国民の代表でありながら、多くの人がその姿に納得しているとは思えない日本の国会議員。そんな日本の国会議員の姿にデータを使って多角的に迫ったのが本書になります。
 中公新書には林芳正・津村啓介『国会議員の仕事』という現職の国会議員がその活動について綴った本もありますが、本書はあくまでも外側から、どのような人物が国会議員になり、どんな選挙活動を行い、国会ではどのような仕事をし、政党の中でどのようにはたらき、カネをどのように集め、使っているかということを分析した本になります。
 過去と現在、日本と海外、与党と野党といった具合に、さまざまな比較がなされているのが本書の特徴で、この比較によって、問題のポイントや解決していくべき課題といったものも見えてきます。
 国会議員ついて知るだけではなく、日本の現在の政治を考える上でも非常に有益な本だと言えるでしょう。

 目次は以下の通り。
第1章 誰が政治家になるのか
第2章 当選に向けた活動とは
第3章 立法過程への参画ー議員の仕事
第4章 不安定な議員ー政党制の問題
第5章 政治資金ー政治家とカネの問題
終章 政治改革後の国会議員とは

 「投票したい人がいない」ということはよく言われることですが、では「立候補したい人」はどれだけいるかというと、2020年のウェブ調査で国会議員に「非常になりたい」「ややなりたい」と答えた人は男性で計28.9%、女性で計9.4%、一方で「絶対になりたくない」は男性で34.0%、女性で59.4%、なりたいかどうかは男女差が大きく、また拒否感も大きい仕事だということがわかります(5p1−1参照)。
 政党が候補者を公募したり、政治家志望者に向けた塾などを開くと3000名前後の数は集まるので、政治家になりたいと考える一定数の人間がいることはわかります。

 ただし、立候補にはさまざまなハードルがあります。日本の衆議院25歳、参議院30歳という被選挙権の年齢は高いほうですし、衆議院の小選挙区に出馬するための供託金300万円というのは国際的に見てもかなり高額です。
 
 政党が立てる候補者に関しては、公明党や共産党のように内部からの選抜が中心のケースもありますし、民主党のように公募を積極的に行った政党もあります。
 自民党は、以前は派閥が候補者の発掘や公認を行い、当選したあとの追加公認といったこともさかんに行われていましたが、選挙制度改革以降は公募も取り入れるようになりました。
 
 実際に国会議員になった人を見ると、平均年齢は衆議院議員が55歳、参議院議員が58歳と年齢は高めです。女性の割合は衆議院の当選者で10%前後、参議院の当選者で20%台前半となっており、その比率は低いと言わざるを得ません。
 1947〜2014年までの衆議院選挙の当選者の前職を見ると地方議員、官僚、秘書の順番になっており(24p1−7参照)、自民党の当選者を見てもこの順番は同じですが、民主党・民進党では秘書、地方議員、経営者、公明党では地方議員、メディア、弁護士、共産党では地方議員、労組、教育の順番になっています(26p1−8参照)。

 自民党に絞ってみてみると1955〜76年までは官僚出身が多く100名を超えるほどでしたが、2012年以降は55名前後です。一方、増えているのは地方議員と秘書で、秘書は世襲候補が多く、2000年代になると秘書出身の7割が世襲です。
 
 日本の世襲議員は1955年以降に増え始め、80年以降は25〜30%ほどになっています。これは多くの国が10%以下であるのに比べると高い数字になります(33p1−13参照)。
 55年以降に世襲が増えたのは選挙において個人後援会の組織力が重要になったからで、この後援会を引き継ぐために世襲が行われるようになりました。

 女性議員の少なさについては、クオータ制が導入されていないこと、選挙制度が小選挙区に重点を置いた制度であること(衆議院より参議院のほうが女性の割合は高い)、固定的な性別役割分業意識があることが要因としてあげられています。
 
 こうした機会の不平等に対して、本書では非選挙権の年齢と供託金の引き下げ、政党交付金と組み合わせることで政党に自発的なクオータ制をとらせること、公募制の強化、一定の年齢や当選回数になった現職議員への新人チャレンジの機会をつくることなどを提言しています。

 では、現在の政治家は当選のためにどのような活動を行っているのでしょうか?
 まず、日本の選挙は戸別訪問の禁止をはじめとして非常に制限が多く、選挙運動期間も短いため(かつては30日あって衆議院の選挙運動期間は94年に12日まで短縮された)、選挙期間以外の活動が重要になります。

 ですから、普段からとにかく一軒一軒の家を訪ね、街頭で演説し、ミニ集会を開くといったことが重要になります。地方であれば戸別訪問やミニ集会、都市部であれば街頭での活動に力点が置かれます。
 活動資金については、政治改革以降、党から活動資金が提供されるようになりましたが、それでも足りないケースが多く、候補者自身の資金や借入金に頼ることになります。
 当選後も次の選挙に向けた活動は必要で、「金帰火来」と言うように週末のたびに選挙区入りする議員も多いです。最近は自民党の当選4回以上の議員でも選挙区入りする頻度が高くなっており(59p2−1参照)、地元の活動を重視する傾向がうかがえます。

 日本では政治家の多くが個人後援会を持っています。政策的な理由というよりは政治家個人とのつながりでつくられる団体であり、そのために政治家は新年会やバスツアー、国会見学など、さまざまな手を使って、後援会を維持・活性化させようとしてきました。

 国会議員はさまざまな陳情も受けます。2016年の調査によると自民党の議員は民進党の議員よりも陳情を受ける頻度が高く、特に地元の公共事業に関する陳情では大きな差があります(65p2−2参照)。
 ただし、陳情自体は以前よりも減っており、また、地方議員とのつながりや、後援会への加入者なども減っており、地域における有権者とのつながりは弱まっていると言えます。

 国会議員は公費で秘書を雇うことができ、現在は政策担当秘書を含めて3名が公費で雇用できます。政策担当秘書は政策スタッフとして期待されており、資格試験もありますが、公設秘書を一定期間やれば資格が取れるため、必ずしも政策スタッフとして働いているわけではありません。
 この他にも私設秘書がいます。2002年の調査では衆参平均で5.7人、2012年の衆院の調査では平均7.0人の秘書を雇用しており、公設秘書が3名だということを考えると2〜4名ほどの私設秘書がいるということになります。政党別では2012年の調査で自民が8.6名に対して民主党6.6名、共産党4.0名などとなっています(71p2−4参照)。

 日本では有権者の政治参加が低調です。2018年の調査では政党・団体の一員として活動した人は1.1%、デモに参加した人は0.6%、最も高い署名活動への参加でも10.7%。政党・団体の新聞や雑誌の購読も73年には11.0%ありましたが、18年は2.9%です(78p2−6参照)。
 日本では経済団体や農業団体などの生産者団体の活動がさかんですが、それに参加する人も減りつつあり、団体そのものへの参加も減りつつあります。
 
 こうした中で、1980年代までは「地元の利益のために力をつくす人」を重視していた有権者は、90年第以降は「国全体の政治について考える人」を重視するようになっています。また、候補者の特性として重視されるものも「手腕のある人」から「見識のある人」にシフトしつつあると言います。
 「候補者重視」と「政党重視」の選択では、それまで拮抗していたものが2000年以降になると「政党重視」が優位に推移しています(83p2−8参照)。
 議員自身の認識していている当選の原動力でも、2016年の調査では自民党議員で所属政党がトップ、ついで後援会となっています(時期的なものもあって民主党議員は所属政党の順位は低く、個人的な関係者がトップ(86p2−10参照)。
 
 小選挙区比例代表並立制の導入以降、政党本位の選挙になりつつありますが、政党組織はそれほど拡充されていません。
 そのために議員は当選のためにかなりの運動をする必要があり、また、議員は当選のために党首の交代を求めたり、造反や離党をするようになっています。本来ならば、個人後援会が政党の地方組織に変わっていくことが望ましいのかもしれませんが、地方議員の選挙が中選挙区制が中心だということもあって、地方議員の政党化は進んでいません。

 こうして当選した議員は国会内でどのような活動を行っているのでしょうか?
 政党では朝からさまざまな会議が開かれています。特に自民党では政策調査会の下に部会というものがあり、重要な役割を果たしています。
 この部会でまず法案が審議され、関係者の合意形成が図られるとともに政府との調整も行われます。そして、部会→政務調査会→総務会の順に審議が進み、総務会の決定により党議拘束がかかります。

 このように政府が提出する法案の事前審議に多くの与党議員が関わるというのは日本独自のものです。イギリスでは政府提出法案の内容は少数の与党幹部にのみ知らされますし、議員がかかわるのはあくまでも議会に提出されてからという国が多いです。また、党議拘束の強さと多さも日本は突出しています。
 この背景には、日本では国会の議事運営に内閣が関われないこと、参議院の権限が強く自律性も高いこと、与党議員の意見の多様性と議員の自律性の高さといったことがあると言われています。
 
 与党内で事前に綿密な審議がなされ党議拘束がかかるとなれば、おのずから国会での審議は形骸化します。
 民主党政権は当初事前審査制を採用せず、党議拘束にも消極的でした。しかし、野田政権になると事前審査制が復活し、党議拘束もかかるようになります。個人の力で選挙を勝ち抜く風潮の強い風潮のもとで、「イギリスのようなバックベンチャ(平議員)のありようは、日本には合わない」(玄葉光一郎の発言(119p))のです。

 議員立法に関しては成立率が低いですが、これは議院内閣制の国では共通の現象であり、議員立法の提出数は90年代以降増加傾向にあります。野党の提案は成立しないことが多いですが、党のアピールや議員への教育効果、党内での能力のアピールなど、さまざまなプラスの効果もあります。

 部会には人気の部会とそうでないものがあります。自民党では国土交通部会、経済産業部会、農林部会などに参加者が多い一方で、法務部会の参加者は少ないです(127p3−5参照)。また、中選挙区時代とは違って外交部会にも人が集まるようになっています。

 138p3−8には「政策決定で影響力があるのは誰か」ということを国会議員に尋ねたグラフが載っていますが、これによると政調部門の影響力が下がり、首相官邸の影響力が高まっていることが見て取れます。例えば、公共事業分野で影響力を持つのは87年の段階では政調部門51.1%、首相官邸5.3%でしたが、16年になると政調部門19.1%、首相官邸33.6%です。
 いわゆる族議員の影響力も弱まっていると見ていいでしょう。

 国会での審議を取り仕切るのは国会対策委員会になります。ここで法案の重要度を仕分けし、審議の日程などを決めていくわけです。
 日本では国会の会期が短く、しかも会期不継続の原則というものがあるため審議日程が重要です。野党には法案の修正をめざすか、日程的に追い込んで阻止するかという戦略があるわけですが、内閣が審議に関われない中で法案の修正は難しく、どうしても日程闘争の色合いが濃くなります。
 また、いつでも解散ができるということで、野党も常に対決色を出す必要に迫られているとも言えます。

 国会の審議は質疑が中心ですが、与党議員が官僚から多くの情報を得ているのに対して野党議員は官僚からの情報が得にくく、情報公開の不十分さもあって野党は質疑のために情報収集に苦労することになります。
 質問主意書も活用されていますが、これについては官僚に過大な負担を強いているとの指摘もあります。ただし、本書によれば国際比較では日本のあり方が特に大きな負担を敷いているわけではないとしています。

 国会における日程闘争は、質問主意書の提出の遅れの原因ともなっており、これが官僚たちに大きな負担を強いているとの問題もあります。
 会期の長期化と会期不継続の原則の見直しを行い、内閣の国会審議に関する関与を強めるとともに、少数者調査権を拡充し、野党に情報収集などの手段を与えていくべきだというのが本書が示す処方箋になります。

 先に述べたように選挙における政党の存在感は高まっていますが、その政党が必ずしも安定していないのが現在の日本です。
 政党の対立軸としては、まず右と左のイデオロギーが考えられます。海外では国家への社会経済への関与を軸として「右」「左」の対立軸が構成されることが多いですが、日本では長年、憲法や安全保障を軸にして保守と革新・リベラルという対立が構成されてきました。
 80年第以降に自民党が新自由主義的な傾向を強めると、それを軸にした対立も浮上していくることになりますが、それでも憲法と安全保障の軸は影響力を残しています。そして、この憲法と安全保障は、野党を分断するくさびの争点ともなっています。

 個々の議員の立ち位置を見ると、大まかなまとまりはあるものの(2014年の調査で自民はイデオロギーは右で現状維持志向、民主は中道で改革志向、維新は右で改革志向など(174p4−1参照))、ばらつきも大きく、特に自民と民主の議員はかなり分散しています。

 こうした中で候補者は、公約を尊重しつつも自らの意見を主張するとした割合が7〜8割で政党の公約がやや軽く扱われていることがわかります(180p4−4参照)。
 党議拘束についての考えでは政党ごとにばらつきが見られ、なるべく党議拘束をかけるのが望ましいと考える議員の割合は、2012年の調査で共産党(100%)>自民党(67.3%)>民主党(36.9%)などとなっています(184p4−6参照)。

 自らの意見を通すために議員は造反することがありますし、さらに離党することもあります。1990年代以降、日本では政党の離合集散が繰り返されてきました。
 小選挙区ではまとまらないと勝てないので1つにまとまろうとする動きが起こりますが、一方で比例代表の部分や参議院もあるので、そこでは遠心力がはたらきます。さらに政党助成法によって資金問題が軽減されたこともあって、勢いがなくなった政党もその資金で存続します。
 こうしたこともあって自民の対抗軸となった保守系改革勢力を中心に合流と分裂が続いているのです。

 最後は政治資金の問題です。政党助成金以外にも国会議員はさまざまなお金を集めています。
 政治資金を一番集めているのは自民党の議員ですが、2009年頃までは平均7500万円ほどを集めていたものの、それ以降は5500万円前後にまで減っています。一方、民主党系は平均3500万円ほどです(213p5−2参照)。
 衆議院議員は参議院議員の1.5〜2倍ほどの資金を集めており、衆議院の小選挙区選出議員は特に多くの資金を集めています。

 政治資金は政党も集めています。2017〜19年の平均を見ると、自民党は政党交付金を中心に団体寄付を集めています。立憲民主党も政党交付金中心ですが、借入金の割合も24.4%あります。公明党や共産党は事業収入の割合が高く、共産党は政党交付金を受け取っていません(218p5−4参照)。
 90年代の政治改革以降、企業や団体からの政治献金は減少傾向ですが、個人献金も伸びていません(220p5−5参照)。
 政治資金については日本はそれなりに規制の厳しい国ではありますが、会計が一本化されておらず、公開の範囲が狭いといった問題があります。

 このように本書は日本の国会議員の姿を多面的に分析しています。ある程度は知っていたことも多いですが、このように多角的に、しかも国際比較などを交えながら論じてくれると改めて見えてくるものも多いと思います。
 漠然と日本の国会議員について嘆く前に、本書を読んで具体的にどこが嘆くべきところなのかを考えることで、日本の政治ついての議論が実りのあるものになってくるのではないでしょうか。