日本の地方政府(地方自治体)について、その制度と国や地域社会の関係などから明らかにしようとした本になります。
 このような政治制度やその実態を明らかにしようとする本だと、事例(地方自治をめぐるさまざまなトピック)や歴史(地方自治の起源、地方分権改革がもたらした変化など)を中心に論じるのがオーソドックスなやり方だと思いますが、この本ではデータと制度、さらにその制度から予想される帰結とそこからのズレを中心に論述を進めていきます。
 この書き方は著者の『現代日本の官僚制』と同じで(もちろん、あそこまで思い切ってはいませんが)少し面食らう人もいるかも知れませんが、抽象的な言葉で漠然と枠組みを作って(例えば、「日本の地方政府の特徴は「分離」と「融合」である」みたいな書き方)終わりというのではなく、具体的な制度に基づいて論じられており、基本的には明解な内容だと思います。

 そして、特筆すべきはその議論の密度です。具体的な事例をかなりバッサリと落としていることもあって、250pほどの紙幅の中で日本の地方政府をめぐる問題を包括的に論じています。
 その議論の密度は非常に高く、今までの地方自治体に関するイメージを覆すものも多いです。また、積極的な改革を提言する本ではありませんが、分析の中で浮き上がってきた問題点の把握を通じて、今後の日本の地方制度を考えていく方向性を教えてくれる内容にもなっています。

 目次は以下の通り。
序章 地方政府の姿―都道府県・市町村とは
第1章 首長と議会―地方政治の構造
第2章 行政と住民―変貌し続ける公共サービス
第3章 地域社会と経済―流動的な住民の共通利益
第4章 地方政府間の関係―進む集約化、緊密な連携
第5章 中央政府との関係―国家との新たな接続とは
終章 日本の地方政府はどこに向かうか

 まずは「地方政府」という言葉ですが、地方自治体や地方公共団体に比べて一般的に流通している言葉とは言えません(政治学の世界だと砂原庸介『地方政府の民主主義』のように比較的使われている言葉ではありますが)。
 しかし、著者は地方自治体や地方公共団体では行政機構というニュアンスが強いが、実際には選挙があり立法活動も行われていることから、地方政府として捉えることが正確だと考えています。
 ただし、地方政府といっても都道府県と市町村があり、その規模はまちまちです。また、同じ市でも一般の市と指定都市、中核市では持っている権限が違いますし、東京都の特別区も独自の存在です。そうしたことが序章で確認されています。

 第1章では地方政治の構造が分析されていますが、一番のポイントは地方政府が二元代表制をとっていることです。
 国政では国会議員が首相を選ぶ構造になっており、国民→議員→首相という委任の構造がはっきりしていますが、日本の地方制度では議員と首長を別の選挙で選ぶという大統領制に近い形をとっています。
 ただし、不信任決議が可能である点などは大統領制とは異なっています。この議会による不信任が取り入れられた背景には、戦後、自らの関与により首長を解任できる制度を残したい内務省の思惑があったといいます(不信任が決議されたとき首長は内務大臣に議会の解散を請求できることになっていた(25−26p))。
 また、首長に議案の提出権がある点もアメリカの大統領制とは違っています。これは戦前の首長の権限の強さが存続したと言えます。

 つづいて地方制度における政党の問題です。
 まず、政党制と首長制度は親和的ではありません。当該自治体全域から幅広い支持を集める必要のある首長にとって特定の政党に属していることは支持を広げる足かせになりかねません。一頭優位性や二大政党制が確立している国ならともかく、多党制のもとでは首長の政党色が薄いほうが望ましいのです。
 そこで、日本で増えているのが相乗り候補と無党派候補です。相乗りでは元中央官僚などが複数の政党から支持を受けて選挙戦を戦います。一方、そうした馴れ合いを嫌って無党派を掲げる候補もいます。そして、その一部は首長になった後に自前の政党をつくったりもします(例:大阪維新の会、都民ファーストの会など)。
 90年代の地方分権改革以降、首長の魅力は高まっており、国会議員が首長に転身するケースも多く見られます。それに伴って首長をめぐる政治的競争は高まっています。

 地方では首長だけでなく議会においても政党化が進んでいるとは言えません。これは選挙制度に起因しています。
 都道府県議会においては小選挙区と大選挙区が混在しており、都道府県によって実質的に競い合う政党の数(有効政党数)は異なっています。また、市町村議会は基本的に大選挙区制であり、新規参入が容易なために候補者は政党に所属しよう、あるいは政党でまとまろうとするインセンティブをあまり持ちません。結果として議会においては明確な多数派が形成されず、十分な意思決定が行われないことも多いです。

 第2章では「行政と住民」と題して公共サービスが分析されています。
 まず最初のアプローチは人事から始まります。「人事は組織を形作る」(58p)からです。
 霞が関と比べると地方政府の昇進は平等主義的で、中央省庁におけるキャリアとノンキャリアのような大きな違いはありません。また、中央のキャリアのようにごく一部を除いて定年前に他組織に転出するといった慣行もなく、昇進は筆記試験などが用いられます。
 また、スペシャリストの育成を志向するかジェネラリストを育成を志向するかは明確ではないといいます。福祉の職員は一般職と切り離されていませんし、かといって地方政府は所管する業務が幅広いためにジェネラリストを育成するのも困難です。

 地方政府のトップは首長ですが、美濃部亮吉が都知事就任に際して「落下傘で降りるような気持ち」(63p)と言ったように、首長が政治任用できる職は副知事や副市長だけになります。そこで非公式なブレーンを使う首長も多いのです。
 日本の地方政府では予算に対する制約が強いので予算を通じたトップマネジメントを行うことも難しいです。また、人事に関しても官房部門が人事を集中管理しているわけではないので難しくなっています。
 そこで首長はある程度長期の計画を作ってマネジメントを行おうとしますが、全体的には組織統制はゆるいと言えます。

 近年、NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)が導入され行政の効率化を追求する動きが出てきており、さらにNPOとの協業、PFIや指定管理者制度など、地方行政に民間の活力を導入しようという動きが活発になっています。
 この背景には財政難や地方自治体の人手不足があるわけですが、一方で条例を通じて新たな政策形成をはかる政策法務が注目されています。著者は、現在の日本の地方政府では、人事、予算、評価、企画・計画、法務とマネジメント部門が乱立する傾向にあると見ています。

 地方政府には住民の直接請求のしくみがあります。直接民主制の要素を取り入れたものとして理解されているこの制度ですが、著者は住民投票以外は間接民主史を前提としたものであるとし、「これらを直接民主制の制度、あるいは直接民主制的な制度と称するのは、適切ではないだろう」(77p)と述べています。
 特に、近年注目を集めているのが条例に基づいて行う住民投票です。新潟県巻町の原発建設をめぐる住民投票などが有名ですが、著者はその意義と問題点の双方を認めつつ、今後も試行錯誤がつづくだろうとみています。

 第3章は地方政府と地域経済の関わりを分析しています。
 現代社会の特徴の一つは人の移動が自由なことです。生まれた市町村にずっと留まる人ばかりでなく、進学や就職などため、あるいは子育てのために転居する人もいるでしょう。
 さらに、自宅と勤務先の市町村が別という人も多いと思います。そのため東京の都市部では夜間人口に比べて昼間人口が多くなっています。昼間人口の多い自治体では住民ではない人のために行政サービスを提供する必要があり、その原資が問題となります。
 これが大都市の問題を生み出すわけですが、日本では東京の23区を除くとこうした資源配分の調整を行う大都市制度が存在しません。指定市(政令指定都市)の制度はありますが、税源の移譲などがあるわけではないのです(後述するようにこれを解決しようとしたのが大阪都構想)。

 地方政府の政策に対して「足による投票」という考え方があります。先程述べた「子育てのための転居」などのように、より充実した子育て支援を行っている自治体に転居するといったことです。
 諸外国では、貧しい人への福祉を充実させると貧しい人が集まってきてしまうという問題も報告されていますが、日本ではこれはそれほど深刻な問題になっていません。ただし、企業は「足による投票」を行っており、地方政府はこれを考慮して事業税を決めています。
 「足による投票」があるということは良い政策を行えば人を呼び込めるということでもありますが、日本では地方政府を判断する基準として人口という要素が強すぎるのではないかというのが著者の見方です。
 人口が基準となるので、地方政府の政策は開発と福祉に偏ります。本来ならば住宅建設を規制すべきところでも開発が行われていますし、また、福祉に関しては、保育をはじめとして、サービス提供の責任を地方政府が持ちつつ、サービスの供給は民間業者に委託しているケースも多く、実際の需要に応えられていない面があります。

 第4章でとり上げられているのは地方政府間の関係です。 
 日本の地方政府は都道府県と市町村の二層制となっています。都道府県は1890年以来、その県境は変わっていませんが、市町村に関しては何度も再編成が行われています。これは、地方政府の役割の増大や人々の移動の活発化によって市町村の規模が過小になったからです。こうした問題に対して、より上位の政府が権限を吸い上げたり、地方政府同士の連携によって解決することも可能ですが、日本で主に用いられたのは市町村合併でした。
 明治の大合併、昭和の大合併、平成の大合併という政府主導の3回の合併によって、1888年に7万1314あった市町村の数は、2018年10月には1718にまで減少しています。
 一番最近に行われたのが平成の大合併ですが、この背景には合併によって財政支出の削減を目指すという行政的要因と、都市部の有権者に改革をアピールするための政治的要因があったとされています。副次的な効果としては市町村議会議員の大幅な減少があげられます。1996年に誕生した民主党はその成長過程が平成の大合併と重なったため、思うように地方議員を増やせず、国会議員中心の政党となりました(172p)。

 逆に合併などが起きていないのが都道府県です。2000年代になると、市町村への権限委譲や公共事業の削減によって都道府県の財政規模は縮小していますが(149p図4−1参照)、公務員数では教員と警察を抱える都道府県が上回っています。
 しかし、福祉など近年その役割が拡大してきた分野に関しては基本的に市町村が担っています。そして、これが都道府県の数が安定している理由の一つだといいます。新たな行政需要に応えるために合併する必要がないからです。また、政党の組織などが都道府県単位となっているもの都道府県の数が変化しない一つの要因です。

 大都市に関しては、戦前から権限や財源を求める動きがあり、1947年の地方自治法では特別市に都道府県の権限と財源を与える特別市の制度が書き込まれましたが、当該市を含む都道府県全体の住民投票で過半数の賛成を必要とするとされたこともあって、特別市への移行は行われませんでした。結局、1956年に都道府県の権限を一部移譲する指定市制度が導入されています。
 こうした中で大阪維新の会が大都市の問題を解決するために提案したのが大阪都構想でした。大都市問題をどれほど解決できるかは不透明ですが、今までにはなかった画期的な動きと言えます。

 この章の最後では、日本の地方政府が密接な「相互参照」(他の自治体が行った政策を取り入れる)を行っていることが指摘されています。視察や担当者会議などによって横並び的な政策が展開されているのです。

 第5章は国との関係です。戦前は内務省が府県に知事だけでなく幹部も送り込み、府県は内務省の出先機関といった具合でした。これが戦後になると形の上では対等な関係となります。
 ところが、機関委任事務をはじめとして国が地方を統制する制度は残りました。この制度には補助金も含まれますが、これらの仕組みは補助金の分配に関わりたい自民党の議員や地方政治家にも支持されて維持されました。
 また、地方の便益と負担のズレを調整する制度として地方交付税が用いられました。地方交付税制度では、交付金の総額がまず決定され、それが人口や地理的条件などに応じて分配されています。これは自治省・総務省にとっては毎年のように大蔵省・財務省と総額について折衝しなくて済む仕組みでしたし、大蔵省・財務省にとっても地方からのボトムアップによって財政移転を行う方式よりはましでした。
 地方にとってはある意味で公平な制度でしたが、これと引き換えに歳入の自治を失いました。地方税の税率や地方債の発行に強い統制がかかることになったのです。
 また、都市部と農村の格差に関しては、地方交付税による再分配だけでなく、国土計画による策定、工場三法などの都市部に対する規制、公共事業や農業に対する補助金などで手当されました。
 
 しかし、この仕組みは90年代から行われた3つの改革によって変化していきます。
 まずは90年代の第一次地方分権改革です。ここでは機関委任事務が廃止され、各省の関与が弱まり市町村の仕事は増大しました。また、首長の権力も強化されています。
 次に00年代に行われた三位一体の改革です。地方税、地方交付税、国庫支出金(補助金)の3つについて改革が行われました。この背景には地方交付税を減らしたい財務省、小選挙区になって昔よりは補助金にこだわらなくなった議員の変化などがあるといいます。
 3つ目は2006年の安倍政権から現在に至るまで断続的に続けられている第二次地方分権改革です。いろいろな議題が上がり、一部の規制改革は進んでいますが、主たる推進力が見当たらないために停滞しています。
 著者は、こうした改革の中でも地域間再分配の大きな見直しは進まなかったとしています。小泉政権は都市の利益を志向した政権でしたが、例えば、東京の富を再分配する仕組みを大きく見直すようなことはしませんでした。

 終章において著者は、地方の選挙制度、人口への過度のこだわり、歳入の自治の確保といったことを課題としてあげています。
 特に地方の選挙制度に関しては、それが地方における政党政治の不在に繋がり、さらに組織における専門性の欠落と相まって、「日本の政府には政官関係がなかったといっても過言ではない」(240p)という状況を生み出したと考えています。こうした複合的な問題を解きほぐして解決策を探ることが求められているのです。

 長いまとめになってしまいましたが、全体的に密度が濃くてまとめきれないタイプの本ですね。おそらく、著者の頭の中にある、個々の制度間のつながりを一度読んですべて把握するのは至難の業だと思いますが、おそらく、地方をめぐるさまざまな問題やニュースなどを見たときに、この本に立ち返れば、「こういう背景なのか」、「こことつながっていたのか」とわかるのではないかと思います。
 もちろん、読んで面白い本なのですが、同時に手元に長く置いておきたい本でもありますね。