国際政治における2020年代の主旋律ともなりそうな米中対立について、ニクソン訪中以来の40年という長めのスパンで論じた本。
 トランプ政権の前期の頃は、トランプが好む「ディール(取引)」のためのプロレスといった様相もあった米中対立は、トランプが退場してバイデン政権になったにもかかわらず、深刻化しています。
 「この対中国強硬論の台頭の背景には何があるのか?」、「 そもそも、アメリカが中国に対して融和的だったのはなぜなのか? 」といった疑問に対して、本書はアメリカの歴代政権の対中政策を追うことで答えようとしています。アメリカは中国に対して、「市場化改革」、「政治改革」、「国際社会への貢献」という3つの期待を持ちましたが、それが長い月日をかけて失われたというのが著者の見方です。
 あくまでもアメリカ側からの視点の本となりますが、本書を読むと対立の根深さや、その影響を受ける周辺国の難しさがわかります。また、本人の意図とは裏腹に米中対立の門を開け放ったトランプの存在も改めて興味深く感じました。

 目次は以下の通り。
序章 米中対立とは何か
第1章 関与と支援―対中政策における主流派の形成
第2章 不確かなものへの恐怖―中国警戒論の胎動
第3章 高まる違和感―台頭する中国と出会ったオバマ政権
第4章 関与政策の否定へ―トランプ政権と中国
第5章 アメリカのなかの中国―関与と強硬姿勢、それぞれの原動力
第6章 米中対立をみつめる世界
第7章 今後の展望―米中対立はどこに向かうのか

 朝鮮戦争での衝突以来、アメリカの中国(中華人民共和国)に対するイメージは非常にネガティブなものでしたが、それを一気にひっくり返したのがニクソンとキッシンジャーでした。
 ベトナム戦争の打開のため、そして何よりも1969年の中ソ国境紛争の勃発により、中国が交渉相手として浮上し、それが71年のキッシンジャーの秘密訪中、72年のニクソン訪中へと繋がります。キッシンジャーは中国を「暗黙の同盟国」と評しました。

 中国との国交正常化はカーター政権時の1979年を待つことになりますが、国交正常化交渉のために訪中したブレジンスキー大統領補佐官が「「近代化し、他国から脅かされず、強い中国」こそがアメリカの利益だと繰り返し述べた」(29p)ように、「強い中国」が望まれ、そのために留学生の受け入れを軸とする科学技術交流、80年の最恵国待遇の開始、投資保護などの恩恵が与えられました。
 新たな輸出対象国カテゴリーも設けられ、中国にはソ連などの共産圏とは異なる対応が可能となります。

 レーガンは、カリフォルニア州知事として台湾を何度か訪問している親台派でしたが、レーガン政権においても中国への融和的な政策は維持されました。
 政権の後半になると、ソ連を牽制する「中国カード」を見直す動きも出てきますが、「非同盟友好国」として輸出カテゴリーが変更されるなど、融和的な姿勢は続きます。
 84年にはレーガンが訪中し、今まで閉ざされていた中国の門戸が開かれるという大きな期待が抱かれました。

 しかし、ここで天安門事件が起こります。天安門事件はテレビによって世界に広く伝えられ、中国への期待は大きく裏切られることになります。
 それでもブッシュ政権は、武器輸出などを禁ずる一方で関係の維持をはかりました。アメリカ世論は、それまでの7割が好意的から事件後は7割が好ましくないと大きく変化しましたが(44p)、政権は関与を選択し、クリントン政権もこれを受け継ぎます。

 クリントン政権下では95〜96年の台湾海峡危機という大きな問題も起きましたが、貿易と投資ブームが米中関係を支えます。江沢民・朱鎔基の中国の指導者のコンビは、それまでの指導者のイメージとは違い、中国が大きく変わっていくという期待をもたせました。
 そして、こうした改革への期待もあって中国のWTO加盟が実現します。そして、中国は「世界の工場」へと躍進していくのです。

 もちろん、中国に対する関与への懐疑論も存在し、95年には保守系評論家のチャールズ・クラウトハマーは「中国の成長を許すことは19世紀末のドイツを支援するようなものだ」(63p)と主張しています。
 しかし、それでも支配的な論調は「条件付き関与」であり、関与によって中国を国際システムに統合できるとの見方が強かったのです。

 2000年の大統領選においてブッシュ(子)は中国を戦略的なライバルとする見方を示していましたが、同時多発テロ事件以降、米中関係は一気に安定化します。
 アメリカの関心は国際テロへと向かい、中国も国連安保理でアメリカの自衛権発動を支持したことで、対中強硬論は沈静化していくのです。02年に国家主席となった胡錦濤が「平和的台頭」を打ち出したこともあり、中国脅威論は国防総省の内部など一部にとどまりました。
 一方、民主化が進んだ台湾に対しての態度は冷たく、陳水扁政権は危険視されました。ブッシュ政権のネオコンは中東では民主化を重視しましたが、台湾に関しては民主化よりも地域の安定を重視していくのです。

 リーマンショック後の2009年にオバマ大統領が就任します。アメリカが大きなダメージを受ける一方で、中国が大規模な財政出動などでこれを乗り切ったことから米中の力は接近します。
 そこでアメリカでは「G-2」という米中2カ国が中心となって世界の諸課題に取り組むべきだという議論が起こってきます。
 しかし、中国はグローバルな課題で責任を負うことのコストをきらって、この考えに乗ってきませんでしたし、地球温暖化対策などでも消極的な姿勢を見せ、オバマ政権での中国への期待はしぼんでいきます。

 オバマ政権では「アジア・ピボット(旋回)」という外交方針が掲げられ、特にヒラリー・クリントン国務長官がアジアを熱心に訪問し、中国が台頭する中でこの地域におけるアメリカのプレゼンスを改善しようとしました。
 南シナ海の問題がとり上げられ、航行の自由が打ち出されたのもこの時期で、中国に国際的なルールを守らせようというはたらきかけが活発になります。しかし、中国はこれを「包囲網」と捉えて米中関係は悪化します。
 ただし、2012年2月に国家副主席として訪米した習近平が歓迎されたように、中国に対する期待は持続しました。この年の秋に大統領補佐官だったスーザン・ライスが演説の中で「新型大国関係」という言葉を使いますが、中国との新しい関係は可能だと考えられていたのです。

 ところが、2013年11月に中国が東シナ海に一方的に防空識別圏を設定したことで、こうした雰囲気は消えてしまいます。2014年にはオバマ大統領が訪日時に日米安保条約の尖閣諸島への適用を明言するなど、中国を封じ込めようとする動きが強まっていくのです。
 中国は「一帯一路」やアジアインフラ投資銀行(AIIB)などの国際的な野心を見せ始め、さらに急速な軍拡も進めていきます。さらにアメリカに対するサイバー攻撃などもあり、中国の台頭こそが戦略的な課題であると認識するようになってきます。

 こうした戦略の転換とともに台湾に対する姿勢も転換します。12年の総統選では蔡英文が勝つとこの地域が不安定になると警戒していたアメリカでしたが、16年の総統選で蔡英文が勝利すると歓迎する姿勢を見せました。「政治体制において大陸と対照的な存在であることが「再発見」された」(123p)のです。

 そこにトランプが登場するわけですが、トランプの方針は「アメリカ第一」であり、トランプにとっては対中問題もあくまでも貿易問題でした。
 世間発足直後にウィルバー・ロス商務長官が交渉を行いますが、あまりうまく行かず、通商代表に就任したライトハイザーが交渉の中心となります。17年の秋にトランプは訪中しますが、そこでもライトハイザーは通商法301条(スーパー301条)をちらつかせながら中国に大幅な改革を求めました。

 一方、この訪中に同行したマクマスター国家安全保障担当大統領補佐官は対中認識を改めます。「体制への不安と国際的な野心が中国を突き動かしており、手段として他者の取り込む、強制力の行使、情報の秘匿を存分に活用している」(135p)と受け取りました。
 このマクマスターの認識は17年末に発表された「国家安全保障戦略」につながり、中国の台頭を阻止することが重要との認識が示されました。

 2018年になると筋金入りの中国脅威論者であるピーター・ナバロが政権内で発言力を持つようになり、3月には「鉄鋼25%、アルミニウム10%」の関税が実現します。この後、ゲイリー・コーン国家経済会議委員長、ティラーソン国務長官などのグローバリストが政権を去り、政権は保護主義への傾斜を強めました。
 
 こうした中で(2019年度)国防授権法が成立し、中国製の情報通信設備等を政府調達から排除、孔子学院関連の中国語教育施設への助成の禁止などが決まっていきます。さらに2018年夏には新疆ウイグル自治区における収容施設の問題が脚光を浴びます。
 2018年10月にはペンス副大統領が、貿易、技術、安全保障、政治工作などあらゆる対中脅威論を融合させた演説を行い、対中政策転換の狼煙を上げました。

 ただし、トランプ自身はそこまで対中強硬論で固まっていたわけではなく、18年9月の関税第三弾によって株式市場が下落すると、中国との交渉が動き出します。
 19年になるとライトハイザーが中心となって交渉が行われ、12月半ばになってようやく大筋合意に達しました。ライトハイザーは強硬でしたが、安全保障強硬派と違い、あくまでも交渉をまとめることが彼の目的だったからです。この点はトランプも同じだったと考えられます。

 しかし、2020年になって新型コロナウイルスの感染がアメリカにおいて広がりを見せると、ポンペオ国務長官がコロナウイルスの発生源として中国の研究施設からの流出説を取りあげ、さらにトランプも「チャイニーズ・ウイルス」とたびたび表現したことで、両国関係は再び険悪化してきます。
 トランプには再選のために感染拡大の責任を中国に押し付けようとしており、さらにはウイグル問題、香港での国家安全維持法の施行などもあって、アメリカでは中国に対する厳しい姿勢が一気に噴出します。
 ファーウェイに対する規制も強まり、ファーウェイには厳しい輸出規制がかけられました。中国の半導体受託生産大手のSMICや商用ドローン最大手のDIJも輸出規制の対象に加えられ、Tiktokとウィチャットの使用制限を命じる大統領令まで出されました(これは裁判所で差し止めれれた)。

 では、こうした変化はどのように起きたのか? 第5章ではそれをアメリカ国内のさまざまなアクターから分析しようとしています。
 まず、中国への関与政策を支持したのは産業界とその意向を受けた議員たちです。クリントン政権時に人権問題と最恵国待遇の問題を切り離したのも産業界のはたらきかけであり、中国という魅力的な市場を前にして彼らは米中関係の擁護者として行動しました。
 また、政府内外の中国・アジア専門家も中国の変化を見てきているだけに、今後の変化にも期待を持ち続けました。さらに多くの中国人留学生がアメリカに残って活躍したことも関与政策の基盤となりました。

 2010年代になると、中国との貿易が雇用を奪っているとの声が上がり、産業界も知的財産権の侵害を問題視するなど、経済面で中国を警戒するムードが高まります。
 さらに中国・アジアの専門家集団も習近平政権成立後に次々と打ち出された強権的な政策によって、中国の変化への期待を失っていきます。
 また、中国の存在感が増すに連れ、中国・アジアの専門家以外も中国について論じるようになり、中国の国内体制や対外工作を改めて問題視されていきました。こうした流れにアメリカの議員、特に共和党の議員たちが乗っかり、議会でも対中強硬策が勢いを増しました。
 こうした中でアメリカ国民の対中イメージもコロナ禍が拡大した20年には急速に悪化しています。産業界には中国ビジネスへの期待はまだありますが、アメリカ社会の対中認識は急速に厳しくなっています。

 第6章では、周辺各国の対中国スタンスを確認しています。この部分に関しては基本的なところを押さえている感じで個人的に目新しい部分はなかったですが、最近、対中国の枠組みとして注目を浴びる「クアッド」(日米豪印)について、確かにオーストラリアは現在、中国の激しい圧力を受けていて対中警戒論が高まっているが、人権問題への制裁などでは米欧とは一線を画している、インドは中国との国境紛争を抱えているが、外交目的は国際秩序の維持というよりは自らの国際的地位の向上であり、その点で中国との関係も続くという指摘は重要でしょう。
 また、台湾については、台湾アイデンティティと経済的繁栄という2つの目標の間でのバランスが要求される展開が続きそうです。

 第7章では、米中対立の行方が展望されています。
 今のペースで中国の成長が続けば、今後10年ほどで名目GDPでも国防予算でも中国がアメリカに追いつくと考えられます。グレアム・アリソンは古代ギリシアにおいてアテナイの成長がスパルトの不安を生んでそれが戦争につながったという「トゥキディデスの罠」を示し、米中の対立は不可避と考えます。

 米中対立を新しい「冷戦」とする見方に対しては、ソ連と違って中国には同盟国がない、政治体制を外国に押し付けようとしていない、資本主義を擁護しているといった点からソ連との違いを強調する意見もありますが、著者はこの米中対立は米ソ冷戦と通じるものがあると見ています。
 今後、デタント(緊張緩和)が行われる可能性は十分にありますが、米ソ冷戦の終結にはゴルバチョフの登場が必要だったように、中国またはアメリカで、それまでの戦略を根底的に見直すような指導者が出ないとこの米中の冷戦が終わることはないかもしれません。

 「おわりに」ではバイデン政権の動きと日本の今後の対応の仕方について述べられています。
 トランプ政権は「強硬」でしたが、政権内は分裂しており中国側としても交渉への期待がありました。一方、バイデン政権は中国に対して厳しい姿勢において一枚岩であり、中国は交渉よりも自国の強化に力を入れるでしょう。
 日本としてはなかなか難しい局面に立たされることにあるわけですが、著者は外交における「価値観」の重要性を指摘し、現実的なパワーと守るべき価値観の両方を視野に入れた外交が必要だと述べています。

 本書の評価ですが、まず第4章までは文句なしに面白いです。長いスパンで米中関係を追うことで、アメリカの期待がしぼみ、また同時に中国のパワーが接近したことが、現在の米中対立を生み出していることがわかります。
 ただ、第6章における周辺国の動向の部分を読むと、面白くはあるのですが、それなら中国についての分析があっても良かったのではないかと思いました。著者の専門からするとアメリカからのみの視点で米中対立を捉えるというのは誠実な姿勢だと思いますが、それなら最後までアメリカ視点のみでも良かったかもしれません。この書き方だと「封じ込められるべき存在」としての中国というニュアンスが強すぎるようにも思えます。
 それでも、現在の米中関係と今後の展開を考える上で有益な本であることは間違いないです。