水惑星年代記

【水惑星年代記】 大石まさる

 第一話の冒頭はこんなシーンからはじまる。
 雪に埋もれた夜の田舎町を、自転車を押して歩くひとりの女性。雪道では自転車はただの荷物で、疲れた女性はまだ灯のともっているうらぶれた立ち蕎麦屋で暖を取ることにする。あったかい蕎麦で一息ついた女性は、「ごちそうさま、温まったわおばちゃ――」と言って――
 どんぶりを何気なしに空中に放り出してしまうのだ。

 それを、床に落ちる前に、割烹着にほっかむりをした店のおばちゃんが見事にキャッチ。おばちゃんは、おろおろと謝る女性にむかって特に驚く様子もなく一言告げるのだ。

「んん。宇宙から来た人はみんなやるよ」

 そんなやり取りがかわされるなか、店の外では汽笛を鳴らしながら除雪路面電車が店を揺らすほどの轟音を響かせながら通り過ぎていく。

 なんとまあ、この大石まさる氏の描き出す世界が凝縮されているような見事な書き出しなのである。

 赤道直下に建設された軌道エレベーター。下から上まで正味四時間。宇宙は近くなり、それでも青い空とキレイな水に満たされた田舎町は昔とおんなじように帰ってくる人を迎えてくれる。
 そう、宇宙は近くなったのだ。雪に閉ざされた田舎町の端っこにあるような立ち蕎麦屋のおばちゃんが、そこから帰って来た人を当たり前のように受け入れるくらいには。

【空からこぼれた物語】の正当な続編。嬉しいなあ。空からこぼれた物語、Bk1には書籍情報からして存在してませんよ、ねえ。

 夢の向かう先である宇宙と、懐かしさとこんな場所で暮らしてみたいという季節感満開の田舎町の風景が、この漫画ではまったく同位に並存している。この青い空とキレイな水に満たされた土地に住む人たちは、星空を見上げながらも決して自分が踏みしめている大地を忘れていない。
 この人たちはやがて宇宙に向かって旅立つのだとしても、決して今まで住んでいた土地を捨てることはないのだ。彼らはただいまと言って町に帰ってくる。そうしてまた、行ってきますと旅立っていくのだ。
 これはそう、ホームである。
 そしてホームの上には、手が届くほど近くなり、それでも未だ夢の果てにある宇宙が広がっている。
 これはそんな話の連作集。

 水惑星年代記、まったくなんて素敵なタイトルですか。

 しかし、帯にある竿尾悟せんせのコメントにある「大石センセの描くコの清楚なエッチさ――」ってのは、然りだよなあ。
 然り、然り。
 SFとしても郷愁モノとしても大好きなんだけど、この水惑星年代記、恋愛モノとしてもメッサ大好きなんだなあ。大石センセの描く恋愛模様って女の人が物凄い。なにしろ物怖じしない。好きという気持ちに迷わない。みんなステキすぎ。

 やはりオススメは「宇宙(うえ)を向いて歩こう」ですか。
 子獅子さんがねえ……もうねえ。天体望遠鏡覗きながらのキスシーンなんて、もうちょっとあの雰囲気はありえねえっすよ、うきゃきゃきゃきゃ(大はしゃぎ)