『日米地位協定』(中公新書)で日米地位協定の実態と問題点を掘り下げた山本章子が、沖縄出身の毎日新聞記者である宮城裕也とタッグを組み、米軍基地が立地する地域や部隊や訓練が移転されている地域を取材した本になります。
 
 本書の面白さは、宮城が沖縄出身、山本が琉球大学に勤めていながら、沖縄以外の地域を重点的に取り上げているところにあります。
 宮城は高校2年生のときに沖縄国際大学に米軍ヘリを墜落した事件を間近で目撃し、ここから基地問題に関心をいだき、新聞記者となります。そして、三沢基地のある青森県に赴任するのですが、ここでの米軍基地を取り巻く人々のあり方や感情は沖縄とは違います。この「ズレ」がまずは興味深いです。

 そして、さまざまな基地の現場を見ていくことで、騒音などの問題だけではなく、こと米軍に関してはアカウンタビリティがまったくはたらかないという日米同盟のあり方の問題も見えてきます。
 米軍基地の問題というと、どうしても沖縄の問題と考えられがちですが、そうではないことを教えてくれる本ですし、また、沖縄の基地問題を考える上でも有益な本だと思います。

 目次は以下の通り。
第1章 日米地位協定とは何か
第2章 三沢基地──青森県
第3章 首都圏の米軍基地
第4章 岩国飛行場──山口県
第5章 自衛隊築城基地──福岡県
第6章 自衛隊新田原基地──宮崎県
第7章 馬毛島──鹿児島県
第8章 嘉手納基地──沖縄県
おわりにかえて

 日米地位協定は1960年の安保改定のときに結ばれたもので、誕生以来、一度も改定されていません。占領軍の特権を温存した日米行政協定を改定する形で締結されたものですが、米軍の起こした犯罪や事故について日本側が捜査・調査できないなど大きな問題を抱えています。

 日米地位協定の問題点については前掲の山本章子『日米地位協定』(中公新書)が詳しいですが、犯罪や事故の問題以外にも、米軍基地の環境汚染に有効な対策を打てない、米軍の基地間の移動を自由に認めているために米軍の訓練が規制できない、表向きの条文以外にも日米地位協定合意議事録というものがあり、それが協定とは異なる運用を可能にしているなど、さまざまな問題があります。
 日米地位協定合意議事録については表立ってぎろんされることがなかったものですが、ここで「所在のいかんを問わず合衆国軍隊の財産について、捜索、差押え又は検証を行う権利を規定しない」(20p)と定めており、これが米軍の事故を日本が調査できない根拠になっています。

 こうした不平等も言える構造が温存されてきた背景には、日米安保条約が米軍の日本駐留の権利を書いた「駐軍協定」の性質を持っていることがあります。NATOであればNATOの一員であることと米軍を受け入れることは別問題ですが、日本の場合は同盟関係と米軍の駐留が切り離せない関係になっているのです。

 第2章では青森県の三沢基地がとり上げられています。先程述べたように著者の1人である宮城の赴任地ですが、ある市民に「ミサワは基地とともに発展した。沖縄とは歴史的刑が違うんですよ」(32p)と諭されたように、沖縄との基地に対するスタンスの違いに驚かされたといいます。

 1938年、もともと放牧地と雑木林だった土地に海軍が飛行場を建設し、戦後になって米軍がそれを接収したことで三沢の基地の歴史は始まりました。
 三沢村は1948年に三沢町に、58年に三沢市になったように基地の拡張とともに発展していきます。
 三沢市の2015年度の予算約239億円のうち、2割の約51億円が基地関連の補助金で、基地とは「共存共栄」「持ちつ持たれつ」の意識があります。
 沖縄では、基地はいずれ返還されるものとの認識がありますが、著者が種市三沢市長にそのことを尋ねると、「そういう議論をしたことさえないのでは」(35p)と返されたといいます。

 これには歴史的な経緯もありますが、沖縄では観光業の発展とともに経済の基地依存度も下がってきたのに対して、三沢ではそういったものがないということもあります。
 ただし、1970年代前半に米軍の縮小で実戦部隊が姿を消した際には、基地従業員が解雇され、米兵向けの飲食店などが閉店するなど大きな影響がありました。基地依存の問題点というものは三沢の市民もわかっているはずです。

 また、配備されているF-16戦闘機の騒音の被害も深刻で、100デシベルを超えるような騒音の計測されています。
 この騒音対策として集落の集団移転も行われており、国有地となったその場所はほぼ活用されないままになっています。国有地は営利目的の活用ができず、また建物を建てる際は取り壊し可能なものを条件にしているため、公園などにするしかないのです。
 また、2001年には天ケ森地区の近くにF-16が墜落するなど、事故の不安とも隣り合わせです(結局、天ケ森地区でも住民の移転が進められた)。

 基地の外に住む米兵もいますし、街でも米兵の姿を見かけるのですが、その正確な人数はわかりません。米軍関係者は住民登録の義務が免除されており、市民税も払っていません。その代わりとなる交付金もありますが、その算出根拠となるはずの人数も自治体は把握できません。
 
 2018年2月にはF-16の燃料タンクが小川原湖に落下する事故が起き、油が流出したために漁ができなくなりましたが、漁ができなくなったことに対する補償交渉もなかなか進まず、その間にも訓練は再開されました。
 小川原湖ではオスプレイによる水中救助訓練なども行われており、「日本を守るためなのか何なのか分からないが、戦争に負けたからしょうがないんだべな」(74p)と話す市民もいます。

 第3章は首都圏の米軍基地。横田がスルーされていることもあってここは比較的短いです。
 赤坂プレスセンターと厚木基地がとり上げられていますが、厚木の話が中心です。厚木については横須賀とともに一度は返還が決まったのですが、第7艦隊の削減に佐藤栄作首相が反対したこともあって返還が白紙になっています。
 その後、基地の管理権の一部が自衛隊に移ったものの、それは名ばかりで、ほぼ米軍が自由に使用しています。
 また、騒音の問題も深刻で、被害がひどい地域については国による土地の買取も行われていますが、それによって住宅街のあちこちに緑のフェンスに覆われた移転跡地が点在するような風景になってしまっています。

 第4章は岩国基地。沖縄の問題について「本土は無関」という声を聞きますが、岩国市の市議会の桑原敏幸議長は岩国市市議会で「沖縄の基地負担軽減の決議」を主導し、三沢などの他の基地の立地自治体にも同じような決議をするように呼びかけていました。
 桑原氏は著者(宮城)の取材に「「本土も沖縄は気の毒だと思いやっていることを分かってもらわんと。そのへんを沖縄の人は分かってないと思うんよ。本土は冷たいと。本土でも考えている自治体はある。受け入れるものは全部受け入れるよ」(101−102p)と答えてます。

 もちろん、この発言の背景には米軍の受け入れと引き換えに政府からアメがあります。桑原氏も「国が手当するのは当然」(104p)と述べているように、岩国は今までもさまざまな手当を受けてきた街でもあります。
 2012年から民間空港としても使われ始めた岩国飛行場の駐車場料金は以前は無期限で無料、立体駐車場ができてからは5日間無料という大盤振る舞いですが、これを支えているのが米軍再編交付金です。
 岩国には厚木から艦載機が移駐してきましたが、それに伴って10年間で140〜150億円の再編交付金が周辺自治体に支給されたのです。

 岩国では2018年に「愛宕スポーツコンプレックス」という野球場、陸上競技場、テニスコート、体育館などを併設した施設が誕生しています。米軍関係者のためにつくられたものですが、岩国市民もお金を払えば利用できるようになっています。
 その近くには「愛宕ヒルズ」という米軍関係者のための住宅地もありますが、関係者以外の立ち入りは禁止で、何人住んでいるのかは市も把握していません。

 こういった米軍基地のあり方に疑問を持つ人もおり、2006年に当時の井原勝介岩国市長は関西紀伊店の是非を問う住民投票を行い、投票率58.68%、そのうち反対票が87%という結果が出ます。
 この結果を受けて井原市長は国に艦載機移転の撤回を求めますが、国は市庁舎の建て替えの補助金を停止するなどの圧力をかけました。結果として、井原市政は終わりを告げることになります。
 このような「ムチ」を見せられた岩国市は、再び交付金という「アメ」に頼る市政に転換していったのです。

 第5章では福岡県築上町の自衛隊築城(ついき)基地がとり上げられています。築城は自衛隊の基地ではないか? と思う人もいるでしょうが、築城には拡張計画が持ち上がっており、その中に米軍用の駐機場と弾薬庫の整備と滑走路の延長が含まれているのです。
 これは普天間基地返還の代わりとして築城と新田原基地が有事の際の受け入れ機能を果たすためのもので、これによって自衛隊の使うスペースが手狭になることから基地自体の拡張も計画されています。

 当然、住民からはさまざまな不安の声が上がるわけですが、ここでも問題になるのは米軍が絡んだときの説明の不透明さです。
 米軍機は基地間や基地と民間空港の間を移動できるという日米地位協定第5条第2項の規定を使って訓練を行っています。飛行訓練についての明確な規定がないために、米軍が築城の周辺でどのような訓練を行う可能性があるのかはわかりません。
 また地位協定の第2条第4項に自衛隊基地のような日本の管理下にある施設を米軍が「一定の期間を限って」使用できるとしていますが、逆に言えば試用期間以外は制限がないということでもあります。
 このため、基地拡張をめざす防衛省も住民が納得するような説明はできないのです。

 第6章でとり上げられている宮崎県の新田原(にゅうたばる)基地も同じような状況です。新田原は基地の誘致運動によってつくられた基地であり、近くには「爆音緑茶」なるものが売っているように、地元の人の基地に対する感情は良いのですが、ここでも有事のために米軍用弾薬庫や燃料タンク、駐機場などが整備されることになっています。

 2021年11月には宮崎市内のホテルに嘉手納基地の所属の約200人が宿泊することが突如として明らかになり、地元ではコロナ感染の広がりが懸念されました。
 米軍が基地外の宿泊を決めたのもコロナ対策のために複数人の相部屋を避けるためのものでしたが、宮崎県や宮崎市はホテルから連絡があって初めてそのことを知るような状況でした。日米地位協定には訓練についての規定がないために、地元の自治体が米軍の訓練を抑制することはできないのです。
 また、新田原にはF-35Bを配備する計画もありますが、そうなれば米軍のF-35Bも頻繁に飛来する容認なるのではないかという懸念もあります。 
 
 第7章は鹿児島県の馬毛島です。ここは現在主に硫黄島で行われている米軍の空母艦載機の離着陸着艦訓練(FCLP)の移転が予定されています。2006年の在日米軍再編合意で厚木の艦載機部隊が岩国に移転しましたが、岩国から硫黄島は遠すぎるということで、無人島の馬毛島に白羽の矢が立ったのです。
 FCLPは着陸するとすぐにエンジンを全開にして再離陸、急上昇を行うというもので、長時間に渡り轟音が発生します。そのために無人島が好都合なのです。

 地元の西之表市では、反対派がやや強く2021年の市長選でも反対派が勝っていますが、地域振興のために自衛隊に期待する声もあります。
 ただし、ここでも米軍が来ることへの不安があります。本書の中で何度も指摘されているように日米地位協定には米軍の訓練を規制するような決まりがないために、米軍が馬毛島周辺でどのような訓練を行うかは不透明なのです。

 最後の第8章は嘉手納基地です。ここでも騒音の被害があり、集落の移転があり、米軍の起こす事故があります。
 騒音の被害に対して賠償を求める裁判も起こされており、住民側が度々勝訴していますが(ただし、飛行差し止めは認められていない)、国際法上の主権免除原則から米軍の損害賠償の義務は免除されています。そのため日本政府が被害者からの損害賠償請求を処理することになります。

 また、嘉手納の周辺には多くの米軍関係者が住んでいますが、本書で指摘されてきたように、住民登録の義務がないため、実際にどの程度の人数がいるのかはわかりません。
 また、米軍関係者向けの住宅は高い家賃が取れるために、米軍関係者向けの住宅が増えていますが、彼らは住民税を払わないために、住民サービスにただ乗りしている面もあります。

 「おわりにかえて」ではグアムの状況も報告されていますが、ここでは米軍による環境汚染が問題になっています、そして、その浄化費用はグアム政府に押し付けられているのです。2006年に普天間基地の辺野古への移設が完了した際に、在沖海兵隊の司令部要員8000人とその家族9000人がグアムに移ることが日米両政府で合意されましたが、グアムではこれに反発する動きも出ています。
 沖縄や横田でも米軍基地が原因と思われる地下水の汚染が起きていますが、日米地位協定第3条は米軍に基地の排他的管轄権を認めており、第4条で原状回復義務を免除しているために、日本側は立ち入り調査もできませんし、汚染が放置される可能性もあるのです。

 このように本書は米軍基地が立地する地域を実際に訪ねることで、日米地位協定がもたらすさまざまな問題を掘り起こしています。米軍基地というと、どうしても沖縄の問題がクローズアップされがちですが、本書は三沢や岩国をとり上げたことで、米軍基地のもたらす恩恵と、それでも埋められない問題点というものが見えてくる構成になっています。
 東京の多摩に住んでいるものとしては、欲を言えば横田基地をとり上げてほしかったところです。本書では、「日本政府は戦後一貫して米軍基地を本土から沖縄へ、首都圏から地方へ、都市から過疎地へと移し、人口の多い地域から遠ざけることによって基地問題を「解決」してきた」(243p)と述べていて、これはそのとおりだと思うのですが、それだけではないとも思うのです(横田では米兵が外に出なくなったことで基地が透明化してきた気がする)。