全国大会終了後 奈良のとある墓地
ミーンミンミンミンミン ジーーーー
ミーンミンミンミンミン ジーーーー
雅枝「…………よお」
雅枝「来たったで、今年も」
雅枝「いつもより遅うなったが……。まあ、理由はわかるやろ」
雅枝「……いろいろあったからな、全国で」
雅枝「…………」
雅枝「…………」
雅枝「……また勝てんかったわ、お前に」
雅枝「…………はっ、情けない話や」
雅枝「わが娘のチームに、おのれが育てた姪っ子のチーム……」
雅枝「二倍や、二倍。十人やで」
雅枝「…………」
雅枝「そんだけおっても……上いかれたわ」
雅枝「…………」
雅枝「……思い出させられたで、ほんまに」
雅枝「お前に一生の勝ち逃げキメられた…………あん時をな」
雅枝「…………でもな」
雅枝「……楽しかったわ、いつになく」
雅枝「全国大会が始まる前、今年の奈良代表の名前見たとき……」
雅枝「……久しぶりに、心が震えたわ」
雅枝「…………」
雅枝「まだ消えてへんかった、て思ったらな……。素直に、嬉しかってん」
雅枝「絶対お前に勝つていう、私の中に残ってた声……」
雅枝「…………」
雅枝「……まだや。まだやからな」
晴絵「あっ」
雅枝「おう、邪魔してるで」
晴絵「愛宕監督……どうしてここに……」
雅枝「まァ……ちょっとした年中行事っちゅーやっちゃ」
晴絵「……年中……行事……?」
雅枝「気にせんでええて。私が勝手にやっとることや」
晴絵「……ってまさか、毎年……?」
雅枝「ええっちゅうの。……そっちこそなんや、大会の報告か」
晴絵「あ、はい……」
晴絵「…………えっと……そのお墓は……」
雅枝「……フン、間違えちゃおらんて」
晴絵「…………」
雅枝「…………松実露子。私が生涯、一度も勝てんかった麻雀打ち」
晴絵「…………」
雅枝「……また今年もな」
晴絵「!」
雅枝「……ちょうどええわ。どうせこの後、行こう思うてたとこや」
晴絵「……はい?」
雅枝「どうやねん、あんたんとこのは」
晴絵「えっと……何がですか」
雅枝「"そこ"の"そいつ"の娘たちのことやて。大会終わってどうやねんって」
晴絵「え、いや……。まだ終わったばかりで……」
雅枝「なんや、反省会の一つもしとらんのかい?」
晴絵「……いえ、まだそんな余裕が……その……」
雅枝「…………」
晴絵「正直、まだ夢の中にいるようで……。私も、帰りの運転するので精一杯で……」
雅枝「…………ふむ」
晴絵「…………」
雅枝「……ま、ええが。ずっとそれじゃ困るで」
晴絵「…………」
雅枝「ひとつの終わりは……次の始まり」
晴絵「…………」
雅枝「周りはもう……次に動き出しとるからな」
雅枝「妹たちは……来年がある」
晴絵「?」
雅枝「お互い三年生やろ。 ……次は勝たせてもらうで」
晴絵「えっと……、ああ、はい」
雅枝「……姪っ子の方もな。どっちも大事な、私が育てたうちの娘たちや」
晴絵「…………はい」
雅枝「…………問題は、姉貴の方や」
雅枝「うちのはええ」
晴絵「?」
雅枝「全国大会終わるなり、絶対プロなったるー言うてイキまいとったわ。どないしてなるかも知らんくせに」
晴絵「…………」
雅枝「でもまあ、どうにかやるやろ。心配はしとらん」
晴絵「…………」
雅枝「……心配なんはそっちや」
雅枝「あいつらの人生は、あいつらの人生や。好きにしたらええ」
晴絵「……はあ」
雅枝「…………でもな」
晴絵「??」
雅枝「ちょっとそこにひとつまみ……。互いの親の気持ちを乗せたっても、バチは当たらんと思うけどな」
晴絵「……?……」
雅枝「…………単刀直入に言うわ」
「――――松実宥。プロになる気は無いんか?」
2024/12/12