なつき☆フルスイング!―ケツバット女、笑う夏希。
【なつき☆フルスイング!―ケツバット女、笑う夏希。】 樹戸英斗/ほんだありま 電撃文庫
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なんど見ても、物凄いサブタイトルだなあ。このサブタイこそが投稿時のタイトルだったという話も聞くんだけど、なんともすごいインパクトのタイトルだ。
だが、間違ってもセンスがあるとは思えないぞ!?
というわけで、このサブタイのインパクトによる影響を逃れられる人はまずいないかと思われる本作。誰しもが、何らかの構えを心に作ってしまうのじゃないだろうか。サブタイから連想されるそのままの話なのか、逆にサブタイからは想像もつかない話なのか。読む前にここまで色々と頭を悩まされてしまう時点で、一つ勝ちを持っていかれているような気もするけれど。
やっぱりセンスはないと言うほかないな!

で、実際中身はどうだったのかというと。まいった。サブタイの印象そのままでありながら、同時に激しく裏切られる、なんとも矛盾したフレキシブル。荒々しさと繊細さが同居し、勢いと丁寧さが両手を繋いで回ってるという混然としたアンサンブル。これまさに新人作だよなあ。良くも悪くも。

痛みを抱えた物語である。これに登場する人は、人生における挫折を抱えた人ばかり。日常を生きるには支障がなく、だけれど夢破れてしまった人たち。立ち直れずに、生まれ変われずに、それでも淡々と過ぎていく日々の中を軋む心を抱えながらやり過ごしている人たち。
肩を痛め、甲子園の道を諦めた主人公、葉岡智紀。留学から戻ってきたものの、周囲のクラスメイトから孤立している須藤眞弓。二度の大怪我でバレエの道を断たれ放蕩に暮れる姉と長らく冷戦状態にある幼馴染の環堂美姫子。
みんな、じくじくと膿んだような傷を抱えて生きている少年少女たち。
そんな中に、夢魔を追いかけ金属バットを振り回す夏希という謎の女が現れて、智紀に付き纏って大騒ぎするのだけれど、馬鹿げた騒ぎばかり起こすわりには話は思いのほか抑制の効いたローテンションで進んでいく。
傷口にバンと思い切りよく絆創膏を貼り付けるような話ではなく、これは結局傷口にガーゼを当てて滲み出てくる血を拭う話なのだろう。
決して傷を直す話ではない。なかったことにする話でもない。智紀の肩は治らないし、過ぎてしまった過去はやり直せない。もし、やり直せるのだとしたらそれは儚い夢に過ぎず、現実を見ずに帰れない場所に落ち込んで言ってしまうのだと苦しみ慟哭するものたちに優しく残酷に諭してきかす、なんともまっとうなお話だ。
書き方によってはしらけてしまうような方向性を、だけどこの作者さんは良く書ききったと思う。誠実であることは、バカにすることじゃないんだと、こうも実直に書かれてしまうと納得する事に躊躇いを覚えない。
ちなみに、暗い話じゃないので悪しからず。ローテンションと言ったけれど、これは私の主観に過ぎず、人によってはそうは思わないかもしれない。なるほど、考えてみると独特のテンポである。こうした独特の間合い、というか作品の雰囲気を持たせることの出来る人って、伸びるんですよね、うん。
最終章の思いがけない大どんでん返しにも、これはやられたという気分。まさか、そう来たか!
力作にして良作。これぞ、一つの人間賛歌である。
そして、美姫子に惚れた! というより、智紀と美姫子の二人に惚れた!
なに? このものすげーナチュラルに並んでる二人。ここまで自然に並んで歩く幼馴染は、なかなかお目に掛かれんよ。距離感が完璧。一方からじゃなく双方向的に完璧。パーフェクト。
第二章のラストを飾る美姫子の挿絵は、一見の価値ありです。こういう魂を震わせるようなイラストに遭遇するたびに、絵ありの小説ってのはありだよなあ、と思うのこと。