最近、よく耳にするようになった「SDGs」という言葉、「Sustainable Development Goals」の略で、日本語に直すと「持続可能な開発目標」になります。
 開発や環境問題にそれなりに興味を持っている身からすると、リオデジャネイロで行われた「地球サミット」での「持続可能な開発」からの流れの中で、国連のミレニアム開発目標(MDGs)の後継という形でこのSDGsを見ていたのですが、近年のビジネスシーンでのこの言葉の広がりを見ると、「なんでこんなに広まっているんだろう?」という疑問もわきます。
 本書は、SDGsが何かということを解説するとともに、「なぜ企業にも広まっているのか?」という疑問にも答える内容になっています。著者は政府のSDGs推進本部円卓会議委員など、SDGsの旗振り役の1人でもあり、SDGsの来歴と射程がよくわかるようになっています。ただ、その分、批判的な視点というのもありません。

 目次は以下の通り。
第1章 SDGsとは何か
第2章 SDGsが実現する経済、社会、環境の統合
第3章 SDGsの全貌
第4章 企業はSDGsにどう取り組むべきか
第5章 自治体におけるSDGsの取り組みと課題
第6章 皆の目標としてのSDGsへ
第7章 SDGsのこれから

 本書では第3章で詳しく紹介されていますが、まずはSDGsの17の目標をあげておきます。

目標1 あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困を終わらせる
目標2 飢餓を終わらせ、食料の安定確保と栄養状態の改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標3 あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確実にし、福祉を推進する
目標4 すべての人々に、誰もが受けられる公正で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
目標5 ジェンダー平等を達成し、すべての女性・少女のエンパワーメントを行う
目標6 すべての人々が水と衛生施設を利用できるようにし、持続可能な水・衛生管理を確実にする
目標7 すべての人々が、手頃な価格で信頼性の高い持続可能な現代的なエネルギーを利用できるようにする
目標8 すべての人々にとって、持続的でだれも排除しない持続可能な経済成長、完全かつ生産的な雇用、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9 レジリエントなインフラを構築し、だれもが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する
目標10 国内および各国間の不平等を減らす
目標11 都市や人間の居住地をだれも排除せず安全かつレジリエントで持続可能にする
目標12 持続可能な消費・生産形態を確実にする
目標13 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を実施する
目標14 持続可能な開発のため、海洋や海洋資源を保全し持続可能な形で利用する
目標15 陸の生態系を保護・回復するとともに持続可能な利用の推進し、持続可能な森林管理を行い、砂漠化を食い止め、土地の劣化の阻止・回復し、生物多様性の損失を止める
目標16 持続可能な開発のための平和でだれをも受け入れる社会を促進し、すべての人々が司法を利用できるようにし、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任がありだれも排除しないしくみを構築する
目標17 実施手段を強化し、「持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップ」を活性化する

 このように1つ1の目標はけっこう長い文章になっていたりするのですが、例えば目標14には「海の豊かさを守ろう」というわかりやすいキャッチフレーズがあり、また、その目標を示すカラフルなアイコンが用意されています。SDGsというと、まずあのアイコンを思い出す人も多いでしょう。
 さらにSDGsでは目標の下により具体的なターゲットが設定されています。例えば、目標5の下には、「5.3 児童婚、早期結婚、強制結婚、女性器切除など、あらゆる有害な慣行をなくす」、「5.5 政治、経済、公共の場でのあらゆるレベルの意思決定において、完全で効果的な女性の参画と平等なリーダーシップの機会を確保する」といったターゲットが並びます。 
 
 このアイコンを使った戦略というのはMDGsでも同じで、MDGsも「1. 極度の貧困と飢餓の撲滅」、「2. 普遍的初等教育の達成」、「3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上」、「4. 幼児死亡率の削減」「5. 妊産婦の健康の改善」、「6. HIV/エイズ、マラリアその他疾病の蔓延防止」、「7. 環境の持続可能性の確保」、「8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進」といった目標と、さらに下位のターゲットが並ぶ形で、構造はSDGsと同じです。

 ただし、MDGsがあくまでも「開発」を主眼としていたのに対して、SDGsはより幅広い社会変革を目標としています。
 例えば、MDGsの目標3の下のターゲットは「3A  初等・中等教育における男女格差の解消を2005年までには達成し、2015年までに全ての教育レベルにおける男女格差を解消する。」であり、すでに達成している先進国にとっては関係のないものです。一方で、SDGsの5.5は、先進国、そして先進国の大企業などでも達成すべき目標として機能します。
 また、環境面に関する言及も大幅に強化されており、SDGsは未来社会の目標として機能するものとなっています、著者は「SDGsは未来の世界のかたちだ」(1p)と答えています。

 その上で著者はSDGsの特徴として、まず「ルールのない自由な仕組み」ということをあげています。
 普通、国際的な条約はルールを決めたものであり、各国の法体系を考慮に入れながらすり合わせが行われルールが決まります、一方、SDGsは目標とターゲットのみが決まっており、その達成の仕方についてはルールがありません。また、目標を達成できなかったときの罰則もありません。「目標ベースのガバナンス」(12p)なのです。

 SDGsのもう1つの特徴は「測る」という点です。SDGsでは指標を使った進捗測定が重視されており、すべては無理であっても、できるだけ指標を使って測定を行おうとしています。
 このため、国際比較がしやすいのはもちろんですが、これにより企業などの行動も測定することができます。また、企業間の取り組みを比較できるということでもあります。
 さらにMDGsとの比較でも述べたように、SDGsはより総合性をもった指標であり、この点も幅広い参加を得られやすい理由となっています。

 「開発」と「環境」の統合というと、まずは92年のリオの「地球サミット」が思い浮かぶわけが、著者は「地球サミット」のおける「アジェンダ21」の企業への訴求力は弱く、基本的に環境の問題として捉えられていたところに限界があったとみています。
 2012年、地球サミットの20年後に再びリオで「リオ+20」という会議が開かれます。当初はそれほど注目を浴びていなかった会議ですが、その準備会合の中で、南米のコロンビア、ペルー、グアテマラがSDGsをつくることを訴え、それが「ポストMDGs」の考えと結びつくことで、SDGsがつくられていくことになります。
 外交の専門家の交渉ではなく、まずはそれぞれの問題の専門家が課題を洗い出していくことからアイディアが練られていったのも特徴の1つで、結果として経済、社会、環境を統合する目標が策定されました。

 SDGsでは17もの目標が掲げられていますが、これが参加の間口を広くすると同時に、それぞれも目標の関連性を気づかせるものとなっています。
 例えば、貧困に関する目標1の中に「1.5 2030年までに、貧困層や状況の変化を受けやすい人々のレジリエンスを高め、極端な気候現象やその他の経済、社会、環境的な打撃や災難に見舞われたり被害を受けたりする危険度を小さくする」と、気候についての言及があり、ここから温暖化問題とリンクするようになっています。
 MDGsと違って先進国の中だけで取り組めるターゲットも多く、「8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性および女性にとって、完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を実現し、同一労働同一賃金を達成する」や「12.3 2030年までに、小売・消費レベルにおける世界全体の1人あたりの食品廃棄物を半分にし、収穫後の損失を含めて生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減らす」などは、今の日本でも目の前にある課題として捉えやすいものだと思います。

 SDGsには、目標8に経済成長が盛り込まれているだけでなく、先程あげた12.3など比較的企業が取り組みやすい内容も含んでいるため、近年では企業の間にも広まっています。
 今までも日本ではCSR(企業の社会的責任)などが叫ばれてきましたが、CSRはどちらかというと本業以外で社会に貢献するという形で捉えられてきました。一方、SDGsはさまざまなターゲットがあることもあって、より本業と関連付けやすくなっています。
 著者は、SDGsについて、近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」に「未来よし」を付け加えたものだとも説明しています(129p)。
 さらに本書では、現在の企業の取り組み、今後期待される取り組みなども説明しているので興味がある人は第4章を読んでみてください。
 この中では、SDGsが一種のリスク回避になるという指摘は興味深いと思いました。環境破壊、児童労働、ジェンダー問題など、グローバル企業はどこでどう批判されるかわからない状況となっていますが、常にSDGsを参照することで、こうしたリスクを減らすことができると考えられるのです。
 また、このリスク管理は金融の現場でも採用されており、SDGs金融というものが成立しつつあります。

 SDGsは企業にとって取り組みやすいだけでなく、地方自治体にとっても取り組みやすいものとなっています。2018年からは政府によって「SDGs未来都市」政策が行われており、100弱の自治体がモデル事業選定都市となっています(174p)。
 持続可能な森林経営に力を入れている北海道下川町のような環境に力を入れた例もありますが、SDGsの「だれ一人取り残されない」という考えは、例えば過疎対策や交通機関の整備、あるいは貧困対策などにも使える考えで、こうした面からのアプローチも可能です。
 他にもさまざまな取り組みが紹介されているので興味のある人は第5章を読んでみてください。

 第6章では国連や日本政府、教育現場やメディアなどの民間、さらには外国政府のの取り組みが紹介されています。この章を読むとSDGsというのは「ものすごく間口の広い啓蒙」という印象も受けます。企業でも地方自治体でも学校でも個人でも、身近に取り組めるターゲットが見つかりやすく、それゆえに取り組みやすいし、また、「やってる感」も出しやすいのだと思います。

 第7章では、新型コロナウイルスの問題とSDGsの関係にも触れています。都市のロックダウンなどによって環境関係の指標がプラスになったかもしれませんが、貧困状態は悪化したと思われますし、休校措置などにより教育が制限されました。また、新型コロナウイルスは目標3の医療へのアクセスや目標6の水へのアクセス(手洗いに水は欠かせない)の重要性を改めて認識させました。貧困とも関係しますが、コロナは目標10の不平等の問題も悪化させたと考えられます。
 このようにSDGsはチェックリストのような使い方もでき、著者もそれを推奨しています。

 このように本書は、「SDGsがどんなものか?」ということを説明するとともに、「どんなふうに関わっていけばいいのか?」ということも教えてくれます。SDGsが幅広い注目を浴びている理由もわかるでしょう。
 個人的には、SDGsに対する批判的な考察なども読みたかったところですが、本書はそういった面ではなく、「SDGsについて知りたい」、「SDGsが重要だと言うけど、どんなふうに取り組んでいいのかわからない」といった人のニーズに答える本です。本書が役に立つ人も多いと思います。