出たときはチェックしていなかったのですが、ネットで面白いとの評判を目にして読んでみました。
 著者は20代ながら、24時間対応の無料の「あなたのいばしょチャット相談」を運営するNPO法人あなたのいばしょの理事長でもあり、菅内閣における孤独担当大臣(初代は坂本哲志)創設の立役者ともなった人物です。ちなみに下の名前は「こうき」と読むそうです。

 このように書くと華々しい活躍をしている若者といった感じですが、著者が大学在学中に無料のチャット相談を立ち上げたのは、自らのつらい体験があったからです。
 本書では、まずは著者の体験が語られ、「望まない孤独」という問題がさまざまなデータとともに打ち出され、さらに自分のような立場を救うために始めた活動や運動が紹介されています。
 本書はこのバランスが非常に良く、自らの壮絶な体験を語るだけでもなく、かといってデータをまとめただけでもなく、血肉と数字の双方が入った内容になっています。
 また、著者自身も若く、受けている相談も若い人からのものが多いために、現在の若者の問題の一端を見せてくれるような内容にもなっています。
 
 目次は以下の通り。
第1章 あなたのいばしょ設立までの経緯
第2章 イギリスで定義された「望まない孤独」とは
第3章 増え続ける子どもの自殺相談
第4章 懲罰的自己責任論で苦しむ人々
第5章 匿名相談チャットデータで見る“死にたい人”の思考
第6章 世界が注目する日本の孤独政策

 まず、第1章では著者の生い立ちが語られています。著者は愛媛県の生まれで一般的な中流家庭でしたが、著者が小学生に入る頃から両親の間に喧嘩が絶えなくなり、著者が小学校5年生のと気に両親は離婚します。
 母親が家を出ていったことによって著者は父親と暮らすようになりますが、父親とはうまくいかずに不登校になり、ついには入院することになります。
 それを聞きつけた母親が連絡をとり、著者は東京に出ていた母親と暮らすようになるのですが、母親はすでに再婚しており、著者の「居場所」はありませんでした。

 中学生になった著者は友達とはうまくやっていたものの、過程ではネグレクト状態でした。
 在学中に生徒全員に留学のチャンスがあるという高校に入りますが、留学先を決める面談に親は来ない状態だったといいます。それでもニュージーランドに留学し、著者はそこで普通の家庭の温かさに触れます。
 しかし、帰国すると母親は離婚して精神状態が不安定になっており、著者も追い詰められました。そのとき著者は高校の担任にメールを送りますが、そこで担任が迅速に、そして親身になって行動してくれたことが著者を救いました。
 「信頼できる人」にめぐり合った著者は、その後、さまざまなアルバイトを重ねながら大学に入学し、そこで自分のように孤独に苦しむ人を救うためのNPOを友人と立ち上げました(ここでの紹介は本当に「あらすじ」という感じなので、著者の苦悩についてはぜひ本書を読んでみてください)。

 著者が取り組んだのがチャットによる相談です。
 自殺などの相談窓口といえば電話ですが、慢性的な相談員不足であり、24時間対応も難しいです。
 相談員になるには研修のためにお金を払ってなる必要がありますが、そうなると相談員は余裕のある高齢者が中心になります。そうした人々が対応できるのは平日の昼間であることが多く、もっとも相談件数が多くなる深夜から明け方に関しては対応できません。2020年の自殺者数を時間帯別に見ると「不詳」に次ぐのが「0〜2時」です。

 そこで、著者たちは相談窓口をチャットにし、24時間対応を目指しました。対応が難しい深夜に関しては海外在住の日本人の協力を得ることで対応しています。
 チャットであっても、書類選考・面接・座学研修・実地研修を行い、それをクリアーした人を相談員としており、相談者を不用意に傷つけないように注意を払っています。また、チャットでは相手の性別などがわからない、非言語コミュニケーションが使えないといった難しい点もありますが、こうしたことを踏まえながら著者たちはさまざまな模索をしています。

 第2章では「望まない孤独」という本書のタイトルにもなっている言葉が説明されています。
 「孤独」というのは、協調性が重視される日本ではマイナスにとられることも多いですが、だからこそ、「孤独が人を強くする」といった言説も見られます。
 英語では孤独は、「Solitude」または「Loneliness」ですが、前者には「積極的な孤独」という意味があるのに対し、後者は「消極的な孤独」、つまり「望まない孤独」であり、著者が本書でとり上げているものになります。
 「Loneliness」の定義としては、Perlman、Peplauの「社会的関係のネットワークが量的あるいは質的に不足しているときに生じる不快な経験」(58p)という定義がありますが、誰かに頼りたくても頼れないというのが、「望まない孤独」なのです。

 「孤独」を社会問題としてとり上げたのがイギリスです。
 2018年にメイ首相が「孤独担当相」の設置を発表しましたが(実質的には政務次官級の役職)、この背景にはそれまでの取り組みとジョー・コックス議員の死がありました。
 イギリスでは2010年にNPOが高齢者の社会的つながりを創設することを目的に孤独廃絶のためのキャンペーンが行われましたが、この問題に取り組んだのがジョー・コックスという労働党の女性議員です。
 彼女は選挙区を回る中で高齢者だけでなくあらゆる世代の人が孤独の問題を抱えていることに気づき、超党派の委員会設置を目指していましたが、イギリスのEU離脱を問う国民投票の直前に襲撃されて亡くなってしまいます。EU残留派の議員を狙った極右思想をもった人物の犯行でした。
 
 彼女の死後、彼女の名前をとった超党派の委員会がつくられ、あらゆる世代の孤独に取り組むことを政府に求めました。そして、これが孤独担当相の設置につながるのです。
 指標の開発なども行われ、その結果、孤独を慢性的に感じているのは、高齢者ではなく、16〜24歳の若者であるという結果も得られました(74p)。

 第3章では子どもの自殺がとり上げられています。
 新型コロナウイルスが広がった2020年、日本では自殺者数が11年ぶりに増加し2万1081人となりました。
 2003年に日本の自殺者は3万4427人と最多になり、2006年に自殺対策基本法が制定されています。その効果もあったのか、日本の自殺者数は2010年から19年まで減少傾向を続けました。
 
 2020年には子どもの自殺も注目されました。休校の影響などもあったせいか、2020年の小中高生の自殺者数は前年比25.1%増の499人にのぼりました。
 ただし、子ども(19歳以下)の自殺は、他の世代の自殺が2010年から大きく減ってきたのに対してほぼ横ばいを続けていました。2003年の小中高生の自殺者は318人ですが、2019年の自殺者は399人です(82p)。

 それにも関わらず、子どもの自殺はあまりとり上げられてきませんでしたし、とり上げられるときはいじめ絡みのことが多く、「子どもに自殺=いじめ」という固定観念も強いです。
 しかし、2020年の小中高生の自殺者の原因・動機の上位10項目に「いじめ」は入っておらず、1位は「その他進路に関する悩み」の55人、次いで「学業不振」が52人、その次が「親子関係の不和」が42人で、「いじめ」は6人で「失恋」の16人よりも少ないです(86p)。
 もちろん、自殺の原因の特定は困難ですが、「いじめ」よりも「学業不振」が圧倒的に多くの子どもを死に追いやっているというのは大人から見ると意外かもしれません。

 こうした中で、著者たちが子どものアプローチする方法として有効だと考えたのがチャットです。子どもの自殺対策として相談窓口の電話番号が掲載されることが多いですが、現代の子どもたちは電話を使用することがほとんどなくなっています。「電話をかける」ということは子どもにとっては大きなハードルになり得るのです。

 第4章では寄せられた相談をとり上げながら対応の仕方などを紹介しています。
 相談の中には虐待や性的虐待などに当たるケースもあり、すぐにでも児童相談所に通告すべきケースもありますが。いきなり「通告します」では、そこで関係が切れてしまう恐れもあります。まずは信頼関係を築いた上で、タイミングを見計らって児童相談所や警察への連絡を提案するようにしているといいます。

 また、若い世代の場合は、「なぜだかわからないけど死にたい」という相談も多いです。友だちもいる、家族との関係もそんなに悪くない、でも死にたい、というものです。
 こうしたケースは「自分は恵まれているのにできない」といった「自己否定ループ」に陥っていることがあり、とりあえずは褒めるような対応がとられるといいます。

 ただし、自殺者が多いのは若者ではありません。まず、自殺者の7割近くが男性であり、自殺率が最も高いのは50〜59歳です。 
 しかし、男性は相談しません。著者の運営するチャット相談でも相談者の約7割が女性、男性が15%ほど、「その他」を選ぶ人も15%ほどです。
 コロナ禍においては女性の自殺者の増加が見られました。リモートワークや休校によって夫や子どもと過ごす時間が増えてストレスを溜め込んだ女性も多かったですし、女子高生の自殺も増えました(女子中学生や女子大学生と比べても高校生の伸びが目立った)。
 また、女性に非正規雇用が多く、解雇や雇い止めなどにあいやすかったことも自殺が増えた原因だとも言われます。

 ただ、2020年の女性の自殺の原因・動機を見ると、過去に比べて増えたのは「勤務問題」や「男女問題」で、勤務問題で最も多かったのは「職場の人間関係」でした。必ずしも経済的な困窮のみが原因とは言えません。

 近年、女性の活躍が言われていますが、「責任ある立場の人ほど周囲に頼りづらい」ということもあり、女性が今の男性と同じように責任あるポジションにつけば、女性の自殺者がさらに増加することも考えられます。
 中高年の男性は、責任を抱えたまま誰にも相談できずに苦しんでいるケースが多く、「頼る・相談する」という行為に踏み出すまでにハードルがあります。
 著者は男性が「悩んだり苦しんだりするのは自分が至らないせいだ」という懲罰的自己責任論を内面化しているといい、これが社会全体にも広がっているといいます。

 第5章ではチャット相談のデータから「死にたい人」の思考を読み取ろうとしています。
 著者の運営する相談窓口には1日80万字のデータが集まるといいます。その中には「今すぐ死ぬ」といったものもあれば、「雑談がしたい」といったものもあります。著者らはデータを分析しながら、より切迫した相談をAIで判定するしくみを取り入れてます。

 まず、先ほども触れましたが、相談窓口を利用する7割が女性です。利用される曜日は比較的均等ですが、月曜の利用の多くは日曜の深夜0時以降のものであり、日曜が多いと言えそうです(132p)。時間帯では20〜0時台が多いです(133p)。
 人口10万人あたりの相談件数を見ると、1位は東京、2位が宮城、つづいて京都、神奈川、奈良となっています。基本的には大都市とその周辺が多いですが、宮城が多い理由に関して、著者は宮城県の不登校の多さとの関連を示唆しています。宮城は人口1000人あたりの不登校数が2020年まで5年連続で全国1位だったのです。
 ただし、自殺率となるとまた違った様子になり、相談件数1位の東京の自殺率は全国40位、4位の神奈川は全国で自殺率が最も低くなっています。

 あなたのいばしょが設立されたのは2020年3月であり、ちょうど新型コロナウイルスが流行していった時期でした。相談でも「外出自粛」や「家」「自宅」「在宅」といった言葉が多く使われるようになります。
 一番多かったのが「育児家事のストレス」、次に「経済的不安」、さらに「家が安全な場所ではない」といった悩みが続きます。その後も相談は伸びていきますが、特に芸能人の自殺報道があると相談件数が伸びるとのことです。
 最初の緊急事態宣言のときはあまり使われなかった「学校」という言葉も、緊急事態宣言が2回目、3回目、4回目となる中で増えていっており(147p)、学校の行事の中止や延期、あるいは自分が感染して学校にいけなくなることを不安に思う相談などがあったといいます。

 また、「お金」という言葉も多いですが、データでも無職の人ほど孤独を感じる傾向があり、自殺念慮も強いです(150−151p)。やはり経済的な余裕と心の余裕は密接に関わっています。

 最後の第6章では現在の日本の動きが紹介されています。
 2021年に孤独担当大臣が誕生したわけですが、実はこれは著者の狙いでもありました。相談体制を強化しても根本的な「孤独」の問題が解決されなければ、いずれ相談体制はパンクしてしまいます。
 そこで著者は「孤独」が社会問題として捉えられるための最短ルートとして、孤独を「政策課題の対象」とすることを考えました。そして、その方法として孤独担当大臣の設置を政府にはたらきかけたのです。

 そこで、「国として孤独対策に取り組む意思の明確化」、「効果的な対策のため、孤独に関する調査研究を推進する」、「社会全体で孤独対策を実施する体制を整える」、「孤独に対するスティグマの軽減と正しい理解の普及」、「すべての人が頼れる存在にアクセスできる体制を整える」という5つの柱を掲げ、政治にはたらきかけました。
 それぞれの項目にはさらに細かい目標がある、例えば、最後のアクセス体制については、現在相談窓口の電話番号がありすぎることを指摘し(例えば東京都が児童生徒に配布した案内には13の番号が記されている(185p))、3桁の全国共通ダイヤルの設立なども求めています。

 こうした著者の行動に応えたのが自民党の鈴木貴子や国民民主との玉木雄一郎、伊藤孝恵、立憲民主党の蓮舫らで、特に鈴木貴子が当時の官房長官の加藤勝信につないでくれたことから一気に動き出し、孤独担当大臣の設置へとつながったのです。

 本書を読むと、自らの経験を土台にしながらも、そこから「どうしたらより多くの人を助けられるのか?」ということを冷静に考え、行動し続けている著者の姿が見えてきます。
 「自分の経験を活かして社会問題にアプローチする」というのは多くの人が考えることではありますが、ここまで見事にそれをやっているケースも珍しいでしょう。孤独の問題に限らず、なにか社会問題にアプローチしようと考えている人にとっても参考になる本です。
 また、なかなか見えにくい今の若者の悩みの一端を教えてくれる本でもあります。若い人と接する機会のある人にも得られるものが多い本だと思います。