イヴは夜明けに微笑んで
【黄昏の詠使い イヴは夜明けに微笑んで】 細音啓/竹岡美穂
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富士見ファンタジア文庫の新人賞、第十八回ファンタジア大賞の佳作受賞作品である。
なるほど、佳作だ。
話の筋立てや組み立て方なんぞ、素人感丸出しだし、全体的に荒も多い。拙い部分ばかりだ。まだまだ全然下手くそである。
作品全体を見ての完成度という視点で見るなら、まったくお粗末でしかない。これでは大賞はとても取れないだろう。金賞や銀賞も正直苦しい。佳作はまったくもって妥当だ。佳作とする以外の選択肢はなかっただろう。

だ・が・し・か・し!!!

そんなことは、この作品の素晴らしさを語るのに何の問題にもならない! なるものか!
だいたい、荒だの下手だのなんて部分部分はあとから振り返ってみてからようやく気付いたものだ。読んでる間は、それどころじゃなかった。
この物語が放つ輝きは、そんな短所を覆い隠してなかったことにしてしまうくらいに、眩かったわけだ。
まずプロローグでガツンだ。ボクシングやらの格闘技で言うなら、それ以降の記憶はありませんでした、というぐらいのクリーンヒットのスマートかつ華麗な一打。
まったく、やられたものだ。もう既に、あのプロローグで自分はこの作品に完全に魅入られていたわけだ。引き込まれていたわけだ。飲み込まれていたわけだ。
そして、ラストのかつて交わした約束の果て。素晴らしい、物語の結実。切なさの結晶。おそらくは、限られた人間にだけ紡ぐことを許されたあまりにも綺麗なお話。
あの気持ちがあふれ出したような告白には、胸が一杯に……あぅあぅ(涙
この作品の拙い部分なんてものは、正直努力を怠らず研鑽さえ積めば幾らでも解消し、伸ばせる部分だ。まったく、問題じゃない。
この人には、傑作を紡ぎ出せる重要なナニカを間違いなくその手に握っている。

ああ、思い返していると胸に沁みてくる。切ないよぅ、切ないよぅ。だけど、彼らは決して不幸なんかじゃなく、約束を果たすことで、彼らは失ったものをもう一度見つけられたわけだ。
イブやカインツ、それに対してクルーエルやネイトの若い世代。二つの世代の青春時代の交錯。この辺は、対比というわけでもなく、単なる並行というわけでもなく、本来なら離れた世代であるこの二つの世代の物語が、クライマックスで重なっていく、魅せ方としては素晴らしかった。この辺のセンスは得がたいものがあるなあ。
クライマックスまでの持っていき方はやっぱりどうかと思うんだけど、読んでる方の気分はぐいぐい持ち上げられていくわけで、押さえるところは押さえてるんだな、これ。綺麗なだけの話じゃなく、燃え系の話も書こうと思えば書けるとみた。
いや、でもしかし、この作品の肝ややはり『人の想い』であり、『約束』なわけで。
……イブは夜明けに微笑んで。
うん……うん……うん。
おすすめです。