運命奏者が釣れる運命くらい引き寄せられないとでも?」

誠子「運命じゃないさ。釣りは魚との対話だよ」

ネリー「?」

誠子「麻雀牌と違うんだ。相手は生き物だぞ」

ネリー「???」



ネリー「なんでだよー。マタノだって麻雀で釣りしてんのにネリーよりよわいだろー?」

誠子「……どういう理屈だ」

ネリー「ネリーの方が麻雀つよいんだから魚だって釣れるもん」

誠子「直接対戦してないのに勝手言うんじゃないよ。釣りだってお前素人なんだろ?」

ネリー「だからこの運命奏者にかかれば」

誠子「もういいってそれは」

ネリー「なんだよー、いいからつれてってー!」

誠子(……ったく)



誠子「……わかったよ。一緒に行こう」

ネリー「おー!」

誠子(……調子のいいやつだ)

誠子(しょうがない、行先変更だな今日は)

誠子(こいつでも釣れそうなやさしめのとこで……、あ、道具も用意しないとな)

誠子(竿レンタルできる釣り堀、この辺だとどこだったかな……)



バス停前

誠子「はい、まずはここで待ちます」

ネリー「おー!」

ブロロン

運転手「ダァ開きぃぇーす」

ピーッ プシューン

誠子「……来たね。じゃあバスに乗って」

ネリー「うん」

誠子(……バス代。ICカードでお支払い、と)

ピッ

ネリー「?」

誠子「なんだ、カードタッチしないの? 現金払いか?」

ネリー「おかね持ってない」

誠子「なにィ!?」



誠子「冗談言うなって。シュクメルリ食べに来てたんだろ!?」

ネリー「そのお金しかないもん」

誠子「そんなギリギリしか持ち歩かないでどうするんだよ。まいごにでもなったらどうするんだ」

ネリー「予定外のことにびたいちもん支払う気は無いじょ。ネリーはお金がいるんだ」

誠子「こいつ……」

ネリー「ほんとだよ。ほらおさいふ」スッ

誠子「……マジで……カラッポ……?」

ネリー「うん」



運転手「すいませーん、早くしてもらえます?」

ネリー「?」

誠子「あっ、えっと、すみません! ひとつのカードで二人分ってできません!?」

運転手「ムリっす」

誠子「…………ぐぬぬ」

運転手「いいから早よしてくださいっす」

誠子「……はい、現金で」



バス移動中……

ネリー「フッフフーン、フーフフーン」ニコニコ

誠子「……そんなに楽しいか、人のお金で乗るバスは」

ネリー「あ、フジヤマ見えたフジヤマ! ほらマタノ!」

誠子「はいはい」

同乗者のおばちゃん「あらあら、お兄さんとお出かけかしら? かわいらしい妹さんね」ウフフフフ

誠子「い、いえ違います」

ネリー「?」

同乗者のおばちゃん「?」ウフフフフ

誠子(やれやれだ……)



都内の釣り堀

誠子「到着!」

ネリー「おー!」

誠子「じゃあまずは竿を借ります……って、お金無いんだったな」

ネリー「うん」

誠子「…………」

ネリー「?」

誠子(……はぁーっ、しょうがないな)



誠子(留学生さんを無一文でほったらかすわけにもいかないしな……。下手したら国際問題だ)

誠子(しかも顔見知りだし。後から私の名前出されて、麻雀部にまで迷惑かかったりしたら立つ瀬がない)

誠子(私だってそんな懐に余裕があるわけじゃないんだけど……)

誠子(……バス代出してあげちゃったし。もう乗りかかった舟だ)

誠子(すまん、大星! 来週一緒に行くはずだった買い物、諦めてくれ!)

ネリー「どうした?」

誠子「……いや。今日は私が払ってやるけど……、特別だからな」

ネリー「うん!」



誠子「これが針。これが浮き。これがリール」

ネリー「おー」

誠子「まずはここに餌をつけて……。釣り糸が絡まないように注意して」

ネリー「うんうん!」

誠子「できた? そしたら針をひっかけないように気をつけて……。ほいっ」

ポチャッ

ネリー「それから!?」

誠子「以上」

ネリー「えっ」

誠子「あとは待つのさ。魚がかかるまでね」



ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「飽きた」

誠子「はやっ!」



誠子「早すぎるだろ。まだ10秒も経ってないぞ」

ネリー「だってなんにも起きないし」

誠子「そういうもんだよ、釣りって。あとは魚の気を引くようにルアーをこうやって……」

ネリー「えぇー」

誠子「えーじゃない。ほらやってみな、竿のここ持って……あの辺見ながら……こう……」クイクイッ

ネリー「むー……」

…………

……



ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「やっぱり飽きた」

誠子「早いって」



ネリー「よし! じゃあ待ってる間に麻雀やろう!」

誠子「麻雀って……。卓も牌も無いだろ」

ネリー「暇なときメグたちとよくやってんだ! エア麻雀!」

誠子「なんだよそれ」

ネリー「頭ん中で想像して麻雀やるの! 卓とか牌なんていらない!」

誠子「ちょっと何言ってるかわかんないな」

ネリー「だったらネリーが教えてあげる! 感謝しろよ!」

誠子「……いやいや」

ネリー「いいからいいから!」



ネリー「じゃあ眼を閉じて!」

誠子「…………はい」

ネリー「頭の中に卓を思い浮かべてー」

誠子「……ああ」

ネリー「浮かべた? サイコロ振るぞ!」

誠子「そう言われてもな」

ネリー「ネリーが振るところを想像するの! 頭の中で!」

誠子「……わかったよ」

ネリー「ぽちっ! ころころころっ、右6! 配牌!」

誠子(…………何やってんだろ私は)

ネリー「フッ、ご無礼。天和」

誠子「なにィ!?」



ネリー「ふっふーん、マタノよえー」

誠子「いや、それは無いだろ! どういうことだよ!」

ネリー「ネリーの和了り! 親役、いちまんろくせんオール!」

誠子「お前が勝手に言ってるだけじゃないか!」

ネリー「やったもん勝ちだい!」

誠子「こいつ……」

ネリー「やーいやーい、負けー、負けマタノー」

誠子「…………」イラッ

ネリー「ほんとはお金をセーキューしたいところだけど! 今日はマタノに免じて許してやろーう!」

誠子(こいつめ……。よーし、それなら)



誠子「そっか。はいはい」ぷいっ

ネリー「?」

誠子「…………」つーん

ネリー「あれ?」

誠子「…………」(無視)

ネリー「マタノ?」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………あれ?」



ネリー「怒った? 怒った?」

誠子「…………」(無視)

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「な、なんだよー、こっち向けよー……」

誠子「…………」

ネリー「…………」



ネリー「……なあ」

誠子「…………」

ネリー「なんか言えよ……」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………」(´・ω・`)



誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「……ねえ、ごめ」

誠子「はやくツモれよ」

ネリー「続き待ってたの!?」



ネリー「なんだよもー! 怒ったかと思ったじゃないかー!!」

誠子「ふっふん、やったもん勝ちだろ?」

ネリー「あーかわいくねー! キライ! マタノキライだもー!!」

誠子「お前が言うな」

パシャッ パシャパシャッ

誠子「!」

ネリー「?」

誠子「……ちょっとストップ」

ネリー「??」



誠子「……ヒット」

グイッ

キリキリキリッ

スパァン!!

ネリー「おーー!!」

誠子「よし」



ネリー「つれたー! つれたつれたーー!!」

誠子(凄い喜びようだ)

ネリー「うわぁー! ほわぁーー!!」

誠子「はっはっは。どうだすごいだろう」

ネリー「うん、すげー! マタノすげーー!!」

誠子(……てのひらくるっくるだな)

誠子(ま、褒められるのは悪くないけどね。大星もこれくらい素直に喜んでくれたらなぁ)



誠子「じゃ、針はずすから。こっちに貸して」

ネリー「うん!」

チキチキチキッ… グイッ

誠子「……よし、取れた」

ネリー「やったー!」

誠子「それじゃ、ほいっ」

ポチャン

ネリー「!?」



ネリー「なんでー!? なんで逃がした!?」

誠子「キャッチアンドリリースだよ。みんなが釣って持ち帰ったら魚いなくなっちゃうだろ」

ネリー「あっちの看板! テイクアウトできますって書いてある!」

誠子「お金払うんだぞ、ここの釣り堀は。それに何匹も持ち帰ったって困るだろ」

ネリー「売ったらいいじゃん! 余ったら食べたらいいし!」

誠子「普通逆じゃね? 売ったらいいより食べたらいいが先だろ」

ネリー「ネリーはお金がいるんだ! ネリーが釣ったのは持って帰るからな!」

誠子「いや、誰のお金で買い取るつもりだよ」

ネリー「うるさいな!」

…………

……



数時間後

誠子(あれから数時間が過ぎたけど)

ネリー「…………」

誠子(ずっと私が釣ってはリリース、私が釣ってはリリースの繰り返し)

ネリー「…………」

誠子(こいつの竿には一匹もかかってない)

ネリー「…………」

誠子(最初の頃は釣れるたびにマタノすげーって言ってたのに……、それもなくなっちゃった)

ネリー「…………」

誠子(ちょっとまずいな……)

ネリー「…………」



ピロンポローン

場内放送「まもなく閉園一時間前でございます。引き続きごゆっくりお楽しみくださいませ」

誠子「なあ、もう終わりにしないか」

ネリー「やだ」

誠子「閉園一時間前だってさ。あまり帰りが遅くなったら心配されるぞ」

ネリー「まだ釣ってないもん」

誠子「はじめてだったんだからさ。そんな日もあるって」

ネリー「運命奏者だもん! 釣りなんて楽勝だもん!」

誠子(涙目になっちゃって……意地っ張りめ)



誠子(なんとか一匹くらい……、おっ)

ネリー「…………」グスン

誠子(あの魚、ちょっとよさげだな……。あれなら)

ネリー「?」

グイッ

ネリー「な、何?」

誠子「ほら、一緒に竿持って。あいつ狙うぞ」

ネリー「あいつ……?」

誠子「今こっちに泳いできた。ほら、あの白い大きいの」

ネリー「あ、うん……」



誠子「そう……そういう風に動かして……」

パシャンッ バシャバシャッ

ネリー「!」

誠子「……ヒット」

グイグイッ

ネリー「なんかきた! すげー引っ張ってる!」

誠子「落ち着いて、しっかり竿持って!」

ネリー「うわっ、わわわっ」

バシャッ バシャバシャバシャッ



誠子「はい、ここでリールを一気に回す!」

ネリー「えいっ!!」

ギリギリギリッ

スパァン

ネリー「やったー!」

誠子「…………ふう」

ネリー「つれたー! ネリーもつれたー!!」



誠子「よかったな。じゃあ終わりにするか」

ネリー「しない」

誠子「はあ?」

ネリー「まだいっぴきだけだもん」

誠子「十分だろ」

ネリー「ごにんぶん! 麻雀部のみんなのぶん釣るの!」

誠子「そろそろ閉園時間だって。一匹釣れたらいいじゃないか」

ネリー「やーだー! サトハたちにあげるのー!!」

誠子(…………やれやれ)



誠子(こうなったら奥の手……!)

誠子(今日は出番ないかと思ってたけど……こっちの仕掛けも用意しておいてよかった)

誠子(魚が傷つくから釣り堀でやるもんじゃないだろうけど、買い取る前提だしご勘弁……!)

誠子(餌に食いつかせなくても釣れる秘技……! 針に直接ひっかけ釣り!)



誠子「よし、じゃあちょっと見てな」

ネリー「?」

誠子「……今日だけの、特別だからな」

ネリー「???」

誠子「ほいっ」

ポチャッ

誠子「…………」

誠子「…………」

誠子「ほっ」スパァン

ネリー「!?」



誠子「はっ」スパァン

誠子「とりゃっ」スパァン

誠子「たぁっ!」スパァン

ネリー( ゚д゚)

誠子「……四連荘。ま、こんなもんかな」

ネリー( ゚д゚)



誠子「ほら、これで五匹。持って帰れよ」

ネリー「あ……」

誠子「欲しかったんだろ、五人分」

ネリー「いいの……?」

誠子「言ったろ、特別だって。はじめて釣れたんだからお祝いだ」

ネリー「お祝い……」

誠子「じゃあ、あっちでお持ち帰り手続するから。片づけしよう」

ネリー「…………うん」

ネリー「…………」

ネリー「…………」

ネリー「…………ありがとう」



帰りのバス停

誠子「それじゃ、ここでバイバイだな。別方向だ」

ネリー「……うん」

誠子「楽しかったよ。またな」クルッ

ネリー「あっ、待って」

誠子「?」

ネリー「…………」

誠子「どした?」



ネリー「えーっと…… あの……」

誠子「?」

ネリー「…………」

誠子「…………」

ネリー「……よえーとかバカにしてごめんなさい」ゴニョゴニョ

誠子「ん、なんだって?」

ネリー「…………今日は楽しかった! ありがとマタノ!」

誠子「…………ああ、楽しんでくれたならよかったよ」フフッ



ネリー「次はネリーひとりで釣るからな!」

誠子「おっ、いいねー。また行くかい?」

ネリー「おう!」

誠子「じゃ、今度はお金払うのも自分でな」

ネリー「えっ」

誠子「えっ」

ネリー「じゃあいいです」

誠子「えっ」


カン




インスパイヤ元:咲-Saki-イマジナリィマッチ

matanelly



2022/06/16