【模倣犯】 宮部みゆき

 多分、こんな感想を抱いたのは今まででも五指に満たないと思う。
 この作品は微塵の隙もなく、完璧だ。
 頭を掻き毟りたくなるほど面白い作品、涙が止まらなくなる感動の作品、圧倒されて呆然となるほどの力ある作品。確かに今まで、そんな凄い小説と巡り合ってきた。でも、此処まで、個人の趣向の余地すら挟めずに余す所無く完璧、と読後に嘆息させられた記憶を、今の放心状態の私には掘り起こす気力がありません。
 よくぞ、よくぞこれを映画化しようと考えましたね。恐ろしいと思わなかったんでしょうか。自分が、こんなものを扱えると本当に思ったのでしょうか。よほどの自信家か身の程知らずとしか思えない。私だったら勘弁してくれと逃げ出してしまうに決まってる。話を持ちかけてきた人の正気を疑います。これはどの言葉を削っても増やしてもいけない、ビジュアルを構築してもBGMを挿入してもまったく決定的に違ってしまうくらいに完璧に出来上がってしまっているのに。
 やはり宮部みゆきは凄い。ICOで私はああいった感想を抱いてしまい、こりゃいけないと、今まで文庫化していなかったので手をつけていなかったこの【模倣犯】を読んだのですが。
『理由』や『RPG』『火車』などで思い知ったと思い込んでいた宮部みゆきを、私はまだまだ見縊っていたと思い知らされました。
 この小説のページの厚さに慄かないでください。ここには何も難しい言葉は使われていません。ただ当たり前の言葉によって紡がれている普通の人たちの普通の話です。この話からは何も何一つ押し付けてくるものはありません。これを読み何を感じるのかについては、かなりの自由度が仕込まれていると思います。
 これが完全なフィクションでありながら、むしろあらゆる創作を廃してただ事実と現実を淡々と記しているように思えてしまうのは何故なんでしょうね。ルポライター・刑事・マスコミ・被害者家族・加害者・大衆。みな誰もが事件を外周から想像し、創作していくのを神の視点から見ていたからなんでしょうか。
 なんにしても、最後まで身につまされ、辛かったです。事件が解決しても、失われたものは何一つ帰ってこないんですから。
 だから、せめて一度破綻してしまった彼らが元に戻ってくれたのは、本当に嬉しかった。