Twitter上で内閣支持率や選挙の分析などを行う「みらい選挙プロジェクト」を運営している人物が、世論調査の見方やデータで見えてくる日本の政治や選挙の姿を示した本。
 冒頭の口絵の内閣支持率や各党の支持率の市町村別データや、新聞の世論調査や情勢取材の読み方など非常に興味深い部分も多いです。ただし、著者は理系の人物で政治学のトレーニングを受けているわけではありませんし、やや関連する研究を消化しきれていない感はあります。個人的には、面白さとちょっと引っかかる点が同居している本だと思います。

 目次は以下の通り。
I 世論調査
 第一章 世論調査の勘違い
 第二章 世論調査を総合して見えてくるもの
 第三章 政策への賛否を読む
 第四章 世論調査の限界
II データでとらえる日本の姿
 第五章 地域が持つ特色
 第六章 時代に生きる人々
III 選挙と世論
 第七章 政治参加の一つとしての選挙
 第八章 選挙はどのように世論を反映するのか
 第九章 情勢報道の読み方

 まずはカラー口絵ですが、ここの与党列島と野党列島の地図は一見の価値ありです。現在の自民党は安倍晋三、麻生太郎の総理、副総理、二階俊博、二階俊博、加藤勝信の党三役と、有力者の多くが西日本の選挙区から選出されているのですが(東日本だと菅義偉、河野太郎、茂木敏充あたり)、この口絵をみると、それも納得という感じで現与党の支持が西日本に偏っていることが見て取れます。また、野党が分裂していることが与党の強さの要因であることもわかるでしょう(野党トータルの得票率がリードしている選挙区はかなりの数になる)。

 第一部で取り上げられているのは世論調査です。世論調査に関しては、「昼間に電話で調査しても引っかかるのは主婦と老人だけであり、本当の世論を反映していない」との批判が根強くありますが、ここではそうした誤解を丁寧に解いています。
 また、1000人程度のサンプルでも内閣支持率などを見るには十分な理由もやさしく解説しています。

 ただし各社の発表する内閣支持率にはかなりのズレがあります。支持率に10ポイント近い差がつくこともあるのです。
 これは調査がいい加減だからではなく、聞き方に違いがあるからです。2択で「支持するか/しないか」を聞いている朝日新聞のような社もあれば、「いえない/わからない」に対して、「お気持ちに近いのはどちらですか」と重ね聞きする日経新聞のような社もあります。さらに「非常に支持できる」、「ある程度支持できる」を合計して支持率を出しているJNNのようなやり方もあります。朝日のやり方に比べると、日経やJNNのやり方では内閣支持率は高めに出ます(332−34p)。
 本書ではこうした差をならすために、各社の内閣支持率を補正し、それをグラフにしています(42pの図1−11)。

 内閣支持率以上にばらつきが大きいのが政党の支持率です。例えば、2013〜18年の自民党の支持率の平均をとっても25.68%の時事通信社から、45.38%のANNまで20ポイント近い差があります(47−48p)。
 このばらつきは政党名を読み上げるか否か、電話か面接かといった調査方法によって生まれると考えられます。時事通信社は個別面接方式をとっていますが、この方式では基本的に政党支持率が低く出ます。
 また、野党の第一党には「選挙ブースト」と呼ばれる選挙の前後に支持率が高くなる傾向が見られ(無党派が減る)、一方、与党の第一党には普段、選挙の得票率以上の支持率を示すという「第一党効果」があると考えらています。
 
 政策に関する世論調査では、さらにばらつきが大きくなります。これは質問文によって賛否が大きく動くからです。例えば、共謀罪への賛否でも質問文に「人権侵害の懸念がある」といった一文を入れるかどうかで賛否は大きく変わるのです。ただし、政策に関する周知が進むとばらつきは収束していく傾向にあります(66pの図1−17の共謀罪のケースなどを参照)。
 
 第2部は「データでとらえる日本の姿」と題し、口絵の与党列島と野党列島の説明をはじめ、さまざまな地域の特徴などを明らかにしようとしています。
 ここで使われるのは衆議院総選挙の比例代表の市町村別の得票率です。ここで著者は「投票数が5000万を超える、日本最大の世論調査としての衆院選比例代表の結果を用いて、地域ごとの特性を考えていくことにします」(88p)と述べていますが、かなり戦略性のある選挙と世論調査を重ねてしまうのはどうかと思います。この後の部分では指摘されているのですが、自民の議員が選挙協力の見返りとして呼びかけている「比例は公明」で動いていると考えられている票の数は100万票近いと見られており(中北浩爾『自公政権とは何か』第7章を参照)、注意が必要です。

 実は西日本で強いのは自民党だけではなく、公明党もそうです。大阪や兵庫いった地域で公明党が複数の小選挙区の議席を獲得しているのは知られていますが、口絵5の得票率を見ると、都市部と西日本で強いことがわかります。
 著者はこれに1996年にNHKが行った都道府県別の宗教信仰率の地図(口絵12)を重ね、古代からの歴史の中で西日本のほうが地縁・血縁が強くなっており、それが創価学会の選挙運動の効果を上げているのではないかと見ていますが、この因果関係は何とも言えないですね。自民の地盤が西日本でしっかりとしているからこそ、「比例は公明」の呼びかけが効いている、といった関係も想定できそうです。

 また、公明党に関しては、西日本の所得の低い地域でより多くの支持を集めている様子もうかがえます(114pの図2−13参照)。さらにこの所得との関係は西日本の幸福実現党の得票率にも見られるそうです(115p図2−15参照、ただし幸福実現党レベルの泡沫政党の市町村別の得票率というのが何かを言える根拠になるのかは少し疑問なのですが)。
 他にも地域の違いを分析した第5章では、新党大地を使って小選挙区と比例代表の連動効果を分析した部分が面白いですね。2012年の衆院総選挙の得票率と新党大地の小選挙区への候補者の擁立の有無を示した131pの図2−18と2−20を見ると、小選挙区で候補を擁立した地域で新党大地の比例の得票率が伸びていることがわかります。
  
 第6章では世代の違いについてとり上げています。
 まず、興味深いのは2014年にNHKが行った「戦後70年に関する意識調査」の各年代別の「日本の社会に大きな影響を与えた出来事」です。3つ選ばせる形式で、各年代とも東日本大震災が最上位に来ていいるのですが、次に来るのは20・30・40・50代はバブル経済とその崩壊で、一方、60・70・80代は高度経済成長です(70・80代は高度経済成長と東京オリンピックがほぼ重なっている。147p図2-28参照)。
 
 次に若者の自民党支持を巡る問題です。2017年の衆議院総選挙の出口調査を見ると、18・19歳と20代で比例で自民にいれた割合がそれぞれ46%、47%と他の年代よりも高くなっています(155p図2-34参照)。ここから「今の若者は右傾化、保守化している」といったことが言われますが、通常の世論調査の政党支持率では自民の支持率は年齢が上がるに連れ高くなっています。
 しかし、これは若者に多い「支持政党なし」層が棄権したということで説明が付きます。もともと若者の間での自民に対する支持率が高いわけではないが、若者の多くが棄権する中で自民の支持者は投票に行くので、出口調査において自民の得票率が高くなるのです(このあたりのからくりは遠藤晶久/ウィリー・ジョウ『イデオロギーと日本政治』第8章が詳しい)。

 投票率に関しては1990年あたりを境に大きな低下が見られます。この時期に選挙制度が中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変わったという要因もあるでしょうが、それ以上に大きいと考えられるのが無党派層の増加です。
 無党派層は1990年から95年にかけて劇的に増加していますが(162p図2-41参照、ただし本書も指摘しているようにこの図の元になっている調査では94年に選択肢の変更がある)、この背景には社会党支持の低下、自民党批判の高まり、新党への幻滅といった要因があると考えられます。
 本書では、特にソ連の崩壊と左右イデオロギーの退潮に注目しており、これを投票率低落の1つのきっかけとみています。
 
 第3部は選挙と世論と題し、民主主義における選挙の位置づけ、現在の選挙の問題点、選挙の情勢報道の見方などが紹介されています。
 政治参加についてや選挙制度の解説については他でも読める内容ですが(最初にも触れた野党共闘が成立した場合のシミュレーションなども行われている)、最後の選挙の情勢報道の見方の部分は面白いですね。

 公職選挙法では選挙についての人気投票の結果や経過の公表を禁じているため、候補者の支持率や予想得票の発表などはできません。ただし、マスコミはそれぞれ選挙についての調査を行っており、そこでの言葉遣いや名前順などでどの候補が有力かを推測することができます。
 例えば、かなりの確率で勝ちそうであれば、「独走」、「盤石」、「大きく引き離す」などの表現が使われ、形成有利であれば、「安定」、「優勢」、「先行」、「一歩抜け出す」、「やや先行」、「わずかに先行」といった表現が使われ、今並べた順でどのくらい有利かがわかります(「安定」と「先行」なら「安定」が上)。形勢不利の場合は、「猛追」、「追う」、『巻き返しを目指す」といった具合で、同じく並べた順に当選圏に近く、「遅れをとる」、「浸透せず」といった表現は敗色濃厚で、さらに支持が低いとそもそも名前がとり上げられません(218p表3-6参照)。
 また、「激戦」、「競る」といった表現でも名前が先に上がった候補のほうが有力である傾向があるそうです。
 さらに新聞ごとの違いもあり、飯田良明氏の研究によると、当選確実を予測する表現を最も使うのが産経新聞であり、最も慎重なのが読売新聞とのことです(225p)。つまり、読売が「優勢」を伝えれば、それはかなりのリードと見ていいのかもしれません。

 このように世論調査と選挙に関してなかなか面白いことを教えてくれる本です。現在の政治状況もよりクリアーに見えてくると思いますし、世論調査や情勢報道を読み解いた部分などはメディアリテラシーの教材としても使えるかもしれません。
 ただ、そこそこ政治学の本を読んできた身からすると、もうちょっと先行研究を読み込んでから単著に取り組んでも良かったのではないかとも感じました。「比例は公明」の問題にしろ、地域政党の問題にしろ、イデオロギーの問題にしろ、政治学の世界ではいろいろな研究が積み上がっていると思うのです。あと、参考文献が明示されているのはいいのですが、論文が著者・タイトル・発表年だけで紹介されていると非常に探しにくいのではないかと思います。
 ただ、いろいろな知的好奇心を刺激される本であることは間違いないと思うので、とりあえず本屋で手にとって口絵の部分だけでも見てみるといいと思います。