クジラのソラ 01
【クジラのソラ 01】 瀬尾つかさ

 こりゃあ、本物だわ。
 すごい、これはすごい。凄絶。このベクトルの衝撃を受けたのは、そうだな、あさのあつこの【バッテリー】以来だ。
 よくぞ発掘した、富士見ファンタジア。えらい。すごくえらい。
 ただ、現状のライトノベル各レーベルを鑑みるに、他のどのレーベルよりも、富士見ファンタジア以外になかったような気がする、この作家さんは。
 そういう作風。
 ただし、このまま富士見ファンタジアでやっていくべきかというと、ちょっと首を傾げたくなる。
 正直、これはスレイヤーズやオーフェンの系譜に連なる富士見ファンタジアの主軸を担うようなタイプではない。アニメ化などのメディア展開をしたとしても、この作家の作品の雰囲気を伝えられるとは思えない。

 読了直後は全然そんなことはなかったんだが、こうして感想を書くために作品を振り返っていると――なんだか泣けてきた。
 この瀬尾つかさという人は、ひどい。なんと言っていいかわからないが、ひどい。
 デビュー作【琥珀の心臓】よりも大変マイルドに。ライトノベルらしく装いを変えてはいるものの、この【クジラのソラ】も根底を流れる構図は同じである。
 遥か高みを目指し、後ろを顧みずに邁進する少女と、置き去りにされながらも、じっと見送る少年。
 結果をもってそれを提示した【琥珀の心臓】に比べ、この【クジラのソラ】はそれよりももっと露骨に、この構図を前面に押し出している。
 本当に、残酷なまでに露骨に。

 地球を征服した異星人により、提供された宇宙艦隊戦シミュレーションゲーム。世界大会を勝ち抜き、優勝したチームの所属国には賞品として異星人の技術が提供され、チームのメンバーは地球を離れ宇宙へと旅立つこととなる。
 ――いなくなるのである。
 天才メカニックとして、担当した二組のチームを優勝させた聖一は、このゲームの危険性、そして宇宙に消えてしまうプレイヤーに置き去りにされる辛さを誰よりも承知している。自らの両親に置き去りにされ、兄同然の親友を見送り、妹同然の少女の両親の死を一番近くで見ていた聖一は、それを誰よりも理解している。
 なのに、結局かつて自分が送り出した優勝プレイヤーの妹が率いるチームのメカニックになることを承知し、一緒に暮らしていた妹同然の少女・冬湖がチームに加わることも承知する。
 彼女等を勝たせることとは、すなわち自分だけが置き去りにされ、彼女等を見送ることなのだということを、誰よりも理解しながら。
 最初はバラバラだったチームが、どんどんと力を付けていき、一人一人がプレイヤーとして高みへと駆け上っていく。この巻のクライマックスには、雫、冬湖、智香の三人の少女と、メカニック聖一は本当に素晴らしいチームへと昇華する。
 そう、最高のチームだ。
 だからこそ、胸を締め付けられる。少女たちは振り返らない。前だけを、ソラだけを見上げて、ただひたすらに突き進もうとする。
 ソラへ、ソラへ。飛び去ろうとしている。
 聖一はそんな彼女等の背中を、大地から一歩も離れられず、見送るしかないのだ。なのに彼は、諦観でもない、希望を以って、彼女等を助け、彼女等の背中を押す。彼女らが行ってしまうのを、寂しさや哀しさや苦しさすべてを含めて、そのままに受け入れてしまっている。
 覚悟……なのか?
 わからないのだ。彼の心境が。ただ、凄絶だと思う。こうして思い返していると、涙が出てくる。
 少女たちは振り返らない。聖一を最高の仲間として見ながら、感謝しながら、彼を置き去りにすると知っていながら、
 ただ、ひたすらに高みを目指す。
 きっと、後悔もあるはずだ。未練もあるはずだ。と、そう信じたいだけなのかもしれない。彼女等はそれくらい、ゲームに勝つことだけを考えている。
 彼女たちの心境も、わからない。ただ、遠い。果てしなく遠い。その距離に、胸が締め付けられるのだ。

 置いていかないで、と泣いて縋っちゃいけないのか? 懇願したらいけないのか? 非難しているわけじゃない。そんなこと、頭の片隅にもない彼や彼女等を見てるのが、切ないのだ。
 だから、きっと泣けてくる。
 自分が見送る側に人間だから、きっと悲しくて羨ましいのだ。

 ハーレムもの? ふざけるな。こんなものが、ハーレムであってたまるものか。

 琥珀の心臓は、少年を置き去りにして行ってしまった少女が遠すぎて、とてもじゃなく私は受け入れられなかった。好きになれなかった。
 でも、このクジラのソラは……なんとなく、この切なさを受け入れられそうである。
 この作品。好き嫌いで言うなら、大嫌いに当たるのだろう。だけど、こんなに面白くて先を読みたくて、結末を知りたい作品もない。
 初めてである。こんなに大嫌いで、素晴らしいと思う作品は。