2020年5月25日、ミネソタ州で黒人のジョージ・フロイド氏が警察官に首を圧迫され死に至ったことから各地でデモや暴動が起きました。警察官の黒人に対する差別的な取り扱いは過去にも繰り返されてきたことではありますが、今回、ここまで怒りが高まった背景としてはトランプ大統領が積極的な「火消し」に動かなかったという面もあるでしょう。そして、そのトランプ大統領の姿勢の背後にあると見られるのが本書がテーマとする「白人ナショナリズム」です。
 本書は、そんな「白人ナショナリズム」の実態を、当事者へのインタビューなどを通じて解き明かそうとしています。著者は長年アメリカについて研究を重ねてきた社会人類学の学者であり、センセーショナルにならずにその実態を描いていきます。
 古くはKKK、あるいは映画『アメリカン・ヒストリーX』で描かれていた白人至上主義の団体など、人種差別的なグループは存在していましたが、本書を読むと近年ではそれが洗練され、さらには表舞台にも出てきたということがわかりますし、また、その多様性と単純さのようなものも見えてきます。

 目次は以下の通り。
第1章 白人ナショナリストの論理と心理
第2章 デヴィッド・デュークとオルトライト
第3章 白人ナショナリズムの位相
第4章 白人ナショナリズムをめぐる論争
第5章 白人ナショナリズムとグローバル・セキュリティ

 『アメリカン・ヒストリーX』ではないですが、白人至上主義を主張する人というと「スキンヘッドの若者」といったイメージがありましたが、著者が参加した白人至上主義の雑誌『アメリカン・ルネサンス』の年次会合の様子はまるで学会のような雰囲気だったといいます。
 そして、以前の白人至上主義はかなり攻撃的なイメージでしたが、『アメリカン・ルネサンス』を主催するジャレド・テイラーという人物の口から語られるのは、むしろ被害者意識と言ってもいいものです。
 「サラ・ジョン(韓国生まれのジャーナリスト)は「白人は嫌いだ」と公言してもさほど批判されないのに、私たちが「ヒスパニック系が嫌いだ」と言うと「白人至上主義者」と批判されるのです」「他の人種や合法移民を米国から追い出せと主張しているわけではありません。白人が罪悪感を感じることなく堂々と生活できる空間を求めているのです」(10p)、「ポリティカル・コレクトネス(PC)が跋扈する米国に「言論の自由」はありません。共産主義国家と同じです」(12p)など、彼の口から出てくるのは自分たちこそが抑圧されているという主張です。

 そんな彼らは日本にかなり好意的で、「白人ナショナリストの99パーセントは日本が好きです」(20p)といった言葉も飛び出してくるのですが、それは日本が移民が少なく均質性が高い社会だからでしょう。
 白人ナショナリスト政党の米国自由党は、国際機関からの離脱や在外米軍の撤退や他国への介入をしないことを求めており、その主張はかなり「内向き」です。また、彼らの中には「白人のエスノステート」(白人のみが市民権なり居住権をもつ州または地域)を求める声もあるのですが、このあたりも彼らの「内向き」さを示しているように思えます。
 そして、この「内向き」の姿勢はトランプ大統領とも響き合います。トランプ大統領は機会主義者であって、白人ナショナリストではないのかもしれませんが(例えば、親イスラエルの行動は一部の反ユダヤ主義者と衝突する)、明らかに彼らにウケるような行動をしており、トランプ大統領の発言が白人ナショナリズムを勢いづかせている面もあります。
 
 第2章では、白人ナショナリスト界の大物デヴィッド・デュークにインタビューを行い、同時にオルトライトとも呼ばれる近年の白人ナショナリズムの動きを追っています。
 冒頭にデュークへのインタビューがあるのですが、デュークも日本を激賞しています。「単一人種国家(mono racial country)を訪れたのは日本が初めてでした。人種の血筋(racial heritage)が保持されている社会の偉大さに気づかせてくれたのが日本でした」(39p)といった具合です。

 彼は太平洋戦争をユダヤ系の謀略と考えうような人物なのですが、ウクライナの大学で歴史学の博士号を得ており、「歴史家」を名乗っていたりもします。1950年生まれのデュークは14歳でKKKに参加し、大学卒業後は「クー・クラックス・クランの騎士」という団体を設立し、最高幹部の称号である「グランド・ウィザード」を自らに用いました。
 このようなセンスの持ち主ではあるのですが、70年代末以降、マイノリティへの憎悪ではなく白人やキリスト教徒の権利を押し出し、整形手術も行ってイメージチェンジを図りました(48pに容貌の変遷を示した写真が載っている)。
 1989年にはルイジアナ州議会下院補選に共和党から出馬して初当選を果たし、政治家としてもデビューしています。ただし、その後はさまざまな選挙に挑戦するも当選することはできず、21世紀になっていからは「歴史家」の肩書をもつイデオローグとして活躍しています。特に彼の反ユダヤ主義は顕著で、イランのアフマディネジャド大統領と面会しているほどです(51pに写真が載っている)。

 ただし、このデュークもオルトライトの中心人物というわけではありません。オルトライトは「もう一つの右翼(alternative right)」の略語ですが、特にリーダーがいるわけではなく、さまざまな思想傾向の人を含みます。近年では同性愛者などからもオルトライトの代弁者が出ています。
 彼らは反PCという傾向で一致しており、匿名掲示板などを利用しています。また、日本の2ちゃんねるのようにそこから生まれたインターネットミームもさかんに利用されていて、「カエルのぺぺ」などが使われています。

 近年、このオルトライトが注目を集めたのは2017年のシャーロッツビルの衝突事件で、南軍のリー将軍の銅像の撤去に反対するオルトライトの人々が集会を開き、それに抗議する人たちに20歳のネオナチを公言する若者の運転する車が突っ込んだというものでした。
 さらにこの事件に関しては、トランプ大統領が当初沈黙していたことも批判を浴びました。この対応などが引き金となってスティーブ・バノンがホワイトハウスを去ることになるわけですが、バノンはその後、ヨーロッパの極右団体と連携を探るなどの活動を行っています。

 では、このオルトライトにいたる白人ナショナリズムの源流はどこにあるのか? 第3章ではそれを探っています。
 もちろんKKKの存在は大きいですし、本書でもその歴史に触れていますが、現在のある意味で「内向き」なナショナリズムを唱えた人物として、本書ではパット・ブキャナンに注目しています。
 ブキャナンはニクソンのスピーチ・ライター、フォードとレーガンの上級顧問を歴任し、92年と96年の大統領選に共和党から、2000年の大統領選には改革等から出馬しトランプと指名獲得を争いました。 
 ブキャナンは著作の中で白人の出生率低下と移民の「侵略」によって米国が第三世界化すること、日本や欧州との同盟関係は不要と断じ、日本に核武装を勧めるなど、「内向き」のナショナリズムを展開した人物でした。
 そして、こうした内向きのナショナリズムは、経済のグローバル化によって白人の中間層が没落すると、それとともに支持を広げることになります。

 この第3章では、さまざまな白人ナショナリズム集団が紹介されていますが、「反移民系」「反LGBTQ系」「反イスラム系」「クリスチャン・アイデンティティ系」「ホロコースト否定系」「男性至上主義系」「南部連合系」などさまざまです。
 基本的に、民主主義や自由主義の原則を否定するというよりも、それらが自分たちには適用されないこと、白人は「犠牲者」である認識に立脚したものが多いですが、近年では「加速主義」「暗黒啓蒙」といった、破壊によって新しい社会の到来を目指すべきだという考えも出てきています。啓蒙主義そのものが「壮大な「ポリティカル・コレクトネス」」(108p)というわけなのです。

 白人ナショナリストには高学歴者が多く、以前はリベラルだったという者も少なくありません。彼らの基本的なスタンスは白人が不当な扱いを受けていることへの異議申し立てであり、若い世代ではアファーマティブ・アクションなどがそのきっかけとなったりしています。
 高学歴者が多いということもあって、「科学的」な根拠を使いますが、「人種」という科学的とは言えないカテゴリーを好んで使うこともあり、その根拠は怪しげです。ただし、近年では遺伝に関する研究がさかんになっており、そこから「人種」間の優劣を指摘する動きもあります。ちなみに、130pには上半身裸で牛乳を一気飲みする若者の写真が掲載されていますが、これは白人が乳糖を分解する酵素を多くもっていることから、「白人性」をアピールする行為になっています。

 アメリカには経済的な自由と個人の自由を重視するリバタリアンと呼ばれる人々がいます。白人ナショナリストとリバタリアンは集団主義や経済的に内向きな思考という点で対立しますが、PCに反対するという点では一致しています。
 また、リバタリアンとしても知られる政治家のロン・ポールは「人種」という集合主義的な視点を持ち続ける限り人種間の対立はなくならないと主張しましたが、白人のポールがそれを言うと人種差別的に受け止められることもあるかもしれません(139p)。
 FOXニュースの人気司会者でトランプ大統領にも近いと考えられているタッカー・カールソンも白人ナショナリストに親和的なリバタリアンといった立ち位置になります。

 白人ナショナリズムは前にも述べたように陰謀論と親和的なのです、特にその反ユダヤ主義は根強いといいます。ユダヤ系の国際金融資本が世界を牛耳っているという認識が広まっており、「グローバリズム」と「ユダヤ人」という言葉が結び付けられています。
 もともと「反中央政府」の気風が強いアメリカでは、こうした陰謀論を政府が規制することが、さらなる陰謀論を呼び込むような構図もあり、その対処はなかなか難しくなっています。

 第5章では白人ナショナリズムの国際的な動きや、それに抵抗する運動を紹介しています。2001年のノルウェーの連続テロ事件のブレイヴィクのマニフェストが15年のサウスカロライナでの黒人教会銃撃事件のディラン・ルーフに影響を与え、19年のニュージーランド・クライストチャーチでのモスク銃撃事件のブレントン・タラントはそのブレイヴィクとルーフに言及するなど、一匹狼的なテロリストが国境を超えて影響を受けあっている構図があります。
 また、アメリカの白人ナショナリズム団体と、欧州の極右団体とのつながりもあり、それぞれ支部を展開したりもしています。彼らの中ではハンガリーのオルバーン首相やロシアのプーチン大統領の人気が高く、オルバーンの反ジョージ・ソロスの運動は大きな支持を受けています。ちなみに浅沼稲次郎を視察した山口二矢を英雄視するような考えもあり、カエルのぺぺのミームまであります(165pに画像がある)。

 一方で白人ナショナリズムから訣別する人もいます。いくつかのケースが紹介されていますが、興味深かったのが女性の白人ナショナリストのケース。当然、女性の活動家もいて、白人ナショナリストの男性とカップルになるケースもあります。ところが、「周囲を見渡せば、女性が懸命に稼ぎ、男性はインターネットに興じるといったカップルがほとんどだった」(174p)そうです。女性蔑視の雰囲気も強く、そういったことがきっかけで離脱する女性もいます。
 
 そうはいっても白人ナショナリズムの動きは活発で、2009年からの10年間に起きた過激派による殺人事件の犠牲者のうち、73%が極右によるもので、イスラム系によるものが23%、極左によるものが3%トなっており、極右の76%が白人ナショナリストによるものだそうです(182p)。
 そして、こうした動きを煽っているとも受け取られかねないのが、トランプ大統領の言動であり、その背景にあるのが米国民の意識です。
 2018年の世論調査では「現在、米国では人種的少数派が攻撃されている」との指摘に強くまたは多少なりとも同意すると答えた人が57%だったのに対し、「現在、米国では白人が攻撃されている」との指摘にくまたは多少なりとも同意すると答えた人は43%いて(185p)、白人の「被害者意識」の高さがうかがえます。
 今後、米国における白人の割合は減少していくと考えられており、この「被害者意識」はますます高まるかもしれません。

 このように、本書はインタビューなをを通じて白人ナショナリズムの実態を明らかにしようとしています。ルポ的な性格も強く、インタビュー対象から運動の広がりを探るスタイルになっていて、そんなにきっちりと整理されたような構成にはなっていません。
 ただし、本書の売りはしっかりとした構成などではなく何といってもタイムリーさにあるでしょう。アメリカにおける人種間の緊張が近年まれに見るほど高まっているこの時期に、こうした本が出てくることは素晴らしいことだと思います。