断章のグリム(4) 人魚姫・下
【断章のグリム 4.人魚姫(下)】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫
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なんだか最近、普通であること、あろうとすることがアイデンティティな主人公をよく見かける。近年のフォーマルらしい。
普通とはなんなのか、という定義はとりあえず脇に置くとして、同じ平々凡々の普通人の主人公でもその実色々と傾向が異なるのが面白い。これは一つの極論なのだが、こいつら大まかに二つに分類できるんじゃないだろうか。
一つは、自分が普通じゃないと自覚しているからこそ平凡を志すやつ。ところが、案外こういうヤツの方が本質的なところで平凡なことが多い。
一方、自分を心底平凡と思い込んでいるやつ。こいつがクセモノだ。この手の輩の方が、実は一番平凡じゃない……場合によっては常軌を逸してイカレていたりする。

この断章のグリムの主人公である白野蒼衣は、後者のパターンの尖鋭に在る人物だろう。
普通であり続けることが、これほど狂的である人物はそうそう存在しまい。だが、彼の『普通』さが狂気として浮き彫りする、彼を取り巻く状況の異常さはどうだ。この作者が描き出す悪夢の連続。幻想的な恐怖、グロテスクさ。この描写力、表現力によって描き出された狂気の世界が存在しなければ、蒼衣の異常さは伝わらないだろう。
この世界の中でただひたすら正常であるという異常さ。
まったく、なにもかもが常軌を逸している。
悪夢の幻想新奇譚(メルヘン)とはよく言ったものだ。常軌を逸しているのは、この作者の描写力そのものなのかもしれない。畏怖すら覚える。ホラー描写に関しては、あまりに圧倒的過ぎて他の小説家とはちょっと次元から異なってるような感すらある。
何度でも言おう。異常。まったく異常。むちゃくちゃえぐい。実際に映像で見るよりも、この人の書く文章で読んだ方がえぐい。

だが、ただえぐいだけじゃないのが、前のシリーズとの違いじゃないだろうか。以前からあった幻想的な雰囲気が、童話を題材にすることで圧倒的なまでに濃密になった。息苦しさに喘ぎそうなほど、濃くなった。
そして、童話に照らし合わせた惨劇を生み出す【泡禍】という異常現象の解体法。
誰が泡禍を生み出す起点となっている潜有者なのか。該当する童話の解釈、誰が童話の登場人物に当てはまるかの配役の推理。
法則のない悪夢と狂気の暴走としか思えない異常現象の奔流を、見事に整理しつまびらかにして曝け出す。この童話解釈や配役、そして解体手順の見事さが際立ったのが、二巻の【ヘンゼルとグレーテル】だけれども、この三巻【人魚姫】も解釈や配役がなかなか予想もしないところに着地し、面白かった。
しかし、神狩屋の過去は想像以上に壮絶だったなあ。あれは、たまらん。あの一行は、文字にして凶器。まじで目の前がしろーくなった。
本当にどうして、どうやったらあんなの書けるんだろう。嫉妬すら感じる。

にしても、雪乃さん。なんか最近もう、とりあえず言い返せなくなったら「うるさい、殺すわよ」の台詞使ってませんか?
そろそろ拗ねてるようにしか聞こえなくなってますよ(笑