カラクリ荘の異人たち~もしくは賽河原町奇談~ [GA文庫] (GA文庫 し 3-1)

【カラクリ荘の異人たち 〜もしくは賽河原町奇談〜】 霜島ケイ/みぎー GA文庫


やっぱり、霜島ケイはこういうの書かせたら抜群に上手いなあ。ちょっと路地を逸れて裏道に入った先にあるような、隣の異世界。どこか親しみやすい、牧歌的な雰囲気を醸し出す妖怪たち。でも、人間とは決定的にナニカが違う物の怪という存在。そんな妖しい隣人たちの棲む世界と、人間の世界の境界に存在している空栗荘と、そこで暮らす住人たち。
ライトノベルでは、同じような立地条件にある作品としてすぐに思いつくのはMF文庫Jの【神様のお気に入り】シリーズですけど、あれが平成時代の匂いがすると表現するなら、此方は昭和のどこか懐かしい空気がします。古臭さはまったくないんだけど、するりと感傷に滑り込んでくるようなのんびりとした郷愁と、文明の放つ眩い光の奥にひたひたと凝っている陰のほの暗さみたいな雰囲気とか。
境界の向こう側の世界は、一読して脳裏に浮かんだのが水上悟史の短編集【ぴよぴよ】に出てきた妖怪の街。なんか、思い浮かんじゃって(笑

過去の出来事から、感情の一部が閉ざされてしまっている主人公の太一。無感動な人間な故か、紛れ込んでしまった妖怪の世界に驚きながらも順応してしまってる太一に、思わず和んでしまう。君君、困ってるのは分かるけど、普通そういう困り方はしないから(笑
でも、異世界である妖怪の世界にするりと馴染んでしまうその心の在り様は、逆に言えば人間としての自分に対する執着の薄さを示していることが、後々の話の展開から詳らかにされていく。太一は人間としてはどこか壊れた人間で、だからこそ容易に境界を越えてしまい、人の住む世界を捨てて向こう側から戻ってこれない、そんな危うさを秘めているわけだ。
そんな太一なんだけど、だからといって無感動な機械みたいな人間というわけじゃない。それどころか、交わした約束は忠実に守ろうとするし、向けられた信頼には、頑張って応えようとする。他の人間に関わるまいという姿勢なんだけど、構われると無下には出来ない優しさはあるし、なんだかんだと他人の親切を無視したり、無茶しているのを放っておけない面もある。
いい子なのだ、とても。
日常と非日常の狭間、人間とそれ以外の存在の住む世界の境界線上にある空栗荘には、そういう不思議な場所にあるだけあって、住んでいる人も個性的な人たちばかりで。そういう人たちに構われ、弄られ、関わっていく不思議で温かい日常を過ごすうちに、太一もそれまでの自分のままでいられなくなっていく、その過程が素晴らしいんですよねえ。
やっぱり、霜島さんの話は大好きですわ。どてらみたいな温かさとイイ匂いがします、うん。