マルタ・サギーは探偵ですか? 5 (5) (富士見ミステリー文庫 54-7)

【マルタ・サギーは探偵ですか? 5.探偵の堕天】
 野梨原花南/すみ兵 富士見ミステリー文庫


やっっべえ、こいつはやべえ。
だから野梨原花南を舐めるな、と。この人の書く話を前に油断するなと。
わかっていたはずなのに、忘れていた。

震え上がりました。

この軽さと重さのアンバランスさに平衡感覚を失いそうになる。酔いそう。七年という歳月で、培ったもの。得たもの。繋いだもの。それをマルタ・サギーという個人の中一つに押し込めて、さらりと抹消してしまうその軽さと、重さ。
虚を突かれ、丸太と同じくしばらくその事を実感できずに呆然とする。頭では最初から分かっていたし、結末もその通り。ただ、この人の紡ぐ文章はそうした理性の理解を放置して、感情のほうを良いように、本当に良いように引きずり回してくれやがる。
それでも、重さに潰されずにしっかり受け止めるということ自体が、丸太の絶望に似た幸福の七年の価値そのものなんだろうなあ。

正直言って、この生まれ故郷の蓑崎での話は素晴らしく面白かった。探偵社の所長はクセモノで、信という親友が出来て、丸太を好いてくれている事務の早紀ちゃんは、野梨原キャラの結晶みたいなしっかりしてるのに惚けたすこぶるいい子で、本当にいい子で。
そんな人たちに囲まれた丸太は、これまでよりもずっとずっと「生きて」いた。
でも、そんな「生きてる」丸太の源泉は、この世界にはないもので……。

さよならの意味は、果てしなく重く。
だからこそ、それを背負ったマルタ・サギーは、二度と大切なものを逃がしたりはしないのだろう。怪盗は、もう名探偵の腕から零れ落ちたりはしないのだ。

だからきっと、次の話は恋人の逢瀬よりも情熱的な名探偵と怪盗の運命のお話。