数ある職場の中でも自衛隊は「男社会」のイメージが強いと思いますが、そんな中で活躍する女性の幹部自衛官にスポットライトを当て、その働き方やキャリア形成を分析した本になります。
 著者の1人の上野友子は自衛隊の事務官で大学院に社会人学生として入学しこのテーマに取り組んでいます、もう1人の著者の武石恵美子はその指導教官でキャリアデザインなどを専門としている人物になります。

 本書の面白さは何といっても現場で実際に活躍している女性自衛官の声を集めているところで、男性中心社会の中での働き心地や、男性の部下への接し方、子育てとの両立など、女性自衛官が直面するさまざまな問題と、それをどう乗り越えているのかが見えてきます。
 また、そうした女性自衛官の働き方を通じて、自衛隊という組織の特殊性が見えてくるととこも本書の興味深いあところだと思います。
 ただ、女性自衛官の「声」は集まっているのだけど、それが誰のものなのかはまったくわからないように書いてあるので、そこにいる「人」の姿は見えにくいです。
 個人的に、Aさん、Bさんといった仮名や、30代、40代といった大まかな年齢が書いてあるともっと見えてくるものがあったようにも思えます。

 目次は以下の通り。
プロローグ
第1章 自衛隊、自衛官とは
第2章 なぜ自衛官の道を選んだのか
第3章 アイデンティティの源泉
第4章 自衛隊組織の特徴と女性自衛官のキャリア
第5章 幹部自衛官のキャリア
第6章 女性自衛官の壁
第7章 女性自衛官の仕事と子育て
第8章 自分らしいキャリア

 本書でインタビューしている自衛官はすべて「幹部候補生課程」を経て幹部になった女性自衛官であり、30代が6名、40代以上が14名です。パートナーも自衛官である割合は8割と高くなっています。
 防衛省には自衛官である「制服組」と事務官である「背広組」がいますが、本書でとり上げているのはすべて「制服組」になります。

 著者は自衛隊の特徴として次の4つをあげています。まずは武器を使用する戦闘組織である点、次に明確なヒエラルキーのある階級組織だという点、3つ目は常に出動できるようにしている即応態勢組織である点、4つ目が基本的な活動が自衛隊の中のみで完結する自己完結型組織であるという点です。

 自衛官の入口には「士」として活躍し「曹」を目指すコースとリーダーとして組織を率いる「幹部」を目指すコースがあります。
 幹部候補生は、防衛大学校、防衛大学校、航空学生、または一般大学から目指すコースがあり、本書がとり上げる女性自衛官もこうしたルートで幹部候補生になっています。

 幹部候補生になると陸・海・空自衛隊の各幹部候補生学校の教育課程で技能形成が行われ、ここを卒業すると3尉として任官します。
 その後、自身の職種や職域に応じた任務に就くために全国で勤務し、必要に応じて自身の職種や職域に応じた課程で学びながら、幹部としての資質を向上させていきます。
 こうした組織のため、中途で人材を獲得することは難しく幹部は基本的に生え抜き中心になります。また、2〜3年毎に異動があるのも特徴と言えます。

 こうした中で女性自衛官の数は2021年3月末時点で1万8529人で全自衛官に占める割合は約7.9%となっています。防衛省・自衛隊でも女性活躍に動き出しており、2030年までに全自衛官に占める女性の割合を12%以上にするという目標のもと毎年度の採用者の女性の割合を17%以上にすることを掲げています(41-42p)。

 第2章からは実際に女性自衛官の声を紹介しながら議論を進めていますが、まず、最初にとり上げられているんがその志望動機です。
 幹部自衛官の場合、防衛大学校から上がってくるケースが多いわけですが、その場合、防衛大学校に進学した時点でほぼ進路を決めていると言えます。
 国際関係論を学びたかったから、好奇心からといったケースもありますし、父が自衛官だったなど、身近に自衛官がいたというケースもあります。
 また、女性であっても「自立」したいので自衛官を選んだ、人に役立つ仕事をしたかった。実際に災害に見舞われたときに助けに来てくれた自衛隊を見て、などさまざまなものがあります。

 自衛隊が「男社会」であることをどう思っていたかということも聞いていますが、これについては本書のインタビュー対象が現役自衛官であり、辞めた人には聞いていないこともあって、多くの人が「気にならなかった」と答えています。
 ただし、女性自衛官の中途退職率は約3.3%と低く(64p)、合わない人の多くが辞めているというわけではなさそうです。

 第3章は「アイデンティティの源泉」と題されていますが、ここではキャリアの「自律」の問題が中心にとり上げられています。
 自衛隊は基本的に上の命令を遂行する組織であり、そこに「自律」が入る余地はないようにも思えますが、まず前提としてあるのが「国を守る」という任務への誇りです。
 また、「女性自衛官」ということで周囲からは「かっこいい」という印象を持たれることも多く、それが自らを律するという形での自律につながっています。

 ただし、「重要なことは、集団行動がとれることですね。集団行動が苦手な人には、厳しい仕事だと思います」(77p)、「みんな本心は恥ずかしく言わない部分はあると思うのですが、愛国心という部分があって、少なくとも何かあったら自分のことよりも任務を優先してやろうという気持ちがないと続かないと思います」(79p)といった言葉があるように、滅私奉公的な部分も必要だと言えるでしょう。

 一口に自衛隊と言っても、その自衛隊の名で担う任務はさまざまです。91pの図表7に詳しく載っていますが、陸上自衛隊でも、「普通科」「機甲科」「高射特科」といった戦闘を担うような職種の他にも、「通信科」「輸送科」「会計科」「化学科」「音楽科」などのさまざまな職種があります。
 そうした組織の特徴を見ながら、女性自衛官のキャリアについて見ているのが第4章です。

 以前の自衛隊では女性が入れる職種は限られていました。
 1952年の保安庁の時代から女性の採用は始まりましたが、看護師の資格を持った女性のみの採用でした。看護職以外の職域での採用が始まったのが陸上自衛隊が67年、海上自衛隊と航空自衛隊は74年です。
 それでも、①直接戦闘をする職域、②戦闘部隊を直接支援する職域、③肉体的負荷の大きい職域、の3つには女性自衛官を配置しないことになっており、女性の自衛隊の中でのキャリアは非常に限定されたものでした。

 しかし、93年以降、多くの職域が開放されるようになり、2018年に海自の潜水艦への配置が開放されたことで、特殊武器(化学)といった防護隊と坑道中隊という特殊な職域を除いて、すべての職域が開放されました(98p図表8参照)。

 ただ、多くの職域が開放されたということは異動や転勤が増えるということでもあります。
 これについて「多すぎる」と感じている人もいるようですが、「自衛隊の素晴らしいところは、世の中に存在する仕事の全てがこの組織にあるのではないかと思える点です」(103p)と述べる人がいるように、頻繁な異動をポジティブにとらえている人もいます。

 キャリア形成についても、男女の差はないと言う人がいる一方で、「男性に比べて上から叱られない」といった男性上司の「遠慮」を問題視する声もあります。
 また、「ロールモデル」という考え方も広まっていますが、女性自衛官が今まで少なかった、職域が非常に多いということもあって、女性自衛官の中では「ロールモデル」という考え方はあまり響いていないようです。

 第5章では幹部自衛官としてのキャリアの問題が語られています。
 まず、任務において基本的に男女の差はつけるできではないと考えている人が多いようです。男女ともクリアーすべき一定の基準はあるとの考えです。

 そして、自衛隊において女性が活躍しやすい面があるとしたら、その理由の1つは、以下で指摘されているように、自衛隊が階級社会である点です。

 階級があるから指示や命令をしやすい面もあるし、上から言われたら、基本的にはそれに従わなければいけないというのが体に染み付いています。そういうものですよね。自衛隊は指揮命令で動いている組織なので(126p)

 幹部自衛官としての仕事のやりがいについて考えてみると、女性だから男性だからということではなく、階級に応じて仕事が与えられると思います。例えば「1佐」としてあなたに命じているのです、というのが通じる社会なのです。だからやりやすいところもあるだろうなと思ってます(129p)

 このように自衛隊には、男性/女性以前に階級というものがあり、それが彼女たちを活躍しやすくしている面があります。
 ただし、男性指揮官が大声を出したり、部下を叱ったりすることは日常的でも、女性指揮官がそれをやると「心配されたりヒステリックって言われることもあるので、そういうことがしづらいのですよね」(140p)と漏らす人もいます。

 また、指揮官というものは最終的には1人で決断しなければならない孤独なものであり、そこにやりがいと辛さの両面を感じているようです。

 第6章は「女性自衛官の壁」となっています。
 「真に戦うだけであれば、戦闘というものは男性という性の方が向いているのかなと思うのです」「女性隊員の割合が増えた場合、女性一人では重さ、速さといった面でクリアできない部分もあり」(153p)といった声があるように、体力的な面などである程度は男性中心で仕方がないという意見がありますし、育児などで時間に制約のある女性隊員が増えると問題も出てくるという認識もあります。

 また、女性が少ない職場なので、どうしても一人の女性が女性全体を代表する「トークン」として見られがちな面もあり、そこに問題を感じている人もいます。
 また、「あなたのお子さんは小学生で、あなたはお母さんなんだから、我々男性陣と違って、ご家庭を優先してください。でも仕事もちゃんとやってもらいます」(159p)という上司からすると配慮した言葉であっても、言われた女性には違和感が残ったという話もあります。

 一方、自衛隊の中に基地対策や基地広報、管制官などの「女性向き」の仕事があると感じている人もいますし、統率という点でも女性の方がうまくできるのではないかと感じている人もいます。
 災害派遣でも被災者の恐怖心を和らげるという点では女性であることが利点になるともいいますし、災害派遣にしろ海外派遣でも非支援者の半分は女性であり、女性でなければつかめないニーズというものもあるのです。

 体力の壁というものに関しては、徐々に体力をつければ大丈夫、行軍訓練では脱落者も出ていたけど男性も同じように脱落していた、といった声もありますし、実際に任務についてみるとそれほど体力が必要な局面はないとの声もありました。

 第7章は子育てとの両立の問題がとり上げられています。
 自衛隊の特徴の1つが即応性で、不測の事態に24時間対応する必要があります。「私は、子どもに『何かあったらママもパパもいなくなるから』と言っています」(191p)とあるように、いざとなったら子どもを置いて駆けつけねばならないこともあるのです。
 
 子どもが小さいときには離職が頭をよぎったという人もいますし、子どもが不登校になっていたのにしばらく気づかなかったという人もいますが、上司などのサポートや仕事への使命感や責任感で乗り切っている人が多いようです。
 また、引っ越したらとりあえず子どもを預かってくれそうな人を探す、泊まりができる保育園を探すなど、いざというときのためにさまざまな手配をしている人もいます。

 ただし、自衛隊は異動が多く、最初に述べたように本書がとり上げる女性の幹部自衛官のパートナーの8割が自衛官ということで、夫が単身赴任というケースは多いそうです。
 子どものいる女性に関してはそれほど無理な異動は組まれないとのことですが、ワンオペ育児になることも多く、親などを頼ったり、職場で積極的に事情を話すことなどで乗り切っているそうです。
 「仕事と育児の両立については、とにかく一生懸命すること、だけかな」(220p)といった声もあり、「さすが自衛官」と思わせるものもありますが、仕事と子育ての両立に関しては大変な面も多いようです。

 このように本書は、女性自衛官のキャリアに焦点を合わせながら、同時に自衛隊という組織の特殊性もわかるような内容になっています。 
 特に「階級社会」だからそこ女性が働きやすいという指摘や、自衛隊内の職種の多様性が女性自衛官の活躍の場を生み出している状況は興味深いものでした。
 
 ただ、最初にも書いたように、誰のものかまったく情報がないままに発言が紹介されるので、どうしても「都合よく編集しているのではないか?」という疑問も浮かびます。
 「Aさん」「Bさん」などの仮名をつけたり、おおよその年齢を示したほうが、例えば、自衛隊への志望動機とその後の働き方の関係性とか、年代による仕事のやりやすさ/やりにくさの違いなどが見えてきてより興味深いものになったのではないかと思われます。