2021年8月、アフガニスタンの首都・カーブルがターリバーンによってあっという間に陥落させられた出来事は、そこから逃げ出そうとする人々の映像と相まって衝撃的なものでした。
 2001年の9.11テロ後にアメリカの攻撃によって政権を追われたターリバーンが、まさか20年後にこのような形で政権に復帰しようとは、当時からは想像できなかったことです。

 本書は、90年代半ばに「世直し運動」として活動を始めたターリバーンが政権を掌握し、その後アメリカの攻撃によって政権を失ってからいかにして復活してきたかを追っていますが、そこで明らかになるのはターリバーンの「すごさ」というよりも、それまでのアフガニスタンの状況の「ひどさ」です。
 そして、「イスラーム原理主義」の組織として扱われがちなターリバーンの内実について、アフガニスタンの風土に根ざした部分も取り出し、ターリバーンの多面的な特徴を描き出しています。
 
 ターリバーンについては断片的に知っていることも多かったですが、それをコンパクトにまとめた上で、アフガニスタンの近現代史の中に位置づけていることが本書の特徴です。
 「去年の出来事は何だったのか?」と疑問を感じている人にとっては、その疑問に応えてくれる本であり、秩序が一度崩壊した世界でもう一度秩序を打ち立てることの難しさを教えてくれる本でもあります。
 なお、タイトルの表記は「タリバン」ですが、本文中はできるだけ言語の発音に近づけるために「ターリバーン」表記になっています。

 目次は以下の通り。
序章 政権崩壊
第一章 「失われた二〇年」(二〇〇一~二〇二一年)
第二章 ターリバーン出現の背景(一九九四~二〇〇一年)
第三章 伝統的な部族社会アフガニスタン(一七四七~一九九四年)
第四章 ターリバーン支配下の統治
第五章 周辺国に与える影響
第六章 「テロの温床」化への懸念
終章 内発的な国の発展とは

 ターリバーンの劇的な復活は、国際社会が主導したアフガニスタンの国造りの劇的な失敗の裏返しでもあります。
 9.11後の2001年10月7日にアメリカはターリバーン政権に対する空爆を開始し、12月には戦後復興のロードマップを定めたボン合意でハーミド・カルザイが暫定政権の首班に選出されました。
 カルザイはアフガニスタンで最大の民族であるパシュトゥーン人の有力部族の御曹司でした。アフガニスタン人による内輪の投票では王制時代に法相を務めたウズベク人のサッタール・スィーラト博士が多くの支持を得ていましたが、アメリカとパキスタンがパシュトゥーン人のカルザイを推したと言われています。


 アフガニスタンでは国民の多くが王制の復活を求めていましたが(元国王のザーヒル国王は存命だった)、これはアメリカのハリールザード大統領特使の動きもあって阻止されます(ハリールザードはアフガニスタン国籍も持つ人物でアメリカの対アフガン政策に深く関わり、2009年の大統領選挙では出馬も噂された)。
 王制を復活させていれば、ここまで急速なターリバーンの台頭を許さなかった気もしますが、当時の国際社会のムードとしても王制の復活は難しかったかもしれません。

 政治家としては軽量級だったカルザイは、ムジャーヒディーン勢力に利権を分配することによって国内の統治を進めることにします。タジク人のイスマーイール・ハーン野戦指揮官を水・エネルギー相に、ウズベク人のアブドゥルラシード・ドゥーストム将軍を国防次官というように各軍閥のリーダーにポストを配分しました。
 しかし、これは汚職を生みます。アフガニスタンには復興のために巨額の援助金が流れ込みましたが、政府高官から援助団体に至るまで汚職がはびこり、警察なども予算は出ているが実際の警察官はいないといった状態でした。

 民主主義に関しても、2014年の大統領選では、第一回の投票でマスード司令官の側近だったアブドゥッラー元外相が45%の票を獲得して第1位になるも、決選投票では世界銀行でエコノミストも務めたガニー元財相が1回目の得票率31.56%から逆転するといった不透明な結果となり、最終投票結果も発表されないなど、不十分な状態が続きます。
 2019年の大統領選では投票率が18.8%にすぎず、ターリバーンのテロの脅威もあったとはいえ、もはや国民の声が反映されているとは言い難い状況でした。

 アメリカの対アフガン政策も、オバマ政権下ではアフガニスタンの治安回復に重点が置かれましたが、トランプ政権になるとターリバーンとディールする方向に舵を切り、ハリールザードを特使に任命して2020年2月にドーハ合意に署名しますが、アメリカ軍の撤退が決まったことがターリバーンを勢いづけ、共和国政府にとどめを刺すことになります。

 一方、ターリバーンは①外国軍の放逐、②イスラーム的統治の実現という2つの目標を掲げ、民衆の支持を集めていきます。外国軍による誤爆や外国人とアフガニスタン人の文化的な摩擦、政府の腐敗などがターリバーンを後押ししました。
 2021年4月になるとターリバーンは農村部から大攻勢をかけ、占領地域を広げます。このころになると元軍閥と治安部隊の間で投降や逃亡が相次ぎ、ついにはカーブルの陥落となるのです。

 ここまでが現状を説明した第一章で、第ニ章以降ではターリバーンが生まれ台頭した背景を見てきます。
 1973年、それなりに安定を保っていたザーヒル国王の治世はザーヒル国王の従兄弟のダーウードによる無血クーデタによって終わります。
 このダーウードがイスラーム主義者の宗教集団を弾圧し、さらに共産主義者の粛清も始めます。これに対して78年に共産主義者の人民民主党の青年将校らが軍事クーデタを起こしてダーウードの一族を皆殺しにし、共産主義者のタラキーを首班とするアフガニスタン民主共和国が成立します。
 79年にはソ連がアフガニスタンに侵攻。ソ連と共産主義政府対これに抵抗するムジャーヒディーン勢力の戦闘が始まるのです。

 このあたりの歴史的経緯を知ってい人は多いかと思いますが、本書を読んで驚くのはこの時期に行われていたことの残虐さで、共産主義政府の秘密警察は高貴な女性たちを夫の目の前で拷問にかけ、政治犯らを生き埋めにし、一方、ムジャーヒディーン勢力も暴行や略奪や誘拐を繰り返し、男色が盛んなカンダハール州では道行く少年を誘拐して強姦することもあったそうです。
 92年にペシャワール合意に基づいて、ムジャーヒディーン各派の連立政権が誕生しますが、治安は回復しないままでした。

 こうした中で起こった1994年春の武装蜂起がターリバーンの起源だと言われています。カンダハールの軍閥司令官が10代の少女2人を誘拐したとの噂が流れ、ムッラー・ウマルに率いられたターリブ(神学生)が野営地を襲撃して、軍閥司令官を処刑しました。
 その後も、ターリバーンは悪事をはたらく軍閥司令官の成敗を行うようになり、しだいに「世直し運動」のような形で広がっていくことになります。

 1995年になるとターリバーンは勢力を急速に拡大させてカーブルに迫り、96年9月にカーブルに入城しています。
 98年にはドゥーストム将軍の支配するマザーリシャリーフを陥落させ、マスード司令官が支配するパンジシール渓谷以外の領土を支配することになりました。

 ターリバーンの思想の源流はデーオバンド派というイスラームの改革運動にあるといいます。テーオバンド派はパキスタンにネットワークを持っており、パキスタン軍部もそれまで支持していたへクマティヤール首相派が劣勢になると、ターリバーンを支援するようになりました。
 パキスタンでは1977年に軍事クーデタによってズィア・ウル・ハック政権が誕生すると、ハッド刑と呼ばれる身体刑が復活するなど急進的なイスラーム政策が進みますが、ターリバーンもこうしたパキスタンの動きの影響を受けていると考えられます。
 パキスタンはインドに対抗するために隣国に兵站供給地を確保する「戦略的縦深」の観点からアフガニスタンを重視しており、ターリバーンを支援することによってこれを成し遂げようとしたのです。

 第三章ではターリバーンを生んだアフガニスタンの文化的な特徴を見ていきます。
 アフガニスタンは多民族国家であり、最大民族はアーリア系のパシュトゥーン人で人口のおよそ40%、ついでイラン系のハザラ人、モンゴル系のハザーラ人、テュルク系のウズベク人、トルクメン人などがいます。
 遊牧を営む農畜産業を営む人々が多く、よそ者への警戒心を強く持つ一方で、客人に対しては丁重にもてなすという文化をはぐくんできました。
 
 農村社会では伝統的な自己統治機構が重要な役割を果たしており、その統治は成文化されない慣習に基づく部分が大きいものでした。
 パシュトゥーン人の農村社会では、「パシュトゥーン・ワリー」と呼ばれる成文化されていない行動規範があり、勇気や、客人に対する歓待、復讐などがあります。
 また、「女性の尊厳(ナームース)」というものもありますが、パシュトゥーン人の社会では他人の妻や娘に関心を示すのは女性のナームースを傷つける行為とされています。例えば、「奥さんのご機嫌はいかがですか?」と尋ねることもナームースを侵害し、その男性の名誉を傷つけるものとなるのです。
 このようにターリバーンの統治は、パシュトゥーン人の農村社会にあってはけっして突飛なものではなく、慣習に基づいたものでもあるのです。

 そのため、1919年にイギリスからの独立を果たしたアヌーマッラー国王の近代化政策や、共産主義政権の社会改革も大きな抵抗にあいました。結果として、カーブルなどの都市では近代化が進んだものの、農村部の慣習は変わりませんでした。

 第4章ではターリバーンの統治について分析していますが、ターリバーンの特徴はその複合性にあるといいます。
 ターリバーンは民族を超越した宗教的要素を持ちつつも、パシュトゥーン民族の社会に根ざしたものも色濃く持っています。

 カーブル陥落後にターリバーンの政治方針が示されましたが、筆頭に来ているのが「イスラーム的統治の実現」です。これが何を指すのかはっきりしない面もありますが、ハッド刑の導入などが含まれています。
 また、恩赦も掲げていますが、ターリバーンの戦闘員がイスラーム共和国の治安部隊要員や少数民族など処刑しているとの報道もあり、この方針を末端でが守っている様子はうかがえません。少数民族に関しては強制移住が行われているとの話もあります。

 注目を集めているのは女性政策ですが、女子教育の制限はシャリーアに基づいたものではありません。しかし、戦い続けてきた長年の男性社会の中で女性を排除したり軽視することが共有されており、内部からの反発と国際社会という外部からの圧力のなかで、とりあえずは前者が優先されている状況です。

 第5章では周辺国に与える影響が分析されています。
 まず、今回のカーブル陥落を引き起こしたのはアメリカ軍の撤退の決定ですが、これはトランプ大統領の個性といったもので説明できるものではなく、ここしばらく続いているアメリカの中東からの撤退の流れの中に位置づけられます。ですから、アメリカで政権交代が起きてもアフガニスタンに派兵するようなことは考えにくいでしょう(実際、バイデンになっても撤退は遂行された)。
 
 アメリカに代わって影響力を持つことが指摘されているのが中国です。中国はアフガニスタンと国境を接しており、国内のウイグル族の独立運動を抑え込むためにもアフガニスタンは重要です。
 資源開発などについても投資を行っていますが、アフガニスタンの「難しさ」については中国も承知していることであり、慎重に動くことも予想されます。
 また、ロシアもこの地域のイスラーム過激派には神経を尖らせており、またケシの流通を防ぐ目的でもターリバーンと協力関係を続けると考えられます。

 パキスタンにとってはターリバーンの復活は「勝利」と言っていいものです。ただし、パキスタンは国内のパキスタン・ターリバーン運動(TTP)とは対立関係にあります。
 イランはターリバーンと複雑な関係で、イラン人外交官殺害事件などもあって関係は悪化しましたが、この地域からのアメリカ軍の駆逐という目標は共有しています。また、イスラーム的統治についても宗派は違えど共通しています。
 また、ウズベキスタンはターリバーンと関係を続ける方針ですが、タジキスタンはアフガニスタン国内のタジク人の問題もあってやや敵対的です。
 さらに、カタールやトルコなどもターリバーンに一定の影響力とチャンネルを持とうとしています。

 懸念されているのがターリバーン支配下のアフガニスタンが「テロの温床」になることです。第6章ではこの問題を検討しています。
 ターリバーンはアル=カーイダ(AQ)のビン・ラーディンらを匿っていたとの理由でアメリカから攻撃されたわけですが、ターリバーンが追放された後、AQとの間で関係の再構築が行われたとされています。
 例えば、それまでアフガニスタンでは行われなかった自爆攻撃が用いられるようになったのは、これはイラクからの影響で、AQも関わっていると見られます。
 AQは現在もアフガニスタンで活動していますが、ただし、AQの勢い自体はかつてに比べて低下しています。

 一方、ISの流れをくむイスラーム国ホラーサーン州(ISKP)とターリバーンは敵対関係にあります。
 「ホラーサーン」とはイランとアフガニスタやトルクメニスタンの一部を地域一帯を示す呼称ですが、もとはパキスタンにいた部隊がパキスタン軍に追い出される形でアフガニスタンに進出したのです。
 ターリバーンとISKPの間で戦闘員が行き来しているとの話もありますが、指導者レベルでは対立しており、ISKPはターリバーンに対する攻撃を続けています。
 2021年8月26日にカーブル国際空港付近で起きた自爆攻撃はISKPによるもので、ISKPという共通の敵に対してターリバーンとアメリカが協調するということも考えられます。実際、アメリカがISKPを叩こうと思えばターリバーンの協力は不可欠です。
 こうしたテロ対策の必要性から、各国がアフガニスタンでの大使館再開などに動く可能性は十分にあります。

 終章では、中村哲や緒方貞子の取り組みなどを紹介しながら、アフガニスタンの「発展」というものを考えています。
 ターリバーンの成功は、国際社会が取り組んできたアフガン復興の失敗でもあります。今後はアフガニスタンの「内発的な発展」をより重視しなければならないというのが著者の考えです。
 そこでヒントとなるのがアフガニスタンの農村を復興させるために現地の人々と用水路をつくった中村哲医師や、人間の安全保障を目指した緒方貞子の取り組みです。一足飛びの近代化ではなく、地道な支援が求められていると言えるでしょう。

 このように本書はコンパクトな構成ながら、ターリバーンの実態や、諸外国の立ち位置、ターリバーンとその他のテロ組織の関係などがわかる内容になっており、今後の国際社会の動きを理解するうえでも役立つものになっています。
 そして何よりも、日本に住んでいると理解し難い「ターリバーンの復活」という現象を、アフガニスタンの社会のあり方から説き起こして理解させてくれる本です。