タイトルは「世界史をつくった海賊」ですが、中身は「イギリス史をつくった海賊」という方が妥当でしょう。取り上げられているのは基本的にイギリスの近代以降の海賊だけで、ヴァイキングなどを含めた包括的な「海賊の歴史」を期待すると肩透かしを喰います。
 また、著者は歴史学者ではなく国際政治が専門のひとのため、歴史的な叙述にはややこなれていないところもあります。
 ただ、それでも書かれている内容は非常に興味深く、世界帝国としてのイギリスの成り立ちを改めて考えさせられる内容になっています。

 イギリスの繁栄の基礎を築いたエリザベス女王。彼女のもとにドレークやホーキンスといった海賊が出入りし、その海賊たちがスペインの無敵艦隊との戦いで活躍したということは知っている人も多いと思います。しかし、この本を読むと海賊たちの規模と重要性は今まで持っていたイメージをはるかに上回るものがあります。
 例えば、ドレークがイギリスにもたらした富は研究によるとおよそ60万ポンド、イギリスの当時の国家予算が年20万ポンドで、ドレークはイギリスの国家予算3年分に近い富をもたらしたと考えられたいます。そしてそのうち30万ポンドを得たのがエリザベス女王(19p)。またドレークが1585年に編成した海賊船団は30隻以上の船に2300人の乗組員がいたということですから(83p)、普通の人が想像する海賊の規模とはレベルが違いますよね。

 そしてその海賊の行動を支えた情報もすごいもので、エリザベス女王の秘書長官ウォールシンガムを中心にライバルのスペインを探るために国際的な情報網が築かれていました。
 シェイクスピアの同時代の詩人であり劇作家・クリストファー・マーローも実はスパイの一員で、スパイ活動でケンブリッジの大学院を欠席がちであったマーローへの修士号の授与にストップがかかると、枢密院から授与するように書簡が送られたそうです(65p)。
 この本を読むと、軍事力ではスペインに到底かなわないイギリスが情報を駆使して立ち向かっていたことがよくわかります。

 また、海賊が設立に深く関わった東インド会社の当初の内実、ロイズの成り立ち、コーヒーから紅茶へ変遷、奴隷貿易と海賊の関わりなど、なかなか興味深い話題が詰まった本です。
 紅茶の話などは少し海賊の話から外れてしまっている部分もあって、それならば海賊が取り締まられるようになったいきさつやその終わりについてもっと紙幅をとってもよかった気もしますが、興味深い本であることは確かです。


世界史をつくった海賊 (ちくま新書)
竹田 いさみ
4480065946