私の愛馬は凶悪です
【私の愛馬は凶悪です】 新井輝/緋鍵龍彦 ファミ通文庫
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このタイトルを見て、速攻でガンダムXを思い浮かべるのは、やっぱりちょびっと世代が上の人なのだろうか。たとえば、私。
……歳なのかなあ。

それはいいとして。問題は作品です、中身です。
あたしはこれ、同じ作家の【ROOM NO.1301】シリーズより好きだわ。
ROOM NO.1301シリーズって、何となくですが手探り感があるんですよね。自分がどこまで書けるのか。どこまでいけるのか。自分のやり方、方向性、可能性、限界範囲。それをなりふり構わず突き詰めているような。
この作品の登場人物は、その殆どが自分が何を探しているのかも分からず自覚すらもなく、でも焦がれるように探究を続けている(その題材とは主に人と人との関わり方、なのだろうか)。だが、探究を続けているのは登場人物だけでなく、作者本人も、な感じがするわけです。
それはそれで、凄いんですよ。お陰で、作品自体が得体の知れないものになっている。底が抜けた井戸のような。錬金術のフラスコのような。
混沌の海からは、どんどんと今までになかったものが生まれ出てくる。ROOM NO.1301はこの作者の進化の素みたいなもので、記録そのものでもあるわけだ。

一方、同じく歪な人間関係と恋愛とを扱う、ROOM NO.1301シリーズと似たような話であるはずのこの【私の愛馬は凶悪です】は、どこか趣が違っている。
主人公の霧理が、自身の中に一つのきっちりとした理を有している人物だからだろうか。
えらく明瞭なのだ。
自覚的、とも言い換えれる。
どうやらこれ、ROOM NO.1301で把握した自分のやり方、特性、小説家としての味というものを、一旦整理して組み立てたものなのではないだろうか。
最初から細部に至るまできっちりと設計された、小説として必要なものを研ぎ磨き、練って砥いで削り落としてできた完成品。
異才、新井輝の現時点における決定版だ、これは。